- まえがき
- T 「スピーチ・対話の学習」のねらいと基礎・基本
- /小森 茂
- U 「スピーチ・対話の学習」の現状と課題
- /大熊 徹
- V 「スピーチ・対話の学習」の展開
- 小学校低学年
- 1 「大きくなるわたし」(2年・3学期)―総合単元の中に聞き合い,話し合う学習の場を位置付けて― /宮本 浩子
- 2 「話す,聞く」が楽しくなる対話の学習 /池田 友子
- 小学校中学年
- 1 楽しみながら力をつける「対話」の指導―3年生の実践例― /岡部 千草
- 2 伝えたい! わたしの思い―生活の中からみつけたことを,筋道を立てて話そう!― /武富 秀之
- 小学校高学年
- 1 テレビ朝会を基点とした対話の指導 /大内 敏光
- 2 対話の学習 初歩の初歩 /谷口 茂雄
- 3 年間学習計画に位置付けた「話す・聞く」 /本間 正江
- 中学校
- 1 昼の放送・ショートスピーチ提案番組を作ろう /岩田 光世
- 2 スピーチの仕方を学び,スピーチを楽しむ(中学1年)―グループでの交流を生かして― /荻野 勝
- 3「博多祗園山笠’98を語ろう」―生きて働く音声言語の力を育むスピーチ活動の工夫― /武田 祐子
- 高等学校
- 1 聞き書き―祖父母との対話― /守谷 英一
- 2 スピーチの試み /佐藤 純一
- 3 場面構成による共感的主張としてのスピーチ学習 /岡田 弘
- W 「スピーチ・対話の学習」のまとめ
- /小森 茂
まえがき
1.資質・能力重視の国語科の展開
我が国の学校教育・国語科の主な実践動向を振り返ると,昭和20年代から昭和30年代には言語経験や基礎学力の系統的指導を重視してきた。昭和30年代から昭和40年代には,読解・読書指導を位置付け熱心に取り組んできた。
昭和50年代から昭和60年代には教育内容の精選と文章による表現力の育成を重視してきた。
そして,平成になると,文章による表現力の育成とともに,話すこと・聞くことの学習指導も重視してきた。つまり,我が国の学校教育・国語科は,約半世紀の実践研究を確実に積み上げながら,読む能力,書く能力,そして,話す・聞く能力の育成を目指してきた。総じて資質・能力を重視する国語科教育を連続的に追究してきたと言えよう。
これからの学校教育・国語科は,これまでの資質・能力重視の国語科の成果,現状と課題を確認するとともに,児童生徒の読む能力,書く能力,そして,話す・聞く能力を調和的に育成し,相手や目的,場面や状況等に応じて疑問や課題を自分の言葉で考えたり表現したり解決したりできるような,生きてはたらく言語能力へ高めることが重要な実践課題である。
本企画のねらいは,新学習指導要領・国語に示された「言語活動例」を通して,児童生徒の読む能力,書く能力,そして,話す・聞く能力を調和的に育成し,生きてはたらく国語の力へ総合・統合することである。それは,「言語活動例」の具体化を通して,生きてはたらく言語能力を育成することであり,資質・能力重視の国語科を一層推進することである。
2.なぜ,「目標及び領域構成」を改めたのか
なぜ,従来の「目標」を改め,新しい国語科の目標に,「伝え合う力」を位置付けたのか。今回の教育課程審議会の「答申」に示された国語科の「改善の基本方針」は,「言語の教育としての立場を重視し,国語に対する関心を高め国語を尊重する態度を育てるとともに,豊かな言語感覚を養い,互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成することに重点を置いて内容の改善を図る」ことである。その実現のために,「伝え合う力」を位置付けるとともに,国語科の目標を次のように示したのである。
国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる。 (小学校)
国語科の最も基本的な目標である国語による表現力と理解力とを育成するとともに,「互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成すること」を重視して,新たに「伝え合う力を高める」ことを目標に位置付けている。この「伝え合う力」とは,話し言葉と書き言葉との両方を含みながら,人間と人間との豊かな関係やかかわりの中で,互いの立場や考えを尊重しながら,言語を通して適切に表現したり理解したりする言語能力である。
なぜ,「領域構成」を改めたのか。従来の教育課程では,「A表現」「B理解」及び〔言語事項〕の2領域1事項で構成されていたが,前述の教育課程審議会の「答申」の「自分の考えをもち,論理的に意見を述べる能力,目的や場面に応じて適切に表現する能力,目的に応じて的確に読み取る能力や読書に親しむ態度を育てることを重視する」ことを踏まえ,「A話すこと・聞くこと」,「B書くこと」,「C読むこと」及び〔言語事項〕の3領域1事項に改めた。これは,生きてはたらく国語の力を調和的に育てるために,それぞれの領域の言語の特性を生かしながら児童主体の言語活動を通して言語の教育としての国語科の目標を確実かつ豊かに実現するためである。
その実現のため,本企画では,小学校,中学校及び高等学校の実態を踏まえた「言語活動例」の具体化を提案している。
3.なぜ,「言語活動例」が示されたのか
新しい国語科国語では,指導内容と言語活動との密接な関連を図り,児童生徒の主体的な学習活動を促進しながら言語能力の育成を実現するために,それぞれの領域にふさわしい言語活動例を示している。この中には,小学校の第1学年の入門期や他教科等との関連にも配慮した内容も含まれており,学校や児童生徒の実態等に応じて適切な工夫が必要である。
また,学校や児童生徒の実態等に応じて,学習者が相手や目的意識,場面や状況意識をもって,身に付けた既習の表現や理解の方法等を生かしたりできる工夫が必要である。その際,例えば,児童生徒の側から,@相手意識,A目的や意図意識,B場面や状況,条件意識,C既習の表現や理解の方法意識,D他者評価も含めた評価意識を具体的に取り上げ,「本時の学習指導案」等の学習指導計画に位置付け,児童生徒にとっての「実の場」を構成し,「活動あって学習なし」の状況を克服する必要もある。
おわりに――他教科や「総合的な学習の時間」との連携を図る
本企画では,特に,「言語活動例」の具体化を通して身に付けた児童生徒の「言語能力」が,他教科や「総合的な学習の時間」に活用されたり日々の学校生活や家庭・地域社会の中でも活用したりできること等を視野に入れ,全6巻を小学校,中学校及び高等学校の実践事例で構成した。
また,本企画は,全国の小学校,中学校及び高等学校の真摯な実践研究者の協力を得て編集された。本事例を参考に,児童生徒のよさや可能性を生かしながら,各学校や学級の主体性を存分に発揮して資質・能力重視の国語科授業を構想し展開されることを祈念したい。
文部省初等中等教育局教科調査官 /小森 茂
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