- はじめに /吉田 裕久
- 序章 国語学力調査の研究にあたって /鶴田 清司
- 1 国内の学力調査をめぐる最近の情勢―学力調査の隆盛―
- 2 全国大学国語教育学会の取り組み
- 第1章 学力論・方法論の視点から国語学力調査を検証する
- 第1節 教育評価としての学力調査のあり方
- ―学力調査の結果を授業の改善に生かす― /鶴田 清司
- 1 「学力」の概念とその評価の問題
- 2 学力調査で求められている学力・求められていない学力
- 3 教育評価としての学力調査
- 4 テスト体制の問題点
- 5 全国的な学力調査のデータを授業にどう生かすか
- 6 「全国学力・学習状況調査」の問題
- 第2節 PISA読解力調査から見た「国語B問題」の課題 /有元 秀文
- 1 PISAとB問題
- 2 なぜPISA的な読解力が必要か?
- 3 学力競争が目的ではない
- 4 新たに焦点が当たったクリティカル・シンキングとクリティカル・リーディング
- 5 従来行われがちだった国語テストとPISA読解力テストの違い
- 6 PISA読解力調査の観点から見た,B問題(国語)の課題
- 7 日本独自の,学力調査の第三のモデルをつくるために
- 第3節 学力調査の方法論
- ―PISAの調査法とDIF分析― /服部 環
- 1 PISA2003の調査方法論
- 2 問題類型に注目したDIF分析
- 第4節 全国学力調査のあり方を考え直そう /松崎 正治
- 1 はじめに―学力論・方法論の視点からの検討―
- 2 意義と問題
- 3 おわりに
- 第2章 歴史的・国際的視点から国語学力調査を検証する
- 第1節 学力調査と教育評価研究
- ―「真正の評価」論からみえてくるもの― /田中 耕治
- 1 課題設定
- 2 「真正性」と新しい評価方法
- 3 学力調査におけるパフォーマンス評価
- 第2節 国語学力調査の変遷と現代の課題
- ―国語学力形成論を観点にして― /松友 一雄
- 1 研究の目的と方法
- 2 第一期(1940年代後半〜50年代前半)の学力調査と言語能力の転移
- 3 第三期(1970年〜80年代)の学力調査と言語能力の習熟
- 4 第四期(1990年代)の学力調査と学びの転換
- 5 まとめ
- 第3節 全米学力調査(NAEP)から読解力の学力調査を考える /堀江 祐爾
- 1 国際学力調査と関係づいた形で施行されている国内学力調査
- 2 全米学力調査(NAEP)とは
- 3 NAEP調査における「読みの側面」
- 4 全米学力調査(NAEP)の作問例
- 5 まとめ―NAEP調査とその「問い」から読解力の学力調査を考える―
- 6 おわりに―日本の学力調査をよりよいものに高めていくために―
- 第4節 歴史的経緯と国際的状況から見えてくる問題 /小川 雅子
- 1 「歴史的・国際的視点」の意味
- 2 明らかになった今後の課題
- 第3章 政策的・社会文化的視点から国語学力調査を検証する
- 第1節 学力が変わる,それはなぜか /福田 誠治
- 1 「落書き」の設問から読解力を考える
- 2 和式フィンランド・メソッド
- 3 グローバリズムの現在
- 4 国際的教育活動主体としてのOECDの登場
- 5 社会資本(ソーシャル・キャピタル)と社会結合
- 6 OECDによる国際標準学力の作成
- 7 今後の課題
- 第2節 国語の学力調査と教育課程の改善 /井上 一郎
- はじめに
- 1 教育政策及び教育学研究への提言の基本的立場
- 2 教育課程実施状況調査と教育課程の改善
- 3 PISAの読解リテラシー調査と教育課程の改善
- 4 全国学力・学習状況調査と教育課程の改善
- 5 学力調査から新教育課程へ
- 第3節 国語学力調査の観点や成果と授業実践の接点
- ―学力調査の結果を授業実践に生かせるか― /笠井 正信
- 1 はじめに―学びたい子どもの実態と教えている教師の実態―
- 2 授業の中で教師は何をしているか
- 3 子どもの学習の過程を眺める
- 第4節 全国学力・学習状況調査を学習指導改善に活かすために /寺井 正憲
- 1 全国学力・学習状況調査を学習指導改善に活かす
