- はじめに
- 序章 今,学校が求められていることは何か?
- 第1章 なぜ,学校マネジメントが求められるのか
- (1) 学校教育問題の複雑化と教師個人の取り組みの限界
- (2) 教師の資質・能力という言葉だけで学校教育問題を解決できるのか
- (3) 保護者や児童は教員だけではなく,学校にも期待している
- (4) 保護者や児童は,6年間学校に通うのである
- (5) 現場と管理者の意思疎通はできているのか
- (6) 評価とは基準と目標があって初めて成立する
- 【コラム】実践的循環型単元設計
- 第2章 学校マネジメントによってオンリーワンの学校になれる
- (1) オンリーワンの学校とは
- (2) 子どもの姿から評価基準の見直し〜愛媛県砥部町立広田小学校の成功事例〜
- (3) 教員の目標共有化〜徳島市立津田小学校の成功事例〜
- (4) 教科研究からカリキュラムへ〜滋賀県N小学校の成功事例〜
- (5) 困難校からの脱却〜滋賀県S小学校の成功事例〜
- (6) 教員のアイディアから改革〜山口県M小学校の成功事例〜
- (7) 学校における「総合的な学習」開発の取り組みと教師の獲得した「実践知」44〜公立小学校の2校の成功事例〜
- @東京都公立A小学校の事例
- A千葉県千葉市公立B小学校の事例
- (8) 読書指導を図書購入費用から検討〜T県公立M小学校の成功事例〜
- (9) 保護者のニーズを評価に〜鳴門教育大学附属小学校の成功事例〜
- (10) 目指すべき教員の資質と能力の明示60
- (11) 教員研修評価・改善システムの事例61
- (12) 成功事例から見る学校マネジメントのあるべき姿65
- 【コラム】ソーシャル・キャピタル
- 第3章 あるべき学校マネジメント像と現状の課題
- (1) 学習指導要領の改訂に伴う学校の事例と大学マネジメントの関係
- (2) 学校マネジメントと学校の自己点検評価の課題
- (3) 目標のない現場経営の課題〜目標を全教職員で共有し同じベクトルで業務を遂行〜
- (4) 教職員の資質と能力向上のためのFD,SDの取組例と学校マネジメント
- (5) 市レベルの学校評価から学校評価への課題〜三木市の事例〜
- (6) まとめ〜現状の学校マネジメントにおける課題〜
- @教育方針・目標が,曖昧かつ教育供給サイドの一方通行でしかない
- Aマネジメント体制が整備されていない
- B現場の声やニーズを吸い上げ,そして評価する仕組みがあるのか
- C教育目標を教員で共有し,同じベクトルで教育活動を遂行できているのか
- D日々の業務において知識共有や改善の仕組みが存在しているのか
- 【コラム】教師の知の変換過程
- 第4章 バランス・スコアカードで現状の課題を解決する
- (1) バランス・スコアカードとは
- (2) 学校マネジメントにおける課題とバランス・スコアカード導入効果の関係
- (3) バランス・スコアカードの導入と活用方法
- @ステップ1:学校マネジメントの運営組織を整備する
- Aステップ2:保護者や児童のニーズ分析と学校のSWOT分析
- Bステップ3:学校全体マネジメントの戦略マップの策定
- Cステップ4:戦略目標を達成するための重要成功要因を検討
- Dステップ5:重要成功要因の達成度を評価する指標を検討
- Eステップ6:重要成功要因を達成するための個々の取り組みを検討
- Fステップ7:PDCAサイクルの構築(継続的な改革・改善の仕組み)
- Gステップ8:ソーシャル・キャピタル・マネジメントの実行
- 第5章 バランス・スコアカード導入事例
- (1) 国立大学法人の事例
- (2) 自治体病院の事例
- (3) テキサス教育機関の戦略マップの事例
- (4) カリフォルニア大学サンフランシスコ校の戦略マップと評価指標の事例
- あとがき
はじめに
今,教育界では,大きな改革が次々と打ち出されている。
制定以来約60年たった平成18年,教育基本法が改正され,平成19年6月には,教育三法(学校教育法,地方教育行政の組織及び運営に関する法律,教育職員免許法及び教育公務員特例法)が改正された。
平成20年には教員免許更新制のための試行が始まり,21年には本格的な実施に入る。
平成20年,新しい学習指導要領が告示され,21年から移行措置がスタートし,小学校は23年,中学校は24年に完全実施に入る。
こうした改革が次々と打ち出される中で,学校では何が起きているのだろうか?
