- 序章 国語学力を高める「言語事項」の指導
- ――学力低下に歯止めをかける「基礎的技能」の学習法を開拓―― /瀬川 榮志
- まえがき /金久 慎一
- T 「言語事項」を基盤とした言語能力の育成構想
- 一 「言語事項」の指導内容を軽視している現実
- 二 「言語事項」が学習の中核に位置付けられていない現実
- 三 国語学力を身につける「言語事項」教材
- 1 言語単元としての位置付け
- 2 言語要素小教材としての位置付け
- 3 副教材としての位置付け
- 4 学習小課題教材としての位置付け
- 四 「言語事項」の指導の二面性
- 1 表現および理解の指導を通して言語技能を培う
- 2 「言語事項」の取り上げ指導を通して言語技能を培う
- 五 低学年における「言語事項」の指導
- 六 子どもたちの学習を意欲的にするステップワーク
- 1 ワークシートが具備しなければならない条件
- 2 ワークシート開発のための留意点
- U 国語学力を高める一年生のステップワーク
- 言語事項の取り上げ指導
- 1 こえを だそう(発音・発声)
- 「発音・発声」指導の意義/ 「発音・発声」指導の系統/ 一年生の実態と「発音・発声」指導の必要性/ 教材の特性/ ワークシートを活用した指導の展開/ 本学習の成果/ 本学習を実施するうえでの留意点
- 2 かんじの はなし(漢字の成り立ち)
- 「漢字の成り立ち」指導の意義/ 「漢字」指導の系統/ 一年生の実態と漢字指導の必要性/ 教材の特性/ ワークシートを活用した指導の展開/ 本学習の成果/ 本学習を実施するうえでの留意点
- 表現力を育てる指導を通して培う言語技能
- 1 作文を書く過程での句点の指導
- 単元名「しらせたいな 見せたいな」/ 単元設定の根拠/ 指導目標/ 学習指導計画(一二時間)/ 本単元における本時の位置付け/ 本時までの子どもたちの様相/ 本時の目標と活用したワークシート/ 本時の学習成果と留意点
- 2 作文を書く過程での助詞の指導
- 単元名「おもい出して かこう」/ 単元設定の根拠/ 指導目標/ 学習指導計画(一〇時間)/ 本単元における本時の位置付け/ 本時までの子どもたちの様相/ 本時の目標と活用したワークシート/ 本時の学習成果と留意点
- 理解力を育てる指導を通して培う言語技能
- 1 説明文を読む過程での文章の敬体・常体の指導
- 単元名「じどう車ずかんをつくろう」教材名「じどう車くらべ」/ 単元設定の根拠/ 指導目標/ 学習指導計画(九時間)/ 本時までの概要/ 本時までの子どもたちの様相/ 本時の目標と活用したワークシート/ 本時の学習成果と留意点/ 本単元を実施するうえでの留意点
- 2 説明文を読む過程での主語と述語の照応の指導
- 単元名「ちがいをかんがえてよもう」教材名「どうぶつの赤ちゃん」/ 単元設定の根拠/ 指導目標/ 学習指導計画(一一時間)/ 教材文「どうぶつの赤ちゃん」の構造/ 本時までの子どもたちの様相/ 本時の目標と活用したワークシート/ 本時の学習成果と留意点
- 解答例
- V 国語学力を高める二年生のステップワーク
- 言語事項の取り上げ指導
- 1 はっきりした発音
- 「はっきりした発音」指導の意義/ 「発音・発声」指導の系統/ 二年生の実態と「正しい発音」指導の必要性/ 教材の特性/ ワークシートを活用した指導の展開/ 本学習の成果/ 本学習を実施するうえでの留意点
- 2 同じ部分をもつ漢字
- 「同じ部分をもつ漢字」指導の意義/ 「漢字」指導の系統/ 二年生の実態と漢字指導の必要性/ 教材の特性/ ワークシートを活用した指導の展開/ 本学習の成果/ 本学習を実施するうえでの留意点
- 表現力を育てる指導を通して培う言語技能
- 1 詩を書く過程での片仮名表記の指導
- 単元名「見たこと、かんじたこと」/ 単元設定の根拠/ 指導目標/ 学習指導計画(五時間)/ 本単元で子どもたちに読ませる三つの詩/ 本時までの子どもたちの様相/ 本時の目標と活用したワークシート/ 本時の学習成果と留意点
- 2 相手にわかるように話す過程での言葉遣いの指導
