- はじめに
- 第1章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校英語の授業づくり
- 1 アクティブ・ラーニングとは何か
- 2 アクティブ・ラーニングの元々の考え方
- 3 高校にアクティブ・ラーニングが取り入れられた理由
- 4 英語におけるアクティブ・ラーニングの考え方
- 5 アクティブ・ラーニングの落とし穴
- 6 高校英語におけるアクティブ・ラーニングの位置づけ
- 7 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校英語の授業
- 8 本書におけるアクティブ・ラーニングのとらえ
- 第2章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校英語の授業プラン
- 基礎編・リーディングを中心にした授業
- (1年/Let's See the world ―世界を見にでかけよう―)
- 基礎編・リスニングを中心にした授業
- (1年/The Ninth Symphony in December ―「第九」交響曲と日本人―)
- 発展編・リスニングを中心にした授業
- (1年/Christian the Lion ―ライオンのクリスチャン―)
- 発展編・リーディングを中心にした授業
- (1年/Bopsy ―ボプシー―)
- 基礎編・ライティングを中心にした授業
- (2年/Ambassador of World Peace ―サクラの花は平和の親善大使―)
- 基礎編・複数技能統合のやり取りを中心にした授業
- (2年/The Only Japanese on the Titanic ―タイタニック号に乗船していた唯一の日本人―)
- 発展編・ライティングを中心にした授業
- (2年/Stay Hungry, Stay Foolish ―貪欲であれ,愚かであれ―)
- 発展編・スピーキングのやり取りを中心にした授業
- (2年/Life in a Jar ―瓶の中の命―)
- 基礎編・ライティングの発表を中心にした授業
- (3年/The Secret Annexe ―アンネの日記と隠れ家―)
- 基礎編・複数技能統合の授業
- (3年/Ancient Rome ―文化的に豊かな生活を送るローマ人―)
- 発展編・スピーキングの発表を中心にした授業
- (3年/Praying Hands ―祈りの手―)
- 発展編・複数技能統合の授業
- (3年/How Can We Save Disappearing Languages? ―消滅する言語をどうすれば守れるか―)
- 第3章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校英語の授業の評価
- 1 新しい評価の在り方
- 2 アクティブ・ラーニングを位置づけた授業の評価
はじめに
平成28年12月21日に,中央教育審議会から「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(答申)が出された。その中にあって,特に目を引くのは,従来の指導の在り方を根本的に覆す「アクティブ・ラーニング」の考え方である。今まで,指導の在り方といえば教師個々の考えに立って,授業が行われてきており,国としても特段指導の在り方にまで口を出すことはなかった。しかし,今回,国として,指導の在り方にまで踏み込んできた形となっている。
これは,高校の英語授業を見るとよく分かる。50分の授業を全て日本語で進め,黒板を使っての文法説明,音読練習,そして日本語による訳読と,昭和の時代の教師主導型授業がまだまだ全国で見受けられる。結果,この授業を受けた生徒の学力はそれほど向上していないことが分かっている。そこで,国が指導の在り方にまで,口を出すことになったのである。
とりわけ,今回の中央教育審議会の答申では,「アクティブ・ラーニング」の言葉は,「主体的・対話的で深い学び」の表現に変わり,さまざまな視点から指導の在り方について述べられている。中でも,これからの授業の目的が,以下の文章に示されており,これは,全ての教科や領域の指導の考え方にも共通する。
○ これが「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善であるが,形式的に対話型を取り入れた授業や特定の指導の型を目指した技術の改善にとどまるものではなく,子供たちそれぞれの興味や関心を基に,一人一人の個性に応じた多様で質の高い学びを引き出すことを意図するものであり,さらに,それを通してどのような資質・能力を育むかという観点から,学習の在り方そのものの問い直しを目指すものである。
また,英語教育においては,特に以下の文章が目を引く。
○ 外国語の学習においては,語彙や文法等の個別の知識がどれだけ身に付いたかに主眼が置かれるのではなく,児童生徒の学びの過程全体を通じて,知識・技能が,実際のコミュニケーションにおいて活用され,思考・判断・表現することを繰り返すことを通じて獲得され,学習内容の理解が深まるなど,資質・能力が相互に関係し合いながら育成されることが必要である。
とある。つまり,今まで指導されてきた英語教育では,子供たちに真のコミュニケーション能力を育成することができなかった面もあるという反省に立っていることが分かる。確かにそうである。知識偏重型の授業だけが大学入試の問題に対応でき,塾や予備校では,文法,語彙,訳読といった問題に対応した訓練鍛錬ばかりがなされ,入試に合格するためだけの英語教育が行われてきたのである。その結果,「聞き取れない」「話せない」など,日本人の多くが生涯に渡って利用価値の高いコミュニケーション能力など身に付かずに社会に出て,英語で苦しんでいるという現実がある。その責任は社会や国にある。それを変えようということである。至極当然のことである。
そこで,折しもアクティブ・ラーニングの考え方が高校の指導法にも取り入れられることになったわけである。授業の主役を教師から生徒に,そして,知識偏重型の授業から,生徒が自ら考え,自ら積極的に自分の考えや意見を伝えられるような,生徒中心の授業へと大きな舵をきったのである。ただし,教師は,その指導の在り方を鵜呑みにして表面的な授業を行うのか,それとも,それらの考え方や事例を受け止めながら,目の前の生徒たちに合わせて,新しい自分自身の授業を創り上げていくのか,考えなければならない。これは,よく「教科書を教えるのか,教科書で教えるのか」に似ている。もし,「教科書を教える」側に立って,右のものを左に移し替えるような単純な授業を施すのであれば,生徒には永遠に英語を通した生きる力など身に付けさせることはできない。
一方,「教科書で教える」側に立って,教科書をアレンジして,目の前にいる生徒たちの状況を考えながら,自分自身の授業を創り上げることができるのであれば,次期学習指導要領が求める「思考力・判断力・表現力」等を確実に生徒に身に付けさせることができるであろう。これが,教師に課せられた近々の課題である。
そこで,今回,このためにも本書を急遽出版することとなった。これは,真に生徒のためになり,教師の指導力も向上させられるためには,どのような考え方に立って,どのような授業を実践するべきかを,私と2014年度(その年の国内で最も優れた英語授業者に贈られる)パーマー賞の受賞者でもある松下信之先生との共著の形で,自信を持って世に出すものである。
本書では,アクティブ・ラーニングの具体的な解説から始め,中央教育審議会の答申にある理念を実現するために,どのように授業改善を行えばよいのかを分かりやすく明示している。是非,本書をご活用いただき,明日の生徒たち一人一人のために,ご努力いただきたいと願っている。
最後に,本書の作成にあたって,明治図書出版の木山麻衣子氏,有海有理氏には心から感謝とお礼を申し上げるとともに,本書に教科書本文を提供いただいた教育出版(株)並びに(株)新興出版社啓林館には,心から感謝したいと思う。
2017年7月吉日 /菅 正隆
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- 明治図書