ウエッピング法―子どもと創出する教材研究法―

ウエッピング法―子どもと創出する教材研究法―

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ウエッビング法の基本的視点、分類をふまえて、授業でどうすれば子どもに書かせることができるか、社会科と総合のさまざまな事例で紹介。


復刊時予価: 2,387円(税込)

送料・代引手数料無料

電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-211210-5
ジャンル:
授業全般
刊行:
2刷
対象:
小学校
仕様:
A5判 136頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

プロローグ
T なぜ、ウェッビング法なのか
§1 子どもの「学び」としての授業
§2 「学び」としての授業への改善点
§3 ウェッビング法とは
§4 ウェッビング法による教材研究
U ウェッビング法の基本的な視点
§1 発想支援としてのウェッビング法
§2 ウェッビング法の基本的な視点
§3 ウェッビング法の基本的な手順
V ウェッビング法の分類
W ウェッビング法による教材研究
§1 中学年「わたしたちの地域」の教材研究1
──「マップ・コミュニケーション」の場合──
§2 中学年「わたしたちの地域」の教材研究2
──「広島かきから見える地域」の場合──
§3 第五学年「日本の食料生産」の教材研究
──「お米から見える日本の農業」の場合──
§4 第五学年「日本の工業生産」の教材研究
──「自動車CMから見える社会」の場合──
§5 第五学年「日本の通信産業」の教材研究
──「テレビから見える社会」の場合──
§6 第六学年「日本の歴史」の教材研究1
──「寝殿造から見える平安の貴族」の場合──
§7 第六学年「日本の歴史」の教材研究2
──「武家造と元寇から見える鎌倉の武士」の場合──
§8 第六学年「日本の政治」の教材研究1
──「自由民権運動から見える明治の世の中」の場合──
§9 第六学年「日本の政治」の教材研究2
──「風刺画から見える現代の政治」の場合──
X 総合的な学習にシフトする授業づくり
§1 第三学年「ひろしま再発見」の場合
§2 第六学年「歴史から何を学ぶか」
──「パソコンでプレゼンしよう」の場合──
Y ウェッビング法における評価
§1 授業改善につなげる評価を
§2 メタ評価の具体的な方法
§3 評価のフレームワーク
§4 ウェッビング法による評価
§5 ウェッビング図の評価の視点
§6 ボトムアップの教材研究を
§7 「学び」と新しい「知」の創造
エピローグ

プロローグ

 「学び」そのものを視点にした総合学習「学び」において、六年生の子どもたちと、「学び」について自由に討論会をしていた。私の勤務している広島大学附属小学校の子どもたちは、全員が附属中学校をはじめ私学の受験を経験する。その中で、私の担当が、社会科ということもあり、「社会科は、どんなことを学習することが必要なのか。」という話題に自然に移行した。

 「都道府県の名前ぐらいは知っておく必要がある。テレビで、コギャルが四国の四県もまともに答えられなかったのを見たことあるけど、とてもはずかしい。」「地図記号なんて覚える必要はない。普段の生活で地図を見ることはそんなにないし、よく見る地図には、記号なんて出てなくて、文字や絵で表してくれているので場所もちゃんと分かるから。」など自由に意見を交換していた。

 その時、ある子どもが、受験を控えていたこともあり、「歴史の年代や人物の業績、山地や平野の名前などなかなか覚えられない。こんなことを覚えて何のためになるのか。」と他の子どもたちに投げかけた。学校の授業はともかく、塾のテストや受験問題など、頭の中が混乱してできないと言うのである。私自身、高校の日本史や世界史など、社会科といえばその暗記量のすごさに苦労した思い出がよみがえる。すると、他の子が、「どの教科でもそうだけど、学校の授業では、問題のおもしろい解き方や考え方などを中心にするけど、塾や受験の問題は、何か別のことをしている感じがする。」と続けた。「希望校に合格するために覚えるのだから仕方ない。覚えることによって歴史の流れがよく分かるのだから。」という意見が大半であったが、納得できない子どもも多かった。その子どもたちが主張するには、「自分は、歴史が好きだ。でも、何で年代や人物の業績を正確に知る必要があるのか。学校の授業でやっているように、ある程度流れを把握できたらいいと思う。歴史というのは、なぜその出来事が起きて、どのようになったのか。その結果、日本がどのように変わったのか。そして、自分が今に学ぶものは何かなどと考えたらいい。」と主張した。また、「先生、何よりも自分の存在がないでしょ、受験のテスト問題には。自分は、どう思うかがほしい。歴史を知り、自分は何なのかを考えることを中心にやってほしい。」なかなか鋭い意見である。

