- はじめに
- ―国語で「何を学ぶのか」「学んだことをどう使うか」―
- 第1章 理論編 自立した読者を育てるアクティブ・リーディングとは?
- 1 〈家庭の文化資本〉の格差
- ―「自由に書いて」と言われることが「不自由」な子ども―
- 2 浴びるほど読書に浸らせる
- ―読書に親しむ態度は,読書に親しませることで培う―
- アクティブ・ラーニングの問題
- 3 その1 フリーライダーと非活性化しているグループ
- ―「問題がない」と言うことの問題―
- 4 その2 思考と活動の乖離
- ―思考こそをアクティブに―
- 5 作品を読むという営み
- ―〈根拠〉と〈理由〉の区別―
- 学習への深いアプローチ
- 6 その1【〈対話〉の組織@】深まる〈対話〉と深まらない〈対話〉
- 7 その2【〈対話〉の組織A】フィンランドの教科書に見る〈対話〉
- 8 その3 知識や経験を賦活し,知識や経験から類推する
- 9 その4 作品の〈構造〉や作品の〈原理〉の発見
- 深い学びの学習サイクル
- 10 その1 学習の転移
- ―他の作品を主体的に読めるようになること―
- 11 その2 コンフリクト
- ―〈読み〉のズレから起動する〈学び〉―
- 12 その3 内化
- ―〈読みの方略(読むコツ)〉の〈習得〉―
- 13 その4 外化
- ―〈読みの方略(読むコツ)〉の〈活用〉―
- 14 その5 リフレクション
- ―〈読みの方略〉のよさの実感―
- 15 自立した読者を育てる
- ―豊かな〈読み〉のできる子ども―
- 【Column1】
- 科学の世界では,根拠が変われば定説が覆る―「冥王星が惑星から降格した!」―
- 【Column2】
- 認知バイアスとダーウィンの進化論―「環境に適応した個体が生き残る」―
- 第2章 準備編 アクティブ・リーディング〈読みの方略〉10
- 1 叙述を〈根拠〉として正しく入力する
- 2 既有知識や既有経験を賦活する
- 3 複数の叙述を響き合わせる
- 4 作品の周縁情報を仕入れる
- 5 【物語を分析する観点@】〈視点人物〉は誰か
- 6 【物語を分析する観点A】中心人物と対役は誰か
- 7 【物語を分析する観点B】中心人物の心情はどう変化したか
- 8 【物語を分析する観点C】様々な作品構造を〈対比〉する
- 9 【物語を分析する観点D】〈メタファー(隠喩)〉を読む
- 10 作品を意味付ける―自分の世界の再構築―
- 【Column3】
- 国語科の教室に底流するイデオロギー―ロジックとレトリックを軽視する傾向―
- 第3章 実践編 小学校 定番教材でのアクティブ・リーディングの授業
- 2年 かさこじぞう
- 3年 ちいちゃんのかげおくり
- 4年 ごんぎつね
- 5年 注文の多い料理店
- 6年 やまなし
- 【Column4】
- 自我関与を促すテンプレート―「もし,あなただったなら(自分だったなら)……」―
- 第4章 実践編 中学校 定番教材でのアクティブ・リーディングの授業
- 1年 少年の日の思い出
- 2年 走れメロス
- 3年 故郷
- 注釈
- 文献
- おわりに
- 作品の索引
はじめに
―国語で「何を学ぶのか」「学んだことをどう使うか」―
「国語が好きだ」と答える子どもは多くありません。
ベネッセ教育総合研究所が「好きな教科」を調査しています。小学校では社会科の次に「とても好きだ,まあ好きだ」と答えた子どもが多くありません。また,中学校では英語に次いで少ない数値です※1。殊に,男子は他教科と比して群を抜いて少ない数値となっています※2。どうやら,(授業の成果とはあまり関係なく)もともと読書が好きな女子のおかげで,かろうじて最下位を免れているようです。
かく言う筆者も,中学3年まで国語が一番嫌いでした。
それは,国語の授業で,「何ができるようになったのか」「何が身に付いたのか」「何を学んだのか」が,全く分からなかったからです。
それは,「どのように学ぶか」が分からないということでもありました。
他教科は,その点,「何を学んだのか」が明白でした。
他教科では,自分の進歩や成長を確認することができたのに,国語の授業では,それが不明だったのです。
平成28年12月に公示された「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」の「学習指導要領総則の構造とカリキュラム・マネジメントのイメージ」と「学習指導要領改訂の方向性」には,以下の問いが明記されています。
「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」
そして,「育成を目指す資質・能力の三つの柱」では,以下の図が記されています。
(図省略)
本書は,「何を理解しているか,何ができるか」を記しました。
また,「理解していること・できることをどう使うか」を記しました。
表現を換えれば,「どんな技能や知識を習得するか」を明記し,その「習得した知識や技能をどう活用するか」を明記しました。
その教材で獲得した知識や技能を,他の作品で活用できること,つまり他の作品に転移することをねらいました。そして,できるだけ〈教室学力〉に囚われず,〈実生活に生きて働く学力〉になることを念頭におきました。
本書は,1つの試作です。
もっと「学ばせるべき知識や技能」はあることでしょう。「活用させるべき知識や技能」もあることでしょう。しかし,何はともあれ,1つの試作がなければ,その先には進めません。本書はそういった意味で執筆した試作品です。試作ではありますが,ここに書いた内容はどれも既に学会や講演会等で発表したり,執筆したりしてきた内容であり,いずれも参会者や読者から好意的に受け容れていただいているものです。
