- シリーズ「国語科で育てる新しい学力」(全五巻)刊行の弁 /野口 芳宏
- T コミュニケーション能力
- ――その骨格――
- 1 戦後、アメリカから入ってきた理論
- 2 コミュニケーション能力重視の背景と意義
- 3 コミュニケーション能力の指導理念
- 4 コミュニケーション能力の指導内容
- 5 コミュニケーション能力の指導法
- U 言語技術「育成」の三つのポイント
- 1 即時制・即興制の重視
- 2 モデルを見せる、示範の重視
- 3 「知識の安定的行為化」の重視
- V 授業のポイントと実践事例
- 一 低学年の指導
- 1〈話すこと・聞くこと〉
- コミュニケーション能力を鍛え、学級を活性化させる読書PR大会
- ――学習用語で子どもたちに今すべき行為が明確になる――
- 2〈書くこと〉
- 保護者も喜ぶ、二年生が書く正式な招待状
- ――無理なく作文の基礎・基本が学べる、『作文力マスターカード』――
- 3〈読むこと〉
- 『アレクサンダとぜんまいねずみ』の鑑賞指導でPISA型「読解力」を育てる
- ――例えば、論破を扱うと「書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する」PISA型「読解力」が育つ――
- 二 中学年の指導
- 1〈話すこと・聞くこと〉
- クラスの子全員の発表力が向上的に変容する『ポスター・セッション』
- ――短く、素早く、話し手を見ながらのメモが適正なコミュニケーションを成立させる――
- 2〈読むこと〉
- 向上的変容を保障するコミュニケーションの創造
- ――説明文教材『ありの行列』を正しく読ませるための学習用語の指導――
- 3〈読むこと〉
- コミュニケーションは「集団思考」を支える
- ――細かな作業指示・メリハリをつけた学習が読解を深める――
- 三 高学年の指導
- 1〈話すこと・聞くこと〉
- 『大造じいさんとがん』を焦点精査で鑑賞させる
- ――「論破」で主人公の葛藤心情を追体験し、深く味わえる――
- 2〈書くこと〉
- 「物語作文」で育つ想像力がコミュニケーション能力を高める
- 3〈読むこと〉
- 『みすゞさがしの旅――みんなちがって、みんないい――』でコミュニケーション能力を育成する
- 四 中学生の指導
- 1〈話すこと・聞くこと〉
- 「マイクロディベート」からスタートする「教室ディベート」
- ――「マイクロディベート」の基本展開と実践例(フローシート指導を中心に)――
- 2〈書くこと〉
- 作文の推敲に相互批正活動を導入して学級全員の発表力を鍛える
- ――『作文力マスターカード』をコミュニケーションの指導に発展的に活用する実践――
- 3〈読むこと〉
- 俳句の「内容美」に着目し、鑑賞会でお互いの鑑賞を深め合う授業
- ――「俳句」の鑑賞指導と「話し合い」によるコミュニケーションの指導とを融合させた実践――
- W 生活場面における日常的育成
- 1 学級経営の場で
- ――計画、調査、発表などの日常的な情報交流のためにメモを指導する――
- 2 家庭生活の場で
- ――小学一年生から学級全員の自学を定着させる三つのコミュニケーションと二つの技――
- 3 生徒指導の場で
- ――「論破」の指導で学級を向上的に変容させる――
- 後文 /柳谷 直明
- 付録 中学生用教材・論破作文マスターカード
シリーズ「国語科で育てる新しい学力」(全五巻)刊行の弁
監修・編者 野口 芳宏
格言に「その国の若者を見れば、その国の将来がわかる」というものがある。この文言の意味は深長かつ重厚である。どんな若者であるか、ということは、つまりその若者がどんな教育を受けたか、ということに他ならない。
まさに「人は、人によって人になる」からだ。その故にこそ「教育は国家一〇〇年の大計」とまで重視されるのである。