- 単元名「友だちに分かるように話そう」/ 単元設定の根拠/ 指導目標/ 学習指導計画(一三時間)/ 本単元で子どもたちに読ませる対話文と発表原稿/ 本時までの子どもたちの様相/ 本時の目標と活用したワークシート/ 本時の学習成果と留意点
- 理解力を育てる指導を通して培う言語技能
- 1 説明文を読む過程での助詞を正しく使う指導
- 単元名「確かめながら読もう」教材名「一本の木」/ 単元設定の根拠/ 指導目標/ 学習指導計画(一二時間)/ 助詞の「は」「へ」および「を」に関する言語事項指導構造図/ 本時までの子どもたちの様相/ 本時の目標と活用したワークシート/ 本時の学習成果と留意点
- 2 お話を読む過程での主語・述語の関係の指導
- 単元名「様子を考えて読もう」教材名「お手紙」/ 単元設定の根拠/ 指導計画/ 学習指導計画(一一時間)/ 主述に関する言語事項指導構造図/ 本時までの子どもたちの様相/ 本時の目標と活用したワークシート/ 本時の学習成果と留意点
- 解答例
- あとがき /中村 直史
序章国語学力を高める「言語事項」の指導
――学力低下に歯止めをかける「基礎的技能」の学習法を開拓――
監修 中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志
学力を向上させるには「生きて働く国語学力」を高めることが前提条件である。しかし、現状においては他教科や総合的な学習に確実に波及・応用されている国語科指導が徹底されていない実情である。
国語学力向上を促進するためには、基礎力を錬磨し高める必要があるが、その基礎力とは何かが明確に把握されていないようである。つまり、国語科で培う力を「基礎基本」と表記したり、「基礎・基本」あるいは、「基礎的事項・基本的事項」等と表記し、その定義もいろいろである。
国語学力を高めないと我が国の学力は向上しないことは当然の理であるのに、国語科教育を促進する根底となる「何を指導するか」という定義が曖昧であることは、学力向上を困難にするのではないかと危惧している。
そこで、「生きて働く国語学力」を確実に定着させるために、国語科教育の体系化を構想したのである。児童・生徒の言語能力の発達段階に応じて、螺旋的・系統的に秩序化・体系化を図ることが如何に重要かを切実な課題として把握したのである。
国語科教育の体系化は「基礎的技能」(学習指導要領の「言語事項」)を〈基礎学習法〉で確実に定着し、その技能を生きて働くスキルとして「基本的能力」(学習指導要領の「活動例」)を〈基本学習法〉で的確に習得し、その総合的能力を生きて働く国語能力として「統合発信力」(情報化時代に必要な言語による情報活用力)を〈統合学習法〉で獲得するのである。
この「基礎的技能の指導」→「基本的能力の指導」→「統合発信力の指導」の螺旋的・系統的指導によって他教科や総合的な学習、および日常生活の言語生活に生きて働き波及・応用するのである。
「言語事項」つまり「基礎的技能」は、「基本学習」と「総合学習」を支える基礎の基礎である。しかし、現状においては、軽視されている傾向にある。「基本学習」の中で基礎的技能を指導することが主体となっているのである。その結果、例えば、討論という「基本的能力」を習得する学習で発音・発声がはっきりしないため発言が聞き取れなかったりする。また、説明文を読み取る学習で指示語・接続語が適切に使えずに内容を正確に読解することができなくなったりもするのである。手紙文や意見文等を書く学習においても、漢字やひらがなが正しく書けなかったりする実態である。教科書にも、「言語事項」の教材が少なく、コラム的なスペースで提出している程度である。したがって、質的・量的にも軽減されており系統性がない傾向にある。
このように分析していくと「基礎的技能」の軽視によって国語学力が低下し、すべての教科の学力低下に歯止めがきかなくなるのではないかという危機感を抱かざるをえない。早急に「言語事項」の効果的指導を徹底する具体策を講じる必要がある。
「基礎的技能」(「言語事項」)の指導内容と方法についての基本的な考え方を整理してみる。
