- まえがき
- T章 一般意味論とはどういう理論か
- 一 一般意味論とは
- 二 地図は現地ではない ――一般意味論の原則――
- 1 一般意味論の根本原理
- 2 一般意味論の規則の具体化
- a 地図は現地ではない
- b 報告・推論・断定の区別
- c 抽象のレベルに注意せよ
- d 「である」の正体を知れ
- e 二値的考え方から多値的考え方へ
- f シグナル反応からシンボル反応へ
- g ものの独自性を見よ――日付けと見出し番号をつけよ
- h Non-Allness――ETCをつけよ
- i かぎかっこ(引用符)をつけよ
- j ハイフン(hyphen)をつけよ
- U章 日常生活における一般意味論
- 1 「生か、死か」か、「やる、やらぬ」か――翻訳語のニュアンス(1)――
- 2 「ぐつぐつ」か、「ことこと」か――翻訳語のニュアンス(2)――
- 3 “現地”が違うことば
- 4 「ボランティア」の意味
- 5 テレビの「事実」
- 6 「質実国家」が伝えるもの
- 7 「老人」は何歳からか
- 8 擬態語・擬音語の功罪
- 9 かたかなの印象
- V章 ことばの魔術
- 一 ことばの魔術とは
- 1 ことばの魔術の定義
- 2 ことばの魔術のいろいろな型
- 3 マスコミと世論操作
- 二 魔術破りのチェックポイント
- 1 ことばの魔術破りのチェックポイント
- 2 投書の分析例
- 三 「意味論的分析」の分析
- W章 一般意味論と国語教育
- 一 一般意味論と国語教育
- 1 国語教育はどう変わってきたか
- 2 ことばの用法に注意する
- a ことばの意味を吟味する
- b 文学作品は人生の地図である
- c Non-Allness の態度・習慣をつける
- 二 一般意味論の指導計画
- 三 一般意味論指導の展開例
- 四 一般意味論の教材開発
- 五 一般意味論の教材例
- a 広い言葉、せまい言葉
- b 言葉の落としあな
- c 言葉と事実
- d 言葉とイメージ
- e それ、ほんとかな――ことばと事実――
- f 正しく考えるために
- g ものの見方と言葉
- h 白か黒か
- X章 一般意味論と心理学
- 一 はじめに
- 二 一般意味論と言語心理
- 1 ことばの情緒値
- 2 語音象徴
- 三 一般意味論と社会心理
- 1 偏 見
- 2 タブー語
- 3 流 言
- 四 一般意味論と教育心理
- 1 認知の仕方
- 2 評価語
- 3 性教育の用語
- 4 認識力の育成
- Y章 一般意味論とカウンセリング
- 一 はじめに
- 二 カウンセリングにおけることば
- 1 ことばづかい
- 2 質問の仕方
- 3 ことばの解釈
- 三 一般意味論を基礎とした心理療法
- 1 基本的手続き
- 2 非指示的方法
- 3 意味論的遊戯療法
- 4 一般意味論を基礎とした心理療法の評価
- Z章 一般意味論をどう評価するか
- 一 一般意味論に対する評価
- 1 一般意味論の定義
- 2 積極的な評価
- 3 わが国での評価
- 二 一般意味論に対する批判
- 1 外からの批判
- 2 内からの批判
- 3 一般意味論は科学か
- 4 一般意味論に対する総合評価――その限界と効用――
- 付録一 一般意味論者たちの横顔
- 1 S・I・ハヤカワ
- 2 I・J・リー
- 3 C・ミンティアー
- 付録二 一般意味論の背景と発展史
- 1 一般意味論の背景
- 2 一般意味論の発展の歴史
- 付録三 文献
まえがき
私たち両名は、二〇年前に、もう一名の執筆者とともに次の著書を出版した。
『一般意味論――言語と適応の理論――』一九七四 井上尚美・福沢周亮・平栗隆之(河野心理教育研究所出版部)。
その中の「まえがき」で、私たちは次のように述べておいた。
一般意味論もいまや四〇歳に達した。昨年(一九七三)は、コージブスキーがはじめて「一般意味論」というタイトルを副題につけた本を出版してからちょうど四〇周年、また国際一般意味論協会(ISGS)が設立され機関誌が創刊されてからちょうど三〇周年であった。