- 2 学校における国語力向上プランの作成に活かす
- 3 国語科の学習指導改善に活かす
- 第4章 国語学力調査について考える
- 第1節 国語学力調査の成果と課題
- ―PISA「読解力」,全国学力・学習状況調査,お茶の水女子大学COE国語学力調査から見えてくるもの― /阿部 昇
- はじめに
- 1 三つの国語学力調査に共通して見られる日本の子どもの弱点
- 2 国語学力調査の課題と改善の方向
- 第2節 国語学力調査の比較研究 /足立 幸子
- 1 問題の所在
- 2 背景・概要
- 3 テストの内容
- 4 結果の公表と影響
- 5 成果と課題
- 第3節 PISAにおける「読解力」の検討
- ―文学的文章を中心に― /永田 麻詠
- はじめに
- 1 PISA型読解力と自己認識
- 2 「文学体験」と自己認識
- 3 学習者に育てたい読解力
- おわりに
- 終章 国語学力調査の研究をふりかえって /塚田 泰彦
- おわりに /塚田 泰彦
- 付録1 文献案内 /足立 幸子 /鶴田 清司
- 付録2 国語学力調査一覧 /木 まさき
- 索引
はじめに
学力は,教育の根幹である。教育の営みの存するところ,いつの時代にも,学力問題,学力低下問題は存在した。戦後まもなくの経験主義教育の時代もそうであったし,昭和50年代のゆとり教育の時代もそうであった。近くは,平成16年12月,PISA型読解力の調査結果が公表された時も,教育界のみならず,マスコミ等で大きく報じられ,広く社会の一大関心事になった。
その後も,学力調査は,国レベル,県レベル等で,様々に実施され,そのつど,種々議論があった。とりわけ「低下」をめぐっては,何をもって「低下」とするのか,その判断方法も問題となった。また学力調査の方法についても,悉皆調査なのか,それともサンプル調査なのか,大きな議論があった。さらには,その結果の公表の方法・適用をめぐって,そもそも公表するのかしないのか,公表するにしても,地域単位とするのか学校単位とするのか,議論が沸騰し,ある場合には政治問題にまで発展していった。
しかし,ここまで学力調査が話題になったのは,果たして学校できちんと学力がつけられているのかという学校への,そして授業への社会からの問いかけでもあった。また,どういう力がついていて,どういう力はついていないのか。そうした学力のあり方,そのものへの言及でもあった。その意味では,PISA型読解力の投げかけた課題はとりわけ大きいものであった。つまり,わが国の子どもたちに欠けている学力が,国際的に明らかになったからである。従来の読解力(この文章・作品には何が書かれているか)から新しい「読解力」=PISA型読解力(この文章・作品を「私」はどう評価するのか)へ,確かに学力観はシフトしていった。
この新しい学力をつけるために,実践現場では,授業目標の焦点化,シラバスの明確化,授業と評価の一体化,評価の具体化など,授業改善に向けて大きな変革が迫られた。学力調査は,確かに理論・実践の場に,大きな影響を与えていったのである。
こうした学力調査について,とりわけ国語学力調査の意義や問題をめぐって,理論的・実践的に,広く深く考え合いたいというのが問題意識の発端となり,全国大学国語教育学会(第113回〜第115回,2007年〜2008年)の「課題研究」として取り上げ,この領域の専門家も招いて,熱心に協議を重ねてきた。本書は,この3回の「課題研究」における発表・協議を中心とし,一部投稿(審査を経て)も含めて構成したものである。
本書の刊行を契機にして,国語学力調査について,ひいては国語学力について,さらには,国語科授業の目標・内容・方法・評価について,改めて考え直す機会になれば,学会として幸甚である。
最後に,本書の企画・編集に当たってその労を取っていただいた全国大学国語教育学会研究部門の諸氏,さらに本書の刊行を引き受けてくださった明治図書に深甚の謝意を申し上げる。
2010年2月1日 全国大学国語教育学会理事長 /吉田 裕久
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- 明治図書