- まえがき
- T 基礎的・基本的学習技能としてのノート技能
- 一 「ノート技能」をどのように育てればよいか
- 1 ノートの必要性に気づかせる
- 2 ノートをまったくしなかった子ども
- 3 どんなことをノートさせるか
- 4 「ノート点検」で書く意欲を高める
- 二 「聞く技能」を伸ばすには「書く技能」が必要
- 1 書かざるを得ない状況へ追い込む
- 2 「おたよりノート」で書く布石
- (1) どんなことを書くか/ (2) どのように書くか/ (3) 書く時間のとり方/ (4) その他の条件
- 3 「聞く、書く、話す」を直結する
- U ノートは思考の作戦基地だ
- 一 「ノートとは何か」考える
- 1 「ノートとは何か」の授業
- 2 授業直後のノートから
- 3 「はてな?」帳から
- 二 「書くこと」を楽しむ
- 1 「書くこと」を楽しむようにするには
- 2 面白い日付けで書く意欲を引き出す
- 3 学習内容の面白さで書く意欲を高める
- 4 板書の工夫で書く意欲を高める
- 三 「書く技能」をどう育てるか
- 1 書くことを好きにする
- (1) 短く書かせる/ (2) おもしろいことを書かせる
- 2 文づくりのおもしろさを味わわせる
- (1) ことばのスケッチ/ (2) スケッチした文を組み立てる/ (3) 表現の工夫をたのしむ
- 3 書く内容をたくさんもたせる
- 四 書いて考えを創り出す技能を育てる
- 1 「何でもノートに書きなさい」
- 2 「考えたことをどんどん書きなさい」
- 3 「書きたいから書く」のだ
- 4 ノートの点検は毎時間行う
- 五 書いて考えを創り出す
- 1 聞きながら書く
- 2 作文の評価を書く
- 3 書きながら考える
- 4 一度に三つの作業をたのしませる
- 5 面白さを引き出す
- 六 ノートの機能を生かす技能
- 1 記録ノート
- 2 練習ノート
- 3 考えを深めるノート
- 4 授業と授業の「間」を生かすノート
- V 授業の展開とノート
- 一 授業の導入とノートの役割
- 1 導入時に書くこと――三つ
- 2 問題をはっきりさせる
- 二 展開時のノートの役割
- 1 展開時に書くこと――三つ
- 2 考えの変化を書く
- 3 ノートする時間のとり方
- 三 まとめ・発展とノートの役割
- 1 まとめ時に書くこと――三つ
- 2 ▲マークを書く時間のとり方
- 3 どんな▲マークを書かせるか
- 四 ノートの点検のしかたABC
- 1 「点検のしかた」で書き方が変わる
- 2 点検の視点
- 3 点検の時間のとり方
- 五 授業を発展させるノート
- 1 授業時間だけが授業ではない
- 2 授業後の追究
- W 板書とノートの関係
- 一 板書の機能とノート
- 1 板書はクイズではない
- 2 板書とは何か
- 3 書く意欲を高める板書例
- 4 板書の書き方
- 二 カをつけるノート指導の技術
- 1 ノートは自分の財産だ
- 2 個性的なノートづくり
- 3 いろいろなノートの例
- 4「視写」から「聴写」へ
- 5 ノートは発言の玉手箱
- 三 ノートしない子、しすぎる子
- 1 ノートしない子の指導
- 2 ノートしすぎる子の指導
- X ノートは成長の足跡だ
- 一 ある母親の証言
- 1 「驚きました」
- 2 「書くことっていいですね」
- 3 「ノートを見るのが楽しみです」
- 4 「これは面白い!」
- 5 「うちの子は書くのが苦手です」
- 二 子どもの成長を示すノート
- 1 「はてな?」帳をもたせる
- 2 「はてな?」帳で成長がわかる
- 3 面白さ倍増コメント
- 4 有田先生の日本史
- Y わたしのノート観――ここまで育った
まえがき
「書く」ことのよさとか、「ノート」の重要性に気づき、これが学習を進め、深めていく上で、重要な「武器」になることに気づくまでには、かなりの時間を要した。
昭和四十五年から四十六年にかけて「ごみの学習」をしたとき、「子どもって、こんなに書くことが好きだったのか」と思った。何の注文もしないのに、「ごみの学習」をしている間じゅう、毎日毎日多くの子どもが、ごみのことを調べたり、たずねたり、実験したりして、文章を書いてきた。
それまでいつも眠ったような感じで、学校でも活動的でなかった子どもが、「ふろの中のごみ」まで調べてノートに書いてきたのである。「いちばんぶろなので、ごみはないと予想をたてた。水中めがねをかけて もぐってみたらかみの毛やわたのようなごみがあった」といったことを書いてきたので驚いた。
冬休みになると、何人もの子どもが、「ごみ日記」を書いてきたのにはびっくりした。
六年生に歴史学習を進めているとき、どの子もボリュームのある、しかも、おもしろい文を書いてきた。毎日、読むのに、うれしい悲鳴をあげた。
しばらくたったころ、社会科の授業と関係があることがわかってきた。
