- はじめに
- 1章 100万人が受けたい! 探究と対話を生む中学公民授業デザイン
- 探究と対話による公民学習
- @ はじめに
- A みえるモノからみえないモノへ 〜100円均一ショップ〜
- B 地球も自分も優しくなれる 〜ブラックサンダー〜
- C ウォームな感性とクールな知性 〜スマホ越し「育児」〜
- D おわりに
- 2章 100万人が受けたい! 探究と対話を生む中学公民授業モデル
- 情報化 AIで社会が変わる
- 少子高齢社会 70歳死亡法案が成立したら
- 効率と公正 テーマパーク,シングルライダー
- 多数決 多数決とニンビー問題
- 日本国憲法の成立 1行のルールで日本女性の未来を変えたゴードンさん
- 人権 少数者が社会を変える
- ジェンダー平等 “男らしさ”を解消するジェンダー平等
- 新しい人権 隣に高層マンションが建てられたら?
- 公共の福祉 子どもの声は騒音なのか?
- 差別されない権利 幸福の条件と部落差別
- 国会 くじ引きで参議院議員を選出すれば
- 裁判所 「命の価値」裁判
- 防災・減災 日本の減災
- 交換 “交換”ってなかなかステキ
- 価格 マスクが韓国料理店で販売されていたワケ
- インフレとデフレ どうして値上がりするの?
- 公共財 なぜ映画館を国がつくらないのか?
- 最低賃金 最低賃金は高い方がいいの?
- 社会保障 他人事ではない貧困
- CSR サバ缶,インスタント麺から考えるCSR
- 行動経済学 防災・コロナ対策とナッジ
- 国家と国際社会 台湾は国なの?
- 国際援助 “義侠心”会社のすごい取り組み
- 核廃絶 「終末時計」と「核共有」から核兵器について考える
- おわりに
はじめに
新聞(『朝日新聞』2022年12月21日)に踊る「広島のソウルフード 中東と平和の架け橋」「原爆の日に式典参列 望みは同じ」の題字。“子どもたちに伝えたい”と気持ちが高揚した。
広島風お好み焼きの歴史を通して,戦後混乱期の広島の人々の思いとたくましさを知り,お好み焼きが,ヨルダンに広がっている事実から,ソウルフードが中東との平和の架け橋になったことを考える授業ができる。
広島風お好み焼きのお店は,「みっちゃん」「れいちゃん」「いっちゃん」など,人の名前をもじった店舗名が多い。なぜだろう? ヒントを与える。広島風お好み焼きは原爆を投下された混乱期から始まっている。原爆で亡くなった子どもの名前? あまりにも悲しい。太平洋戦争や原爆により未亡人となった女性たちが生きていくために,自宅を改装して店を始めたケースが多いのがその理由のひとつ。また,離ればなれになった家族に,居場所をわかりやすくする意味もあったという説もある。いずれにしろ,戦時下・戦後でもたくましく生きてきた女性の姿が,お好み焼きの店舗名に体現されている。「店舗名に“そんな深い思い”があるとは!」と,一気に授業に向き合う子どもたちの姿が想像できる。
歴史を紐解いてみよう。広島風お好み焼きの原点は,大正時代に大阪で誕生した「一銭焼き」だと言われている。水で溶いた小麦粉を薄く伸ばして焼き,その上にネギや粉がつおなどをのせ,駄菓子屋で販売されていた。広島風お好み焼きは,いろいろなトッピングをのせ「一銭洋食」を加工することで進化する。地理的条件や被爆後の混乱期から,この進化を紐解く。アメリカ占領下,食糧対策として小麦が供給されたことが大きい要因だ。海に面していたので,カキやエビなど海産物をトッピングした。価格の高かったネギの代わりに,安くてボリュームのあるキャベツをのせた。また,戦後混乱期は,空腹の人が多く,腹持ちをよくするために焼きそばを加えた。「知る」ことから広島風お好み焼きの「具」「ソバ」をいっそう味わえるだけでなく,愛おしくなる。
広島風お好み焼きと「ヨルダン」との関係だ。2022年8月6日,「いっちゃん」の店を訪れたのは,広島平和式典に参列していたヨルダン駐日大使,リーナ・アンナーブだ。海鮮の入ったお好み焼きを食べると,「ヨルダンにいらっしゃいませんか?」と声をかけた。ヨルダンは中東にあり人口の9割以上がイスラム教徒である。店主は,豚ではなく鶏などを入れた,そばではなくパスタを上にのせるハラールお好み焼きを開発した。新聞によると,首都アンマンのショッピングモールの一角に臨時のお好み焼き屋をオープンすると,数時間で450人分が売れたそうだ。広島風お好み焼きは,現地の文化や好みに合わせて広がっている。「ヒロシマ」の思いをのせて……。
店主は,広島の戦後復興はお好み焼きとの関係を語り,お好み焼きには「秘めた力」があるとする。何だろう? 子どもに考えさせたい。
ヨルダン大使は,ヨルダン近隣の中東戦争に心を痛める。ヨルダンには200万人以上のパレスチナ難民が暮らす。また,シリア内戦では,60万人以上のシリア難民も受け入れた。「私たちは広島の人たちと同じことを望んでいる」と。「広島の人たちと同じこと」とは何か? 考えさせたい!
「探究・対話」型授業のイメージが可視化されている。「みっちゃん」から始まった「広島お好み焼き」授業は,被爆後の社会を背景に,多様な視点から,中東における「排除」と「包摂」の課題へとつながる。
この授業紹介後,学生からステキなコメントがあった。
「お好み焼きをひっくり返すのは“戦争”から“平和”へと転換すること!」
子どもたちが「意欲的」に学び,「学力差」のない「深い」感動を呼ぶ,そんな授業を目指したい。
2023年8月 /河原 和之
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- 明治図書
- ネタが満載でした2024/6/3030代・中学校教員
- 授業で思わず扱いたくなるようなネタがたくさん紹介されていて、参考になった。2023/9/1330代・中学校教員