- はじめに
- 第1章 真の問題解決能力を育てる数学授業とは?
- @ 真の問題解決能力を育てるために
- A 子どもは実社会の問題を解決できる?
- 1 「体力測定」の問題
- 2 「スポーツ飲料」の問題
- 3 「走り幅跳び」の問題
- B 「意思決定」の場面を授業に位置づけよう!
- 第2章 真の問題解決能力を育てる授業のデザイン
- @ 授業デザインのためのフレームワーク
- A 授業デザインの視点
- 1 授業デザインの2つのポイントと5つの原則
- 2 デザインする視点と説明モデルの変化
- 3 実際の授業デザイン
- B 教材づくりの視点
- 1 友達と話し合って解決したくなる「問題状況」を設定する
- 2 「合意形成」が適度に難しい問題を用いる
- 3 育てたい「プロセス能力」を明確にする
- 4 多様な「選択肢」が生まれるようにする
- 5 「数学的−社会的価値」を実感させる
- C 評価の視点
- 第3章 教師の発問から子どもの反応まで詳しくわかる! 真の問題解決能力を育てる授業プラン
- 対象学年 1年〜
- AEDで救える命を増やそう!
- 市民生活における図形(作図)の活用として
- 交通事故を減らすプランを提案しよう!
- 市民生活におけるデータの活用として
- 水が一番たりないのはどの国かな?
- グローバル教育に関連づけて
- 多くの人が満足する種目で球技大会を開こう!
- 学校生活におけるデータの活用として
- 印刷機は買い替えるべきかな?
- 学校生活におけるデータの収集と活用として
- 監督になってバスケットボールの選手を選ぼう!
- 学校生活における質的データの活用として
- 津波避難施設の設置場所を考えよう!
- 市民生活における活用,防災教育に関連づけて
- 歴史的な町並みに合う建物の高さを提案しよう!
- 市民生活における図形の活用として
- 親しみやすい蜂のキャラクターをつくろう!
- 感性の数値化の方法として
- 対象学年 2年〜
- ライバルに負けない割引券につくり変えよう!
- 消費生活における関数の活用として
- 7つの世界文化遺産すべてを見学する修学旅行のプランをつくろう!
- 修学旅行や遠足の計画づくりに関連づけて
- 対象学年 3年
- 富士山の入山料の赤字を解消しよう!
- 市民生活におけるシミュレーションとして
- 第4章 これから求められる「資質・能力」の育成に向けて
- グローバル化と問題解決能力の育成
- Depaul University /高橋 昭彦
- 意思決定:その定式化の課題
- 独立行政法人統計センター /椿 広計
- 教科横断的な視座から見た課題
- 国立教育政策研究所 /松原 憲治
- 汎用的能力の視座から
- 国立教育政策研究所 /後藤 顕一
はじめに
「子供たちが,身近な地域を含めた社会とのつながりの中で学び,自らの人生や社会をよりよく変えていくことができるという実感を持つ」(中央教育審議会,2015)ことが求められています。
このことに異を唱える教師はいないでしょう。その一方で,日々の多忙さや目先の評価に追われ,ついつい大きな展望をもつことを忘れてしまいがちです。近年,その傾向がいっそう強まっているように感じるのは,私たちだけではないはずです。
社会は急速に変化し続けており,「自らの人生や社会をよりよく変えていく」ためには,これまで大切にされてきた以上の能力が必要になることは明らかです。例えば,情報があふれる社会において,数理を用いた意思決定のプロセスに参画したり,批判的に検討したりできない人は,他者の示した結論に一方的にしたがうか,ただ異を唱えるだけしかできなくなってしまいます。
このような話をすると,「これまでだってそうだった」「算数・数学の基礎・基本を身につけるのが先」と言う方がいますが,本当にそれでいいでしょうか。
確かに,高校までの学びを基盤に,大学や職場での教育を通してこのような能力を身につけている人がいる一方で,学校数学の学びが算数・数学の世界内にとどまったものになり,実社会で活用できないまま「剥落」している人も少なくないのが現状ではないでしょうか。
子どもの努力はもちろん,私たち教師の努力も,彼らの将来の人生において実を結ぶようにしたいものです。このような想いを込めて,本書のタイトルを「真の問題解決能力を育てる」としました。
そして,私たちは,「真の問題解決能力」として,算数・数学の内容や考え方を基盤に判断や意思決定をする力,すなわち,「数理科学的意思決定能力」に焦点を当て,算数・数学の「実用性」ではなく,むしろ「人間形成」や,その先にある「社会形成」「文化創造」の視点から,検討を重ねてきました。この点に,本書の提案が従来の算数・数学科の「枠」を越えたものになっている背景があります。
本書で「真の問題解決能力」として焦点を当てた「数理科学的意思決定能力」は,長期的に育成を図っていく必要があります。それには,学年や学校種によって代わる教師が,互いの実践をつないでいく必要があります。その意味では,本書を参考に,読者のみなさんが新たな実践をされ,それを共有していくことでこそ,私たちのめざす教育が実現すると言えます。本書の算数編の授業プランもご覧いただき,個から数学科全体へ,数学科から学校全体へ,また小学校や高校へも,実践の輪が広がっていくことを願っています。
なお,本書は,平成25年4月から3年間にわたる,日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(B)『数理的意思決定力の育成に関するホリスティック・アプローチ研究』の研究成果をまとめたものです。この研究には,本書の執筆者以外に以下のものが参画しています。
青山尚司(東京都小平市立小平第九小学校),厚美香織(神奈川県立小田原高等学校),上田大悟(東京都あきる野市立増戸中学校),上野耕史(国立教育政策研究所),小澤真尚(筑波大学附属中学校),後藤貴裕(東京学芸大学附属国際中等教育学校),島田功(日本体育大学),菅原恵美(北海道札幌市立星置東小学校),久下谷明(お茶の水女子大学附属小学校),鈴木和幸(電気通信大学大学院),鈴木春香(東京都小平市立小平第六小学校),鈴木侑(東京都荒川区立汐入東小学校),田中紀子(愛知県立豊田西高等学校),冨樫奈緒子(東京都荒川区立汐入東小学校),長崎栄三(国立教育政策研究所名誉所員),松島充(広島大学附属東雲小学校),室谷将勝(東京都北区立王子第一小学校)
平成28年7月 /西村 圭一
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- 明治図書
- 教材研究の参考になりました。2023/5/1120代・中学校教員
- 実際に授業で実践してみたいと思える事例がたくさん載っていてよかった。授業者と学習者の対話例や、授業の展開例も掲載されているため、どのように授業を進めていけばよいのかもイメージしやすい。2022/11/2320代・大学生
- 全体構想がわかりやすい2017/2/440代タヌキ
- 短絡的なHow toものでは無く、考えながら読むことができるクリエイティブなところがいいと思った。2017/2/230代・中学校教員