- 巻頭言
- はじめに
- T 理論編 「集団力」は子どもを変える
- 第1章 「集団力」を生かす子ども
- 第2章 「集団力」を生かす授業をつくる
- U 実践編 教科・道徳・「しおさい」
- 国語科
- 対話的集団で「自分の言葉」を育む
- 3年 「こだわりのぐん読カセット・ブック」を作ろう 〜「かぼちゃのつるが」,「りん りりん」,「かたつむり」〜
- 5年 「聞き得メモ」でとっておきの話を作ろう
- 5年 物語と説明文は,どちらがおもしろい?
- 6年 フリーマーケット企画会議を開こう 〜ものごとの長所・短所〜
- 社会科
- 「モデルミーティング」で,自らの社会的な見方や考え方を広げる
- 3年 つたえよう! みんなの「室積ライフ」 〜わたしのまち みんなのまち〜
- 6年 家光の野望 〜家光ワールドへようこそ!?〜
- ◇実践を読んで
- 国語科
- 社会科
- 算数科
- 自己の数理を広げる,「創造的破壊」
- 1年 長さくらべの道具をつくろう 〜長さ〜
- 2年 「お魚シルエットクイズ」を楽しもう 〜かたちづくり〜
- 2年 「ナンバーゲーム」をしよう 〜大きい数(2)〜
- 5年 「かさの大きな箱見つけクイズ」をしよう 〜体積〜
- 理科
- 「なぞとき交流活動」を通して, 科学する楽しさを味わう
- 3年 探る むしむしそうさ線 〜こん虫を調べよう〜
- 4年 ふしぎがいっぱい 水のへんしん 〜水と水じょう気〜
- 4年 ぼく,わたしの「サーモショー」 〜ものの温まり方(金属の温まり方)〜
- 5年 水溶液ビフォーアフター研究室 〜ものの溶け方〜
- ◇実践を読んで
- 算数科
- 理科
- 生活科
- 魅力の連続性が,子ども生活文化をつくる
- 1年 たのしい かぞく
- 2年 みんなで広げる遊びの輪 〜みんなで遊びをつくって楽しもう〜
- 音楽科
- 仲間からの「音のメッセージ」を自分らしさのある表現につなげる
- 5年 「室積の音風景」を表現しよう
- 6年 異なる拍子の曲を 〜「音楽の森」メドレー〜
- ◇実践を読んで
- 生活科
- 音楽科
- 図画工作科
- 自ら新たな表し方を獲得していく,「気づき合い鑑賞」
- 2年 紙封筒で,あんなことやこんなこと 〜いれたり,きったり,つないだり…〜
- 3年 光は,おもしろいね 〜光を包んだり,囲んだり…〜
- 4年 「みんなの造形コンテンツから」 〜「4の2素材集」を使って〜
- 6年 縄文,岡本太郎,…そして,わたし 〜美術館での作品鑑賞を表現に生かす〜
- 家庭科
- よりよい暮らし方を志向する「試し合い」
- 5年 我が家の冬のあったか省エネライフ! 〜環境に配慮した住まい方の工夫〜
- 6年 師走エコクリーン作戦 〜人や環境にやさしい掃除の仕方の工夫〜
- ◇実践を読んで
- 図画工作科
- 家庭科
- 体育科
- 「動きのよさ」を見抜き合い,運動の楽しみ方を広げる
- 2年 おたからゲットだ!ダッシュ組 〜得点型折り返し走遊びをつくろう!〜
- 4年 こだわり!ジャンプ王 〜幅・高跳び複合型〜
- 道徳
- 「心の変容を綴り合う活動」を通して, 肯定的自己像をつくる
- 4年 本当の友だちって何? 〜「言葉の宝箱」に残した私の思い〜
- 6年 私にもある あたたかい心 〜語り合いグループでの体験の紹介〜
- ◇実践を読んで
- 体育科
- 道徳
- 「しおさい」(総合)
- 自分を物語り,生き方を高めていく「事件」
- 3年 わたしにもできるちょこっとボランティア 〜わたしたち室積ちょこボラ隊〜
- 4年 この水何の水!?気になる水 〜あなたにとって,水はどんなもの?〜
- ◇実践を読んで
- 「しおさい」(総合)
- 座談会 「集団力」で,教師も変わる
- 本校研究の歩み
- おわりに
巻頭言
山口大学長 /加藤 紘
子供達は未来を生きなければならない。激しく変容する未来社会を生きるには,環境を知り自らを変える勇気とエネルギーが必要となろう。誰しも自分の殻を破り新しい世界を受け入れるのは容易でないが,未知の世界を知った時の幸福感には何ものにも代え難い喜びもあり,知らない世界への好奇心と異なる存在への許容力を育てたい。
山口大学教育学部附属光小学校では,この度の第12期研究として,「学び合う個を確立するための集団力を活かす授業づくり」に取り組んだ。物語作り,数理作り,あるいは言葉の宝箱作りなどの作業を通じて,子供達は“仲間からの影響力を集団力として活かして,自分の考え方や行為を変える”ことを学んだ。優れた企画ときめ細かな指導で子供達は貴重な体験を得たと確信している。
誰しも自分の生き甲斐を探し自分の世界を守りたいが,一方では社会的にも認めてほしいと願うのも現実であり,利己的な個人主義と社会の接点に悩むが,少なくとも互いに歩み寄り信頼を育てなければ接点は生まれない。個人と社会の接点について,山口には独特の風土があった。池上栄子氏は著書『名誉と順応』の中で,サムライ精神を“社会的責任を真剣に受け止めて,しかしそれに従うかどうかの判断は自分自身であるとの自覚を持って,それぞれの責任を果たすこと”と定義して,それを「名誉的個人主義」と呼んだ。その代表例として池上氏は吉田松陰の名を挙げているが,山口には維新前夜に使命感に燃えて未知の世界に挑戦した若者達がいた。彼らはペリー艦隊の近代装備やアヘン戦争後の中国の惨状から日本の将来を憂い,社会の目標に合わせた自分の生き甲斐を実行に移した。吉田松陰は密航しようと試みて敢えて処刑されるが,その行動に影響された若者達は実際に英国に渡り,政治経済の仕組みや工業技術を学んで日本の西洋化を推進した。彼らも興味本位で行動したのではない。その中の一人である伊藤博文は,武士の誇りである髷を切り刀を棄ててまで異国に渡る惨めな気持ちを,「ますらおのはじをしのんでゆくたびは すめらみくにのためこそとしれ」と詠んでいる。集団のための自己犠牲を強いる訳ではないが,個人と社会の一つの関わり方としての憧れはある。
今や世界中が教育の在り方に悩んでいる。国家から個人まであらゆる階層で生じている価値観の軋みに対して,自分と異なる存在を認め,自分を変えることにも躊躇しないかつての強い精神は如何にして醸成されるのかを知りたい。少なくとも弟子に影響力を及ぼすために敢えて命を投げ出して見せた松陰ほどの情熱が我々に有るのかと問われている様に感じる。
国立大学も法人化を迎えて特に経営面が注目されているが,大学の最大の使命は教育である。教育が単なる知識や技能の伝授でないことは論を俟たないが,人間としての誇りや生きる力を育てるには,初等中等教育から家庭環境,社会環境など幅広い立場から議論が必要であり,改めて地域の中で果たすべき国立大学の役割を考える。光小学校における研究の素晴らしい成果に敬意を表しつつ,今後の新たな展開に期待している。
平成16年5月
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- 明治図書