- 序 文 国語学力向上の解決策は、「到達度チェック」に徹した授業開発が原点 /瀬川 榮志
- まえがき /中村 泰夫
- T 小学校第五・六学年の「話すこと・聞くこと」の国語学力到達規準の系統表
- 学習指導要領に示された活動例を精選し国語学力の実態を明らかにしている。チェックカードのメリットや活用のポイントを示し、チェックカードを活用した補充指導や評価・評定を紹介している。
- 1 学習指導要領の内容分析精選による到達規準表
- 2 到達度チェックカードの作成と活用
- 3 到達度チェックの結果による補充指導(習熟度に応じた指導)
- 4 到達度チェックの結果と評定への活用
- U 小学校第五・六学年の『到達度』チェックカード
- 活動名〈五年〉
- 【スピーチ】野外活動で体験したことを分かりやすく伝えよう
- 【インタビュー】身近な人にインタビューをしよう
- 【発表】心に残った本を紹介しよう
- 【討論会】二組みに分かれて話し合おう
- 【話し合い】問題解決に向けて話し合おう
- 活動名〈六年〉
- 【スピーチ】小学校生活の思い出を語ろう
- 【報告】情報を集めて報告し合おう
- 【座談会】バズ・セッション形式で、話し合おう
- 【討論会1】肯定・否定の立場から話し合おう
- 【討論会2】パネルディスカッション形式で話し合おう
- V 到達規準に達しない子への支援策
- 到達規準に達しない子どもへの支援策を詳細に紹介している。これまでの複数の実践を基に、つまずきが予想される基礎・基本の分析と対策を示し、ワークシートを活用した効果的な補充指導の例を紹介している。
- 1 即フィードバック学習で補充指導
- 2 つまずきが予想される基礎・基本の分析と対策
- 3 補充指導の実際
- 4 補充指導の効果を上げるために
- あとがき /中村 泰夫
序文
国語学力向上の解決策は、「到達度チェック」に徹した授業開発が原点
〜「『到達度』チェックカード」で授業を変える〜 中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
今、学力向上が問題になっていますが、子供の基礎学力の低下は国力の衰退につながります。学力を向上させるためには、国語学力を高めることが前提条件となります。国語学力を確実に向上させるには、国語科教育で「生きて働く基礎・基本」とは何かを明確にする必要があります。その理由は、基礎・基本の解釈や主張にいろいろな考えがあるからです。従って、現時点では現場の先生方がその実体を的確に共通的に把握し体系・構造化することが難しいのです。このような状況ですので、現場においては「何を、どう指導してよいか」がはっきりとつかめない状態にあるのではないかと考えています。勿論、国語科教育について深く研究し実践を究明している先生方は日々の授業において「生きて働く基礎・基本」を確実に定着→習得→獲得させる研究に真剣に取り組んでいると思います。
このように考えていくと、今、最も重要な課題は「生きて働く基礎・基本」とは何かについての定義や実体を明らかにすることにあると確信しているのです。いうまでもなく学習指導要領に示されている目標や内容が基礎・基本ですが、それを規準として日々の授業に的確に指導できるように組み立て直す必要があります。つまり、児童・生徒の言語能力の実態に即して国語力が生きて働くように螺旋的に系統化し、指導しやすいように基礎・基本の実体を分かりやすく教えやすいように組み立てなければなりません。
国語学力としての基礎・基本の実体が的確に把握されないと「国語学力を測る到達度」もはっきりつかむことができないことになります。現在、少人数による習熟度別指導の実践が重視されています。しかし、習熟度とは何か、基礎グループや応用グループあるいは、話題別グループなどに分かれて指導する場合に評価規準をどう設定すればよいか、悩み迷っている学校や先生方が多いのではないかと推測しています。この難しい問題を解決し、個に徹した完全習得の習熟度別指導を成功させるためにも基礎・基本を明確にして、到達度を的確に設定しなければ、その実践も不可能ではないかと危惧されるのです。
それでは、「国語学力の到達度」を明確にして完全習得の指導を実現するためにはどうすればよいのでしょうか。
この重要課題を解決する手順や方法について考えてみます。
○生きて働く国語力を身に付けるために「基礎・基本・統合発信力」の螺旋的系統を基調とした国語科教育の体系化を図る。つまり、基礎的技能が基本的能力に生きて働き、その技能が基本的能力に応用し、さらにその能力が統合発信力に波及しその力は、他教科の学習や総合的学習に駆使・運用される。この体系化に基づく国語力の到達度を設定する。
