- はじめに
- 第1章 道徳ってなに?
- 道徳教育って難しい?
- どうして道徳教育をするの?―道徳の起源―
- 道徳を教えるってどういうこと?
- 慣習的な道徳と反省的な道徳
- 道徳教育の歴史
- 「きれいごと」を教えるの?
- 子どもとともに成長する教師
- COLUMN さあはじめよう!道徳授業
- COLUMN 道徳の授業は生徒と教師の「心のキャッチボール」
- 第2章 学習指導要領で道徳はどう扱われているか
- 道徳教育の目標
- 道徳性ってなに?
- 内容項目にはなにが示してあるの?―道徳的価値項目―
- 道徳教育と「道徳の時間」(道徳科)
- 学校教育全体で取り組む―年間指導計画と別葉の作成―
- COLUMN 道徳の授業って楽しい!
- ・道徳教育をより深く学ぶために
- 第3章 これからの道徳教育
- 21世紀型能力と道徳教育
- アクティブ・ラーニングと道徳教育
- 考え,議論する道徳
- 道徳教育における問題解決的な学習
- 自己肯定感と道徳教育
- 国際理解・愛国心と道徳教育
- 情報モラルと道徳教育
- COLUMN 道徳って一体何なのか?
- 第4章 やってみよう! 道徳の授業づくり
- ねらいの設定
- 発問の工夫
- 考え,議論する道徳の授業
- 授業の三要素を活かした授業づくり
- 指導案の書き方
- 指導の流れ
- 場面発問とテーマ発問
- 教師の「補助発問」で授業を深める
- さまざまな教材で豊かに学ぶ
- ワークシートのつくりかた
- 教材やねらいに応じた板書
- 評価の方法―個人内評価とポートフォリオ評価―
- COLUMN 道徳教育とファシリテーショングラフィック
- 第5章 さまざまな道徳教育
- コールバーグ理論と道徳性の発達段階
- モラルジレンマ授業
- 問題解決的な学習
- モラルスキルトレーニング
- 構成的グループエンカウンター
- ワークショップ型
- 対話への道徳教育
- COLUMN 学級通信のミニ道徳―すぐそばにある「道徳」―
- おわりに
- 参考文献
- 資料
はじめに
道徳教育はうさんくさい?
私は大学で「教育方法論」や「教育課程論」,「道徳教育論」といった教職科目を担当しています。それぞれの講義の初回はワークショップをしたりしてワイワイとやることが多いのですが,道徳教育論の初回時には必ず言うことがあります。
「道徳教育をうさんくさく感じたことある?」
国語科教育や社会科教育について,うさんくささを感じている学生なんてほとんどいないと思いますが(好き嫌いはあってもね),道徳教育に限って言えば「うさんくささ」を感じている学生が多いこと(もちろん「楽しかった!」「ためになった!」って答える学生も一定数いますよ)。
実は,私の道徳教育研究の出発点もここにありました。思い起こせば30数年前,道徳の授業で読む物語や映像資料に対して,「そんなにうまくいく話ないやん」,「なんで主人公はあえてトラブルになるようなやり方をするんだろう? 別の解決方法があるんじゃないの」と冷ややかな目で見ていた少年でした。中学生以降は,道徳の授業を受けた記憶そのものがほとんど残っていません。
要は何が言いたいかというと,大学で道徳教育論を講義するということは,そもそも最初からかなり「斜に構えている学生」を相手にしなければならないということです。他の教職科目にはない過酷さ! マイナスからの出発です。だって,国語の先生になりたい人は,だいたい国語が好きで先生になろうとします。でも,道徳って「あー,なんか体育祭の準備とかに突然変わってた時間じゃないの? 大事な授業なの?」程度の認識です。もしかしたら本書を手にとってくださった方々も,「うさんくせぇよな」「そもそもそんな授業いるの?」という想いがどこかにあるのかもしれません。
本書の目的の一つは,多くの方が抱いている道徳教育についてのマイナスイメージを少しでも払拭することです。読み終わる頃には,「道徳教育について勘違いしてた!」とか,「道徳教育って意外に大切かもしれない」,「ちょっとやってみようかな」,なんて気持ちになっていれば幸いです。
これまでの道徳教育のテキスト
とはいうものの,道徳教育を学ぶテキストは比較的簡単に書いてあるといえども,やはり難しい。かくいう私も,これまでに大学の授業で用いることを目的とした道徳教育のテキストを書いたことが何度かありますが,研究論文と大きく変わらない書き方をしていました。教育学を専門的に学んでいる人にとっては(たぶん)読み応えのあるものになっていたとは思いますが,教育学を学び始めた人にとっては相当取っつきにくいものであったことは確かだと思います。
そこで,徹底して平易に書いてみようというのが,本書の試みです。なんせタイトルが『ゼロから学べる』と銘打っていますもんね。
かつて井上ひさしさんは言いました。「むずかしいことをやさしく,やさしいことをふかく,ふかいことをおもしろく……」。本書は,通常は難しく語られる道徳教育をやさしく,そしてちょっとだけ深く,おもしろいかどうかは読者の皆様のご判断に任せるとして,そこに焦点を絞って書きました。
この本のほとんどは,私が講義で話をしていることがベースになっています。そこからさらにエッセンスを取り出して,本当に大切なことに紙面を割いています。
ですので,逆に言えば,バリバリやっている方からすれば物足りなさを感じるかもしれません。そういう方は私の研究論文の方に目を通していただければとても嬉しく思います。
当たり前のことですが,本書を読むだけで道徳の授業づくりができるようになるわけではありません(そのためのポイントは書いてありますけどね)。ましてや,実践そのものが上手になるわけではありません。これらの力量を形成するためには,やってみることがなによりも大切になってきます。やってみること,この一歩を踏み出すことが授業上達のための最初の一歩になります。
ところが,多くの先生は,この一歩を踏み出せずにいることも確かです。話をよくよく聞いてみると,道徳の授業をすることに対するいろいろな「恐れ」を感じているようです。
「間違ったことを教えちゃったらどうしよう」
「それは道徳じゃないねって管理職に言われたら嫌だなぁ」
「どうまとめたらいいのかわからない」
「子どもたちがあまり乗ってこないんだよなぁ」
こういった道徳の授業に対する恐怖感って,実は「授業をしないための口実」だったりしませんか?
間違ったことを教えてしまったら,他の授業と同じように,「ごめん,間違ってたわ」って別の機会にフォローすればいいだけですよね。
「道徳じゃないね」って言われたら,「そうでしたか! ご指導お願いします!」って言えばいいんです。
教師がまとめることが難しければ,子どもたちと一緒にまとめればいいんです。無理にまとめなくても,いい場合もあります。
子どもたちが乗ってこないとしても,そこまで気にしない。全ての授業で1時間中ずっと子どもたちはノリノリなわけないですよね。
世界に誇る野球選手のイチローさんでさえ,当たり前ですが打率は10割ではありません。凡退することだってあります(むしろそっちの方が多いです)。野球と授業づくりを単純比較してはいけないと思いますが,授業がうまくいかないことだって普通にあります。私たちは所詮不完全・未完成の人間ですもの。
大事なのは,やってみること。そしてそこからいろんなことを吸収して,次に活かしていくことです。道徳の授業がうまくいかなかったとしても,失職するわけではありません(笑)。
気楽にいきましょう。
と,前置きが少々長くなりました。ではこれから皆さんと,道徳教育の謎を解き明かしながら,授業づくりの旅へ出かけることにしましょう!
柔らかな文体でスラスラ読みやすく、1テーマが短いので移動時間や少しの空き時間に読める。
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