- 序文 国語力の誤りつまずき是正に対する技能・能力の鍛練・錬磨を導入したトレーニング学習法開発
- /瀬川 榮志
- はじめに
- /吉本 清久
- T 誤りやすい主題の捉え方とその指導
- 一 主題を読み取る価値
- 二 主題把握の実態
- 三 誤りやすい主題の捉え方の傾向と指導のポイント
- 四 1−2年のトレーニング内容
- U 主題を直観的に捉えられない場合の是正トレーニング
- □主題を直観的に捉えられない場合の是正トレーニング内容
- ○お話の つながりを とらえよう
- がっちりコース /ばっちりコース
- ○とうじょうじんぶつ(お話に 出てくる 人)の ようすを 読みとる
- がっちりコース /ばっちりコース
- ○お話の おもしろさを 読みとる
- がっちりコース /ばっちりコース
- ◇解答例
- V 登場人物の様子を捉えられない場合の是正トレーニング
- □登場人物の様子を捉えられない(豊かな想像が働かない)場合の是正トレーニング内容
- ○とうじょうじんぶつを とらえる
- がっちりコース /ばっちりコース
- ○だいじな できごとを 読みとる
- がっちりコース /ばっちりコース
- ○とうじょうじんぶつ(お話に 出てくる 人)の 気もちを 読みとる
- がっちりコース /ばっちりコース
- ◇解答例
- W 巧みな表現を味わえない場合の是正トレーニング
- □巧みな表現を味わえない(作品の生命につながる言葉や文を捉えられない)場合の是正トレーニング内容
- ○ばめんごとの できごとや とうじょうじんぶつの ようすを 読みとる
- がっちりコース /ばっちりコース
- ○ばめんの ようすを 読みとろう
- がっちりコース / ばっちりコース
- ○たいせつな ことばの いみを 考えて 読みとる
- がっちりコース / ばっちりコース
- ◇解答例
- おわりに
- /吉本 清久
序文――国語力の誤りつまずき是正に対する技能・能力の鍛錬・錬磨を導入したトレーニング学習法開発
中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
教育の今日的課題として「個に応じた習熟度別指導」や「一人一人の能力に応じた到達目標の明確化と指導」等が取り上げられています。また、学力の両極化も深刻な話題として論議されております。
国語科教育の充実は、学力向上に直結する基礎教科であるといわれています。したがって、これらの重要課題に対する具体策を講じる必要があります。
国語科で培う発音・発声・間・リズム・転調・文字・語彙・表記・敬語等の「基礎的技能」、ならびに、説明・報告・インタビュー等の「話す・聞く」「書く」「読む」の活動を支える「順序・要点・段落・中心力」――の「基本的能力」は、他教科や総合的な学習を確実にするために欠くことのできない技能・能力です。加えて、情報化時代に対応し、生きる力に連動する価値ある情報を選択・収集・構成・発信し双方向的に交流して人間力を育成する「情報発信力」も身に付けなければならない新国語能力です。
これらの国語力を完全習得した段階で「学力向上の国語科教育」の機能・役割を果たしたことになると考えます。
しかし、現実は国語学力の低下に歯止めがかからない厳しい実態であると認識しています。国語科においても学力の両極化は著しく、特に遅れつまずいている子や国語学習に関心・意欲を示さない子が多いという声があります。もちろん、到達目標を達成して習得した国語力をあらゆる教科に応用できる子、さらには国語科の学習で獲得した「統合発信力」を総合的な学習や、日常の言語生活に「生きて働く言語力」として活用している子もいます。
日々子供と共に国語学力向上に取り組んでいる実践者には、一人一人の学習者が秘めている可能性を引きだし最大限に発揮するような訓練・錬磨法を導入したトレーニング指導法を開発する責務があります。
国語学習においては、身に付けるべき技能・能力が確実に習得できないような誤りやつまずきが多いようです。その誤りやすい原因は何かをはっきりさせて適切な指導を創意工夫することが重要な課題です。
国語科で培う学力の中で、主題や要旨を把握する能力は、いろいろなスキルが作用し合い組織化されている総合的な力であると考えます。たとえば、文学作品「大造じいさんとがん」の主題を読み取る学習においては、場面や情景を想像して読む力、登場人物の気持ちや性格を想像して読む力、場面と場面を重ねて体制的に読む力、行間を類推して作品の生命に迫る力、これらを支える重要語句を押さえて読む力、発声・発音・間・リズム・硬軟・転調を正確に音読・朗読する力、感動を込めて豊かに朗読する力……等、多様な基本的能力や基礎的技能が相乗的に働いて作品の主題を読み取るものであると考えます。
説明文の要旨においても、要点を落とさず読む力、段落を押さえて読む力、段落相互の関係を比較総合して読む力、中心点に着目して読む力、要約して読む力、細部に注意して読む力――これらの基本的能力を支える重要語句を押さえて読む力、キーセンテンスに着目して読む力、接続語・指示語を正しく駆使する力……等の基本的能力と基礎的技能が相互に作用し合って、論理的文章の要旨を的確に読み取るのです。
このように考えていくと、主題や要旨は総合的な基本的能力であるといえます。場面・情景・心情・性格・イメージや、要点・細部・段落・中心――等は独立したスキル、つまり、単一技能であるということができます。
