- まえがき /瀬川 榮志
- 発刊によせて /岡井 眞壽美
- 第1章 今、 「国語教室」に求めらているもの
- /吉永 幸司
- (1)授業に責任を持つということ
- (2)指導している姿が見えるということ
- (3)言葉に対する感性・感覚を磨くということ
- (4)「伝え合う力」「考える力」を育てるということ
- 第2章 「伝え合う力・考える力」をのばす授業づくり
- (1)国語科学習に二つの光を当てる
- (2)「伝え合う力」を育てる
- (3)「考える力」を育てる
- (4)二つの視点と四つの研究領域
- (5)各領域研究の概要
- 第3章 話すこと・聞くことで「伝え合う力・考える力」をのばす
- 実践1 かぞくじまん大会をしよう
- 実践2 共同記者会見をしよう
- 実践3 広島修学旅行のプレゼンテーションで話し方名人を目指そう
- 実践4 フロアー参加のディベート学習
- とっておきコラム1〈話すこと・聞くこと〉
- 第4章 書くことで「伝え合う力・考える力」をのばす
- 実践5 スーパー○○博士になろう
- 実践6 出羽海部屋への応援メッセージを作ろう
- 実践7 クイズであそぼう
- 実践8 たずねてまとめよう
- とっておきコラム2〈書くこと〉
- 第5章 読むことで「伝え合う力・考える力」をのばす
- 実践9 おはなしどうぶつえんを作ろう
- 実践10 伝えよう、わが町の環境を守る工夫
- 実践11 「その本あるあるカード」を作ろう
- 実践12 未来について考えよう
- とっておきコラム3〈読むこと〉
- 第6章 総合的な学習とつないで「伝え合う力・考える力」をのばす
- 実践13 ちょっとすてきな依頼って?
- 実践14 ワールドフェスティバルをコーディネイトしよう
- 実践15 知らせよう、ボランティア
- 実践16 Eメールで返事を送ろう
- とっておきコラム4〈総合〉
- あとがき /帆足 文宏
まえがき
「新世紀の国語教育を拓く、高い理念と遠大な構想」
――新国語能力の発見と、国語科教育の体系化を図る研究――
中京女子大学名誉教授・全小国研名誉顧問 /瀬川 榮志
新世紀を拓く教育のキーワードに「生きる力」「心の教育」「自分さがしの旅」そして「学力の向上」などが提示されています。価値観の多様化、文明の発達と文化衰退との不均衡、人命軽視、道義の頽廃などの社会の状況に対応して、どのような教育を改革推進していくかは、極めて重要な課題であると思います。
このような時代に、国語教育の果たす役割は大きく、不易と流行の精神で一貫し、高い理念を掲げ遠大な構想を描き、一人一人の子供の幸せの実現につながる解決策を講ずる必要があります。
滋賀県小学校教育研究会の国語部会においては、わが国の国語教育の現状を分析し、「新世紀が求める国語教育の展開」を今日的課題としてとらえ、「『伝え合う力・考える力』をのばす授業づくり」(全小国研シリーズ7)を出版しました。
本書は、国語教育の本質・機能を的確に踏まえ「伝え合う力」と「考える力」の接点を明確にしています。国語教室経営のあるべき姿について、教師の資質や言語感覚を磨くことの重要性についても示唆しています。また「伝え合う力・考える力」をのばす授業づくりの方策が、実践的理論に基づいて述べられています。
さらに、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の領域ごとに説得力のある実践が紹介されています。
特に、「総合的な学習と国語科とをつないだ実践」は、私たちが疑問を抱き、悩んでいる時の課題を明快に解決し、すぐ授業に役立つ貴重な提案です。
国語教育研究について、輝く伝統と貴重な歴史を重ね、その価値ある実績を基盤に、未来に向けて新しい国語教育のあり方を提言する本研究会は、言語の機能を通して、子供の可能性を引き出し「正しく美しい日本語を駆使し、優れた日本人育成」に連動する「実践研究書」を企画・編集し、全国に向けて良質の情報を発信したということになります。
加えてこの研究成果には、新世紀を拓く国語教育の重要な課題が盛り込まれています。
一 新国語能力観の確立と系統表の作成
学校教育においては、国語科で何を指導するのか。精選された基礎・基本とは何か。――このことが一人一人の教師に的確に把握されないと、確かな国語力が定着する授業実現は不可能です。しかし、現実では、全国的な傾向として一単元・一教材、あるいは一単位時間の授業で「生き生きと言語活動を展開する過程で、確実に基礎・基本が定着した」という授業を見ることは極めて稀です。
残念に思うのは、学習指導案の指導計画にも、本時の展開においても、学習活動の中に定着すべき技能・能力が位置づけられていないことです。つまり「活動あって指導事項なし」のプランが現在でも作成されているという実情もあるということです。従って、実際の授業においても、いつ・どこで・どのように国語科の基礎・基本が定着しているかが不明であるということです。
本研究会では、「学習活動と技能・能力の組織化」を図り、新しい視点から、国語科で養う基礎・基本を明確にし、能力表を作成しています。
この研究は、新国語能力観を確立する契機となります。このことは、学力低下が社会問題となっている今、重要な研究課題に挑戦しているもので高く評価されます。
二 総合的な学習に生きて働く国語学習の開拓
戦後半世紀以上を経過した現在、国語科で培った基礎・基本が、他教科や日常生活に波及し、応用されているでしょうか。教科の中で最も授業時間数が多く、すべての教科や領域の基礎的教科ともいわれた国語科は、その研究の成果も高く評価されているといわれています。
しかし、生きて働く国語力が完全に定着しているとは断言できないと思います。
この現状を改革しない限り新しく創設される総合的な学習に生きて働く国語力を獲得することは実現しないと考えます。このような危惧についても、本書は的確に答えてくれます。「総合的な学習とつないで『伝え合う力・考える力』をのばす」実践は、「生きて働く国語力」とは何かを具体的な実践で証明しています。
また、第2章W総合―の中で、「総合的な学習の時間」で展開される言語活動をより豊かで確かなものにするために、必要な言語能力を重点的に育成する国語科の学習を意図的に設定する」と明言しています。つまり、国語科で身につけた言語能力が、どこかで生かされるであろう―というようなあいまいな考え方ではない―ということです。
本会の研究においては、国語科で総合的な学習はもちろん、他教科や日常生活にも生きて働く「統合発信力」が必ず獲得される―という「 世紀を拓く国語科教育」の中心課題とも連動するものであると考えます。
この「統合発信力」は、「伝え合う力」と「情報発信力」を分析し、機能的に統合した新言語能力です。
しかも、基礎的技能を定着し、その技能を生かして基本的能力を獲得し、さらに、その能力を波及・応用して総合的な学習や他教科に駆使・運用できる「統合発信力」を獲得させるという、まさに新世紀を拓く、螺旋的・段階的な国語科教育の体系を確立することに発展する研究であると確信しているのです。
以上、二〇〇一年・新世紀の第一年目に開催された第 回全国小学校国語教育研究会・滋賀大会に誕生した本書が新しい時代を国語科教育の充実で切り拓き、国語教育立国論の理論構想の展開に結びつく価値ある内容・構成であることについて述べました。
吉永幸司先生(滋賀県国語部会前部会長)の国語科教育への確かな理論と情熱のもと研究力・指導力れる先生方の組織力・結束力に敬意を表し、全国小学校国語教育研究会の研究史に、質・量共に充実した輝くページを加えていただいたことに深く感謝しております。
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- 明治図書