- まえがき
- まえがき(初版)
- 序論 読むという行動
- 一 読む生活の点描
- 二 読む行動と人生
- 本論 機能的読解指導の方法論
- 第一章 読解指導の問題状態
- 一 今日の現場的動向
- 主体性に立つ読解指導/ 教材類型に即した読解指導/ 科学性に立つ読解指導/ 思考力を伸ばす読解指導/ 技能重視の読解指導/ 目的や必要に応じた読解指導/ 批判と反省
- 二 指導方法上の問題点
- 教材研究の問題/ 指導形態の問題/ 指導過程の問題/ 問いと答えの問題/ 板書機構の問題/ 学習帳の問題/ 練習指導の問題/ 反省と課題
- 第二章 ことばの機能と読解指導
- 一 ことばの機能
- ことばの通有性/ ことばの役割/ ことばの機能/ ことばの表現的機能/ ことばの伝達的機能/ ことばの叙述的機能/ ことばによる統一的形成
- 二 読解行動の機能
- 価値ある読解行動/ 読解の生理/ 読解の心理/ 読解行動の深化
- 三 読解指導の機能
- 読解指導の目標価値/ 読解指導の内容価値/ 読解指導と興味/ 読解指導と能力
- 四 読解の指導過程
- 基本的な考え方/ 説明的文章の指導過程/ 文学的文章の指導過程/ 実用的文章の指導過程
- 第三章 説明的文章の読解指導方法
- 一 説明的文章の特質
- 知識や情報を与える簡単な文章/ 説明的な文章/ 説明文/ 解説文/ 報道文/ 論説文/ 評論文
- 二 説明的文章の指導留意点
- 目標価値の自覚/ 論理的構造をみる/ 順序をたどる/ 要点をつかむ/ 段落をおさえる/ 要旨を把握する/ 事実と意見を区別する/ 要約したり抜粋したりする/ 必要な文字・語句を身につける
- 三 説明的文章の読解指導例
- 1 順序をたどる技能の指導――説明文「はたらくヘリコプター」
- 2 要点をつかむ技能の指導―― 論説文「交通規則を守りましょう」
- 3 段落をおさえる技能の指導――説明文「です」と「だ」
- 4 要約と抜粋の技能の指導――解説文「報道と生活」
- 5 要旨を把握する技能の指導――論説文「道具と生活」
- 第四章 文学的文章の鑑賞指導方法
- 一 文学的文章の特質
- 童話/ 説話/ 詩/ 物語/ 伝記/ 小説/ 随筆/ 脚本
- 二 文学的文章の指導留意点
- 目標価値の自覚/ 作品の内容的価値と問題意識/ 形象に即応する/ 主題をとらえる/ あらすじをつかむ/ 段落相互の関係をおさえる/ 形態的特質をふまえる/ 情景や心情を思いうかべる/ 感想をまとめる/ 批判的な読みと批評/ 必要な文字・語句を身につける
- 三 文学的文章の鑑賞指導例
- 1 あらすじをつかむ技能の指導――童話「幸福」
- 2 段落相互の関係を考える技能の指導――童話「はだかの王さま」
- 3 主題をとらえる技能の指導――詩「海の若者」
- 4 感想をまとめる技能の指導――物語「最後の授業」
- 第五章 実用的文章の読解指導方法
- 一 実用的文章の特質
- 日記/ 手紙/ 記録/ 報告文/ 感想文
- 二 実用的文章の指導留意点
- めあての自覚/ 要点をおさえる/ あらましをつかむ/ 組み立てを理解する/ 主旨(意図)を把握する/ 中心的部分と付加的部分を見分ける/ 生活的適応を考える
- 三 実用的文章の読解指導例
- 1 あらましをつかむ技能の指導――研究記録「かたつむりの研究」
- 2 要点をおさえる技能の指導――日記「生活を見つめる」
- 3 主旨(意図)を把握する技能の指導―生活記録「農業の機械化」
- 4 組み立てを理解する技能の指導―研究記録「種の散り方」
- 5 生活的適応を考える指導
- 〔解説〕実践・実証の国語教育論 /須田 実
- あとがき
- 人名・事項索引
まえがき
私は教育・国語教育とりわけ国語科教育の理論的探究と実践を自らの生涯の仕事として取り組んでから既に半世紀の歳月を越えている。その間、小・中・高・大学の教師として実際指導や専門領域の講義等に携わってきた。普通は、それぞれの学校段階の教育に専念するのが常道であろうが、私の場合、勤務した学園の内部事情や要請によってそうなったのであるが、そのお蔭で一意、国語科教育を専門に探究生活を続けることができたことは幸せであったと思っている。実践面でも原理面でも、学校段階それぞれの特質や問題の所在を体験的に知ることができたからである。
そうした長い期間にわたって、私の体験し思索したことを論文や著作として発表したものは戦前戦後を通じて相当の数にのぼっている。無論、生来乏しい頭脳の私であるから、その内容価値については恥ずかしいものであることを私自身は承知しているつもりである。
