- はじめに
- 1章 100万人が受けたい! 探究と対話を生む中学地理授業デザイン
- 探究と対話による地理学習
- @ はじめに
- A 暗記地理学習はやめよう 〜三大洋の授業〜
- B 暗記社会科から見方・考え方へ 〜高松市でうどん消費量が多いワケ〜
- C マイナスをプラスに変える 〜みかん栽培〜
- D 地理授業のつくり方 〜オセアニアを事例に〜
- 2章 100万人が受けたい! 探究と対話を生む中学地理授業モデル
- 地球儀と世界地図 アメリカがグリーンランドを買収?
- 領土 日本の領土が広がったのはアホウドリのおかげ?
- 時差 なぜアメリカにあるのに中国にはないの?
- 世界の河川 世界一長い河川
- 世界の海流 暖流と寒流の役割
- 世界の気候 なぜこんな気候になるの?
- 世界の人口 80億人の未来
- 世界の宗教 なぜ,そこにそんな宗教が分布したの?
- アジア アジアの国々を切り口に世界の課題を考える
- アフリカ アフリカにペンギン?
- アフリカ 六本木のアフリカローズ
- EU EU統合あれやこれや!
- ロシア ロシアのウクライナ侵攻を小麦から考える
- 北アメリカ なぜヒスパニックがここに住んでいるの?
- 日本の農業 日本とブラジルの大豆生産
- 九州地方 沖縄で製造業が発展しなかったワケ
- 九州地方 土壌と熊本のトマト
- 九州地方 水俣病と「甘夏みかん」
- 中国・四国地方 過疎地域と官民の地域おこし
- 近畿地方 どうしてコリアンタウンは形成されたか?
- 近畿地方 奈良の伝統産業
- 近畿地方 琵琶湖を深める
- 中部地方 自動車工業の立地条件を考える
- 関東地方 なぜ東京一極集中になるの?
- 北海道地方 ニセコ町の人口が増え,釧路市が減るのはなぜ?
- おわりに
はじめに
新聞(『朝日新聞』2022年12月21日)に踊る「広島のソウルフード 中東と平和の架け橋」「原爆の日に式典参列 望みは同じ」の題字。“子どもたちに伝えたい”と気持ちが高揚した。
広島風お好み焼きの歴史を通して,戦後混乱期の広島の人々の思いとたくましさを知り,お好み焼きが,ヨルダンに広がっている事実から,ソウルフードが中東との平和の架け橋になったことを考える授業ができる。
広島風お好み焼きのお店は,「みっちゃん」「れいちゃん」「いっちゃん」など,人の名前をもじった店舗名が多い。なぜだろう? ヒントを与える。広島風お好み焼きは原爆を投下された混乱期から始まっている。原爆で亡くなった子どもの名前? あまりにも悲しい。太平洋戦争や原爆により未亡人となった女性たちが生きていくために,自宅を改装して店を始めたケースが多いのがその理由のひとつ。また,離ればなれになった家族に,居場所をわかりやすくする意味もあったという説もある。いずれにしろ,戦時下・戦後でもたくましく生きてきた女性の姿が,お好み焼きの店舗名に体現されている。「店舗名に“そんな深い思い”があるとは!」と,一気に授業に向き合う子どもたちの姿が想像できる。
歴史を紐解いてみよう。広島風お好み焼きの原点は,大正時代に大阪で誕生した「一銭焼き」だと言われている。水で溶いた小麦粉を薄く伸ばして焼き,その上にネギや粉がつおなどをのせ,駄菓子屋で販売されていた。広島風お好み焼きは,いろいろなトッピングをのせ「一銭洋食」を加工することで進化する。地理的条件や被爆後の混乱期から,この進化を紐解く。アメリカ占領下,食糧対策として小麦が供給されたことが大きい要因だ。海に面していたので,カキやエビなど海産物をトッピングした。価格の高かったネギの代わりに,安くてボリュームのあるキャベツをのせた。また,戦後混乱期は,空腹の人が多く,腹持ちをよくするために焼きそばを加えた。「知る」ことから広島風お好み焼きの「具」「ソバ」をいっそう味わえるだけでなく,愛おしくなる。
広島風お好み焼きと「ヨルダン」との関係だ。2022年8月6日,「いっちゃん」の店を訪れたのは,広島平和式典に参列していたヨルダン駐日大使,リーナ・アンナーブだ。海鮮の入ったお好み焼きを食べると,「ヨルダンにいらっしゃいませんか?」と声をかけた。ヨルダンは中東にあり人口の9割以上がイスラム教徒である。店主は,豚ではなく鶏などを入れた,そばではなくパスタを上にのせるハラールお好み焼きを開発した。新聞によると,首都アンマンのショッピングモールの一角に臨時のお好み焼き屋をオープンすると,数時間で450人分が売れたそうだ。広島風お好み焼きは,現地の文化や好みに合わせて広がっている。「ヒロシマ」の思いをのせて……。
店主は,広島の戦後復興はお好み焼きとの関係を語り,お好み焼きには「秘めた力」があるとする。何だろう? 子どもに考えさせたい。
ヨルダン大使は,ヨルダン近隣の中東戦争に心を痛める。ヨルダンには200万人以上のパレスチナ難民が暮らす。また,シリア内戦では,60万人以上のシリア難民も受け入れた。「私たちは広島の人たちと同じことを望んでいる」と。「広島の人たちと同じこと」とは何か? 考えさせたい!
「探究・対話」型授業のイメージが可視化されている。「みっちゃん」から始まった「広島お好み焼き」授業は,被爆後の社会を背景に,多様な視点から,中東における「排除」と「包摂」の課題へとつながる。
この授業紹介後,学生からステキなコメントがあった。
「お好み焼きをひっくり返すのは“戦争”から“平和”へと転換すること!」
子どもたちが「意欲的」に学び,「学力差」のない「深い」感動を呼ぶ,そんな授業を目指したい。
2023年8月 /河原 和之
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- 明治図書
- よい2024/4/830代・中学校教員
- 授業で使えるネタが多く、すぐに活用できました。2024/2/830代・中学校教員
- 地理の授業で思わず話したくなったり、扱ってみたくなる内容が多くて、参考になった。2023/12/1130代・中学校教員