- まえがき
- T 国語科における全員参加の保障
- 一 子ども全員に「意欲」を喚起する
- 1 日々の授業の落とし穴
- 2 「挙手――指名」型授業の重苦しさ
- 二 子ども全員に「言語技術」を培う
- 1 研究授業の落とし穴
- 2 学力を保障しない国語科の授業
- 三 子ども全員に「思考」を促す
- 1 鍛えられた学級の落とし穴
- 2 葛藤のない授業の不毛性
- 四 「全員参加」は現象ではなく内実である
- U 全員参加を保障する十の授業技術
- 一 子ども全員に「意欲」を喚起する授業技術
- 1 「学習意欲」の二つの意味
- 2 学習に対する「自発性」を促す
- 3 小刻みなノート作業を課す
- 4 教師の「視線」を巡らす
- 二 子ども全員に「言語技術」を培う授業技術
- 1 「言語技術教育」が授業を変える
- 2 言語技術教育――産みの苦しみ
- 3 言語技術が見えない授業
- 4 「講義形式」から「演習形式」へ
- 5 演習形式の言語技術指導
- 6 言語技術を一つにしぼる
- 7 言語技術は体験によって定着する
- 8 劇化の授業にも音声言語技術を
- 9 新しい国語科教育に「言語技術」をしっかりと位置付けよう
- 三 子ども全員に「思考」を促す授業技術
- 1 「総合的な学習の時間」を支える言語能力
- 2 「系統樹」をつくる
- 3 要約指導で鍛える
- 4 「個別作業」と「意見交流」との連動
- 5 「メタ認知」を核とした全体交流
- 6 傍観者に思考を促す
- 7 「傍観者中の傍観者」を授業に巻き込む
- 8 子どもたち全員に「当事者意識」を持たせる
- 9 「全員参加型授業システム」の開発――PCS
- 10 「PCS」で心の交流を図る
- 11 「思考」とは「葛藤」を経た「メタ認知」である
- 四 授業技術は組み合わせて使うことこそが「命」である
- 1 現代っ子の趣向はいかに
- 2 石の上にも三年
- 3 鑑賞させる名案は明暗にあり
- 4 「意欲」+「技術」→「思考」
- 5 授業技術を組み合わせる
- V 全員参加を保障する「話すこと・聞くこと」の授業展開
- 一 「メモ」の技術で聞き取る力を鍛える /對馬 義幸
- 1 メモを「取って」いるがメモが「取れて」いない
- 2 そもそもメモは何のために取る?
- 3 メモを取って伝えよう
- 4 上手なメモのコツは?
- 5 再び作業させて、定着をはかる
- 二 聞いた情報を整理して再構成する /金子 理
- 1 よりよく「聞く」ための前段階
- 2 まずは区別させること
- 3 中心内容の位置に注目させる
- 4 「情報」をレベル分けさせる
- 三 留守番電話に用件を正しく伝えよう /小木 恵子
- 1 活動中心の授業でも、「全員参加の保障」を
- 2 身近な例で、学習の必然性を持たせる
- 3 子どもたちの意欲、集中力を最後まで持続させる
- 4 全員の準備ができたら、いよいよ全体交流
- 5 今日の国語の時間は、こんなこと習ったよ
- 四 「ブックトーク」でスピーチ学習に挑戦 /石川 晋
- 1 原稿から目が離せない
- 2 スピーチ上達のために仕組んだこと
- 3 ビデオで自分のスピーチの難点に気付かせる
- 五 子どもが本気になるネタで「話し合い」活動を促す /堀 裕嗣
- 1 「融合型」と「対立型」
- 2 さあ、だれを選ぶ?
- 3 班員全員で「合意形成」を図る
- 4 「合意形成」ができなかった理由を考える
- W 全員参加を保障する「書くこと」の授業展開
- 一 「依頼状」で相手意識を自覚させる /山下 幸
- 1 手紙の価値を授業へ
- 2 欠点例文でポイント発見
- 3 ポイントに沿って実際に書かせる
- 4 「相手意識」を持たせる
- 二 先生の横暴をやめさせろ! /藤原 友和
- 1 主張を持つ
- 2 できなさを自覚する
- 3 材料を蓄える
- 4 構成について知る
- 5 いよいよ書き始める
- 6 これで明るい学校生活は守られた?
