才能を伸ばす
自己実現に向かう子どもたち

才能を伸ばす自己実現に向かう子どもたち

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どの子供にも秘められている可能性を見い出し、開花させていく。

「才能伸長」と言うキー概念を手がかりに、子どもにしっかりと社会的な“泳力”をつけることのできる学校全体のシステム構築とその実践展開のあり様を追究した成果を世に問う。今進行中の学校教育改革を先取りした意欲的な提言が満載された刺激的な実践報告。


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ISBN:
4-18-265658-X
ジャンル:
授業全般
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 128頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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序 /児島 邦宏
まえがき
第1章 理論編 才能を伸ばす
1 21世紀をよりよく生きる人間とは
2 才能の伸長とは
3 才能の伸長を図るための学習者モデル
4 才能の伸長の3段階
(1) 才能の芽生え
(2) 才能の発揮
(3) 才能の伸長
5 才能を伸長するカリキュラム
6 教育課程
7 校時表
8 才能の伸長と教科学習の展開
9 才能を伸長する子どもたち
第2章 実践編 才能を伸長するカリキュラムの実践
§1 基礎・基本の確かな習得と才能の伸長を図る教科学習
実践1 国語科 第4学年「ことばの世界をひろげよう」
感覚・感性に働きかける学習活動を中心においた「才能の芽生え」を確かに位置付けることで,言語に対する鋭い感覚を身に付けるための授業実践
以下の教科学習,楷の木活動,ふれあい学習の実践事例も同様に構成している。
1 国語科の全体構想
(1) 国語科が求める子どもが才能を伸長した姿
(2) 国語科における才能の伸長を図るカリキュラム
2 才能の伸長を図る単元構想
3 才能の芽生え段階にスポットを当てた学習指導の実際
4 教師の支援により,個が才能を伸長していく姿
5 考察
実践2 社会科 第5学年「日本の米づくり」
才能の発揮段階において,社会事象を多面的に創造的に捉えていくために,思考を働かせて情報と情報をつなぐことを重要視した授業実践
実践3 算数科 第3学年「計算のじゅんじょ(1)」
乗法の結合法則を創っていくために,3要素2段階の問題場面の表現に重点を置いて支援を行った授業実践
実践4 理科 第3学年「電気となかよくなろう」
個々の電流のイメ一ジをもとに,回路ができればいつでも同じように電気が流れるのか検証する。豊かな電気エネルギ一観と自然認識力の鋭さを培うことに視点を置いた授業実践
実践5 生活科 第1学年「ぎゅるんぎゅるん めざせ! コマまわし名人」
認知的撹乱を促す素材を与えることで,課題をしっかり感受できるようにした授業実践
実践6 音楽科 第5学年「音色と心のつながり〜風鈴を音楽に重ねたら〜」
才能の発揮段階において,個性的・創造的追究のための支援を,音色を追究するための判断基準(音の追究過程における音楽的要素の分析表)の共有化においた授業実践
実践7 図画工作科 第1学年「きらきらテ一プのへんしん」
才能の芽生え段階において,豊かな感性を働かせるための支援を材料の提供や環境設定の工夫(おちょっかい)に置いた授業実践
実践8 家庭科 第6学年「命を育てよう Part.1」
「才能の発揮」を促すために,個性的・創造的追究を行い,自己表現する場を設定することで,よりよい生活を送ろうとする子どもを育てる授業実践
実践9 体育科 第6学年「全附SIROオ一プン 〜ひらこう心と体『協創ゴルフ』〜」
才能の芽生え段階において,心と体のほぐしを行うために,仲間や自然,ものとのかかわりに重点を置いた教材化の工夫から迫った授業実践
§2 自己の才能に気付き,最大限に生かし伸ばす楷の木活動
実践1 低学年 動きコ一ス「ブ一メランをつくってあそぼう!」
子どもたちの自己実現をより確かにするために,自己評価の視点を感じる力(心),表す力(体),考える力(頭),かかわる力(人),こだわる力(もの)に置いた楷の木活動の実践
実践2 中学年 第3学年サイエンスコ一ス「みぢかなしぜんクイズをつくろう」
対象を絞り込んだコ一ス設定の中で,子どもが課題づくりを行い,その解決方法を意識できる授業づくりにより,才能の発揮を促す中学年楷の木活動の実践
§3 社会性の育成を目指すふれあい学習
実践1 縦割りグル一プでの学習
「わんぱくグル一プ『つ組』の出発だ!」
縦割りグル一プでの共通体験をもとに,縦割りグル一プで道徳性の育成を図り,ふれあい学習における「才能の芽生え」を促すための授業実践
実践2 学級集団でのふれあい学習
第5学年「相手と『思い合える』自分になりたい」
社会的感性を働かせて相手の内面をイメ一ジし,互いに受容し合いながら主体的に他者とかかわっていく,才能の発揮段階にウエイトを置いた実践
参考文献
あとがき
研究同人

