- はじめに
- Part1 「言葉がけ」で子どもがもっとアクティブに!
- 子どもの参加意欲をうながす言葉がけ
- 前向きな言葉がけを生み出す分析方法
- 信頼関係を築く言葉がけの活用法
- 各領域・分野の授業に適した言葉がけの活用法
- 教材・活動の工夫から広がる言葉がけの活用法
- 子どものタイプに合った言葉がけの活用法
- 授業外で関わりをつくる言葉がけの活用法
- 本書の使い方
- Part2 子どもをアクティブに変える「言葉がけ」のアイデア100
- 歌唱・心の解放
- 1 偉大なるやる気の証だよ
- 【全学年:活動に対する前向きな気持ちに価値づけする】
- 2 しゃきっと立ちができているね
- 【全学年:活動に対する前向きな気持ちに価値づけする】
- 3 聴けている証だよ
- 【全学年:「聴く」という観点から前向きな気持ちに価値づけする】
- 4 その手はやってみようの心だよ@
- 【全学年:歌声につながる心をつくる】
- 5 その手はやってみようの心だよA
- 【全学年:身体的行動に着目して価値づけする】
- 6 その手は考えがありますのサイン
- 【全学年:正解かどうかではなく考えがあることに価値づけする】
- 7 その手は集中している証だね
- 【全学年:挙手をするプロセスに価値づけする】
- 8 勇気の証だよ
- 【全学年:一人ひとりが勇気をもっていることに価値づけする】
- 9 みんなの勇気に拍手を送るね@
- 【全学年:歌っていることに着目して価値づけする】
- 10 みんなの勇気に拍手を送るねA
- 【全学年:歌っていることに着目して価値づけする】
- 11 一緒に拍手を送ってくれてありがとう
- 【全学年:子どもたちの行動に着目して価値づけする】
- 12 反応してくれてありがとう
- 【全学年:子どもたちの行動に着目して価値づけする】
- 13 その足踏みがしっかり歌える準備だね
- 【全学年:身体的行動に着目して価値づけする】
- 14 手拍子でしっかり歌えているね
- 【全学年:身体的行動に着目して価値づけする】
- 15 できなくても大丈夫だからね
- 【全学年:身体的行動に着目して価値づけする】
- 16 成長するために学校があるから大丈夫
- 【全学年:身体的行動に着目して価値づけする】
- 17 わからないって素晴らしい
- 【全学年:問題が発見できることに価値づけする】
- 18 歌って動いて聴こえているんだね
- 【全学年:身体的行動に着目して価値づけする】
- 19 握手してくれてありがとう
- 【全学年:友達の優しさを感じ合うことに価値づけする】
- 20 席から離れたことがやる気の一歩目
- 【全学年:自分の前向きな心を知ることに価値づけする】
- 21 たくさん声を出してくれてありがとう
- 【低学年:声を出したこと自体に価値づけする】
- 22 怒鳴らなくても歌えるんだね
- 【低学年:声の出し方にも着目して価値づけする】
- 23 しっかり発見できて素敵だね
- 【低学年:友達の言葉で成長を感じ合えることに価値づけする】
- 24 どこからか素敵な声が聴こえる
- 【低学年:自身の声を見つめこだわって歌うことに価値づけする】
- 25 しっかり音楽についてきているね
- 【低学年:視覚的にわかる行動に着目して価値づけする】
- 26 体で音楽を感じているね
- 【低・中学年:視覚的にわかる行動に着目して価値づけする】
- 27 立ってくれた勇気が嬉しいな
- 【低・中学年:視覚的にわかる行動に着目して価値づけする】
- 28 とっても音楽的に感じたよ
- 【低・中学年:視覚的にわかる行動に着目して価値づけする】
- 29 好きな旋律の段を歌ってみてね
- 【中学年:旋律の特徴に着目するようにする】
- 30 どうしてそこが好きだと感じた?