国家レベルの急テンポで打ち出される改革を受け,都道府県,更に市町村の教育委員会では,その対応に追われている。そんな構図が見えてくる。その構図は,子どもたちと直に向き合い,明日の子どもたちを育てる教育の場である学校にも,大きな影響を与えている。上からの指示や対応に追われ,「先生方は忙しすぎる」との声が漏れる。上からの指示や対応に,親からの注文の対応に追われ,子どもたちとゆっくり遊ぶ時間もないという。
一方で,学校評価の導入により学校がその成果を上げているかが問われている。それは,学校への社会からの期待の表れでもある。
こうした中,今,学校が求められていることは何か?
それは,子どもたちにとっての本当の意味でのオンリーワンの学校であろう。
本当の意味でのと,ことわりをいれたのは,他の学校と違った目新しいことをするのが,オンリーワンの学校ではないという意味である。
子どもたちにとってオンリーワンの学校とは,今日学んだことの喜びを実感し,明日もまた友と学ぶ期待に胸膨らむ学校である。「今日が嬉しく明日が待たれる学校」なのである。(注)
目指すべき学校マネジメントの姿とは,このオンリーワンを実現するために取り組むことであると考えている。
確かに,現実の教育活動の現場は,マスコミによる学力問題(PISAの学力テスト結果),文部科学省から呈示されるスローガンなどの影響を受ける。学習指導要領による指導という法的拘束力もある。また,校長の登用,教師の異動など制度そのものの問題もある。しかしながら,これら制度面などを否定したところで,現在の学校経営に関する課題が解決されるわけではないし,目指すべきオンリーワンの学校マネジメントが実現できるわけではない。
教師個人はスーパーマンではない。学校の教職員が力を合わせ,その学校の子どもたちの教育にあたる,それが,学校マネジメントの力である。
我々は,様々な取り組みを行い,子どもたちにとってのオンリーワンの学校となっている学校を数多くみてきた。その学校のマネジメントを分析したとき,現在企業で導入されつつある「バランス・スコアカード」という方法論が,ある意味なされていることに気がついた。
企業は,一見,利潤の追求が第一に見える。教育は,そうした利潤追求とはほど遠い存在であると考えられてきた。そのため,これまで教育界において,企業でのマネジメントを導入するには抵抗があった。しかし,利潤の追求を第一に考える企業は,決して社会の評価を受けない。その結果,滅びていくことは,日々のニュースが如実に伝えている。
学校も子どもたちに,保護者に,地域に,そして社会への責任を負っている。それは,企業も同じなのである。
本書は,単に,企業で導入されているマネジメントの方法のそのまま導入することを目指すものではない。次の方法により,学校マネジメントにバランス・スコアカードを導入することを考えてきた。
オンリーワンの学校のマネジメントを分析し,その学校では,どのような学校マネジメントが行われてきたのかを探る。更に,改革という意味では,一歩先を進んできている大学の事例から学ぶべきものを抽出し,そこで行われているマネジメントを分析する。これらをバランス・スコアカードの方法の根底にある考え方と対比しつつ,バランス・スコアカードを学校マネジメントの方法として導入することの効果とその方法を考察する。
この一書が,子どもたちにとってのオンリーワンの学校になるためのマネジメントの一助となることを願っている。
2008年12月 /梅澤 実
(注) この言葉は,梅澤が東京学芸大学附属大泉小学校に赴任した当時,副校長だった高橋壮之先生から,「今日が楽しく明日が待たれる学校」を目指せと指導されたことに由来している。この言葉をきっかけに,私自身,日々の教育実践に取り組み,その振り返りを行った。
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