- シリーズ発刊に寄せて
- まえがき
- 第1章 なぜ,いま「つながる力」か
- 1 世界の中の日本人の幸福度
- 2 私たちの幸福度
- 3 日本人のつながり方
- 4 「閉じた乏しい人間関係の」国,日本
- 5 人間関係形成能力と学習指導要領
- 6 人間関係形成能力とは
- 7 安全基地と仲間
- 8 今こそ,他者とつながる力を子どもたちに
- 第2章 すべては安全基地からはじまる
- 1 1年生担任のミッション
- 2 自らつながりを求める子どもに
- 第3章 人間関係形成能力を育てる学級経営365日 1年
- 1 春休み 自分からつながる
- 1 子どもたちとの出会いに向けて園とつながる
- 2 入学式に向けて同僚とつながる
- 3 1年生担任でつながる
- 4 自分のための時間をもつ
- Column1 「謙虚さ」の罪
- 2 4月 3つの基地をつくる
- 1 入学式で「学校」びらき
- 2 学級びらき
- 3 学年びらきで,つなぐ大人の手を増やす
- 4 授業びらきで,つなぐ手をつくる
- 5 3つの基地をつくる
- 6 担任としての5つの決意
- 3 5〜7月 自らつながる集団づくり
- 1 学級目標で学級づくりに参画する
- 2 係活動
- 3 当番活動
- 4 つながりを感じながら学習の舵取りにチャレンジする
- 5 共感して聞くスキルを養う「学級会」
- 4 夏休み 仕事・自分・子どもたちのための1か月
- 1 夏休み前半〜勤務日・夏休み明けの自分のために〜
- 2 夏休み中盤〜「自分の」夏休み〜
- 3 夏休み後半〜勤務日・夏休み明けの子どもたちのつながりのために〜
- 5 9〜12月 3つの基地から船で漕ぎ出す
- 1 「ゆらぎ」を防いでつながる
- 2 行事でつながる
- 3 リーダーとつながる
- 4 3つの共感力でつながる
- 5 学ぶ集団としてつながる
- 6 冬休み 所要時間5分の「のりしろ」づくり
- 1 3学期への「のりしろ」
- 2 ひとくふう
- 7 1〜3月 「思い」を大事に過ごす3か月
- 1 話し合いの集大成
- 2 6年生とのつながりに感謝する
- 3 学級じまい
- Column2 隣のクラスも幸せにする
- あとがき
まえがき
「つながる力」って,何でしょうか。
教員をしている友人たちに聞いてみると,こんな答えが返ってきました。
・相手を知ること
・教員と子どもの縦のつながり,子ども同士の横のつながり
・人に貢献しようとする行動や,人にヘルプを出せるような学び合い
・相手の思い描くこと(未来)を想像して行動すること
「つながる力」と一言で言っても,そこから想起されることは様々です。そして,そのどれも大切なことです。
私が,「つながる力」と聞いて思い出す子がいます。Mさんです。
Мさんは,「変わった子」という申し送りの子でした。ふわふわと雲の中にいるかのような言動をしているかと思いきや,注意した男性教員に「は?誰に言ってんの?」と反抗的な態度を取り,怒り狂って机を投げるようなこともありました。当時Mさんのクラスは学級崩壊状態であり,彼の言動は荒れを助長しているかのようにも見えました。
そんな彼のいる学級を受け持つことになり,付き合っていくと,飄々として見える反面,とても繊細な心をもっていることが分かりました。無事1年が終わろうとしていたとき,お母さんからお電話をいただきました。
「先生,あの子は先生に会えて幸せだと思います。Мは勉強が苦手ですが,授業は楽しいって言うんです。みんながあれこれ意見を出して,それを先生が嬉しそうに見ていると,『いいね,いいね』と思うらしくて」
Мさんは,確かに勉強は好きではありませんでした。でも,授業にはいつも積極的で,ユーモアもあって,そんなМさんのつくる楽しい雰囲気に私も助けられていました。
結局,Mさんとは,4年生から6年生まで担任として伴走しました。その後,Мさんが卒業してから,偶然街中でお母さんにお会いしました。
「Мは,ちょっと中学校の生活がつらいらしいですが,そんな時は思い出すんだそうです,先生とみんなと過ごしたことを。子どもにとって,小学校で素敵な先生や友達と出会うことは,その後の人生の支えになるんですよ」
つながる,というのは,案外そういう素朴なことなのかもしれません。Mさんのように,思い浮かべるだけで,力をもらえる「何か」があること。子ども時代につながった経験は,その後のつながる力の源となっていくのだろうと思います。
つながる力があれば,どんな困難に出会っても「きっとなんとかなる」と自分自身を鼓舞することでしょう。それは,学びへも転化され,学ぶことが孤独な作業ではなくなり,自分も友達も幸せになる方法を探していきます。それがゆくゆくは,社会へと還元されていくことを願っています。彼らが,彼ら自身の手で社会をよりよいものへと変えていく……夢のようなことだと思いますか。でも,教員はそういう奇跡を起こせる仕事だと思います。
この本に書いたことが,読まれた方の心に,小さくても大きく広がっていく波紋となって,誰かとつながる一助になりますように。
/北森 恵
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- 明治図書
- 著書の温かさ、学級の育ちを感じることができて、涙が出そうになりました。1年生の学級経営について無理なく、ステップを踏んで書かれているのがよかったです。月別になっているので見通しがもてました。2024/4/1250代 小学校1年生担任