話すこと聞くことの活動事例集
教師による学習材の開発

話すこと聞くことの活動事例集教師による学習材の開発

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伝え合う活動のための音声言語教材の開発を共同研究で取り組み、さまざまな活動事例を小学校低・中・高学年から中学校段階まで学習材として問題提起する野心的な試みの完成


復刊時予価: 2,673円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-364814-9
ジャンル:
国語
刊行:
4刷
対象:
小・中
仕様:
B5判 176頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

まえがき〜教師による学習材の開発〜 /高橋 俊三
T 群読・読み聞かせ
一 読み聞かせ
二 音読「詩のアルバム」
三 ブックトーク
四 群読「ことばあそびうた」
五 全校群読「とべ! ゆうたろうトンボ」
六 群読「扇の的」(『平家物語』より)
七 群読「平泉」(『奥の細道』より)
U 聞くこと
一 質問の仕方(小学校中学年)
二 聞いて楽しむ(文学的教材)
三 質問の仕方(歩み寄りのゲーム)
四 聞き取り調査の概略
(1)太郎君の買い物(小学校二年)
(2)びん人形づくり(小学校三・四年)
(3)三日坊主(小学校三年)
(4)図書委員会のお知らせ(小学校五・六年)
(5)紅葉のこと(小学校五年)
(6)山田さんのスピーチ(小学校六年)
(7)運動会の応援練習(中学校共通)
(8)計画について(中学校一年)
(9)シャープペンシルの使用(中学校二年)
(10)小説家の死の告知(中学校三年)
(11)列車の乗り降り(高等学校共通)
(12)紙おむつと布おむつ(高等学校共通)
V 話し合い
一 ディベート(小学校高学年)
二 取り出しバズセッション(パネルディスカッションの立論づくりのために)
三 選択式パネルディスカッション(パネルディスカッションで考えを深めよう―容器を考える―)
四 ディベート(三・三ディベートと、「反駁を書く演習」)
W 話すこと
一 発声・発音(小学校低学年)
二 絵かきゲーム
三 私の宝物
四 私の主張
五 他者紹介
六 主張・演説
X 総合的学習
一 インタビュー「質問の仕方」(小学校高学年)
二 プレゼンテーション(小学校高学年)
三 会議の仕方(小学校高学年)
四 電話のかけ方(小学校高学年)
五 インタビュー(構成を考える・中学校前期)
六 代表の挨拶
七 累加型パネル・ディスカッション
八 会議の仕方
九 プレゼンテーション(中学校後期・高校)
◆ディベート論題集・論点集・やり方一覧
あとがき /鈴木 一史

まえがき〜教師による学習材の開発〜

 私は、今の教科書が、「教科書」ではなく「教科材集」にならないかと密かに期待している。さらには、「学習材集」にならないかとも期待している。

 「書物」とは「本」、あくまでも文字や絵が書かれ描かれた紙が綴じられた物である。そこには、音がない。話すこと聞くことは文字を以て記されることになる。それは、話すこと聞くことの実態ではなく、影である。例えば、スピーチの原稿が載せられていたとしても、それはスピーチそのものでなく、スピーチの記録である。しかも、内容の記録であって、どのように話されたかは分からない。例えば、「元気に話された」と解説が付記されていたとしても、その元気さを具体的に知る術はない。

 子どもたちの一人一人が、学習すべき内容の盛られた文字教材や音声教材や映像教材を、すぐに活用できる形で持っているのだとしたら、どんなに授業がやりやすいだろう。音声言語の指導は音声言語の教材で、という面が多いのだ。今はまだでも、そういう時代がすぐに来る。「教科材」と呼ばれる時代は、間もなく来るだろう。

 「書物」というと、また、立派な物、規範、典型、お手本というような感じがある。押し頂き、見習うものであって、批判したり、評価したり、ましてや改良したりすべきものではないとの感がある。書物に載せられた文章が読解できないとき、子どもたちは自分の読解力がないと思いこみ、その文章に欠陥があるからだとはちっとも思わないのは、そのためだ。

 子どもの作文例やスピーチ例や話し合い記録(文字でも音声でも)は、見本、お手本というより、改善策を工夫するために直していく元の材料という性格にならないか。そうなればもはや、それは「教科材」と呼ぶより「学習材」と呼ぶにふさわしいものとなる。

 この二つの期待を、今すぐ教科書に求めるのは無理だ。国語教育界の伝統というものもあるし、検定という問題もある。また、教科書が全国向けのものであって、ある地域や特定の集団のものではないということも、大きく関係している。ある程度の典型を求めざるを得ないのだ。

 それにしても、実践という場になると、目の前にいる子どもたちにぴたっと適合し、すぐに理解され、しかも高い効果をあげる学習材がないかと思う。そう考えるのは当然だ。学習指導要領も、音声言語教材の開発を勧め、小学校では「日常生活の中に話題を求め」て指導することを求めている(中学校では「広く話題を求め」となっている)。

 それならば、どのようにして教材を求めるか。このことに関して、私はこれまで二つのことを提案してきた。ここでもまたそれを提案したい。

 一つは、よい授業がよい学習材を生むという考え方をしようということである。それは、確かな事実でもある。確かに、よい授業がよい学習材を産み出すのだ。

 今日の授業はうまくいったと、満足感に浸ることがある。そんなとき、録画しておけばよかったと、ほぞを噛むことがある。授業を録音・録画する行為を特別なことと考えない、日常的な出来事とするようにしよう。音声言語活動はすぐに消えてしまうので、特に記録しておくことが大切だ。

 例えば、授業中に子どもの発言法を誉めようとしても、当のその子が覚えていないことがある。そのようなとき、録音や録画を再生してやれば、具体的によい点を指摘してやることができる。その子にとっては、誉められたという喜ばしい気持ちと、言語技術の習得と、同時に二つを得ることができるのだ。

 記録するのは音声でとは限らない。文字の記録であってもよい。バズ・セッションやパネル・ディスカッションなど話し合いの記録、プレゼンテーションの記録、群読の台本や制作過程の記録等々、それらは次の授業に際して、たいへん有効な学習材となる。授業や子どもたちの学習活動の記録を、日常的に取るようにしよう。記録することは、授業の点検・検討・反省につながる。プロの教師として大切なことでもある。

 提案の第二は、学習材を仲間と協力して作ろうということである。一人で作るのは大変だ。校内の仲間や、地域の仲間、また、研究会の仲間など、複数の教師が協力して作ってみよう。そして、それを交換し合おう。量も飛躍的に増えるし、質的にも豊かになる。

 ここに提供する学習材集は、協力して開発し、協力して活用するという考えのもとに作られ、その考えを推し進めるための例である。常日頃の授業によって得られたものや、子ども自身を前面に出せない場合は教師が演じているものなど、実践をとおして作成したものである。多くの先生方に利用していただき、学習材を改良し、活用法を改善していっていただければよいと考え、期待もしている。

 今回、音声教材は付けられなかったが、多くの活動例は録音してある。いつか、何らかの機会に紹介したいと考えている。今回もまた「声とことばの会」の総力を挙げて取りかかったつもりである。つもりであるというのは、私は何もせずに、編集委員を中心とした会員諸氏の活動を眺めていたが故の曖昧さと遠慮の混じったつぶやきの表現である。多くの執筆者による私的研究会の共著であるという性格上、明治図書編集長の江部満氏には一方ならぬお世話を頂いてしまった。これはつぶやきでなく、膝を正してお礼を申し上げる。


  平成一四年六月一三日   /高橋 俊三

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      明治図書

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