- まえがき
- T なぜいま「町づくり学習」なのか
- 一 子どもの手描き地図から見えてくるもの
- 二 問題解決学習は成立するのか
- U 「町づくり学習」の理念
- 一「町づくり」という用語の意味
- 二「町づくり学習」のチャンス
- 三 地域連携は町歩きから
- V 町づくりのエージェントとしての子ども
- 一 小さな町づくり人
- 二「町づくり」をテーマに学校を開く
- W 「町づくり学習」の基本コンセプト
- 一 愛着から提案まで
- 二 地域社会のシステムとしての町づくり学習
- X 英国に学ぶ子どもと進める町づくり学習
- 一 いち早い市民教育
- 二 学校内に喫茶室(カフェ)を見た
- Y 町づくり学習の一実践例:城下町の風景を額縁で切り取る
- 一「子どもまちかど美術展覧会」開催に至るプロセス
- 二 子どもが選んだ町の風景
- 三 学習後に聞いた子どもたちの授業感
- Z ワークショップ型の授業って何?
- 一 言葉の意味
- 二 ワークショップ授業の原則
- [ ワークショップ型の授業と問題解決学習の相互補完
- 一 何が同じで、何が違うか
- 二「参加のデザイン」を操作できる
- 三 ポスターセッションの導入
- \ 町づくり学習の発表はポスターセッションで
- 一 ポスターセッションの急所
- 1 聞き手の存在
- 2 プロセスのとり方
- 二「町づくり学習」でのポスターセッション
- 1 町はいろいろなポスターづくりに格好の場
- 2 保護者にもPRできるポスターセッション
- ] 社会科と総合的な学習の時間の関係を考える
- 一 スリム化する社会科、プロジェクト化する総合
- 二 社会科で扱う「身近な町づくり」と総合学習「町改造プラン」の違い
- 三 町づくりと社会科地理学習
- 町づくり学習力が中学へ転移する…あとがきに代えて
- 参考にした図書や文献
まえがき
わたくしは、「町づくり」という都市計画、あるいは商業振興に属する分野について深く研究している者ではない。むしろ、従来の地域活性化や古い観光振興の類いには、関心がないくらいである。関心の的は、子どもにとっての町という一点にある。町がその住人でもある子どもにとってどんな役割を担っているのか、子どもの成長発達にとって身近な町という環境は、どんな意味を持っているのかがわたくしの問題意識の底にある。
大学で地理学を学び、大学院で地理教育論を研究し、初めて勤めた大学附属の小学校でも一貫して社会科の学習論について実践的な研究を積み重ねてきた。大学に来てからも学生たちに勧める卒論のテーマの大半は「子どもの知覚環境」という子どもにとっての地域環境の解明であった。こうしたわたくしの問題意識に変化があらわれたのは、十年くらい前からである。
いくら研究ばかりしていても、日本の子どもたちの地域環境が何も改善されないではないか、そればかりか少年による犯罪は耳をふさぎたくなるような事件ばかりで、学校と言えば、いじめや事件についてひた隠しな態度をとっていると非難するニュースばかりが聞こえてくることに無関心ではいられなかった。
自分の研究が子どもの生活する地域環境の改善にとって、何かの役に立つとしたら、どんな視角の教育研究なのだろうか、と自問した結果、たどりついたテーマが「町づくり」につながる学習だったのである。「町づくり学習」なら、子ども自身が地域環境の形成者として動き出すことができると考えたのである。
もう一つ背景もある。わたくしが学生時代よりバイブルのように敬意を払って読んでいた本の執筆者であるニューヨーク市立大のロジャー・ハート教授が、それまでテーマにされていた「子どもの知覚環境研究」から発展し、近年、「子どもが参加する町づくり活動」の実践的な提唱者として全世界を飛び回っておられるのを知り、わたくしも将来同じような生き方をしたいと思ったこともその背景にあった。
いずれにしても、転機はこの十年にある。折しも、教育界では生活科が生まれ、学校の在り方や子育て環境についてもいろいろな論議がまき起こってきた。わたくしは、生活科でも、子どもにとっての環境づくりをテーマに愛知県を中心に現場の先生方といっしょに教育実践的な研究に尽力してきた。
そして、今回、「総合的な学習の時間」の設置に伴い、本格的に「町づくり学習」という教育用語の提起を図ろうとしたわけである。
しかし、わたくしの根っこには、やはり社会科がある。だから、「町づくり学習」も社会科の発展形ではないかと指摘されてもしかたがないと思っている。
むしろ、総合的学習の時代にあってこそ、社会科が独壇場で持っていた地域という学習の場に一歩踏み込んで、地域づくり、町づくりの担い手を育てるというコンセプトが、総合知を養うには格好の場になるのではともくろんだのである。本書は、こうした経緯から生まれたものである。
本書をまとめるに当たっては、樋口雅子さんからのアドバイスと励ましの言葉を頂いた。オピニオン叢書の一冊として世に問うことができたのも樋口編集長のおかげである。また、実践の場では愛知県西尾市西尾小学校長である赤堀隆先生をはじめ、犬塚惠教頭、小島克視研究主任等西尾小学校の教職員の方々、名倉庸一教育長など、関係者の方々には本当にお世話になった。わたくしが、子ども研究に興味を抱いたのは、二十年前に斎藤毅先生(東京学芸大学名誉教授・現在、立正大学教授)との出会いがあったからである。先生には今日まで、様々な着想を与えて頂いた。
以上の方々に心からお礼を申し上げたい。
平成十三年一月 /寺本 潔
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- 明治図書