- 序/ 井上 一郎
- 基本図書を選ぼう
- /上田 啓子
- 一 読書生活と基本図書
- 二 実践「役に立つ本を選んで紹介しよう」
- 1 単元名・対象児童/ 2 教材/ 3 読書活動/ 4 単元の指導目標/ 5 単元の評価規準/ 6 単元観/ 7 単元の授業過程/ 8 実践の記録と解説
- 月間の目標を決めて読もう
- /岩乃 博美
- 一 目標を決めて本を読む
- 二 実践「『お話名人』になれるかな」
- 家族で読書を楽しむ
- /常田 望美
- 一 家族で読書を楽しむ
- 二 実践「家族と読書交換日記をしよう」
- なりたい時に読む本
- /加藤 知広
- 一 なりたい時に読む本を活用した読書活動
- 二 実践「科学読み物を読んで、言葉遊び絵本をつくろう」
- 本のオリエンテーリング
- /柴崎賀子
- 一 オリエンテーリングから本の世界に入る
- 二 実践「成功させようブックアイランド作戦」
- 執筆者紹介
序
1
最近、読書活動の重要性が強く認識されるようになった。学校や教室、さらには、公共図書館等を活用して多くの取組が行われるようになり、一定の成果を上げている。ただ、見過ごせない課題も明確になってきている。それは、読書活動は行われるのに、読書力を高めることに連動しない面があるということである。本を取り上げることそのものや、楽しく読むことの追求にとどまり、それらの読書活動が子ども個々の心の豊かさや考える力、狭くは読むことの力の育成に連動していないという傾向が見られるのである。前著『読書力をつける』上・下巻(明治図書、二〇〇二年一二月)では、そのような傾向を先取りする形で、国語科の単元でいかに読書力を付けるか、評価規準を明確にしながら、一つの作品において精読することと多読する活動をどのように統合的に扱えばよいのか、九〇のアイディア提案とともに実践研究したのであった。しかし、現状を見るとまだまだ活動が国語力や広義の読書力と結び付いていないという傾向は払拭されていないように思えるのである。
そのような停滞した現状に対し問題提起するかのように、国内や国際比較の調査結果が示され、読むことの力に課題があることを明確にしたのであった。国内での教育課程実施状況調査(二〇〇一年度・二〇〇三年度)の結果や国際比較調査(OECDによるPISA調査)の結果などがそれである。なかでも、説明文系統のテキストについての読解力が問題となっている。
これらは、調査として行われるが故に、課題設定や読書計画を立てたりするプロセスは省略され、精読する「読解」のプロセスに焦点が当てられた。特に、PISA調査では、「READING LITERACY 読むことの力」は、「読解力」という日本語訳が与えられたが、これは、日本で行われてきた本文をなぞるような読解とは全く違った広義の概念である。PISA調査における「読解力」は、次のように定義付けられている。
〈PISA調査における読解力の定義〉
自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力。
これらは、「読解力」の概念を広く採り、@多様なテキストに対応する、A読書行為の過程、つまり、「情報の取り出し、テキストの解釈、熟考と評価」といったプロセスに基づいた能力の調査を行っている。熟考・評価では、テキストを十分踏まえ、自分の考えを明確に記述すること、さらには、内容への好き嫌いや賛成・反対などは保留し、その文章や資料の妥当性を評価するというクリティカル・リーディングまでを問うものであった。これらは、前著で述べた「読書力」、すなわち、読書行為力と読書生活力を基軸に読書行為のプロセスに応じて読書様式やまとまった読書活動を組み合わせるという考え方とも合致している。
1 課題設定力
2 読書計画力
3 読書行為力
4 読書生活力
5 読書反応力(作品創造力)
6 コミュニケーション力(パフォーマンス力)
7 記録・評価力
ただ、「読解力」の議論は、これらのプロセスの内、読書行為力を最重点におくものであることに注意しなければならない。読解力の課題は、一つの作品を読書する行為過程としての〈第一のプロセス〉と、現実の読書生活に連続し、交流などを行うさらに大きな〈第二のプロセス〉の環の中に位置付けられるとともに、それらの中核の能力として十分に定着しなければならないものである。
実際、国内調査やPISA調査によって示された課題は、従来の国語科における読むことの学習を再検討させるのに十分な結果を示したとも言えよう。調査結果から今後の国語科のあり方を概観しておくと、次のようになろうか。
(1) 連続的な文脈を構成する文章に加え、チャートや表、資料、ポスターなど多様なテキストを読む図読力の育成の必要性がある。
(2) 実用的・現実的な生活場面における言語活動の体験に連続し、読書生活を豊かにする有効な資料として読む活動が位置付けられる必要性がある。
(3) 読むことは、作品の内容をなぞったり、鵜呑みにしたりすることではなく、読者の目的によって作品を解釈し活用する力の育成の必要性がある。
(4) 読むことは、読者が自己の考えを高めたり、まとまった感想や意見を構築したり、他の作品や現実と関連付けて評価することで完結するように学習活動を構成する必要がある。
(5) 読むことは、読む目的を確定することから始まり、―これは決して省略可能な活動ではない―、「本文」を読み、必要に応じて文脈を自己及び筆者と関連付け解釈すること、自己表現としてまとまった音読や語り・劇を行ったり、感想や書評及び様々な報告や意見など自己課題に応える「作品」の構築、そして現実生活の改善、といった一連の活動において完結する能力を育成する「読書行為のプロセス」を楽しむ能力であることを明確に意識し、かつその能力を育成する必要がある。
