国語教材研究の革新3
「大造じいさんとガン」の<解釈>と<分析>

国語教材研究の革新3「大造じいさんとガン」の<解釈>と<分析>

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「大造じいさんとガン」の原作を基に,授業で教材化する際の解釈の方法,分析の方法を詳細に示し言語技術教育としての国語科教育の方向を示す。


復刊時予価: 2,728円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-342121-7
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 184頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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まえがき
T 椋鳩十作品の特質
一 動物児童文学の巨匠
1 略歴
2 動物児童文学の特徴
二 椋文学のテーマ
1 山窩小説と動物児童文学
2 愛情と生命の賛歌
3 椋文学における不易流行
三 文体の特徴
1 すぐれた文体効果
2 描写の手法
3 文体上の問題点
U 「大造爺さんと雁」の教材研究史における問題
一 教科書本文をめぐる問題
1 「大造爺さんと雁」の二つの本文
2 常体と敬体の問題
3 前書きの問題
4 まとめ ―二種類の本文をともに生かす道―
二 作品の主題をめぐる問題
1 「動物と人間の心の交流」をめぐって
2 「自負と自負の世界」をめぐって
3 「大造爺さんの自己変容」をめぐって
4 「人間と自然との共存・共生」をめぐって
三 作品の評価をめぐる問題
1 「武士道精神につながる弱さ」という批判をめぐって
2 「感傷的」「美文調」という批判をめぐって
V 〈解釈〉と〈分析〉とは何か
一 〈解釈〉と〈分析〉の概要
二 〈解釈〉と〈分析〉の実際
W 「大造じいさんとガン」の〈解釈〉
一 題材についての〈前理解〉
1 狩人とハンターのちがい
2 ガンとハヤブサのちがい
3 時代的な制約
二 「教材の核」をめぐる〈解釈〉
1 「教材の核」とは何か
2 〈タニシを五俵ばかり集めておきました〉の〈解釈〉
3 〈ガンがどんぶりからえを食べている〉の〈解釈〉
4 〈残雪は、むねの辺りをくれないにそめて、ぐったりとしていました〉の〈解釈〉
三 武田常夫氏の授業における〈解釈〉
1 〈ただの鳥に対しているような気がしませんでした〉の〈解釈〉
2 〈おりのふたをいっぱいに開けてやりました〉の〈解釈〉
四 作品との対話 ―〈大造じいさん〉の行為をめぐるさまざまな問いかけ―
1 〈大造じいさん〉は「甘い」か ―猟銃を下ろしたことの問題―
2 〈大造じいさん〉は「ずるい」か ―猟銃を使って戦うことの問題―
X 「大造じいさんとガン」の〈分析〉
一 「視点」の〈分析〉
1 「西郷文芸学」における「視点」の〈分析〉
2 「分析批評」の授業における「視点」論争 ―「三人称限定視点」か「三人称全知視点」か―
3 〈残雪〉の「視点」の問題
二 「対比」の〈分析〉
1 人物関係の対比
2 主役と対役 ―主人公は〈大造じいさん〉か〈残雪〉か―
3 イメージの対比
三 「反復表現」の〈分析〉
1 主要語句
2 事件の反復
3 畳語的用法
四 「構成」の〈分析〉
1 全体構成
2 クライマックス
五 「語り口」の〈分析〉
1 漢語
2 文末表現
3 文語調
六 「イメージ」の〈分析〉
1 イメージ語
2 色彩語
3 比喩
4 オノマトペ
5 誇張法
6 象徴
七 「省略」の〈分析〉
1 レトリックとしての「省略」
2 情報カット・場面カット
あとがき

まえがき

 私はこれまで、『文学教育における〈解釈〉と〈分析〉』(一九八八年、明治図書)、『文学教材で何を教えるか〜文学教育の新しい流れ〜』(一九九〇年、学事出版)、『国語教材研究の革新』(一九九一年、明治図書)という一連の著作の中で、〈解釈〉と〈分析〉という二つの方法を提案してきた。それは、広い意味では認識の方法(ものの見方・考え方・分かり方)である。そこには、文学をどのように読むか、文学の読みをどのように考えるか、文学の授業をどのように見るかといった根源的な問題から、一つの作品をどのように理解するかという実際的な問題に至るまで多様な問題が含まれている。

 しかし、私はその範囲を限定して、主に教材研究の方法というレベルで〈解釈〉と〈分析〉について論じてきた。国語の授業を組み立てようとするとき、何よりも教師がその教材をどう読むのかということが重要になってくるからである。こうして〈教材解釈〉と〈教材分析〉という二つの概念が設定されたのである。

 さて、先の拙著の中では、〈教材解釈〉と〈教材分析〉のちがい、特徴、長短得失などについてはある程度明らかにしてきたつもりであるが、具体的な教材研究への適用という点はまだ不十分なものにとどまっていた。今後の国語教育学研究や教材研究において〈教材解釈〉と〈教材分析〉という考え方や用語が根づいていくためには、いくつかの代表的な文学教材でその具体的な例を示していくことがどうしても必要になる。そうすることによって、はじめて私の年来の主張である「教育理論と教育実践の疎隔を埋める」ということも実現していくのではないかと思う。教材(さらには子どもや授業)を今までとは違った角度からより豊かに深くとらえることのできるような道標となる〈理論〉こそが最も望まれているのである。それは、実践現場から遊離した観念的な概念・用語であったり、授業研究を科学的なものに見せかけるための借り物であってはならない。