したがって、単一技能の指導と、主題や要旨の読み取りの方法は同一ではないのです。主題や要旨の指導の方が高度で複雑であるということができます。学習者にとっても読解方法が難しくなり、読み誤りやつまずきが多くなります。しかし、主題・要旨力は文章を読み書きするときも、話したり聞いたりするときも、主題・要旨を的確に押さえることが前提条件です。加えて、主題・要旨力は文章の内容や話す内容を立体的・体制的に把握する力が必須条件となります。高校生や大学生になっても、長い文章を構造的に把握しないで順序を押さえて読む技能だけで読む実態もあります。この事実は、小学校低学年で身に付けた力を応用している能力の実態からまったく進展していないということになります。したがって、作品を羅列的、断片的に読んで主題ならびに要旨を頂点に立体的・構造的に読む力を駆使・応用することができない生徒や学生が多い結果になっています。
説明するという音声言語の活動においても、主題や要旨を押さえることができないために、聞き手が説明の内容を構造的に把握できないことが多いようです。この状態は小学校低学年の重点指導事項である「順序を押さえる力」を起点にして要点・段落・中心・要約――等の技能・能力を「生きて働く国語力」として段階的に獲得していないことが原因であるということができます。
そこで、「誤りやすい主題・要旨是正トレーニング」の究明が重要になってくるわけです。
本書では、主題を的確に読み取るためにどのようなところで、つまずき読み誤るのかに焦点を絞って実態調査をしたり授業研究をしたり実践実証を重ねて効果的な訓練・鍛錬・錬磨指導法の発見と授業創造を目指したものです。「誤りやすい主題是正トレーニング指導法」を追究していくためには、次のような基本的事項を明確にすることが重要です。
【指導事例作成の原理・原則と基本的事項】
◎主題把握力とは何かを的確に捉え、学年の発達段階に応じて技能・能力を系統化する。
◎主題を読み取る指導過程・指導形態・指導技術を明らかにし、鍛錬・錬磨の指導法を開拓する。
◎言語行動体・学習者主体を中核に据えた「行動学習」の原理を基調にワークシートを開発する。
◎「生きて働く国語力」を育てることを意図し、常に向上的変容ができるように学習をシステム化する。
◎指導過程にトレーニング法を巧みに織り込み、生き生きと活動を展開し確実に力がつく授業を創る。
実践的研究を進めていく過程でどのような視点から「誤りやすい主題の捉え方」の効果的な授業を創造するかを明らかにすることも大切です。次には、実践へどう切り込むか。トレーニング法を導入した授業展開のポイントについて考察することにします。
【誤りやすい主題是正トレーニング法のポイント】
◎主題を直観的につかめない傾向。たとえば、作品に知的に接近し情調を捉えない場合の指導法を開発する。
◎豊かな想像が働かない傾向。たとえば、場面の様子を誤って連想する実態への適切な対応を開拓工夫する。
◎美的表現を見落とす傾向。たとえば、文体の特色に気づかず作品の深みに触れない場合の支援法を駆使する。
◎作品を立体的に把握できない傾向。たとえば、主題を頂点に体制的に読むことの効果的指導法を創造する。
◎主題を指示する能力を押さえない傾向。たとえば、場面・様子・心情・重要語句を重視した指導法を適用する。
文学作品の根底にある中心的な思想を的確に読み取り、その主題を中核に物の考え方、感じ方を生きる力、つまり、人間力に連動する価値ある方向へ転換していくことこそ文学作品を読むことの究極のねらいであると信じています。人間が人間として、いかに生きるべきかを自問自答し葛藤を繰り返し積み重ねていくことが大切であると考えております。「ことばは文で文は文章で、*行間を読み文章の裏を読む *作品の生命に迫り自己を読みさらには哲学的読みに達する」ことが文学作品の読みであり、小学校段階においては、このような素地を養うものですから徹底的な技能・能力の鍛錬・錬磨が必要であると考えております。
編著者の吉本清久先生は、これまでに『思考力・表現力を育てる国語科モデル授業30選』『考える力を育てるディベート学習』『国語科ティームティーチングの授業事例集』『国語学力を高めるモデル学習指導案』(単行本・吉本清久編著)『「生きる力」を育む国語学習』等の単行本や、月刊雑誌『教育科学・国語教育』に質的に高く具体的な事例を執筆し紹介してきました。
最近では、『要約力を磨く説明文の指導』を刊行して好評重版されています。また、『発信・受信の双方向で「伝え合う力」を育てるワーク』全6巻や『国語力をつけるワーク開発』22巻の全体総括・推進者として企画編集の力量を発揮しています。加えて、国語科教育全国大会においてはモデル授業を毎回公開しています。特に、「統合発信力」(単元「手紙文化を創る」)の感動的な授業は『教育新聞』と『日本青少年ペンフレンドクラブ』の「青少年のための文通教育」に大きく掲載され高い評価をいただき全国的に反響を呼びました。全国日本語教育学会では「音読文化や手紙文化」の授業で「人間関係力を育てる」という今日的な重要課題に挑戦し、インパクトあふれる貴重な発表をして高い評価を得ております。
理論と実践を調和統一した研究成果を今回刊行の本書でも最大限に生かしています。授業実践と緻密な調査分析に支えられた研究が読者の皆様の共感をいただき、全国の先生方の授業力がますます向上し、一人一人の子供の学力が高まり言語の力によって生涯の幸せが保障されることを期待しております。
日々国語科授業に真剣に取り組み、誠実・謙虚をモットーに、国語教育研究の発展に奉仕貢献する実践者に対して、常に価値ある研究の機会を設定してくださる明治図書の教育書出版企画開発室の江部満様に深く感謝し心からお礼を申し上げます。
-
- 明治図書