1 「基礎的技能」(「言語事項」)指導内容
◎発音・発声・口形・間・リズム・速度・転調。イントネーション・プロミネンス等
◎文字〜漢字・ひらがな・かたかな・ローマ字
◎表記〜仮名遣い・送り仮名・句読点・必要な符号等
◎語彙・語句〜語彙量・語句の性質・語句の由来・辞書活用・言語感覚・文語調
◎文章構成〜文の構成・文章の構成・文末表現・指示語・接続語の効果的な活用
◎言葉遣い〜敬体と常体の使い分け・敬語の使い方・方言と共通語の使い分け等
◎書写〜筆順・字形・点画・文字の構成・大きさ・配列・筆遣い・字くばり・配置
2 「基礎的技能」(「言語事項」)の効果的な学習指導
◎「基礎的技能」を自力で段階的に習得する学習法の開発
※ 機械的な繰り返し練習は「生きて働く技能」としては定着しない。例えば漢字力をつけるために、学、学、学、……と連続的にドリルさせるよりも、@音訓読みをする、A筆順・字形に注意して正しく書く、B文や文章の中で効果的にその漢字を使って書く〜の学習プロセスを構成するのである。これまでの言語事項の指導は、繰り返し練習を中心にした取り立て指導が中心であった。これからは、学習者が技能を完全に定着したと実感する学習法を開発していくことが重要である。
◎完全習得した達成感を満喫する学習の組織化
※ 易から難へステップアップするように学習過程を組織化する。わかる→かわる→できる、ホップ→ステップ→ジャンプ、レベル1→レベル2→レベル3〜の各過程で確実に技能を定着し、自己評価・相互評価をしながら到達目標を目指す学習法である。それぞれの過程で習得できなかった場合は前の過程にフィードバックして学習法を反省・評価し、徐々に高次な学習へとアタックしていく、要するにアタックとフィードバックを段階的に繰り返しながら到達すべき「基礎技能」を完全習得するのである。
◎「行動学習法」の原理・原則に基づくワークシートの作成・活用
※ 具体的な言語行動を通してスキルを定着するのが「行動学習法」である。つまり、「為すことによって学び方を学ぶ」方法である。これまでは、教科書をなぞるような平面的・羅列的なワークシートが多かったようである。
この行動学習法は「言語行動観に立つ国語教育」の理念や理論に拠るものであって、スキルの指導であっても「生きる力」を育む人間形成に連動するものである。要するに、学習者主体・言語行動主体のワークシートである。
◎短時間で「基礎的技能」を習得する授業モデルの創造
※ 「基礎的技能」の指導は、一単位時間あるいは二〇分〜三〇分単位の授業で定着を図るようにする。一技能を取り立てて指導するのであるから、長時間かけても効果はあがらない。例えば、接続語の指導の実践においては、わかる過程で、@学習の目的と方法を決定する、Aかわる過程では、〇ホップの学習で【はじめに〜つぎに〜それから〜おわりに〜】のつなぎのことばを使って短い文章を作成する。〇ステップの学習では、やや長い文章で接続語の使い方を学ぶ。〇ジャンプの学習においては、さらに長く複雑な文章を書く〜といったように学習法をステップアップして接続語運用スキルを生きて働く「基礎的技能」として定着する。Bできる過程では、自己評価をして、基本的学習に応用する方策を立てる。
このように、自力で学習法を段階的に踏んで向上し自己実現・変革していく授業を創るのである。
◎「基礎的技能」の教材やワークシートを積極的に開発
※ 一九六七年、文部省課程教科等委員ならびに学習指導要領作成にかかわる仕事をしていた頃、当時の教科調査官他数名と国語科の総合教科書に加えて「言語事項にかかわる教科書」を刊行する必要がある。〜ということについて協議したことがあった。書写の教科書と三冊の出版は無理であることが理由でこの提案は実現しなかった経緯がある。現時点における学力低下の実情から考察すると貴重な協議事項であったと想起している。
現在の教科書には、ページ数の制限等もあって「基礎的技能」の教材も少ないようである。したがって、教材の開発を積極的に推進することが求められる。また、ワークシートも習熟度に応じた学習ができる機能も果たす等の学習法であるので「言語事項」の副教科書的な役割を担う良質の学習書を作成したいものである。