(6) 国語科のみならず、教育課程の様々な教科や活動を通して育成する必要がある。
このような課題に応えるためには、広義の「読解力」を育成する〈第一のプロセス〉と、現実の読書生活に連続し、交流などを行う〈第二のプロセス〉の環の中に読書活動を位置付け、その活動がどのような目的を持っているのか明確に意識することが重要だろう。
2
そこで、多様な読書活動を通して、今述べたような広義の「読解力」をどのように伸ばせばよいのか、理論面及び実践面から研究し、三冊のシリーズとして刊行することにした。理論編として『「読解力」を伸ばす読書活動―カリキュラム作りと授業作り―』、実践編として『「読解力」を伸ばす授業モデル集』上巻・下巻を刊行した。構成は、次のようである。
『「読解力」を伸ばす読書活動―カリキュラム作りと授業作り―』
T 日本の子どもの「読解力」―何が問題なのか
U 学校全体で取組む読書活動―何から着手するか
V 読書活動の二つのイメージ―自由読書と課題読書
W 読書活動のシステム化と授業改革
X 感想・評価のための言葉を身に付けよう
『「読解力」を伸ばす授業モデル集』上巻
序
基本図書を選ぼう
月間の目標を決めて読もう
家族で読書を楽しむ
なりたい時に読む本
本のオリエンテーリング
『「読解力」を伸ばす授業モデル集』下巻
序
オノマトペを集めよう
書店に愛読者カードを送ろう
本の三つ星レストラン
自分の詩歌集を作ろう
読書絵巻物の世界へようこそ
キャラクターカードを作って遊ぼう
『「読解力」を伸ばす読書活動―カリキュラム作りと授業作り―』では、教育課程実施状況調査やPISA調査が明らかにした課題について詳細に検討し、今後の改善点を述べた。『「読解力」を伸ばす授業モデル集』上巻・下巻には実践提案を収めた。実践提案は、読書生活を豊かにする方法や、目的を持って読んだり編集したりする方法、感想力を高める方法、多様なテキストを生かす方法、など多岐にわたる。実践に当たっては、次のようなことに留意した。
@ 指導目標や評価規準を明確にした単元観
このようなことは当然なのだが、従来の実践提案では、目標や評価規準が明確に示されていないことも少なくない。実践提案の内容をそのまま生かすような場合にも、それらを参考に新しい実践を考える場合にも、本書での実践提案をモデルに指導目標や評価規準を考えてもらいたい。
A 授業過程におけるまとまった言語活動としての読書活動の明確な位置付け
精読するだけでなくまとまった言語活動を行う言語運用能力が重要なので、読書活動を重点化したり、繰り返したりして定着するように図っている。
B 自己学習を重視した読書活動
読書は、自ら読むという主体性なしには成立しない。読書力を付けると言いながら、教師主導で読むことを強要したら必ずその場だけの読書活動に終わることになる。教師と子どもが話し合いによってまとめたことや考えたことを確認するようにする。
C 学校図書館の活用
学校図書館や公共図書館を活用するような課題を構想するようにし、読書生活を豊かにする。
D 学習の流れに沿って必要な学習資料の活用
学習資料を活用して自己学習を促すとともに、それらの記録が読書を続けることを支えるようにする。実践解説では、それらの資料の留意点や使い方を解説する。授業過程の学習活動を全て取り上げるのではなく、大事な学習を中心にして読みやすくする。
これらの実践とともに、前著で指摘しておいた感想・評価語彙の選定も『「読解力」を伸ばす読書活動―カリキュラム作りと授業作り―』で行っている。テキストに基づいて自分の立場や考えを明確に記述したり、文章や資料を評価するクリティカル・リーディングが求められたのにも応えるために、「傑作・力作・佳作」といった感想・評価語彙を定着させなければならないと考えられるからである。自分の考えや評価を求められても、それを記述する表現が見つからなければ書きようがないのであり、そのような指導が従来顧みられることもなく、感想や評価を求めてきたことへの問題提起としたかったのである。私は、種々の感想文や作文のコンクールの審査委員をしている。そこで、中央審査に上がってきた優れた子どもの感想文を対象に、小学校から高校までの系統を調べたが、感想・評価語彙は、残念ながらそれほど広がらなかった。小学校高学年ぐらいまでは広がるが、だんだん停滞するようになるのである。
選定に当たっては、類語辞典や国語辞典などを参考に選定した三〇三〇語を基盤に、実際の子どもの感想語彙を調べたり、作品などに付いている帯の評価語彙を調べたりした。それらについて、教師による専門家判定法を用いて選定した。低学年・中学年・高学年・中学校の四段階に分けて系統化し、合計八〇〇語を選定した。教室で実際に使用できるように「学年別配当漢字」に配慮した感想・評価語彙のワークシートも作成している。従来、このようなことに応える研究は、全くなかったと言ってよい。感想・評価語彙の研究は、解釈や熟考・評価を行う「読解力」を飛躍的に伸ばすことに貢献するものと期待される。
『「読解力」を伸ばす授業モデル集』上巻・下巻の刊行は、北九州国語教育カンファランスの会員が、前著に続いて「頑張って」実践に取り組んだ結果として結晶したものである。子どもたちの喜ぶ姿を見るのを楽しみに、実践者以上のことを望まず教師生活を送ろうとする会員を見るにつけ、本当に尊いことだと思う。長い間、読書活動を中心に研究に取組んできたことで、前著と同様に、高い水準の実践研究書となったものと自負する。
最後になったが、刊行に当たっては、明治図書の石塚嘉典氏、松本幸子氏にお世話になった。表現は簡潔だが、深い謝意とともにここに記しておきたい。
二〇〇五年九月 文部科学省教科調査官 /井上 一郎
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- 明治図書