 こうして、〈教材解釈〉と〈教材分析〉という二つの方法を実際の文学教材に適用するという趣旨で、「国語教材研究の革新」シリーズを刊行することになった。第一弾は『「ごんぎつね」の〈解釈〉と〈分析〉』(一九九三年)、第二弾は『「スイミー」の〈解釈〉と〈分析〉』(一九九五年)であった。そして今回、第三弾として「大造じいさんとガン」を取り上げることにした。「ごんぎつね」「スイミー」と同様、「大造じいさんとガン」がすぐれた作品であり、すぐれた教材であるということがその最大の理由である。また、教科書教材としての歴史も非常に古く、現在でも五社の検定教科書(光村図書、東京書籍、学校図書、教育出版、大阪書籍)に掲載されているという事実もある。誰が見ても「大造じいさんとガン」は小学校を代表する文学教材と言えるだろう。(なお光村版以外は「大造じいさんとがん」という表記である。)

 もちろん有名教材であるだけに、雑誌・単行本・研究紀要などを見ても「大造じいさんとガン」を扱った教材研究や実践記録の類はきわめて多い。あまりにポピュラーすぎて、これ以上新しい知見や成果は得られないのではないかと言う人もいるだろう。しかし、それでもあえて取り上げる理由は、「ごんぎつね」や「スイミー」のときにも述べたように、「大造じいさんとガン」がまだ読み尽くされても研究し尽くされてもいないということ、また先行研究の諸成果が今日の教材研究や授業に十分生かされていないということである。「すぐれた文学作品はその意味が無尽蔵である」と言われる。「大造じいさんとガン」は古典的名作と評価されているだけに、現在を生きる読者にとって依然としてさまざまな意味づけが可能である。どの子どもにもその世界は開かれている。これからも教室の中で新しい読みが創造される余地は大いにあるのである。また一方では、児童文学研究や国語教育研究における多くの成果が必ずしも教師の共有財産になっていないということも相変わらず指摘しなくてはならない。そこには、「大造じいさんとガン」関係の文献・雑誌類が多すぎて、すべてをカバーできないという事情もあるだろう。先行研究の成果や問題点を概観、整理、考察しつつ、新しい知見(より豊かで深い読み)をも提示するような本が望まれるゆえんである。

 次に、本書の構成について簡単に触れておきたい。

 Tでは、「大造じいさんとガン」をより豊かに深く読むために最低限必要になると思われる作家論・作品論の成果をまとめた。「椋鳩十の人と文学」については、「大造じいさんとガン」の教材研究にあたって考慮しておくべきである。本書では、主に椋鳩十の動物児童文学のテーマ(主題)と文体に見られる特徴について述べた。

 Uでは、同様の観点から、「大造じいさんとガン」の教材研究史における重要な論点を取り上げた。特に本書では、どうしても避けることのできない問題として、教科書本文のちがい、作品の主題の捉え方、作品に対する評価をめぐる論議を整理して示すとともに、それに関する私見を述べた。

 Vでは、旧著でも展開してきた〈解釈〉と〈分析〉のちがいをまとめた。一言で言うと、〈解釈〉は個人の生活体験における暗黙的な知識・感覚などに基づく理解であり、〈分析〉は普遍的・客観的な規準(科学的なものさし)に基づく理解である。

 WとXでは、実際に〈解釈〉と〈分析〉によって「大造じいさんとガン」をより豊かに深く読んでいくことを試みた。もちろん、単なる作品の読みというレベルにとどまることなく、授業のねらい、発問・指示・説明なども想定した教材研究となるように心がけた。〈解釈〉においては、現在の子どもの生活体験と「大造じいさんとガン」の世界の接点という問題を意識しながら、作品のイメージを豊かに形成しつつ、登場人物に切実に同化・共感できるような読みのあり方を追求した。〈分析〉においては、それまでの考察で明らかになった作品の主題・人物像・イメージなどとの関連も意識して、七つの分析項目を設定した。〈分析〉はあくまでも〈解釈〉の内容を検証したり補強したり深化させたりすることがねらいだからである。また、WとXでは(個人の力の及ぶ限りではあるが)先行研究・実践の諸成果を参照し、それに学んだことも付け加えておきたい。本来取り上げるべき著書・論文・実践記録を漏らしている場合もあることだろう。ご教示いただければ幸いである。

 なお、本書WとXの教材研究編では、便宜上、光村図書版教科書(平成八年度用)の「大造じいさんとガン」の本文を用いた。また、それ以外の章(TとU)における椋作品の引用にあたっては、基本的に『椋鳩十の本』(全三十四巻・補巻二、理論社)を底本として用いた。

 本書に対する忌憚のないご意見・ご批判を期待したい。


  /鶴田 清司

著者紹介

鶴田 清司(つるだ せいじ)著書を検索»

◇略歴

1955年,山梨県生まれ

1979年,東京大学教育学部卒業

1985年,同大学院教育学研究科(博士課程)満期修了

現在,都留文科大学文学部教授

◇所属学会

・日本言語技術教育学会(常任理事)

・日本教育学会・全国大学国語教育学会

・日本国語教育学会・日本教育技術学会 他

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書
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      2021/3/22すずらん

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