- はじめに
- 1章 PISA型読解力の向上の構想と展開
- 1 国語科として,PISA型読解力向上に取り組む
- 2 PISA型読解力の課題と国語科授業の改善
- 2章 PISA型読解力向上の学習問題
- §1 テキストを理解・評価しながら読む力を高める学習問題
- 事例1…課題に即応した読む能力の育成〈3・4年〉
- T−1 問題1
- T−2 問題1の設問と解説
- [問題1の解説]
- U−1 問題2
- U−2 問題2の設問と解説
- [問題2の解説]
- V−1 問題3
- V−2 問題3の設問と解説
- [問題3の解説]
- 事例2…評価しながら読む能力の育成〈5・6年〉
- T−1 問題1
- T−2 問題1の設問と解説
- U−1 問題2
- U−2 問題2の設問と解説
- V−1 問題3
- V−2 問題3の設問と解説
- §2 テキストに基づいて自分の考えを書く力を高める学習問題
- 事例3…日常的に・実用的な言語活動に生かす能力の育成〈3・4年〉
- T−1 問題1
- T−2 問題1の設問と解説
- [問題1の解説]
- U−1 問題2
- U−2 問題2の設問と解説
- [問題2の解説]
- V−1 問題3
- V−2 問題3の設問と解説
- [問題3の解説]
- 事例4…テキストを利用して自分の考えを表現する能力の育成〈5・6年〉
- いろいろな国の子どもの夜ふかしに関する比較調査の結果
- (1) 問題
- (2) 設問
- (3) 解説
- いろいろな国の子どもの虫歯に関する比較調査の結果
- (1) 問題
- (2) 設問
- (3) 解説
- 日本の農業に関する意識調査の結果
- (1) 問題
- (2) 設問
- (3) 解説
- §3 様々な文章や資料を読む機会や,自分の意見を述べたり書いたりする力を向上させるワークシート
- 事例5…多様なテキストに対応した読む能力の育成〈3・4年〉
- 〜地域の特産品(お茶)を調べる学習を通してポスターや文章で表現する力を育成する〜
- (1) 合言葉「ひかる」
- (2) 単元誕生
- (3) 単元「茶ームポイント,茶ーんと伝え隊」
- (4) ワークシート作成上の留意点
- (5) ワークシートの実際T
- (6) ワークシートの実際U
- (7) 出合いを常につなぐ意識
- 事例6…表やグラフに示されている内容からの課題〈6年〉
- 日本の食料事情
- (1) 問題
- (2) 設問
- (3) 解説
- 保健室の利用状況
- (1) 問題
- (2) 設問
- (3) 解説
- 食を考える
- (1) 問題
- (2) 設問
- (3) 解説
はじめに
本著・『小学校国語科PISA型読解力向上の学習問題と解説』を意図的・計画的に活用し,本来の国語力向上という教育効果を高めるためには,次の二つを確認する必要がある。
一つは,日本の「読解力」と「PISA型読解力」とは同じ内容か
国語科本来の国語力向上を推進するためには,従来の「国語科」で育成してきた「読解力」と,「PISA型読解力」とを比較する(テキストの解釈)必要がある。
「読解力向上に関する指導資料―PISA調査(読解力)の結果分析と改善の方向―」(文部科学省 平成17年12月)に拠れば,PISA調査における「読解力」とは,「自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考する能力。」(P1)と定義されている。この定義を受けて,次のような解説が加えられている。
このような定義の下で,「義務教育終了段階にある生徒が,文章のような『連続型テキスト』及び図表のような『非連続型テキスト』を幅広く読み,これらを広く学校内外の様々な状況に関連付けて,組み立て,展開し,意味を理解することをどの程度行えるかをみる。」ことをねらいとしてこの調査は実施された。〜略〜。
したがって,特定の学校カリキュラムがどれだけ習得されているかをみるものではないこと,我が国の国語教育等で従来用いられていた「読解」ないしは「読解力」という語の意味するところとは大きく異なることに注意する必要がある。
(P1,下線部は,引用者。)
この理由で,PISA型読解力の向上は,学校教育の基盤となる国語科はもちろん,全ての教科と「総合的な学習の時間」等の領域とで取り組むべき重要な実践課題である。さらに,付言すると,「読解力」の「定義や内実」抜きに,国語科だけの「読解力の低下」を決めつけることはできない。
二つは,国語科の成果と根本的課題とは何か―国語力向上に取り組むために
学校教育の基盤として,国語科がPISA型読解力の向上に参画するためには,確認すべき重要なことがある。それは,国語科の成果と根本的課題とは何かということであり,「国語科」は,本当に「学力低下」していないのかということである。
まず,これまでの「国語科」の「学力」の実現状況やその推移は,「平成13年度及び15年度教育課程実施調査」から読み取ることができる。この調査は,学校教育・国語科について,全国規模で実施されたものである。
この調査に拠れば,次のような成果を確認することができる。
@15年度調査で使用された13年度調査の同一問題について,第5学年では,「前回を有意に上回るもの」が4問に対して,「〜下回るもの」が2問である。第6学年では,「前回を有意に上回るもの」が9問に対して,「〜下回るもの」が3問である。この観点に限るならば,従来の国語科は「学力低下」ではない。良好と評価できる。
A「前回と有意に差がないもの」は,第5学年では,「〜上回るもの」と合わせると,89.5%である。第6学年では,「前回と有意に差がないもの」は,「〜上回るもの」と合わせると,85.0%である。結論として,過去の同一問題に限るならば,従来の国語科は「学力低下」ではなく,良好と評価できる。
本著・『小学校国語科PISA型読解力向上の学習問題と解説』のねらいと願い
では,国語科の根本的な課題は,何か。それは,「前回を有意に下回るもの」である。例えば,「自分の立場を明確にし,考えをまとめる(書きまとめたり記述したりする)問題」であり,文学的な文章では,「表現の特色を整理したり評価する(書きまとめたり記述したりする)問題」等である。これらは,無回答の問題でもあり,さらに,これらの問題傾向は,「PISA」調査結果と同様なのである。つまり,従来の国語科の根本的な課題解決とPISA型読解力向上とは重なるのである。
この根本的な課題解決のため,国語科は,現行の学習指導要領(書くことの時数の明示と「C読むこと」領域)も,元年度版(書くことの時数の明示と読書活動と学校図書館の利用等)も昭和52年度版(書くことの時数の明示,読書活動と学校図書館の利用等)も,目的や場面に応じて適切に文章表現できる能力や目的に応じて的確に読み取る能力等を重視してきたのである。
そこで,本著・『小学校国語科PISA型読解力向上の学習問題と解説』は,言語の教育という国語科の立場から,子供たち(学び手)の「国語への関心・意欲・態度」と「テキストの中の情報の取り出し」とを大切にしながら,「テキストの解釈」(書かれた情報から推論して意味を理解する),「熟考・評価」(書かれた情報を自らの知識や経験に位置付ける)学習内容と方法とを,発達段階を考慮しながら作成したものである。
本著・『小学校国語科PISA型読解力向上の学習問題と解説』は,義務教育終了段階である中学校・国語科との関連を図り,全国の新進気鋭の実践研究者の協力を得て編集されたものである。さらに,この学習問題と解説が,全国の「各学校」の実態に応じて,活用されることを祈念したい。
2007年3月 編者 /小森 茂
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