- はじめに
- 1章 100万人が受けたい! 探究と対話を生む中学歴史授業デザイン
- 探究と対話による歴史学習
- @ はじめに
- A 暗記歴史学習はやめよう 〜レーニンの授業〜
- B 文化学習にも脈絡を! 〜かな文字と活版印刷〜
- C 「探究」が陥る2つの罠 〜鎌倉幕府の滅亡〜
- D 「探究」「対話」型授業 〜アメリカ来航への危機管理〜
- E おわりに
- 2章 100万人が受けたい! 探究と対話を生む中学歴史授業モデル
- 石器時代 気候変動に対応した人類の祖先
- 秦 貨幣・文字の統一
- ギリシャ文明 エピソードから考える古代ギリシャ
- 弥生時代 いつからおにぎりを食べてたの?
- 平城京 平城京遷都の謎を解く
- 院政 摂関政治から院政へ
- 平安末期 馬と金が欲しかった頼朝
- 鎌倉仏教 寺院数から考える鎌倉仏教
- 南北朝 「悪党」と後醍醐天皇
- 中世の職業 中世の職人が果たした役割
- 大名配置 なぜ親藩がそこに置かれたのか?
- 中世から近世 幕府の変遷から時代を大観する
- 産業革命 なぜイタリアで産業革命が起こらなかったか?
- 徴兵令 徴兵令はなぜ制定されたのか?
- お雇い外国人 「治水の恩人」デ・レーケ
- 部落差別 なぜ被差別部落は貧しくなったのか?
- 日清戦争 勝海舟は日清戦争に反対だったの?
- 第一次世界大戦 二十一ヵ条要求のねらいは?
- スペインかぜ 第一次世界大戦とスペインかぜ
- 野口英世 ガーナのNOGUCHI
- 日中戦争 日中戦争が長引いたワケ
- リットン調査団 リットン調査団の提案を受け入れるべきだったか?
- 特攻 なぜ「命」をかけて「特攻」を行ったのだろう
- 戦後 プラザ合意と日本経済
- 歴史のまとめ 歴史上の人物から最強の内閣をつくろう
- おわりに
はじめに
新聞(『朝日新聞』2022年12月21日)に踊る「広島のソウルフード 中東と平和の架け橋」「原爆の日に式典参列 望みは同じ」の題字。“子どもたちに伝えたい”と気持ちが高揚した。
広島風お好み焼きの歴史を通して,戦後混乱期の広島の人々の思いとたくましさを知り,お好み焼きが,ヨルダンに広がっている事実から,ソウルフードが中東との平和の架け橋になったことを考える授業ができる。
広島風お好み焼きのお店は,「みっちゃん」「れいちゃん」「いっちゃん」など,人の名前をもじった店舗名が多い。なぜだろう? ヒントを与える。広島風お好み焼きは原爆を投下された混乱期から始まっている。原爆で亡くなった子どもの名前? あまりにも悲しい。太平洋戦争や原爆により未亡人となった女性たちが生きていくために,自宅を改装して店を始めたケースが多いのがその理由のひとつ。また,離ればなれになった家族に,居場所をわかりやすくする意味もあったという説もある。いずれにしろ,戦時下・戦後でもたくましく生きてきた女性の姿が,お好み焼きの店舗名に体現されている。「店舗名に“そんな深い思い”があるとは!」と,一気に授業に向き合う子どもたちの姿が想像できる。
歴史を紐解いてみよう。広島風お好み焼きの原点は,大正時代に大阪で誕生した「一銭焼き」だと言われている。水で溶いた小麦粉を薄く伸ばして焼き,その上にネギや粉がつおなどをのせ,駄菓子屋で販売されていた。広島風お好み焼きは,いろいろなトッピングをのせ「一銭洋食」を加工することで進化する。地理的条件や被爆後の混乱期から,この進化を紐解く。アメリカ占領下,食糧対策として小麦が供給されたことが大きい要因だ。海に面していたので,カキやエビなど海産物をトッピングした。価格の高かったネギの代わりに,安くてボリュームのあるキャベツをのせた。また,戦後混乱期は,空腹の人が多く,腹持ちをよくするために焼きそばを加えた。「知る」ことから広島お好み焼きの「具」「ソバ」をいっそう味わえるだけでなく,愛おしくなる。
広島風お好み焼きと「ヨルダン」との関係だ。2022年8月6日,「いっちゃん」の店を訪れたのは,広島平和式典に参列していたヨルダン駐日大使,リーナ・アンナーブだ。海鮮の入ったお好み焼きを食べると,「ヨルダンにいらっしゃいませんか?」と声をかけた。ヨルダンは中東にあり人口の9割以上がイスラム教徒である。店主は,豚ではなく鶏などを入れた,そばではなくパスタを上にのせるハラールお好み焼きを開発した。新聞によると,首都アンマンのショッピングモールの一角に臨時のお好み焼き屋をオープンすると,数時間で450人分が売れたそうだ。広島風お好み焼きは,現地の文化や好みに合わせて広がっている。「ヒロシマ」の思いをのせて……。
店主は,広島の戦後復興はお好み焼きとの関係を語り,お好み焼きには「秘めた力」があるとする。何だろう? 子どもに考えさせたい。
ヨルダン大使は,ヨルダン近隣の中東戦争に心を痛める。ヨルダンには200万人以上のパレスチナ難民が暮らす。また,シリア内戦では,60万人以上のシリア難民も受け入れた。「私たちは広島の人たちと同じことを望んでいる」と。「広島の人たちと同じこと」とは何か? 考えさせたい!
「探究・対話」型授業のイメージが可視化されている。「みっちゃん」から始まった「広島お好み焼き」授業は,被爆後の社会を背景に,多様な視点から,中東における「排除」と「包摂」の課題へとつながる。
この授業紹介後,学生からステキなコメントがあった。
「お好み焼きをひっくり返すのは“戦争”から“平和”へと転換すること!」
子どもたちが「意欲的」に学び,「学力差」のない「深い」感動を呼ぶ,そんな授業を目指したい。
2023年8月 /河原 和之
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- 明治図書
- 継続してお願いします2024/4/2230代・中学校教員
- 歴史の授業のネタや導入などを考える上で参考になった。2023/11/830代・中学校教員
- このシリーズを楽しみにしています。授業のネタとしてとても役にたっています。いつもありがとうございます。2023/8/23中学校教員