- はじめに〜俳句に救われた
- T 教室俳句入門
- 一 俳句を教室に
- 1 二〇一一年指導要領では
- (1) 十二年間俳句実践を続けて/ (2) 二〇一一年指導要領では/ ◆二〇一一年指導要領における俳句実践のポイント
- 2 俳句はすごい〜万能の実践
- (1) なぜ俳句を勧めるのか/ (2) レベル色々〜一年生から六年生まで、知的好奇心の高い子から荒れている子まで/ (3) 内容色々〜暗誦、カルタから連句、鑑賞まで/ (4) やり方色々〜一時間だけでも、年間通してでも/ (5) 学級経営に欠かせなくなった俳句カルタ/ ◆なぜ俳句を勧めるのかのポイント
- 3 大まかな流れ
- (1) 思い立ったが吉日/ (2) 本格的に作句に取り組みたい方へ/ (3) 俳句カルタで五七五を体にしみこませる/ (4) 大まかな流れ/ ◆大まかな流れのポイント
- 二 作句の前に
- 1 暗誦だけでも価値あり
- (1) 暗誦だけでも価値がある/ (2) 俳句カルタにスムーズに入るために/ (3) 俳句カルタは四十八句/ (4) 五七五のリズムのよさを感じさせたい/ ◆暗誦のポイント
- 2 掲示・朝の会
- (1) 継続するにはシステムが必要/ (2) 復習が重要/ (3) 掲示で常に触れる/ ◆掲示・朝の会のポイント
- 3 カルタ 俳句実践最大の武器
- (1) 「俳聖かるた」との出会い/ (2) カルタだけでも価値がある〜学級経営の手立てにも/ (3) カルタのルール/ (4) 一年生には配慮が必要/ (5) 入学前の子でもできる俳句カルタを/ (6) ちょっとした工夫/ ◆カルタのポイント
- 4 原稿用紙・三行書き ちょっとしたコツで大違い
- (1) 三行書きと一行書きの違い/ (2) お勧めは三行書き/ (3) 原稿用紙/ (4) 低学年は三行書きの練習も/ ◆三行書きのポイント
- 三 作 句
- 1 ポケモン五七五 一年生に説明するために
- (1) 三行書きの練習も必要/ (2) ポケモンが最適/ (3) 授業の展開/ ◆ポケモン五七五のポイント
- 2 五七五にする 基本中の基本
- (1) 何を言ったらいいのか分からないという方へ/ (2) 作ったことをほめる、自分の感想を言う/ (3) 三つの指導 これがあれば、だいじょうぶ/ (4) 五七五にする意味/ (5) 何としても五七五にしてみる/ ◆五七五のポイント
- 3 季語 イメージを広げる日本語
- (1) 俳句と季語/ (2) 授業では/ (3) 子どもの作品から/ ◆季語のポイント
- 4 うれしい、楽しい、気持ちいいはだめ これで俳句の質が上がる
- (1) うれしい、楽しい、気持ちいい/ (2) 具体的に書く/ ◆使わない方がよい言葉のポイント
- 四 よりよい俳句を作るために
- 1 一枚文集 せっかく作った俳句を生かそう
- (1) 一枚文集で作品を十倍生かす/ (2) 一枚文集作りのポイント/ (3) 一枚文集例/ ◆一枚文集のポイント
- 2 子ども同士の投票 選ばれる喜び
- (1) 名前を見ずに選ぶ/ (2) 発 表/ (3) コメントも勉強になる/ ◆投票のポイント
- 3 子どもの選と教師の選 やはり教師の選も示そう
- (1) 教師の選も示そう/ (2) 子どもの選と教師の選の違い/ ◆子どもの選と教師の選のポイント
- 五 発展的学習
- 1 鑑賞文 高度に知的な学習
- (1) 課題だった鑑賞文/ (2) 「詩を味わおう」で「お話を書きなさい」/ (3) 俳句の鑑賞文/ ◆鑑賞文のポイント
- 2 付け句
- (1) 付け句とは/ (2) 同じ上の句に付ける/ (3) 友だちの俳句から選んで付ける/ ◆付け句のポイント
- 3 連句 グループで作る詩
- (1) 連句とは/ (2) 授業の展開/ ◆連句のポイント
- 4 読み取ったことを五七五に表す
- (1) 大造じいさんとガン/ (2) 視写と五七五/ (3) 五七五一覧/ ◆読み取ったことを五七五に表すポイント
- U 授業記録
- 一 低学年の授業 一年生 冬見つけ