我らが母国、我らが祖国のこの日本で、最も重要なるその教育が今大きく揺らぎ、荒れ、悩んでいる。會ての日本の子どもたちは、世界でも上位の成績をとり続けてきたというのに、最近の国際的な学力調査では、どの学年でも、どの教科でも学力の低下が明らかになり、大きな社会問題にさえなりつつある。加えて、不登校やひきこもり、いじめや自殺や、少年非行など、子どもをめぐる状況は一向に思わしくない。今、日本の教育事情、子ども事情は明らかに一つの危機に瀕している。天然資源に乏しい我が国の最大の有力資源は人材、人智、人間力であるというのに、である。
このような状況に対して、文部科学省を中心とする関係諸機関は、何とか事態を好転させようと努力を続けている。それらの解決策の重要な二つとして「言語力の向上」が挙げられた。古今、東西を超えていわゆる基礎学力は「読み、書き、算盤」である。この三大基礎学力の内の実は二つが「言語力」である。「読み、書き」の力はすべての学習の基底になるもので、ここの弱体化はすべての学力の低下の元凶となる。今こそ「言語力の増強」が急務と心得るべき時だ。とりわけ、言語力増強の中核的教科である国語科教育の充電は焦眉の急、喫緊の要事である。折しも、学習指導要領の改訂期である。かかる事態の最中にあって本シリーズ全五巻を世に問う意義は大きく、責任もまた重い。我々は、第一線、第一級の教師仲間の全力を傾けて本書の執筆に当たったことを特記したい。
全五巻のシリーズタイトルを「国語科で育てる新しい学力」とした。パソコンに代表される電子機器の発展と普及は、様々な言語環境となって我々の日常生活のありように変化を来している。爆発的な情報機器の発達は、これまでには存在しなかった新たな社会問題をさえ生み出しつつある。機器を活用し、善用し、我々の福祉の増進を図り、具視していくためには、「人間」の原点を常に見つめつつ、最大限度の「文化」である「言語」の健全活用力の育成を常に心がけなければならい。明治図書出版社の老練編集長江部満氏の思いもまた本シリーズに熱く注がれている。
第一巻は『論理的な思考力の育成』である。論理的な思考の育成は、言語行動主体がとりわけ二一世紀の国際社会で求め続け、高め続けていかねばならない課題である。子どもの頃から、筋道立てて考える力を育成するための技法の解明が、この巻の主眼である。論理的な表現力の育成を期する第二巻の基礎を明らかにする巻でもある。
第二巻は、『論理的な表現力の育成』である。自分の考えを筋道立てて、相手に快く受け入れられるように表現する言語技術は、人間関係の複雑化や国際化や高齢化の進むこれからの時代に必須の資質となる。それへの指針を示す。
第三巻は、『表現のモラルリテラシーの育成』である。情報化時代と言われる現代は、情報の氾濫時代でもある。玉石混淆、善悪雑多な情報の飛び交う中で、「表現のモラル」の教育が極めて重要になってきた。新らしく重い課題だ。
第四巻は『コミュニケーション能力の育成』である。人と人とのかかわり合いが貧困になり、人心の空虚化が問題になっている。物質文明が極度に発達した現代の人と人との通じ合い、伝え合いの力をどう育成するかを明示する。
第五巻は『読書活用能力の育成』である。持てる知識の活用、応用の力に欠けると裁かれた我が国の子どもたちに、不足領域の新しい学力をどのように心して培ったらよいか。この新たな難問に正対した中学校教師の実践に注目あれ。
本シリーズが、賢明、有望な読者諸質の手に渡り、混迷に喘ぐ我が国日本の教育の打開への一指針となり暗夜を照らす一灯となることを私は確信している。本書に対するご批判、叱正を戴ければ幸いである。
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- 明治図書
- コミュニケーション能力の育成について具体的且つ明瞭に述べられている。2024/12/2450代・小学校教員