 これは、社会科における基礎・基本と深く関係することである。子どもたちの意見を聞きながら、教師は、子どもたちの力量をもっと信じることの必要性を感じた。教師は、子どもの実態や発達段階を考慮してなどと、この子どもたちにはこの程度だろうと、大人の論理での基礎・基本や、子どものレベルとかけ離れた内容の押しつけではだめだということである。基礎・基本の内容について、学習指導要領に示されている内容及びそれを通して育成される学力(知識量)であると一般的に捉えるだけでなく、基礎・基本について、子どもたちと話し合う機会を設定し、子どもたちと再構成して授業づくりに活かしてみてはどうかと提案したい。

 教材研究とは、基本的には教師が、授業実践をするための学習指導計画に関する研究活動を意味している。教材研究の基にあるのは、『学習指導要領』であり、それを基に教師が、学習内容や学習指導方法を子どもの実態やニーズから最適な教材として体系化して考えていくのが基本的な方法である。

 社会科授業において、この基本的な方法に対して、ユニークな教材研究法を提唱し、全国の教師の支持を得ているのが有田和正氏である。氏は、「ネタ」という用語で教材をとらえ、数多くの授業実践を残してこられた。ここで改めて紹介する必要もない程、独創性のある授業で、いわゆる「追究の鬼」の子どもたちを育ててこられた。私は、今まで氏の授業に出会い、衝撃を受けた。その手法を分析し、方法論を明らかにすることで、自分の社会科授業にも積極的に取り入れてきた。

 しかし、多くの子どもと接し、授業実践を重ねるごとに、氏の取り組む教材研究法が、教師から子どもへのトップダウンの手法であり、子どもが「学ぶ」という視点からは、少しずつ違和感を感じるようになってきた。つまり、教師が、おもしろいと思う教材を、子どもの意表をつくような発問や資料で、興味をおこさせ、一時的に子どもたちの追究意欲を喚起するのであるが、その意欲や追究が継続していくためには、次から次へと教師が新しい「ネタ」を提供することになる。その結果、子どもは、自然と「待ち」の状態になっていることに違和感を感じるようになってきたのである。この原因は、氏と私自身の授業づくりにおける力量の差によるところが大きいのであるが、一つ言える事は、子ども自ら「学ぶ」という子どもからの「創出」場面に欠けているのではないかという点である。授業には、驚きや感動が必要であり、ドラマチックな展開を子どもたちが期待するのも分かる。しかし、本当のおもしろさや感動は、子どもが、自ら見つけた問題を解決したときの比ではないと考えるようになった。そして、子どもの「創出」からの、ボトムアップの教材研究法を開発したいと考えるようになってきたのである。

 子どもの獲得するものは、教師が決めた枠内だけの転移性のない「知」ではなく、いかに子どもの論理を学問体系に関連づけていくのかという方法論を模索し始めた。子どもたちの見方・考え方を、何とか目に見える形にすることで、学習過程の中での評価に活かすことはできないかと考えた。その具体的な方策が、ウェッビング法である。ウェッビング法とは、子どもの興味・関心を基にして、トピックを次々と展開させることで、学習活動を網の目のようにつなげて創っていこうという手法である。子どもの素朴な「問い」は、多岐に渡ることが予想されるが、教師は、子どもの興味・関心を学習内容に組み込むために、広い視野で対応していく。そして、自分の「知」のネットワークを図に表現したものがウェッビング図である。このウェッブが拡がっていくことが、「知の総合化」の視点であると考えている。

 総合的な学習が位置づけられ、教科の本質が問われている。社会科授業においては、いかに子どもの興味・関心や発想、ニーズを意義ある学習内容に反映できるのか。また、子どもの本音や世界観を含めた論理をいかに、学問体系の論理に組み込むことができるのか、といった問題を克服していくことが必要である。子ども自身が日常経験では思ってもみなかったより有効な知見や、自分の解釈よりも有効と思われる、学問体系に基づいた解釈が必要になってくるような状況設定により、子どもの認識を変革・発展させる契機として構成するような授業を目指すことが求められている。ウェッビング法を単元の導入や展開、まとめの場面で活用し、子どもが、比較してメタ評価すれば、自分の成長を実感することが可能である。また、この評価を教師が授業評価に生かせれば、有効性はさらに高まると言える。社会科授業は、現状分析と問題指摘、教科書通りの公式見解のような発表で終わる場合が多い。学習集団で、厳しく論争しながら、その結果、全員が納得した真理を共有し、みんなが分かり合う授業の創造を目指して取り組んでいるところである。

 本書は、二〇〇一年四月から二〇〇二年三月までの一年間にわたり、明治図書の「社会科教育」誌に連載した「ウェッビング法で社会科の教材研究」を中心に、その他の論稿を加えて再構成したものである。このたび、樋口雅子編集長のあたたかいおすすめにより、一書にまとめることができた。記して感謝の意を表す次第である。


  二〇〇二年三月   /關 浩和

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      明治図書

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