- はじめに
- Chapter1 音読指導,その前に! ―どうして音読が大事なの?―
- 1 音読は英語学習の基礎基本である!
- 2 音読なんてつまらない!?
- 3 授業は「結果」がすべて!
- 4 何を言うかではなく,誰が言うかだ!
- 5 CD vs 教師!?
- 6 生徒をコントロールせよ!
- 7 話を聞く文化を育てよ!
- 8 「華やかさ」に惑わされるな!
- 9 音読は万能薬ではない!
- 10 音読をたくさん知っておくべし!
- 音読Can-Do-Listの例
- Chapter2 音読指導を成功に導く8の原則!
- 原則1 活動には名前をつけよ!
- 原則2 目的を共通理解せよ!
- 原則3 モデル=ゴールを聞かせよ!
- 原則4 音読前に内容を理解させよ!
- 原則5 「空読み」を防げ!
- 原則6 スピードを指定せよ!
- 原則7 音読が苦手な子に適切な処方箋を!
- 原則8 音読を「見える化」せよ!
- Chapter3 目的別で効果抜群!音読指導アイデア30
- なぜ音読を分類するのか?
- 音声チェック型/意味思考型/英文暗唱型/文法確認型/空気温め型
- 【音声チェック型】
- @ リピート音読
- A バズリーディング
- B Individual Reading〈ジャンケン挙手〉
- C ダウト音読〈間違い発音を探せ!編〉
- D パーフェクト音読
- E 指追い音読
- F Timed Reading
- G Shadowing〈英語編〉
- 【意味思考型】
- @ ダウト音読〈単語・文章編〉
- A サイトトランスレーション
- B 置き換え音読
- C 穴なし穴埋め音読〈意味思考型〉
- D Shadowing〈日本語編〉
- E Picture Script音読
- F 上の句下の句音読
- 【英文暗唱型】
- @ Read and Look up
- A 完コピリーディング
- B キーワード音読
- C 隠し音読
- 【文法確認型】
- @ 2人称読み
- A 3人称読み
- B 疑問文音読〈Yes-No編〉
- C 疑問文音読〈応用編〉
- D 否定文音読
- E 穴なし穴埋め音読〈文法確認型〉
- 【空気温め型】
- @ 背中合わせ音読
- A チャイム音読
- B Highway Reading
- C クロス音読
- D リレー音読
- Chapter4 少しの工夫で効果倍増!音読を充実させる7の仕掛け
- 仕掛け1 隠す
- 仕掛け2 必要性をつくり出す
- 仕掛け3 ゲーム化する
- 仕掛け4 方向を変える
- 仕掛け5 音読テスト
- 仕掛け6 小道具を活用する
- 仕掛け7 指名を工夫する
- おわりに
はじめに
音読との出会い
私が音読と真剣に向き合うきっかけになったのは,大学院時代のことです。私は関西大学大学院外国語教育研究機構(当時)というところに2年間所属していたのですが,そこでは「英語指導力開発ワークショップ」というものが行われていました。これは現職の英語教師のために行われる研修会のようなものです。私はティーチングアシスタントとして,そのワークショップに参加させていただき,そこでたくさんのことを学ばせていただきました。その中の1つに「音読」がありました。私の音読歴といえば,授業の中で先生に「Repeat after me.」と定番の台詞を言われて繰り返す,リピート音読(コーラスリーディング)ぐらいしか記憶にありませんでしたから,そのワークショップで様々な音読方法に触れた時には衝撃が走りました。
音読は人気のテーマ
ある高校の先生から「講師として学校で講演をしてほしい」という依頼をいただきました。当時(大学院時代)の私は,講師経験はおろか,教壇に立ったこともなかったものですから,大変驚きました。依頼テーマは音読でした。教壇に立ったこともない人間から音読のことを学びたいだろうか……と訝しんでいたのですが,「これは自分への試練だ!」と思い,無我夢中で講座を勤めました。私が勝手に思っているだけかもしれませんが,結果は大成功でした。その時に感じたことは「あぁ,音読ってみなさんが興味あるんだなぁ」ということでした。それから,私の「音読集め」が始まりました。全国の勉強会やワークショップ,セミナーなどに参加しました。移動手段はもっぱら深夜バスという過酷なものでしたが,勉強ノートを作り,教えていただいた音読方法を記録していく日々は充実していました。
音読中心の授業を展開