どうやら,筆者と同じように,「国語で(特に文学教材で),何を学ばせたらよいか分からない,それを明確にしたい」と思っている現場の教師は多いようです。
本書は,国語の領域の中で殊に「文学の〈読み〉」に焦点付けて執筆しました。実生活に生きて働く〈読み〉の力を如何に高めるかということです。視点を変えると,〈自立した読者〉を育てるということです。
授業で学んだこと(習得した知識や技能)が,教室を離れた実生活の読書場面で活かされることをねらっています。
授業で学んだ〈読み〉を実生活の読書に主体的に活かしていくことを,本書では便宜的に「アクティブ・リーディング」と名付けます。
本書は,アクティブ・リーディングを身に付けるために以下の構成をとりました。
第1章 理論編
理論編では,〈自立した読者〉を育てるための筆者の基本的な考え方を述べました。これまでの国語の授業で隠れていた問題を前景化させています。また,これまでの国語の授業ですでに常識とされていることを再確認しています。
ここに述べたことがベストでありオンリーワンという提案ではありませんが,〈自立した読者〉を育てるための授業論の1つとして提示した意味はあると思っています。授業を構成する要因は様々あり,様々な方法論が可能であります。本書では,できるだけ明解かつシンプルに提示することを最優先しました。シンプルにした分,粗さがありますが,執筆の意図を汲み取っていただき,ご理解ください。
第2章 準備編
〈読み〉の授業で特に汎用性の広い〈読みの方略〉を10に絞って提示しました。西郷竹彦氏をはじめとして,多くの先人たちの提案や実践に敬意を表して先人たちの知見を引用しております。また同時に,これまでの研究者や実践家があまり言及してこなかった〈読みの方略〉にも光を当てています。
第3章・第4章 実践編
小学校と中学校の教材を8つ用意しました。
それぞれの教材を読み解く際の〈読みの方略〉を明記しました。また,その教材の〈構造〉や〈原理〉を明記しました。その教材の〈構造〉や〈原理〉に汎用性が高い場合,他の作品や映画,ドラマやアニメを読む時にも転移することを期待しています。
学習指導要領改訂のキィワードである「何を理解しているか,何ができるか」ということについては〈内化〉という用語を使っています。各教材で「どんな知識や技能を獲得させるのか」ということについては〈内化〉という項目でシンプルに示しています。
また,「理解していることをどう使うのか」については,〈外化〉という用語を使って説明しました。実生活への〈学習の転移〉をねらっています。
さて,この〈学習の転移〉について,国語科教育界でいち早く「思考方略」に注目していた井上尚美氏(2007:58)は,「『方法』をいくら教えてもダメだ」とする否定的な見解と「『方法』を教えることは有効である」とする肯定的な見解の両者を取り上げ,「転移をめぐる以上二つの考えのどちらに軍配を挙げるべきかは,現在の段階では決定できない。今後さらに実証的な研究が必要とされるところである」と指摘していました。
筆者は,「『方法』を教えることは有効である」という立場です。
筆者が,〈読みの方略〉の転移について学会で発表し,評価を受けたのは2009年の学術論文(全国大学国語教育学会編『国語科教育』第六十五集)でした。この論文で筆者は次のことを述べています。
「メタ認知への働き掛け」と「方略に対する有効性の認知」が〈読みの方略〉を転移させる条件である。
逆に述べますと,方略に対する有効性を実感していなければ,いくら方略を教えても転移しないということです。「方略を教えても意味がない」といった主張が根強く残っているのは,この方略に対する有用性を子どもたちに実感させていない授業が多かったからです。
ですので,〈学習の振り返り〉,つまり〈リフレクション〉が大事になるということです。〈リフレクション〉で,獲得した知識や技能の有用性を如何に実感させることができるか――それが〈学習の転移〉の鍵を握っているということです。
2009年に論文を発表してから今日まで筆者は,〈読みの方略〉の転移に関する論文を発信し続けています。今回の学習指導要領の改訂は,〈学習の転移〉という用語こそ使用していませんが,基本的なコンセプトは同じです。学習指導要領の改訂の方向性のキィワードは以下のとおりです。
「何を理解しているか,何ができるか」
「理解していること・できることをどう使うか」
本書ではこれを次のように言い換えて述べています。
「作品のどんな〈構造〉や〈原理〉を発見するとよいのか」(内化)
「どんな〈読みの方略〉を使うとよいのか」(内化)
「それらは,どんなふうに他の作品(映画やドラマ,漫画やアニメを含む)に転移できるのか」(外化)
本書は,筆者がこれまで主張してきた〈読みの方略〉の転移について,可能な限り現場の先生方が使い易いように編集しました。
実際に授業をしていただき,子どもの事実を基に本提案について,ご意見を頂戴できればと思います。
2017年7月 /佐藤 佐敏
国語科の授業に対する考え方が凄く深まります。
特に論理的に授業を組み立てて行きたいという人には、目からウロコの内容が沢山あります。
授業実践例も、自分がやることは無い教材まで読み込んでしまいました。
続編の2巻の方は電子化されており、
どちらも電子版で持っておきたいと感じました
ですので、こちらも電子化して欲しいです。
もっと読みたいです。
3巻も出して欲しいと思いました。
わかりやすく、納得させられる主張のように思った。
今後、現場で明日使えるというものや、今言われている見方考え方についてわかるものを期待したいです。
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