- 【中学年:感覚的なものを言葉に表すようにする】
- 31 おっ! 誰かの声が響いている
- 【中・高学年:楽しみながら歌唱技能へつなげる(響き)】
- 32 どれくらい伸ばせるかな?
- 【中・高学年:楽しみながら歌唱技能へつなげる(息)】
- 33 その重なりが心地よかった?
- 【高学年:ハーモニー感覚を身につけるようにする】
- 34 少人数で歌おうとするってすごい
- 【高学年:ハーモニー感覚を身につけるようにする】
- 35 後半が二部合唱になるのってどうして?
- 【高学年:感覚を言葉にして思考と表現を深める】
- 器楽
- 36 しっかりタイミング合っている
- 【低学年:打楽器を鳴らすタイミングを発見するようにする】
- 37 みんなよく見ているなー
- 【低学年:遊びの中で楽器と仲良くなるようにする】
- 38 拍とリズムがわかっている大賞
- 【低学年:拍とリズムの違いを体感するようにする】
- 39 そんなに早く全部のドが弾けてびっくり
- 【低学年:「ド」の場所を把握するようにする】
- 40 どうしよう! 指が足りないよー
- 【低学年:指の切り替えを発見するようにする】
- 41 すごい! 自分で音符が読めているね
- 【低・中学年:読譜のつながりを感じるようにする】
- 42 いろいろな音を探してみようよ
- 【中学年:自分でいろいろな音を探してみるようにする】
- 43 今のどうやってできたの?
- 【中学年:タンギングを演奏に生かすようにする】
- 44 今の歌をリコーダーでも歌ってみよう
- 【中学年:演奏に対しての成功体験をつくる】
- 45 すごい! リズム大賞だー!!
- 【中学年:リズム読みに慣れるようにする】
- 46 同じパターンってあるのかな?
- 【中・高学年:リズム感と読譜のつながりを感じるようにする】
- 47 この曲って違う音からでもできる?
- 【高学年:しくみがわかり様々な開始音で演奏できるようにする】
- 48 ピッタリリズムできるかな?
- 【高学年:音とリズムの調和を体感するようにする】
- 49 耳でも目でもリズムがわかるってすごい
- 【高学年:感覚と理論を結びつける】
- 50 この曲って好きになってきた?
- 【高学年:技術習得を達成感につなげる】
- 音楽づくり・鑑賞
- 51 みんな発見名人だね
- 【低学年:自分の考えから鑑賞へつなげる】
- 52 みんなノリノリで特徴を聴けているね
- 【低学年:音楽の特徴を発見するようにする】
- 53 その特徴でさらに遊ぼう!!
- 【低学年:音楽の特徴を生かして身体表現を考えるようにする】
- 54 いろいろな言葉が言えている?
- 【低学年:一定の拍で様々な食べ物の名前を入れるようにする】
- 55 どの音楽が好きだった?
- 【低学年:鑑賞から身体表現へつなげ特徴を感じ取るようにする】
- 56 どうしてその旋律にしたの?
- 【中学年:つくった旋律に想いをもつようにする】
- 57 しっかりまとまりがわかっているね
- 【中学年:音楽のしくみを理解するようにする】
- 58 音楽の変化を感じ取っているね
- 【中学年:音楽の変化を感じ取っていることに価値づけする】
- 59 まだまだあるの?
- 【中学年:子どもたちの発想を大切にする】
- 60 本当にそうなっている?
- 【中学年:子どもの発見から活動を広げる】
- 共通事項
- 61 動きを変えている人がいるね
- 【全学年:音色をきっかけに言葉がけを広げる】
- 62 それはやる気も聴く気もあるんだね
- 【全学年:自由なリズムから言葉がけを広げる】
- 63 みんな楽しい笑顔いっぱいだよ
- 【全学年:速度をきっかけに言葉がけを広げる】
- 64 先生の旋律,変だった?
- 【全学年:旋律を知るうえで言葉がけを広げる】
- 65 どうしてそんなちっちゃくなっているの?