ネタがおもしろく、活発な討論がなされたり、鋭い対立のある授業になったり、思いもしなかったようなことがわかってきたり、ユニークな問題が出てきたりしたときなどに、よく日、あるいは二〜五日たったころ、大量の文章が「はてな?」帳に書かれて提出されたのである。特に、はげしく対立したよく日には、自説を深化補充した文章を書いてくる子どもが多かった。
授業が終わっても、ノートに向かって一人勉強をしていることが、手に取るようにわかったのである。
このとき、子どもたちは「書くことが嫌いではない」ということがわかった。子どもたちは、
書く内容があれば自ら進んで書く。書かないのは、何を書いてよいかわからないからである。
ということが明らかになった。
つまり、よい授業が行われ、書くべき内容や問題がきちんと把握されれば、どの子どもも「書きたくなる」ということである。そして、書くことによって、自分の考えがより鮮明になったり、新しい考えがつくり出されたり、調べたことをすばやく自分のものにできることを、実感として味わっているから書くのである。
そういう体験を通して「ノートは思考の作戦基地である」という認識に到達したのである。また、子どもの活動によって、このことを教えられたのである。「ノート」は「授業の鏡である」ことも、子どもたちに教えられた。
「今日の授業は、まあまあだな」と思ったとき、子どものノートは、まあまあの状態を示している。
「今日はうまくいったな」と思ったとき、子どものノートはやはり充実した、ユニークなものになっている。
「今日は失敗したな」と思ったとき、子どものノートは、ほとんど書かれていない。
時には予想外のこともあったが、だいたい予想通りであり、「子どもはこわい」「授業はこわい」と思ったのである。
こういう体験から、ノートについて考えるようになり、いろいろな実験をしてみるようになったのである。
実践的研究は、「ノートとは、一体何だろうか」「ノートはどうあるべきだろうか」という方向にむかい、その解答をさがし求めた。
いくつもの実験をし、試行錯誤して、「おおよそ、こんなところが結論ではないか」というものをまとめたのが、『ノート指導の技術』(明治図書)という文庫本であった。
「ノート」について、そして、「ノート指導」のあり方についてまとめて書いたのは、この文庫本が初めてであった。この中に、そのときまでに得た結論を書いた。
しかし、スペースが少なく、ノート指導についてのわたしの考えを十分に述べることができなかった。今回、チャンスをいただいたので、文庫本に書いたことをもとにして、その後の研究をつけ加えて、新しいノート指導のあり方をまとめたものが本書である。
今回は、「基礎的・基本的学習技能としてのノート技能」をどう身につけさせるかについて、力を入れて書いた。
子どもは「書くことをいやがる」という先入観を教師はもっている。この先入観を破らなければならない。子どもは「書くことが本来は好きなのだ」ということがわかれば、状況は変わってくる。
このためには、授業を変えていくことと、「ノート技能を鍛えていく」ことである。
この二つは別々に行うのではなく、一体として指導していくのである。このあたりの手のうち方を「ノート技能をどのように育てればよいか」や「聞く技能を伸ばすには書く技能が必要」といったところで述べている。
また、ことばによる説明だけではわかりづらいと思い、比較的よいノートと思われる実例を、可能な限り写真で入れた。ノートと密接な関係のある「板書」の例も、できるだけたくさん入れたので、参考にしてほしいと思う。
ノートは、あくまで「手段」であって、目的ではない。目的は、子どもに力をつけ、子どもを育てることである。このあたりを取りちがえないようにしてほしい。
しかし、ノートは、子どもの思考を鍛える「有力な手段」であることはまちがいない。だから、やはり大切なのである。よいノートをつくらせることは、それだけ子どもを鍛えたことなのである。
ノートをよくするには、よい授業、子どもが内容をたくさんもてる授業、子どもの思考をゆさぶる授業を行うことが大切である。ノートだけよくすることはできないし、意味もないことである。
小学校では、書くことを好きにし、自分の思うことがすらすら書けるし、書くことによって考えをつくり出せるようにすることが、ねらいではないかと考えている。最後に、子ども(六年生)のノート観をいくつかあげているのでみていただきたい。わたしのねらいが大体具現しているように思う。
本書を手がかりにして、あちこちの教室で「書くことの好きな子ども」が育ったり、「ユニークなノート」が出現したりすれば、こんなうれしいことはない。
最後になったが、本書は、明治図書編集部の江部満・樋口雅子両編集長のおすすめによりまとめることができた。厚くお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
一九九六年五月十四日 /有田 和正
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