○国語学力の到達度を設定する原点はいうまでもなく、「学習指導要領」に拠ることである。小学校並びに中学校の各学年の目標や内容を的確に押さえ、児童・生徒の言語能力の発達段階に即してそれぞれの学年の到達度を設定しなければならないのである。従って、各学校においては、螺旋的系統の条件にあった国語科で育てる能力表を作成して、カリキュラムを編成する必要がある。
○学習指導要領に示された活動例を精選し国語学力の実体を明らかにする。学年の発達段階に即して最適な言語活動を精選する。しかし、学習指導要領の活動二七例からその学年に適した活動を選ぶだけに止まってはならない。精選した活動を通してどんな基礎・基本が定着するかを明らかにすることが大切である。そうしないと、「活動があって指導事項がない空転学習」となる。
○具体的な言語活動を設定して技能・能力の「段階的組織」を明確にする。これまでの国語科教育の実践においてはこの研究が欠落していた。例えば学習指導要領の「手紙を書く」という活動を子供の具体的な生活場面や目的・相手意識に応じて、その活動の展開過程で基礎的技能や基本的能力がどのように作動し定着していくかという技能・能力の「段階的組織」を分析構造化していなかったのである。
○技能・能力の「段階的組織」によって到達規準を設定し指導計画を作成する。「生き生きと言語活動を展開する過程で確実に基礎・基本が定着する」.これがよい授業の条件であり、指導の原理・原則である。技能・能力の上位・下位関係を的確に構造組織化してこそ初めて国語学力の実体が明らかになる。絶対評価徹底可能の国語科指導計画もこのような能力観・評価観・指導観によって作成される。
○評価規準と到達度チェックを位置付けた指導計画で授業を展開する。評価規準は、「国語への関心・意欲・態度、話す・聞く、書く、読む、言語事項」の五つの観点によって構成される。指導計画には当然この五項目が記載される。また、学習活動・技能・能力を重点化し、一単位時間における学習の評価規準の項目も設定する。加えて評価方法と教師によるチェック欄を設けることも重要な条件である。
○授業の展開過程で評価規準を設定し学習者が自力で到達度をチェックする。授業展開にあたっては、「わかる→かわる→できる」や「レベル@→レベルA→レベルB」などの自己実現過程並びに易から難へ生きて働く力のレベルアップによる行動過程を重視する。このプロセスに即して評価規準を設定し評価方法を工夫する。この学習で習得して言語行動力としての学力を他教科や日常生活に波及・応用する。
○学力向上の「説明責任」を果たす。「到達度チェックカード」を開発する。文部科学省は学習指導要領の「最低基準化」や「目標に準拠した絶対評価」を提示した。また、公教育における学力保障の「説明責任」も求めている。
国語学力向上の「結果責任」を完全に果たすには、日々の授業で評価規準を明確にし、絶対評価事項を段階的に設定して到達度を個に応じて高めていくチェックカードが必要である。
本書『国語学力を測る「到達度」チェックカード』は、以上の理論的根拠に基づいて小学校九巻、中学校三巻計一二巻を企画編集しました。国語科教育における小・中学校の関連を重視することは今後の重要な課題です。「二十一世紀の国語教育を創る会」においては、これまで国語科教育の体系化(螺旋的系統による基礎・基本・統合発信力)と生きて働く国語力を獲得する指導法の組織化(レベルアップによる学習のシステム化)について研究してきました。本書では、その実践理論をさらに発展させ「到達度チェック法」の開発によって一人一人の子供の可能性を信じ伸ばすために「生きて働く国語力」の定着の保証や「説明責任」を果たす具体策をまとめました。
なお、本企画は、「国語学力アクションプラン」シリーズの一環として位置付けています。つまり、『国語力をつける「基礎・基本・統合発信力」ワーク』〈全七巻〉並びに『小学○年の国語学力・絶対評価で鍛える』〈全六巻〉『日常的な評価活動を国語科授業に生かす』〈全四巻〉『国語学力を高めるモデル学習指導案』〈全四巻〉等を継続編集出版して二十一世紀の国語科教育の改革を構想し新しい道を拓く努力をしています。
本書の企画・編集にあたっては、各領域・各学年の編著者並びに編集担当の先生方に「子供を愛し研究に徹する」理念・信条・熱い情熱をもって全力投球で対応いただきました。よき研究者との出会い再会に感謝しているところです。榊原良子先生は企画から編集まで、確かな実践理論を踏まえ本書の質的向上に誠心誠意尽力しました。吉本清久先生はサンプル原稿作成や情報提供並びに事務連絡を献身的に協力してくれました。明治図書の教育図書企画室代表の江部満様には本書の企画から出版まで心温まるお励ましと力強いご支援を頂戴しました。
本書が国語教育立国論の理念究明と研究構想並びに実現に連動することになれば〜と祈念しています。
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- 明治図書