- はじめに
- T 授業が学級集団の願いを育む
- 一 中学生にこそ、感動する授業を
- 二 学級集団の願いは生徒の声から生まれる
- 三 手紙で生徒の願いを伝える
- 四 願いの実現で学級集団はまとまる
- 五 願いの実現は学級集団の夢につながる
- U 学級集団の夢をかなえるのが教師の仕事
- 一 夢への一歩は立候補から始まる
- 二 教師が頭を下げればいい
- 三 《生き方》を学んだ二時間
- 四 「やりたい」という思いを大切にする
- V 夢の実現は学級集団の誇り
- 一 夢は個展を開くこと
- 二 やりたい者がやりたいことをする実行委員会
- 三 社会が《生き方》の原理原則を教えてくれる
- 四 感動が中学生を本気にさせる
- 五 五〇〇人を集めた中学生のパワー
- 六 個展成功は学級の誇り
- 七 フィナーレは豪華イベントで
- 八 誇りを持って二年生へ
- W 外に開かれた学級文化活動への筋道
- 一 外に開かれた学級文化活動とは、本物志向の学習である
- 二 外に開かれた学級文化活動を目指す六原則
- おわりに
はじめに
向山洋一氏は言う。
学校教育の中心は、授業という形で行われる教科教育を通しての人間づくりであろう。それが個別な知育のみではなく人間づくりを目指す以上、集団の中で相互の関連のもとにおこなわれなければならない。授業のさいの行動のきまりをつくること、授業のなかで全体あるいはグループの集団学習を組織することは必要である。しかしそれだけでは総合的な人間づくりの場とは言えない。もう一つの道も必要なのである。それは、外的な強制のないところで、子どもたち自身がほんとうにやりたいことを集団でやり遂げるという活動を通しての人間づくりである。
『大森第四小学校 研究紀要大V集』
向山学級に憧れる。
向山学級にいることを誇りに思う子どもたちが、生き生きと活躍する学級。
笑顔と自信にあふれる一方で、差別には断固とした強い決意で戦う学級。
学級が集団としてまとまり、自分たちが描いた夢を実現させてしまう学級。
そんな学級を中学校でも実現したい。
私の夢であり、目標でもある。
修学旅行中、ホテルのロビーである学校の教師に声をかけられた。
「うちの生徒が迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」と。
日常的に問題行動が発生するその学校では、修学旅行中の見学先を最小限に抑えているという。
近隣の学校はJRを利用しているが、この学校は「一般のお客様に迷惑をかけてはいけない」という理由で貸切バスを使っているという。
往復一八時間バスに乗っての旅行となる。
問題ある生徒を《社会》と隔て、《狭い空間》に閉じこめることで問題を防ごうと考えたのであろう。
中学校が抱える問題の本質がこの発想にある。
私は、従来の中学校の教師とは違った発想で生徒と接している。
つまり、生徒を教室という《狭い空間》に閉じこめておくのではなく、積極的に《広い社会》へと向かわせようとする発想である。
中学校生活3年間は、エネルギーが最も湧き出る時期である。
そのエネルギーを、学級集団を核とした《学級文化活動》として教室の外に向けて発揮させるのである。
教室の外には、生徒のエネルギーを受け止める《広い世界》が存在している。
こうした《広い社会》との接触は、生徒に心豊かな成長を約束してくれるはずである。
平成10年度、一時間の授業からスタートした染谷学級と阿部俊明さんとの《心の交流》を紹介する。
向山氏が言う《ほんとうにやりたいことを集団でやり遂げるという活動》が生んだ実践である。
学級替えをする前に、染谷学級の思い出として阿部さんの個展を私たちの手で開催したい。
そして、一人でも多くの人に阿部さんの絵を見てもらいたい。
きっと、私たちと同じように《生きる喜び》を感じてもらえるはずである。
平成10年3月17日、生徒の願いが現実になった。
中標津町在住の阿部俊明さんは、交通事故で頸椎を損傷して手足の自由を失ってしまった。
生きる希望を失いかけていた平成9年2月、家族の強いすすめで花の絵を描き始めた。
絵筆を口にくわえての創作活動である。
家族の支えと絵との出会いで、阿部さんは生きる希望を持ち始めた。
その阿部さんと染谷学級との交流が始まったのが、平成10年9月である。
「道徳」の授業で、阿部さんを取り上げたNHKのドキュメンタリー番組を見たのがきっかけである。
「今までの授業の中で一番感動した」「阿部さんに会って話を聞いてみたい」と生徒が感想に書くほど、深みのある授業となった。
阿部さんの生き方が、中学生の心に響いたのである。
たった一時間の授業が、《無感動だ》《意欲が感じられない》といわれる中学生を動かすことになった。
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