- 三 根拠を明らかにして書く /太布 智子
- 1 入学させるか、させないか
- 2 自分の学校の良いところを紹介しよう
- 3 みんなで交流し合う
- 4 向上的変容を確認し合う
- 四 短作文で論理的思考力を高める /板橋 友子
- 1 自分の言葉で表現する
- 2 まずは選択する
- 3 フォーマットにしたがって書く
- 4 子どもの表現から「言語技術」を取り出す
- 5 全員が磨き合い、高め合う場をつくる
- 五 「失敗談スピーチ」原稿で生活作文にユーモアを! /田中 幹也
- 1 「失敗談スピーチ」原稿を書く
- 2 「失敗談スピーチコンテスト」開催!
- 3 比べる
- 4 推敲する
- X 全員参加を保障する「読むこと」の授業展開
- 一 細かなステップで全員参加を保障する詩の授業 /藤澤 賢治
- 1 詩の授業は印象の表出から
- 2 明暗を問い、全員参加を促す
- 3 詩の中の言葉から根拠をまとめさせる
- 4 言語技術として「対比の構造」を教える
- 5 発展教材で向上的変容を自覚させる
- 二 小説教材で「自らの生き方」を振り返る /中村 貴子
- 1 複数の教材の登場人物に焦点を当てる
- 2 登場人物の共通点を探る
- 3 比較することで獲得される「読み」
- 4 自分に自信を持つ
- 三 古典教育の導入で養う「読み」の力 /浅野 克実
- 1 仮名遣いの違いを教える
- 2 間のとり方を教える
- 3 文意との整合性を図る
- 四 説明文の読み取りを「話すこと・聞くこと」領域と関連させる /森 寛
- 1 地球の裏側から転校生がやってきた
- 2 「お年玉」って何ですか?
- 3 「説明のコツ」を一つにしぼる
- 4 練習問題で鍛える
- 5 全員で「向上的変容」をたたえ合う
- 6 「読むこと」領域と結び付ける
- あとがき
まえがき
すべての教師が、すべての子どもたちに授業に参加して欲しいと願っている。
しかし、常にすべての子どもたちを授業に参加させている教師は、日本中に何人いるだろう。
常に子どもたち全員に「活動」をさせている教師はいる。「劇化」や「ペープサート」「絵本づくり」「紙芝居づくり」といった活動だ。しかし、子どもたちは多くの場合、その活動をすることで自分にどんな学力が身に付いたのか、わかっていない。
また、常に子どもたち全員に自分の講義を聞かせ、子どもたち全員にノートをとらせている教師もいる。しかし、子どもたちは多くの場合、頭の中が停滞し、ただひたすらノートにペンを走らせているだけだ。右手の運動が行われているだけなのである。おまけに、多くの子どもたちが、給食のメニューや今日のテレビ番組のことを考えている始末……。
これでは、「全員参加」を保障しているとは言えない。おそらく、「全員参加」を常に子どもたちに保障している教師は、日本中どこを探しても一人もいないのではないか。そんな気がする。「全員参加の保障」はそれほどまでに難しい。
しかし、私たちは現場教師だ。目の前には、常に何十人、何百人という子どもたちがいる。この子どもたち全員を授業に参加させることがいかに難しくても、それを放棄して良いというものではない。少なくとも、不断の努力によって、少しでも「全員参加」に近付けていくことは可能なはずだ。
本書は、札幌市近郊に集う中学校国語教師十四人が「全員参加の授業」に憧れて、努力した成果として生まれたものである。もちろん、完璧ではないし、課題も山積みだ。成果と課題を比べれば、課題の方がはるかに多い。
しかし、いまだ志半ばにさえ到達していないといえども、まずは私たちの小さな成果を発信することで、読者の方々のご批判を仰ぎたいと考え、本書をしたためた。
私たちは「全員参加」に三つの意味があると考えている。
一つ目に、子どもたち全員に「意欲」を喚起すること。
二つ目に、子どもたち全員に「言語技術」を培うこと。
三つ目に、子どもたち全員に「思考」を促すことである。
この三つが満たされて初めて、「全員参加が保障された」と考えるのである。こういったシビアな立場を自らに課すことによって、日々の授業に甘えを許さないという「自戒」が生まれる。
こういった「自戒」を常に念頭に置きながら、本書は執筆された。
T章からU章では、「全員参加」の意味づけとその授業技術の紹介、V章からX章までは、それに基づいた実践の報告で構成されている。特に、実践報告は、新学習指導要領の三つの領域構成に則って構成した。
読者のみなさんに役立てていただければ、また、ご批判をいただければ、これに優る幸せはない。
私たちもまた、新しい国語科教育をともにつくっていきたいと考えている。
平成十三年五月 「研究集団ことのは」代表 /堀 裕嗣
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- 明治図書