- 1 冬見つけ
- 二 中学年の授業 三年生 一時間でどこまで指導できるか
- 1 授業前
- 2 五七五の説明をする
- 3 練習で作ってみる
- 4 ビオトープで作る
- 三 高学年の授業 冬の中庭 配合を教える
- 1 はじめに
- 2 授業記録
- (1) 配合の説明/ (2) 作 句
- おわりに
はじめに〜俳句に救われた
「おい」という怒鳴り声に、私は振り返りました。川上君は原稿用紙を机からはたき落とすように私の方に飛ばしました。
川上君は、身長がクラスで一番高い男の子です。運動能力も飛び抜けて優れています。言動が荒く、教師や友だちに対する「死ね」「うざい」といった暴言は日常茶飯事。授業中は、ほとんど教科書・ノートを出さず、たまに自分の関心があるときに勝手に発言するといった程度です。大きな声で授業を妨害することも度々でした。
前述の行為は、いつもなら私の指示を拒絶する態度です。しかし、この日は違いました。床に落ちた原稿用紙には、非常に乱雑ではありますが、彼の字で、俳句が一句書かれてあったのです。このとき、私は俳句実践の可能性に確信を持つことができました。
前夜、私は妻に愚痴をこぼしていました。
「今のクラスでは、俳句は無理だな。『ウザイ』『キショイ』の嵐で、原稿用紙に下品な落書きがされるだけだ…。」
十年以上、俳句の実践を続けてきた私は、どの学年を担任しても何らかの形で俳句に取り組んできました。一年生でも六年生でも手応えを感じていた私は、もちろんこの年も、俳句に取り組むつもりでした。
しかし、クラスの実態は前述の子の他にも暴言・授業妨害をくり返す子が何人もいて、とてもじっくりと俳句に集中するような状況ではありませんでした。
「今年は、俳句は無理だな。」
同じ言葉をくり返した私に、妻は夕食の片付けをしながらあっさりと答えました。
「分からないわよ。意外と新しいことならやるかも。」
一瞬、言葉が出ませんでした。「そんなわけないだろ。毎日、どれだけ大変な思いをしているか」とのど元まで出かかりました。しかし妻の言葉は今まで何度も貴重なヒントになっています。数秒後、私の口から出た言葉は、
「だめでもともとだな。やってみるか。」
でした。
それが冒頭の場面につながったわけです。本当にしんどいクラスでしたが、そんな中でも俳句に関しては、手応えを感じることができました。なかなか授業中の課題に取り組まない川上君も、俳句は毎回作ったのです。朝の会での俳句カルタも、唯一といってよいほど、クラス全員がスムーズに取り組む活動でした。それだけに、たとえ朝会で一時間目の始まりが遅れても、私は最優先で俳句カルタをしました。もっと言うと俳句カルタにすがっていたような心理だったかもしれません。この年は子どもたちに俳句を教えたというよりは、俳句に私が助けられたという方が近いでしょう。
二〇一一年から実施される指導要領では、「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」が設定され、より俳句に取り組みやすい状況になっています。具体的には、中学年で音読、暗誦、高学年で作句が俳句の取り組みとして挙げられています。
本書では、この音読、暗誦、作句の実践も取り上げています。しかし、少しやり方を工夫すれば、低学年からでも無理なく作句ができ、高学年になると、鑑賞文、連句といった発展的な取り組みも十分可能です。
俳句実践には、すばらしい可能性があります。一年生から六年生まで、楽しく取り組むことができます。知的好奇心が高い子に充実感を与え、荒れた子どもたちの力も引き出してくれます。一時間だけでも年間を通じての実践でも可能です。あまり上品な表現ではありませんが、「小学校教員をしていて、俳句実践をしないのは損」というのが私の率直な思いです。
読者のみなさんが、俳句実践に興味を持ち、いっしょにその可能性を追求して下さることを願ってやみません。
二〇一〇年四月 /岡 篤
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- 明治図書