- はじめに
- 第1章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校理科の授業づくり
- 1 アクティブ・ラーニングとは何か
- 2 高校理科におけるアクティブ・ラーニングの位置づけ
- 3 本書におけるアクティブ・ラーニングのとらえ
- 第2章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校理科の授業プラン
- 物体の浮き沈みについて理解しよう
- (物理基礎/様々な力/2年)
- 定性的な問題で「運動の法則」の理解を深めよう
- (物理基礎/運動の法則/2年)
- 予想をたて,話し合い,実験を通して法則を見つけよう
- (物理基礎/物体の落下運動/2年)
- エネルギーとはどのようなものか,現象の事実を観察して発見しよう
- (物理基礎/運動エネルギーと位置エネルギー/2年)
- 実験を通して問題演習に挑戦しよう
- (物理/光の伝わり方/2年)
- 化学結合から物質の性質を予想しよう
- (化学基礎/電子配置と周期表/1年)
- 化学変化の量的関係を体験しよう
- (化学基礎/化学反応式/1年)
- 実験を通して,熱化学方程式のルールを発見しよう
- (化学/化学反応と熱・光/2年)
- 金属イオンの系統分離を身近に感じてみよう
- (化学/無機物質/2年)
- 応用問題から転写・翻訳の理解を深めよう
- (生物基礎/遺伝情報とタンパク質の合成/2年)
- 協同的な学びを通してタンパク質の合成のしくみを理解しよう
- (生物基礎/遺伝情報とタンパク質の合成/2年)
- 「私たちの体はうまくできている」と実感しよう
- (生物基礎/体内環境/2年)
- トリの尿の秘密を解明しよう
- (生物基礎/体内環境/2年)
- 協同的な学びを通して獲得免疫のしくみを理解しよう
- (生物基礎/免疫/2年)
- 樹木の特徴と気候を結びつけて理解しよう
- (生物基礎/気候とバイオーム/2年)
- 「宇宙の果て」を探そう
- (地学基礎/宇宙のすがた/1〜3年)
- 火成岩を判別できるようにしよう
- (地学基礎/火山活動と地震/2年)
- 火山活動と生物の営みを関連づけて考察しよう
- (フィールドワーク)
- (地学・生物/火山ほか/1年)
- 第3章 アクティブ・ラーニングを位置づけた高校理科の授業の評価
- 1 アクティブ・ラーニングの評価の意義〜学習指導要領改訂を踏まえて〜
- 2 目標と関連づけられた評価
- 3 評価のさまざまな方法
はじめに
現在,高校教育は大きな転換点にさしかかっています。ここでの大きな課題は二つ考えられます。一つは,大学入試センター試験に代えて2020年度に導入される予定の大学入学希望者学力評価テスト(仮称)に対する対応で,もう一つが,平成34年度(2022年度)から年次進行で実施される新学習指導要領への移行です。これらの課題の中で高校教育に求められているのは,従来の知識伝達型授業のような受動的な学び方からの脱却です。そして,その目指すべき方向が,新学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)と言えます。この特徴を一言でいうなら,「教え方」の観点から,「学び方」の観点への転換です。
また新学習指導要領においても,現行と同様の履修方法(「科学と人間」を含む2科目又は基礎を付した科目を3科目)が踏襲されています。そのため,また多くの生徒が「3科目選択」になることが予想されます。かつては理科といえば,「理科系希望者」の教科と考える傾向が見られました。しかし,現在では「一般生徒」のための理科という視点は無視できません。そこでは,授業において「一般生徒」がただの「お客様」にならないこと,理科で学んだことが市民としての智恵になり市民生活で活用できるようになることなどが求められます。そのためにも,「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を実践した授業が必要となります。
そもそも,理科は自然科学を対象とした教科であり,アクティブな学び方なしには成立しません。自然科学では,自然に対して意識的にはたらきかけることによって,その応答を捉え,それらをデータ化し,モデル化することにより自然の法則を掴みます。また,実験できないような自然界にあっては,自然が示す微かな差異や変化を謙虚にそして注意深く観察して,自然の秩序や関係性を見いだします。そして,取り出された法則・関係性などの「概念装置」をもって,再び自然にはたらきかけ,自然を眺め,理解を深めるという極めて力動的で往還的な過程を,自然科学は内在しています。まさに,「主体的・対話的で深い学び」の原型がそこにあります。
自然科学を学ぶことは,「自然科学する」ことに他なりません。そこに,理科教育における「主体的・対話的で深い学び」の意味合いの一面があります。
「アクティブ・ラーニング」というと,グループ活動やプリント学習などその形式に目を奪われがちです。また,生徒が「元気」に意見を述べたり,「楽しく」グループ活動していることをもって,活動的な学びとして評価する傾向もあります。しかし,生徒個人の「主体的・対話的で深い学び」を保障することが大切です。これらのことを踏まえて,本書では「アクティブ・ラーニング」を「定型」に拘泥しない「主体的・対話的で深い学び」と同義に扱っています。
本書は,授業事例に基づく授業プランを中心にまとめられています。これらは,実践の中で練り上げられたもので,随所に「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を深めるための具体的なアイデア・工夫がちりばめられています。また,本書は授業デザインの提案であるとともに,実践記録の側面もあるため,以下のような特徴も有します。
全国には,課程や校種の異なる様々な高校が存在していますが,本書では多彩な高校の実践を収めることができました。定時制高校,専門高校,多様な進路先を模索する普通科高校,ほぼ全員が大学進学をする高校など,それぞれの学校の特徴や生徒の実態に合わせた授業事例が見られます。
また,授業内容においてもバラエティーに富んだものになりました。自然の中でのフィールドワーク,実験を活用した授業,本質に根ざした発問による授業など,多種・多様なものが含まれています。そこには,自然科学が大切にする自然やモノがあり,生徒が身体を使い,五感をとぎすませながら活動する様子が記録されています。
さらに,本書では,授業を行う際の時間の配分や教材・授業内容の配列などなるべく丁寧に記述することに心掛けました。それは,授業は断片的な知識の羅列ではなく,授業内容を一つのまとまりのある有機的な関連をもった「シリーズ」であると考えるからです。そのことを示すために,各授業プランの最初に授業者の方略を表すマトリクスと授業デザインを載せました。
本書は,3章より構成されています。本書の中心をなす授業プランについては,第2章に18編収録しました。理論・解説については別の章立てをし,第1章では「アクティブ・ラーニング」についてその定義・変遷から「位置づけ」,「とらえ」を解説し,第3章では「評価」について意義・方法など多角的に紹介し,評価による学びの深化の可能性を追求しています。
本書は,平成34年度(2022年度)から実施される新学習指導要領の内容が高校現場でスムーズに実施されることを願って企画されました。そこで,「アクティブ」な授業を実践されている皆さんに無理を言って執筆をお願いしたところ,優れた実践に基づく授業プランが数多く寄せられ,企画意図を超えた豊かな内容となりました。その過程では,明治図書の佐藤智恵さん,広川淳志さんには,根気強く伴走していただきました。本書の作成にかかわったすべての方々に感謝いたします。
生徒が「主体的・対話的で深い学び」をすることは,多くの教師の願いです。本書が学校現場で奮闘されているすべての教師の一助になれば望外の喜びとするところです。
2017年7月 /長野 修
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- 明治図書