ところが図らずも、この度、戦後現在まで、主として国語教育にかかわる専門誌や他の講座等に発表した諸論文を集成して著作集を刊行する運びとなった。これは偏に、長い歳月にわたる親しい人間的交流から最もよく私を知る明治図書の編集部長江部満氏の熱心な勧奨によるものであった。それは私が古稀を迎えたときからであるから早数年を経過している。世に問うからに多少とも現在に役立つものをという存念から、戦後のものだけに限定していただいたのである。それとても教育制度の改変をはじめ時代的推移の激しいときであったから、求めに応じてその都度発表したものが大部分である。したがって、幾つかの論文は時代的条件によって意義づけられるであろうし、別の研究論考では国語教育実践の本質観が問われるであろう。言わば国語科教育の変化の価値と不変の価値にかかわる私見の集積ということになる。また、気になることではあるが、依頼による随時の発表論文であるため、言説内容に重複する点もあるかと思うが已むを得ないこととお許しを乞う。しかし、そうした中にも国語科教育の在り方に対する私の信条や本質観についての一道はつらぬかれていると考えている。
私は、昭和三年に学窓を出て教師となるや、垣内松三先生を知る幸運に恵まれ、以来、先生を景仰しつつ言葉の教育にかかわる学理と実践的条理を学び、自分なりの摂取に努め続けてきた。さらにまた幸せにも、私を成蹊に招いて下さった西原慶一先生に、人間の生き方とともに実践国語、行為国語の本質と在り方を教えられた。終戦後いち速く、先生が創刊されて厳しい戦時下のため休刊になっていた「実践国語」誌を復刊して編集長の仕事を勤めたのも、国語愛の道一筋を歩まれた西原先生の精神態度をこの国の国語教育実践界に通じたいと思ったからである。私はお二人の先生の残された学問的・実践的道統の末に連なる者として、長い間、常に条理を求め実践に参入してものを書いてきたが、その返照が少しでもこの度の著作集に織り込まれ、そのことが読者に看取していただけたら私にとって望外の喜びである。もちろん、これまでに多くの先学や知友による啓発や導きなど計り知れない恩恵にあずかったことは言うまでもない。
この度の著作集の全体構想としては、国語教育学、国語科教育課程、表現指導方法論、理解指導方法論、教材研究方法論、読書指導論、評価指導論、授業研究法、国語教育史など広い範囲にわたる論考を組み入れて十巻に整序したが、その巻立ては次のような編成になっている。
第一巻 国語科教育の実践理論
第二巻 国語学力論と教材研究法
第三巻 表現教育の理論
第四巻 表現指導の方法
第五巻 理解教育の理論
第六巻 文学教育の方法論
第七巻 機能的読解指導の方法
第八巻 鑑賞指導の方法
第九巻 授業研究と指導技術
第十巻 国語科教育の実践史
なお本書、第七巻『機能的読解指導の方法』は、昭和三七年に刊行した自著をそのまま本著作集に収録したものである。本書は序論と本論に分けられており、本論は五つの章立てで構成されている。当時は学習指導要領(昭和33年版)が初めて基準性を持つことになり、「小・中の一貫性」や「基礎学力の充実」「思考力や心情の養成」が強調され、国語科教育の実践界では主義主張に基づく方法論の提言や実証的提案が活溌になされた時期であった。本書もそうした動向の中で刊行されたもので、論考の内容の基本的理念は、「ことばの陶冶価値を生きた関係においてとらえ、働いている場に即して言語能力や態度を身につけさせる」ことを目指し、そのために本来のことばの機能を重視するということにあった。その立場からの読解指導にかかわる方法論的探究が本書の内容となっている。今日の時点から見ると思索、構築、実証の各面で未熟かつ不備な点も多いが、根底となる考え方は現在も変わっていないし、また、ことばの機能をふまえた読解指導の方法論や、読解教材を文学的・説明的・実用的の三つに類別した実証的提案など、史的、先見的考察に何程かの示唆的意義をもつものと考えている。
なお、最後に認めておきたいことは、不敏な私が長い歳月の折々にまとめた貧しい論考が、著作集として世に出ることになったことについては、内心忸怩たるものがあるが、また一面、人間性の然らしむるところか、ひそかな喜びと深い感謝の気持が衝迫にも似た心情で私の心底を充たしているのも事実である。それだけに、本著作集の成るまでに終始変わらぬ励ましとご懇情をいただいた江部満氏をはじめ、苦労多い仕事を万事にわたって周到なお世話をいただいた間瀬季夫氏、長沼啓太氏にも心から感謝の意を表したい。
昭和五十九年九月 武蔵野の「草の葉文庫」にて /飛田 多喜雄
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