- はじめに
- 1 カリキュラム編成はなぜ必要か
- (1) 学習動機調査
- (2) 学習動機の二要因モデル
- (3) 「おもしろくて楽しい」と子どもが感じるとき
- (4) 系統・関連指導カリキュラム編成の必要性
- 2 カリキュラム統合の方法
- (1) 合科的な指導と関連的な指導
- (2) 教科等横断的なカリキュラムとクロスカリキュラム
- 3 理科教育における系統指導
- (1) 系統指導の考え方と問題点
- (2) 理科教育における系統指導の実際
- @ 「電気」の系統指導
- A 「重さ」の系統指導
- B 「力」の系統指導
- C 「溶解−燃焼−消化」の系統指導
- D 「生物と環境」の系統指導
- (3) 理科の系統指導カリキュラム
- 4 理科と国語科との関連指導
- (1) 国語科との関連指導の問題点
- (2) 国語科との関連指導の具体
- (3) 基本フォーマットを活用した理科授業づくりのポイント
- @ 板書する「問い」と「答え」の関係を明確にする
- A 子どもの言葉を引き出し,すべて板書しておく
- B 自然の事物・現象を3つに切り分けて表現させる
- C 事実(結果)と解釈(考察)を分けて表現させる
- (4) 理科説明文を取り入れた国語との関連指導の具体
- (5) 理科と国語科との関連指導カリキュラム
- 5 理科と算数科との関連指導
- (1) 算数科との関連指導の問題点
- (2) 算数科との関連指導の実際
- (3) 理科と算数科との関連指導カリキュラム
- 6 カリキュラム編成の視点
- (1) 理科の系統指導カリキュラム編成の視点
- @ 「考え方」を軸とした系統指導を組む
- A 算数科の「言葉」「教材」と関連させた系統指導を組む
- B 子どもの「意味理解志向」にこたえる系統指導を組む
- (2) 国語科との関連指導カリキュラム編成の視点
- @ 「尾括型」の理科説明文を書かせる
- A 「頭括型」の理科説明文を書かせる
- (3) 算数科との関連指導カリキュラム編成の視点
- @ 算数科で習得した「知識・技能」を活用させる
- A 算数科の「知識・技能」の活用を繰り返し設定する
- (4) 平成30年度全国学力・学習状況調査の結果から
- 7 カリキュラム編成の今後
- (1) 「サスペンス型」の系統カリキュラムの可能性
- @ 「ミステリー型」の問題解決
- A 「サスペンス型」の問題解決
- (2) 「双括型」の理科説明文の可能性
- 引用・参考文献
- おわりに
はじめに
コンピュータという機械自体は,ハードウェアと呼ばれます。インストールされるアプリはソフトウェアですが,それだけでは使い物にはなりません。コンピュータを使う人が,いったい何のために何をどのように活用するのかというユースウェア(使い方)が不可欠です。
同様に,学校や教材をハードウェアとすれば,カリキュラムや指導案は,ソフトウェアに当たります。そして,ユースウェアの存在があってこそ価値あるカリキュラム・マネジメントの実現が期待できるわけです。
公立小学校に勤務していた当時,私が目にしてきたカリキュラムの多くは,まさに絵に描いた餅であり,単なる単元の配列が書かれた表でしかありませんでした。子どもの学びを,事実で語ることのできる論より証拠を重視したカリキュラム・マネジメントの考え方そのものがなかったのでしょう。
私はこれまで,小学校における理科教育を中心に,系統・関連指導を含めた実践研究を進めてきました。その過程で,子どもの学力向上のための具体的な手立てについては,授業実践を通して提案することができました。しかし,その手立ては経験則によって導かれたものがほとんどで,学術的な理論との関係が不明確のままでした。そのため,一般化できるだけの説得力に欠けていたことは否めません。
また,それぞれの手立ての指導効果は,各学年・各単元で閉じていることがほとんどでした。そのため,一つの単元における単発的な指導の工夫に留まってしまい,系統・関連指導を重視したカリキュラム編成は実現されないままです。
さらに,文部科学省が国語科と算数科の全国学力・学習状況調査を悉皆で行うようになってから,全国の小学校の校内研究の対象が国語科と算数科に偏ってしまい,理科の研究校が次々と姿を消しています。
そもそも,一つの教科研究だけで学力を語ることはできません。子どもの学力が様々な教科・領域で総合的に培われることを,誰も否定はしないでしょう。
このまま国語科や算数科という,限られた教科を取り上げた校内研究が進めば,複数教科の系統・関連を重視した具体的な指導法やカリキュラム編成は,曖昧なままとなってしまうのではないでしょうか。そうなれば,汎用的な資質・能力の育成は絵空事に終わってしまいます。
そもそも,複数教科それぞれを関連させた指導は,今に始まった新しい主張ではありません。低学年における合科指導・合科的指導,クロスカリキュラム,横断的指導など,その必要性はこれまでにも繰り返し強調されてきたことです。
しかし,それぞれの理念や理論を理解したうえで実際の授業に具現することは,かなり難しかったというのが私の実感です。そのため多くの小学校で作成される教育課程には,合科的な指導,教科等横断的な要素が部分的に取り入れられているものの,それを一般化するだけの授業の具体例とカリキュラムは未だ不明確のままです。
そこで本書では,これまでの系統・関連指導の問題点を洗い出しながら,各社教科書等の資料分析や授業実践記録などをもとに,理科教育における学年・単元・領域を越えた系統指導の方法を明らかにしていきます。
さらに,他教科(国語科と算数科)との関連指導を取り入れた理科授業の改善を加えることで,子どもの意味理解が伴う,深い理解を促すことのできるカリキュラム編成の視点を明らかにしていくことができればと考えます。
本書がそれぞれの学校におけるカリキュラム・マネジメントを推進するための布石の一つとなることを願っています。
筑波大学附属小学校 校長 /佐々木 昭弘
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- 明治図書
- 今まであまり意識してこなかった理科の系統性について学ばせていただきました。2022/4/240代