 2人とて無いように,一人ひとりの子どもを個性的な存在としてお造りになった造物主の苦労は,いかほどのものであったろうかと思う。それだけに,「かけがえのない存在」としての一人ひとりの子どもの姿がそこにある。こうして造物主の手を離れ,個性的でかけがえのない存在として誕生した一人ひとりの子どもたちを,どう育てはぐくんでいくかは,親の役割であり,学校の仕事でもある。なかんずく,私たち教師の手にある。

 このそれぞれの子どもの個性を,社会的に意味あるものに高め,子ども自ら自分を誇らしく思い,自覚し,その上に立ってさらに,より豊かな社会の実現を目ざし,よりよき自己の向上に努めるとき,それは個性の開花であり,それをもって「才能」というべきかもしれない。

 この個性を躍動させ,才能へとはぐくんでいく過程をどうえがき(プログラム化),どうはぐくんでいくか(指導法)。この難問に果敢に取り組んだのが,この3年間に及ぶ本校の実践である。もちろん,突然に始まった3年間の研究ではなく,それ以前の「楷の木活動」や「しらうめ学習」等々の,長い積み上げの上に,取り組まれたことは申すまでもない。

 したがって,本校の「才能教育」は,社会経済的にいかに有用な人材を選りすぐり,特別の教育を用意するかという「英才教育」とは,截然と区別されるものである。まして,人はみな個性を持って生まれてくると,子どもに好きなことをやらせておけばいいといった個性教育にあぐらをかいた態度とも異なっている。さらに,子どもの個性を削ぎ落とし,形式的な上辺だけの平等を追い求める画一主義の教育とも,もちろん異なっている。

 どの子どもも,個性として秘めている可能性を見出し,伸ばし,みがきをかけ,その子らしさとして最大限に発現させ,自らも可能性としての自己の実現に意欲的に取り組み,才能として可能性を開花させていくところに,本校の求めてきた「才能教育」がある。「そんなことは,学校教育として当たり前のことではないか」と言われれば,その通り,当たり前のことかもしれない。その当然とも言える学校の使命に,真正面から取り組んだわけである。

 個性にみがきをかけ,才能へと高め,開花させていくためには,大きく二つの研磨剤が必要である。一つは,「創造性」という研磨剤である。つまり,それぞれの子どもの個性を,創造性によってみがきをかけ,可能なかぎり伸ばしていくという側面である。個性を所与のものとして固定的にとらえ,個に応じて指導するのではなく,個性を創造的に揺り動かし,伸ばし,開花させていく力動的な捉え方がそこにある。基礎・基本の構築をめざし,自ら学ぶ力の育成を求めた教科学習は,その中核を占めるものである。

 もう一つの研磨剤は,「共生」(共に生きる力)である。「人は,人によってしか人になれない。」最も硬い石であるダイヤモンドの研磨剤は,ダイヤモンドである。それと同じように万物の霊長たる人間は,人間によってしかみがきをかけることはできず,人間によってみがきをかけられてはじめて,人として成長することができる。人は1人では成長できないし,生きてはいけない。具体的に,その研磨剤としての役割を果たすのは,教師であり,親であり,地域の人であり,なかんずく「友だち」である。

 本校が,一人ひとりの子どもの才能の伸長を図る上で,なぜ「ふれあい学習」を重視したのか,その理由がここにある。「教科学習」では,才能の伸長の片面に終わるとみたからである。友だちどうしで知恵を出し合い,言い争い,助け合い,高め合う中で,相互に学び合いが生まれ,個性はみがかれ,才能が触発され,開花していく。このことはまた,教科学習へと持ち込まれ,教科学習を活性化し,その意義を高めていく。つまり,「ふれあい学習」が,その意味で,才能教育のもう一つの面と見立て,「教科学習」と「ふれあい学習」の両輪が相まって,一人ひとりの才能は開花していくとみたわけである。

 さらに,「教科学習」と「ふれあい学習」が相まって,「学習」と「生活」とが相乗作用を発揮し,学校教育の到達点を示す学習として「楷の木活動」が位置づけられている。外に対しては,「社会的自己」の確立を目ざすとともに,内には,自分に誇りを持ち(自尊感情),自分をみるもう一つの眼を持って(メタ認知)自己実現を図るところに,最終目標を置き,ここに至ってはじめて,生涯にわたって自己を高め,学び続ける力を身につけることができるとしているわけである。つまり,才能とは,外からの働きかけを必要とするものであるが,行きつくところ,自ら自己の力の向上を目ざすところに開花していくものといえる。

 このように,本校の実践は,学校教育活動全体を,才能教育という視点から再編し,学校の活性化をもたらしたスケールの大きい研究である。このようなスケールの大きい,しかも子ども一人ひとりへの厳しいまなざしからなる実践の積み上げに,直接的に関わり,また私自身が悩み,深く考え込み,学ぶ機会を与えていただき,心より感謝するとともに,まことに幸運であったと感じている。

 といって,本校の実践がこれで終わり,完結を迎えたわけでは決してない。研究実践それ自体がまた,果てしなき「自校実現」の過程にある。この実践を踏み台に,さらなる飛躍が展開されるものと期待している。


  平成16年10月   東京学芸大学教授 /児島 邦宏

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