- はじめに
- 第一章 理論編 主体的・対話的で深い学びを実現する国語授業づくりとは
- 1 深い学びにつながる「対話」の重要性
- 2 対話を実現する質の高い課題設定とは
- 3 メタ認知的知識としての条件的知識と深い学び
- 4 質の高い対話を誘う論理的思考力の育成
- 第二章 準備編 主体的・対話的で深い学びを実現する「批評読みとその交流」
- 1 「批評読みとその交流」を取り入れた授業づくり
- 2 思考が活性化するペア・グループ学習
- 3 深い学びにつながる「批評読みとその交流」を取り入れた授業づくりのポイント
- 第三章 実践編 「批評読みとその交流」を取り入れた授業づくり
- 1 くらべてよもう「じどう車くらべ」(光村図書 一年下)
- 1 教材について
- 2 学習指導計画
- 3 第二次 「批評読みとその交流」の実際
- 4 第三次 説明文書き
- 5 批評読みの実践のまとめ
- 2 知っていることや したことと つなげて読もう「おにごっこ」(光村図書 二年下)
- 1 教材「おにごっこ」の特徴
- 2 学習指導計画(全六時間)
- 3 授業の実際
- 4 本単元のまとめ
- 3 説明の工夫を見つけよう「アップとルーズで伝える」(光村図書 四年下)
- 1 教材観について
- 2 学習指導計画
- 3 教科内容を習得・活用できる学びの実現に向けて〜「批評読みとその交流」〜
- 4 ロボットにかける筆者の夢と対話しよう! 「『ゆめのロボット』を作る」(東京書籍 四年下)
- 1 主体的・対話的な批評読みとその交流を実現するために
- 2 学習指導計画
- 3 批評読みとその交流の実際
- 5 見つめ直そう私たちの身近なもの 筆者の説明に納得できるか? 「見立てる」「生き物は円柱形」(光村図書 五年)
- 1 教材の特性
- 2 「批評読みとその交流」の構想
- 3 学習指導計画
- 6 説明文の達人になろう「天気を予想する」(光村図書 五年)
- 1 学習材について
- 2 本実践における「批評読みとその交流」のポイント
- 3 学習指導計画
- 4 授業の実際
- 7 説明のスペシャリストになろう! 「ゆるやかにつながるインターネット」(光村図書 五年)
- 1 はじめに
- 2 教材の特性
- 3 学習指導計画
- 4 授業の実際
- 8 筆者の意図を考えながら読もう「平和のとりでを築く」(光村図書 六年)
- 1 学習材分析
- 2 学習指導計画(全一四時間)
- 3 「批評読みとその交流」のための手立て
- 4 「批評読みとその交流」の実際
- 5 まとめ
- おわりに
はじめに
新学習指導要領をめぐる議論も熱を帯びてきた。近年、強調されているのは、「生きる力」の育成である。「何を知っているか、何ができるか」と共に、「知っていること・できることを実際の場でどう使うか」、そして、これらの土台であり、目標でもある「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」という三つの柱の資質・能力を各教科などにおける具体的な活動を通して育んでいくことが求められている。
こうした力を育てるために、今回の改訂では「アクティブ・ラーニング」の推進が叫ばれている。「アクティブ・ラーニング」の定義はこの何年間で推移しており、二〇一六年一二月の「主体的・対話的で深い学び」(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」)と定義されている。そして、その内実を次のように説明している。
@ 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
A 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
B 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。
ここで、教育に関わる者として考えていかなければならないことは、「主体的・対話的学び」「深い学び」の実質をどう考えればよいのかということである。
こうした視点は、実は新学習指導要領案が出てきたから議論すべき問題というよりも、特に小学校教育などでは、子どもの側からの学びの実現に向けて行われてきた実践には既に見えてきた視点でもある。
例えば、河野順子(二〇〇六)『〈対話〉による説明的文章の学習指導―メタ認知の内面化の理論提案を中心に―』(風間書房)では、説明的文章の学びにおいて、〈対話〉を核にした学び論を展開している。そこでは、目指すべき説明的文章の学習指導を、「学習者が自らの既有知識をもとに、他者(筆者、教材、教師、学習者)との意味的相互交渉の過程を通して、自らの既有知識を新たに再構成していく意味的〈対話〉を実現する学習指導」と規定して、小学校での実践を展開している。子どもの側からの学びを立ち上げてきた実践には、既に主体的・対話的な学びが実現しているのである。
しかし、こうした先行研究・実践の積み重ねにもかかわらず、現在、学校で行われている教育は、「何を知っているか」という知識中心の教育にとどまってしまいがちであることも確かである。
この機会に改めて、子どもから出発する学びのあり方、それが、子どもの生きる言葉の力を育てる深い対話を実現できる学びはどうあればよいのかを提案していきたい。
本書では、私が小学校教員時代に、教育困難校と言われる学校で、子どもと共に学び合う日々の中から生み出した「批評読みとその交流」を子どもの主体的・対話的な学びの実現できる説明的文章の学習指導として提案することにしたい。
本書で紹介されている先生方の実践は、私が昨年度まで在籍していた熊本大学で出会った若き先生方、そして、熊本の教育を牽引されていらっしゃるベテランの先生方のものである。在任中に出会った学生たちは自分の力なさに心折れながらも、子どもたちのための学びを創ることのできる先生になりたいと純粋に努力を重ねていく学生たちだった。この学生たちと共に子どもの側からの学びを協働で開発していった実践も本書の中に収められている。また、熊本の地で出会ったベテランの先生方の子どもの側からの学びを実現したいという熱い思いにも、国語教育研究者として多くのことを学ばせていただき、微力ながら力添えをしたいと思わせていただいた。
周知のように、二〇一六年四月、熊本は大きな地震に見舞われ、甚大なる被害を受けた。そんな厳しい状況の中でも、「子どもの側からの学びを実現した」という思いで先生方が頑張っていらっしゃる。地震で学校再開がいつになるかわからないような状態の中でも、「子どもたちの顔を思い浮かべながら、子どもの笑顔が広がる実践を考えています。」とお話しされていらっしゃった先生方。「学校が再開される前から体育館に避難してきた子どもたちの心を回復させようと有志の先生方が自主的に集まって読み聞かせを行った」というお便りをいただいた先生方。こうした先生方の実践をお届けしながら、本書が、どこまでも子どもの側からの学びを実現しようと頑張っている全国の先生方のお役に立てることを切に願っている。
最後に、本書を上梓するために、明治図書編集長の木山麻衣子さんのお力添えがあったことを記しておきたい。厳しい状況にある熊本になんとか元気を与えることはできないかと模索していた私に、「私も九州出身者です。なんとか熊本の復興にお力添えをしたいです。」というお言葉をいただき、本書の刊行が実現した。地域にも目を配ってくださる木山さんの温かな眼差しに心より感謝申し上げたい。
平成二十九年二月 /河野 順子
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- 明治図書
- 批評読みという学習方法が具体的に示されている。自学級でアレンジして授業してみたい。2017/10/1340代・教諭
- 論理的思考力育成の方法がわかる2017/4/1650代・小学校管理職