- 「確かな学力」の育成―新時代の学力形成を目指す授業づくり /梶田 叡一
- 内発的な学習意欲を高めるために /松村 京子
- T 新時代の学力形成をめざして
- ―「教えること」の明確化から―
- 1 「教えること」の明確化
- 2 新時代の教育モデル
- 3 かかわりを創出する
- 4 新たな「教えること」
- 5 新時代の学力形成をめざして
- U 各教科・英語学習の実践(14事例)
- かかわりの中でイメージを組みあげる国語科学習
- 第3学年の実践 ・先生になって教えよう
- 「すがたをかえる大豆」(国分牧衛:光村3年下)
- 第3学年の実践 ・三年とうげを語ろう
- 「三年とうげ」(李 錦玉:光村3年上)
- 第4学年の実践 ・決定! ふしぎさナンバー・ワン
- 「白いぼうし」(あまんきみこ:光村4年上)
- かかわりを深め,事象を価値づける社会科学習
- 第6学年の実践 ・「武士の世の中」研究レポートをつくろう
- 算数的表現を分かち合い,意味づける算数科学習
- 第3学年の実践 ・わり算の問題をつくろう 61
- 第4学年の実践 ・変わり方ポスターセッションをしよう
- 〜変わり方〜
- 第5学年の実践 ・デジタルパズルをつくろう
- 〜垂直・平行と四角形〜
- 「わたしたちの科学」をつくりだす理科学習
- 第5学年の実践 ・生命のつながりを研究しよう―種子編―
- 〜植物の発芽と成長〜
- 新たなイメージをうみだす造形的かかわり
- 第4学年の実践 ・カメラマンの目になって
- 〜身近な植物の表現と鑑賞〜
- 第6学年の実践 ・かお・顔・カオ
- 〜「再現・ディフォルメ・自由」解釈による自画像〜
- 子どもたちが動きにこだわる体育科学習
- 第2学年の実践 ・レベルアップ・サーキット
- 〜基本の運動(器械・器具を使っての運動遊び)〜
- 第4学年の実践 ・潜る・浮く・泳ぐ!
- 〜クロール75m完泳をめざそう!!〜
- 自らかかわり,ともに学ぶ英語学習
- 第4学年の実践 ・「My Family」
- 第5学年の実践 ・Welcome to my home.
- あとがき /坂口 正文
「確かな学力」の育成
――新時代の学力形成を目指す授業づくり
兵庫教育大学長 /梶田 叡一
新しい学習指導要領では「確かな学力」の育成が重視されます。反復練習で基礎・基本の知識を身に付けさせよう,というだけの学力育成ではありません。子どもの関心や意欲を待って支援する,子どもの自主性・自発性を無条件に尊重する,というだけの学力育成ではありません。一面的で偏った学力観を排し,「習得」と「活用」と「探究」が相互に絡み合って展開していくよう,教師による指導も子どもの側の自主性・自発性も共に大事にしていく,といった調和的で総合的な学力育成が目指されています。
「確かな学力」の基本構造については,知識と思考力と意欲と実感という4層に着目すべきだと私は考えています(次ページの図を参照)。これら4層の相互の絡み合いの中で実現する総合的な知力こそ真の「学力」なのです。一人ひとりの内面の実感・納得・本音の世界に深く根を下ろしつつ,考える力,課題を追求する力,問題を解決する力を養い,その成果として,また基盤として,きちんとした知識や技能を豊富に持つ,という「学力」と言い換えてもいいかもしれません。
こうした「確かな学力」を授業を通じて実現するためには,実感・意欲から思考力へ,そして知識へ,といった下層から上層に向かう学力形成と,この逆に,知識から思考へ,そして意欲へ,実感へ,といった上層から下層に向かう学力形成の両面から考えていかなければなりません。このような形で表層と深層を循環的にめぐっていく学力形成の道筋こそ,「習得」と「活用」と「探究」を大事にする「確かな学力」を形成していく具体的な道であり,これを「確かな授業」と呼びたいと思います。今後のあらゆる教育実践の基盤にしていただきたい学力観であり授業観です。
「確かな授業」のためには,多面的な活動要素を取り入れた授業の組み立てが必要にならざるをえません。そして,それぞれの活動要素を組み立てていく授業設計の基本単位としては,単元が考えられなくてはなりません。本時中心主義ではなく,単元ごとの授業設計でなくてはならないのです。
少し広い視点に立って「確かな授業」と呼べるような授業の備えるべ
き具体的条件を考えて見ますと,まず直接的に重要となる点が2つあります。「子どもの心をつかむ力」と「学習課題について教え指導する力(分からせ出来るように教える力)」です。人間としての活力に溢れ,子どもの心を活性化するような教師であるよう,努力が必要です。そして,単元単位での授業設計をしながら,各時限で必要とされる教材・学習材を選択あるいは開発する力が必要です。さらに授業が,教師との触れ合いを通じた人間的向上・深化の場でもあることを考慮するとすれば,「感化する力(特に意図しなくても人間的に重要な何かに目覚めさせ努力するようにさせる力)」のことも念頭に置かなくてはなりません。
これは特に教師自身に対して人間としての深さと魅力の育成を迫る課題と言わなくてはならないでしょう。
「確かな」という形容を付けるべき総合的な授業力を構成するこれらの力について,今後とも各学校において十分に考えていかなくてはならないでしょう。そして,それが真に「確かな」という形容語を付けるべき学力の育成に繋っていくことについて,教職員全体で理解を深めていきたいものです。
-
- 明治図書