- 【全学年:強弱をきっかけに言葉がけを広げる】
- 66 流れの中でタイミングばっちり
- 【全学年:フレーズをきっかけに言葉がけを広げる】
- 67 おっ!! 音の距離がわかってきたね
- 【中・高学年:音程をきっかけに言葉がけを広げる】
- 68 最後の音でつられていないのすごい
- 【中・高学年:音の重なりをきっかけに言葉がけを広げる】
- 69 同じ音楽なのに動きを変えられているね
- 【中・高学年:転調をきっかけに言葉がけを広げる】
- 70 変な和音に気づいているね
- 【高学年:和音をきっかけに言葉がけを広げる】
- オンライン
- 71 先生の拍がおかしくなったら手を挙げてね
- 【低学年:画面越しでも拍の変化を見取る】
- 72 口の形で歌っているのが伝わってきたよ
- 【低学年:口の形から歌声に価値づけする】
- 73 画面に手が出ているのはやる気
- 【低学年:ゲーム性を生かして前向きな心を伝える】
- 74 みんな,指がしっかり変化しているよ
- 【中学年:リコーダーの運指から響きを想像させる】
- 75 もう先生と手が合ってきた人がいる
- 【中学年:手遊びを活用して身体的行動に価値づけする】
- 76 違いを感じ取っている意見だね
- 【中学年:しっかり聴けている事実をつくる】
- 77 音色を意識して探したのが伝わるよ
- 【高学年:音色の違いを楽しむようにする】
- 78 同じ響きになっている人はミュートを取ろう
- 【高学年:高音で響きをそろえる】
- 79 気づいたこと何でも書いてね
- 【高学年:しっかり聴き取っていることに価値づけする】
- 80 しっかり音感がついてきたね
- 【高学年:画面を通してハーモニーを体感するようにする】
- 困った場面
- 81 音楽室に来てくれてありがとう
- 【全学年:向上心をしっかりもっていることに価値づけする】
- 82 教科書を持てているよ
- 【全学年:向上心をしっかりもっていることに価値づけする】
- 83 一瞬,顔が上がったよね
- 【全学年:向上心をしっかりもっていることに価値づけする】
- 84 自分で席に戻れたね
- 【全学年:変化しようとしている心に価値づけする】
- 85 それぞれに成長があるんだね
- 【全学年:人それぞれに成長段階があることを共有する】
- 86 友達を誘ってくれてありがとう
- 【全学年:他者を見ることができる優しさをもつようにする】
- 87 一音にとどまっておくのって難しい
- 【全学年:みんなで空間を変えていく】
- 88 ○○君,舌痛い?
- 【全学年:教師は敵ではなく味方ということに気づくようにする】
- 89 一音だけで十分だよ
- 【全学年:前向きな心をもっていることに価値づけする】
- 90 このクラスって優しいね
- 【全学年:クラスという全体の優しさに価値づけする】
- 授業外での場面
- 91 今日も会えて嬉しいな
- 【全学年:子どもたちと小さな信頼関係を築く】
- 92 挨拶してくれてありがとう
- 【全学年:子どもたちと小さな信頼関係を築く】
- 93 その気持ちがよい挨拶をずっと続けてね
- 【全学年:未来への期待をもつようにする】
- 94 先生は,味方だよ
- 【全学年:子どもたちと小さな信頼関係を築く】
- 95 みんなの笑顔から元気をもらっているよ
- 【全学年:子どもたちに感謝を伝える】
- 96 先生も誘ってくれてありがとう
- 【全学年:子どもたちに喜びを伝える】
- 97 テーマ「一生懸命考える」
- 【全学年:子どもたちと信頼関係を築く】
- 98 明日も会えるの楽しみにしているよ
- 【全学年:明日への期待をもつようにする】
- 99 なんだかすごく成長を感じるよ
- 【全学年:子どもたちの変化に目を向ける】
- 100 みんな,大好き
- 【全学年:子どもたちと小さな信頼関係を積み重ねる】
- おわりに
- 参考文献
はじめに
私たち教師は,子どもたちにどれくらいの言葉をかけているのでしょう。