一般意味論は、アメリカにおいては最近、一時ほどの爆発的な人気こそなくなったが、教育や心理療法などを中心に、人々の間で静かに浸透している。一方、日本では、一九五一年にハヤカワの本がはじめて大久保忠利によって翻訳されてから二○年以上たった。そしてこの間、一般意味論について何冊かの本が翻訳されたり、解説書が書かれたり、批判がなされたりした。しかしながら、一般意味論の理論そのものを正面から俎の上にのせて、その意義について正当な評価をし、またその応用面や可能性などについていろいろな方面から多角的に論じた本というものは一冊もなかったといってよい。本書はこうした「総合評価」を目ざして書かれたものである。
その後時間だけは二〇年経過したがこうした状況は少しも変わっていない。アメリカでは、中学・高校・大学の教科書などにこの理論の入門的な項目が取り入れられ、大学の講義でも、コミュニケーション学を中心に、この理論について触れる人が多い(ただ、「一般意味論」を講義のタイトルとして中心的に扱っているのは、二、三の大学に過ぎない。これは、この理論があまりアカデミックな学問体系を成していないせいであろう)。
日本では、言論界・教育界・学界のいろいろな人に尋ねてみると、ハヤカワの『思考と行動における言語』によって、はじめてことばへの興味・関心を持つようになったと告白している人は案外多い。しかし、同書を翻訳した大久保忠利が一九九〇年六月一日に他界してからは、一般意味論ということばを聞く機会が少なくなった。
総じていえば、この二〇年間、一般意味論の活動はあまり活発ではなかったと言えようが、その理由は次のように考えられる。すなわち、もともとこの理論の原理はごく簡単であって、ただ「事例」だけが新しく取りかえられるだけのことであった。つまり理論的に発展していくといった類のものではないということである。しかも、アメリカでの中心人物であったハヤカワが(本書の付録でも述べているように)一九六八年以降、学長として大学の運営にたずさわり、さらには上院議員になって仕事に忙殺され、理論面での貢献ができなくなってしまったこと、そして彼も一九九二年二月二七日に亡くなったこと――こうしたことが重なったためと思われる。
とにかく、日米におけるこの運動の中心人物が相継いで他界したことは、一つの時代の終わりを感じさせる。
ただ一方では、一般意味論への要求も依然根強いものがある。この理論は応用言語学の一部門であり、ことばとそれを使用する人間との関係を考えようとする「語用論」に属するものである。したがって、ことばを中心的に扱う教育界、とくに国語教育の分野、及びカウンセリングの分野においては、今でも大いに有効性を発揮することが期待される。
そこで、私たち両名は、右のような分野からの要望に応えて、前著『一般意味論――言語と適応の理論――』の中で今でも通用すると思われる理論的考察はほとんどそのまま残し、それに新たに書き直したり追加したりして、本書を刊行することにした。前著はすでに絶版になり入手できないので、二〇年前にすでにこのように述べていたという証拠を残す意味で、あえて古い事例とともにほとんど書き改めなかったところもある(V章三、W章二、三、V章、Y章三、および付録など)。
なお、左記の文献の中で一部を本書に転載したものもある。
井上尚美 一九七二 言語・思考・コミュニケーション 明治書院
井上尚美・大熊徹 一九八五 授業に役立つ文章論・文体論 教育出版
本書の執筆分担は左のとおりである。
I章 井上 U章 福沢 V章 井上 W章 井上・福沢 V章 福沢 Y章 福沢 Z章一 福沢・二 井上 付録一 井土 付録二 井上 付録三 福沢・井上
最後に、旧著の転載を許可してくださった河野心理教育研究所、明治書院、教育出版、光村図書、日本書籍に、また、本書を理論双書に加えることを快諾してくださった明治図書の江部編集長に厚く御礼申し上げます。
一九九五年一〇月 /井上 尚美 /福沢 周亮
認知行動療法の新しい潮流として、一般意味論に注目しています。
国内では一般意味論関係の文献がほとんどないため、
是非とも刊行を続けていただければ幸いです。