- はじめに
- ―新学習指導要領「情報と情報との関係」を見据えて―
- 第1講 論理とは何か?
- 「論理」はどう定義する?
- 辞書の意味から考える
- 「論理」には3つの意味がある
- 第2講 「見える論理」と「見えない論理」
- 「納豆はねばねばしているから嫌いだ」は「論理」?
- 「論理」と「主張」はベツモノ
- 現実を知らないと「論理」が正しいかはわからない
- 「見えない論理」を読み取っておかないと授業が成り立たない?!
- 第3講 論理を紐解く見えないつながり
- 接続語があろうがなかろうが関係ない!
- 文と文の間にはさまざまな「見えないつながり」がある!!
- 「情報と情報との関係」とは「見えないつながり」のこと
- 第4講 「文章の文脈」と「知識の文脈」がなければ読解はできない!
- 教材全文にひみつが
- 全体がつかめなければ論理は読み取れない
- 既有知識は「見えないつながり」の解釈に役立つ?
- 発達段階が大事なワケ
- 第5講 「見えないつながり」と文章構成
- 「思考力」=「論理的な思考力」である
- 学習指導要領における「論理」とは?
- 何をつかめば「論理」がつかまえられる?
- 「読み取り」の前に求められる力
- 第6講 トゥルミンモデル最高?再考
- トゥルミンモデルって何だ?
- 誤解され続けていたトゥルミンモデル
- 国語科教育におけるトゥルミンモデル
- トゥルミンモデルは万能ではない
- 第7講 三角ロジックにご用心!
- トゥルミンモデルのストライクゾーンを見極めよ
- 三角ロジック(3点セット)の限界とは
- 納豆の三角ロジック
- 第8講 妥当性と納得はどんな関係?
- 三角ロジックで妥当性が高まるわけではない
- 食べたい“たこやき”が出てこない
- 妥当でなくても納得することがある?!
- 納得の問い直しこそ学問だ
- 第9講 説得されるとはどういうことか
- わかる・ワカル・wakaru
- 心変わりとファン心理
- 悪用禁止の説得術
- 「論理的である」ことを区別する
- 第10講 教科書教材を論理的に分析する
- 基準とは学問ごとに変わるもの
- 小学校教材から論理的関係を読み取る
- 段落ごとに読む,の弊害
- 第11講 教材分析の肝
- 形式段落にとらわれすぎなのよ!
- 日常レベルでの論理性は?
- 「説得される」ための論理
- 「森林のおくりもの」の論理を子どもはどう捉えるか
- 第12講 論理力がつく授業づくり―説明文―
- 「森林のおくりもの」とはどのような文章か?
- 教科書教材とはどのような文章か?
- 教養に基づいた授業づくり
- 論理力がつく説明文の授業プラン
- 第13講 論理力がつく授業づくり―文学編―
- 論理力も大事だけれど
- 文学を読む力と論理力育成とのつながり
- 論理力がつく文学の授業プラン
- 論理力を育成するとは,自分の「考え方」を広げていくということ
- おわりに
はじめに
―新学習指導要領「情報と情報との関係」を見据えて―
2017年告示の小学校・中学校学習指導要領の国語科には,[知識及び技能]の(2)「話や文章に含まれている情報の扱い方に関する」事項が新設され,その中に「情報と情報との関係」という項目が設定されました。
「情報の扱い方」とか「情報と情報との関係」と聞くと,まるで流行しているICT関連の項目かなと思ってしまいます。しかし,内容を見るとそうではありません。そこには次のようなことが書かれています。
(小学校1・2年)
ア 共通,相違,事柄の順序など情報と情報との関係について理解すること。
(小学校3・4年)
ア 考えとそれを支える理由や事例,全体と中心など情報と情報との関係について理解すること。
(小学校5・6年)
ア 原因と結果など情報と情報との関係について理解すること。
(中学1年)
ア 原因と結果,意見と根拠など情報と情報との関係について理解すること
(中学2年)
ア 意見と根拠,具体と抽象など情報と情報との関係について理解すること。
(中学3年)
ア 具体と抽象など情報と情報との関係について理解を深めること。
こうしてみると,情報と情報との関係は,広い意味での論理(論理的関係)について述べていることがわかります(論理の様々な定義については,あとで詳しく述べます)。おそらく,「文と文」「語と語」「段落と段落」などに表れる関係をひとまとめにして表現したいために,「情報と情報との関係」という熟さない語句を使ったのだと思います(「論理」という語句を使うと,「文と文」や「語と語」との関係に使いづらいからかもしれません)。
学習指導要領に述べられた「情報と情報との関係」をまとめると,次のような表になります。
(小学校)
1年・2年 共通,相違,事柄の順序
3年・4年 考えと理由や事例 全体と中心
5年・6年 原因と結果
(中学校)
1年 原因と結果 意見と根拠
2年 意見と根拠 具体と抽象
3年 具体と抽象
こうして,2020年度から日本では,「情報と情報との関係」すなわち(広い意味での)論理(論理的関係)が,いよいよ教育の表舞台に登場するようになるのです。
さて,今までの日本の学校教育では,「論理」についてその重要性は叫ばれ,「論理の教育」も行われてはきました。例えば,「論理的思考力の育成」「論理力の育成」「論理的に考える子どもの育成」といったテーマや,「筋道立てて考える子どもの育成」などのような類似の言葉で表現されたテーマで,教育研究がされてきました。
しかし,その肝心の「論理」が一体何か,また,その「論理」を教え学ぶにはどうすればいいかについては,それほど議論がされてきませんでした。特に,「論理を学ぶ」ためには,何をどうすればいいかわからないまま,「論理」を学習者に教え込むという,単純なインプットメソッドが横行しているところがあります。
ここであらためて「論理」とは何か,「論理」を教える・学ぶとはどういうことなのかについて,考える必要があります。それらのことを踏まえて,「論理の教育」「論理教育の実践」を行うべきでしょう。
私は2006年に,広島県三原市立木原小学校と共著で『楽しく論理力が育つ国語科授業づくり』(明治図書)を出版しました。幸いにしてこの本は,論理に関する理論と実践とが書かれた本としてよく読まれています。
その後私は,2011年4月から2012年3月まで,雑誌『教育科学国語教育』(明治図書)に「これからの『論理』の話をしよう―今を幸せに生きるために―」を連載しました。本書は,この連載に加筆修正を加えたものです。イラストを入れ,また,現在の動向も織り込んで書いています。
毎回の講義には,まとめと宿題がついています。まとめを読んでまだ理解不足だなと感じたらもう一度本文に戻りましょう。理解していたら宿題をやってみましょう。宿題をやってから次の講義を読むと,一層効果的です。
本書を利用して「論理」についてより深く考えていただき,学習者に本物の「論理力」がつくように指導してくださることを願っています。
/難波 博孝
勉強になりました