2年間の大学院を修了し,私は幸いにも私立の中高一貫校に専任教員として採用していただきました。初年度は高校1年生の担当でした。私は,全国で集めてきた勉強ノートを持ち出し,音読中心の授業を繰り広げることを決意していました。とっても幸せなことに,相担当の先生たちも新米教師の私の言葉に耳を傾けてくださり,音読中心の授業展開を一緒に取り組んでくださいました。授業案のベースを私が考え,それを英語科の先生方と相談しながらブラッシュアップしていく。とっても幸せな時間でした。毎回の授業で,これでもかというぐらいに音読を取り入れました。生徒が飽きないように,あの手この手で工夫をし,様々な種類の音読を開発しました。授業の評判も上々で「英語が楽しくなった」「英語の授業は眠くならない」などの肯定的意見が,生徒からたくさん聞こえてきました。「自分がやってきたことは間違っていなかった!」そんな風に自分では思っていました。
誤解
しかし,その年度の終わり頃に行われたテストで,衝撃の結果が返ってきました。力がほとんど伸びていなかったのです。「いや,違う。テストの点数は伸びていなかったとしても,テストでは見えない力が伸びているんだ!」そう思い,話す力が伸びているはずと,即興でのスピーキングなどに取り組みましたが,やはり結果は散々たるものでした。生徒の授業アンケートにも,
「音読はとても楽しかったです。でも,力がついたかは不明……。」
と書かれていました。
私は「音読をすれば,英語力は伸びる」と勝手に思い込んでいました。しかし,ちょっと考えればわかることですが,そんなことはありえません。同じ音読方法であっても,学年が違えば,結果は違ってきます。クラスの雰囲気によっても変わってくるでしょう。1時間目,プールの後の6時間目など,状況や環境によっても変わってくるでしょう。当たり前です。しかし,その状況や環境の違いによって生まれる成果の違いを,私は想像することができませんでした。とにかく音読をすれば,力は伸びると思い込んでいたのです。
わかったこと
そこから,私の音読研究が始まりました。研究書や論文などを読みながら,「自分の実践の何がダメだったのだろう」と振り返りました。生徒にもアンケートをとりました。同僚の先生にもアドバイスを求めました。そしてわかったことは,それぞれの音読には「伸ばす力が違う」ということです。詳細は本書の中で紹介していますが,私は数ある音読方法を5つのカテゴリーに分類しました。
@音声チェック型
A意味思考型
B英文暗唱型
C文法確認型
D空気温め型
「音読をすれば英語力は伸びる」というのは間違ってはいないと思います。しかし,正確ではありません。音読の方法が違えば,伸びる力も違います。このことを私はわかっていませんでした。そしてもう1つわかったことは,私が実践していた音読のほとんどは生徒が盛り上がる「空気温め型」であるということでした。「そりゃ,盛り上がっても力は伸びないわな……」と反省しました。
いろいろな先生と交流していると,私と同じような悩みをもっておられる方が多くおられることがわかってきました。現場には「音読することが当たり前」という空気が流れていて,音読することが正しいのかどうかの検証も行えないままに,惰性的に音読を行っている現状があります。また「コミュニカティブ」という言葉のもと,音読が英語授業の中から消えつつある現状も伝え聞きます。とても悲しいことです。音読は生徒が大好きな活動で,力を伸ばすことができる,とても有益な方法です。目的や方法をしっかりと理解していれば,英語力を伸ばすだけでなく,クラスの人間関係も良好にしてしまう力をもっています。これを使わない手はありません。
本書で記されている音読アイデアは,すべて私が教室で実践したものです。先輩方から教えていただいたものに少し手を加えたものや,私オリジナルのものもありますが,共通して言えるのは私が教室で実践して「使える!」と思ったものばかりだということです。いわゆる研究論文であるような数値データや引用などはありません。それは,私がこの本を教室実践に根づいた本として意識したからです。音読にはクラスの空気を温めたり,人間関係をよくしたりする効果があります。そういった目に見えない効果は,数値化することはできません。しかし,現場の教員にとっては,時にはそういったものの方が大事なことも多々あります。
本書をきっかけに,みなさまの生徒が音読を楽しみ,力を伸ばしていくことにつながっていけば,これほどうれしいことはありません。
/正頭 英和
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