1日1日,きっと数えきれないくらいの言葉をかけていると感じます。その多さゆえに,どんな言葉をかけたか一つひとつを記憶できないのが正直なところです。
私のこれまでの教師生活を思い返してみると,一つの言葉で子どもたちとの関係が良好になった経験やその逆の経験もたくさんしてきました。関係だけでなく,子どもたちが一つの言葉から活動に前向きになってくれる場面や,その逆もたくさんあったように思います。それだけ言葉には強い力が宿っていると感じます。
冷静に考えると,一つひとつの言葉がけを大切にしながら教育しなければいけないと頭では理解できるのですが,実際に毎日多くの子どもたちに接していると,その日々の慌ただしさに一つひとつの言葉への責任が無意識に低下しネガティブ(ここでのネガティブの使い方は『感情的に怒る』という定義にします)な言葉をかけてしまった先生方もいらっしゃるのではないでしょうか。私もその一人です。
人は元々「ふざけている様子」「不真面目な様子」「無気力な様子」などのマイナス面が一番に目に入ってくる特徴をもっているように思います。いわゆる,人のマイナス部分の発見です。
例えば,クラスに35人子どもがいたとして,その中のたった1人が活動に取り組めていない場合でも,驚くほど目に入ってきて気になってしまいます。34人が前向きに活動しているのにもかかわらず,その1人が目に入ってくるというのは実はすごいことですね。感覚に任せて教育してしまうと,34人の前向きな様子を認める前に1人の子どもばかりにネガティブな言葉をかけてしまいかねません。
また,その逆で35人の中で1人が一生懸命やっている状況であった場合,その1人を探すのは容易ではありません。むしろクラス全体が崩れているように見えて,そのような前向きな子どもが存在することすら頭に浮かばず,教師は自信をもってクラス全体へ,ネガティブな言葉がけをしてしまう状況になりやすいのではないでしょうか。これは,その言葉がけをした先生が悪いのではなく,やはりマイナス面が見えてしまうという誰もが元々もっている素質であるように感じます。だからこそ,その人間としての素質を理解したうえで様々な状況に対応できる言葉がけを普段から考えていきたいですね。
では,そもそも子どもたちにネガティブな言葉がけをする理由は何でしょう。
きっと「子どもたちを痛めつけたい」と思っている先生は誰一人いないはずです。我々教師が願っている共通点は,言葉がけした後につながってほしい「すべての子どもたちの成長」だと思います。そうであれば,その言葉がけの先にある子どもたちの変化に目を向けて声をかけていきたいと考えます。
私の経験ではネガティブな言葉の先にある子どもの変化を見つめると「大人への憎悪」「自己肯定感の低下」「好奇心の低下」など,自分のイメージしている成長につながらなかったのが正直なところです。成長を願っているにもかかわらず,そのような結果になったことを見つめてみると,ネガティブな言葉がけは,その瞬間だけにスポットが当たってかけられている言葉だからではないでしょうか。何か問題が起きたときに,
「どうしてこうなったのだろう?」
「このような行動になっているのには何か理由があるのではないか?」
と考えることができたら,きっと子どもたちへの言葉がけは大きく変わっていきます。子どもをほめるときも叱るときも,それまでのプロセスに目を向けると,きっと自分自身の子どもへの言葉がけの変化を体感できると思います。これらは,実際の教育現場経験からの印象ですが,様々な研究者の著書でも「結果ではなくプロセスに目を向けた言葉がけを」(島村華子著『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』ディスカヴァー・トゥエンティワン,2020)という文章をよく目にするようになってきました。
ぜひ,子どもの「活動しよう!!」としているプロセスに目を向けて一緒に言葉がけを考えていきましょう。それでは,Let’s try!!
/岩井 智宏
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- 明治図書