本書全五巻は以上の基本理念・理論・方法を根底に企画編集したのである。
一九七八年七月、鹿児島創造国語研究会では「表現・理解の基礎『言語事項』の体系的指導」(明治図書〜二二五ページA5判)を出版している。この著書を参考文献にして第八回全国大会を開催している。表現・理解の「基本的能力」の基本学習に「基礎的技能」が生きて働き、さらに、他教科に波及・応用するかを解明している。しかも、学力向上の指導法のシステム化についても導入している。簡潔明快で授業に直接役立つモデル指導事例を紹介している。このような実践書による指導が現在まで継続実践されていれば現在危惧している国語学力の低下に歯止めがきいたのではないかとも考えられる。
本書は、この鹿児島創国研の著書の内容構成に「行動学習の理論に基づいたワークシート」を導入して企画している。したがって、特色ある日々授業に取り組んでいる先生方の必携実践書である。
「ことばのきまり」つまり、文法にかかわる「基礎的技能」を確実に定着させると、国語学力が向上し、「生きる力」につながる学力も高まる。さらには、母語・日本語力が獲得され国力が強化される。
数年前に人口二〇〇万人という小国でありながら、一九九一年にチェコスロバキアからの法的独立に踏み切ったスロベニアを訪れた。紀元前六二〇年建国後、ローマ帝国・ドイツ・オーストリア……等からの弾圧・支配下にありながら、国語を奪われたら心を失う―という信念で、一六世紀にプロテスタントの牧師たちはスロベニア語の文法書を出版したのである。さらに、一八世紀には、詩人フランツェ・プレシェレンが、「民族の自由と誇り・愛国心」を刻んだ『詩』を発表し、国民に夢と希望を与えたという。この話からも、母語の基礎である文法の大切さと国語力が国力を強化することの教育が如何に重要であるかがわかる。
日本語の文法テキストとも言える『わかる・かわる・できる「国語の基本」〈言語編〉小学一年〜六年全六巻』を発行したのは一九六〇年頃である。現在も先生方が児童とともに活用し国語力を高めている。このテキストはドイツ・フランス・イギリス等をはじめ、世界の国々の日本人学校でも使用されている。ニュージーランドの子どもたちもこのテキストで学び、一九八五年、小学生二〇名、中学生一〇名計三〇名が「現地で日本語を学びたい」という目的で東京・中野区立上鷺宮小学校に三週間留学した。日本の子どもたちとニュージーランドの子どもたちがそれぞれの文化を相互交流する活動を通して両国の言語習得のテンポが早いことと言語形成期にある児童・生徒に国語の「基礎的技能」定着の重要性を学校長の立場で自覚し、再認識したのである。
今日的課題として強調されている「国語教育を中核に据えた学校経営」を【国語教育立国論】の視点と【国際社会に伍していく日本人の育成】という広い視野から構想していく理論の確立と、実践的展開を真剣に思索し、具体策を講じなければならないのである。本書はこのような趣旨から企画しているのである。
全五巻の編集は北九州市小・中学校国語教育研究会で推進する。本会は、全国小学校国語教育研究大会北九州大会を過去二回開催し、「理論と実践を統一」した質的に高く具体的な研究を全国に向けて情報発信した。著書も『ことばを磨き自己を語る国語科学習』を起点に『基礎学力を高める「音読・朗読・暗唱」ステップワーク』『国語学力を測る「到達度」チェックカード』〈小中共編全一二巻{低学年書くこと・読むこと・話す聞くこと}〉『個に応じた「習熟度別指導」ワーク教材の開発』〈小中共編全一二巻{話すこと・聞くことの低・中・高学年ステップワーク}〉(明治図書B5判)を次々に出版している。
「子供を愛し研究に徹する」先生方は、不易と流行の変に対応し、温故知新の精神で一貫して新世紀の国語科教育の課題に挑戦し、確かな道を拓いている。
本書全五巻の企画推進は、金久慎一先生が総括者となり、蔵内保明先生、平田信章先生、中村直史先生、勝山謙之先生方が編著している。加えて授業力・研究力に富む実践者が執筆者となって、一人ひとりの児童・生徒の学力向上に直結する実践事例やワークシートを提示している。
明治図書の教育図書出版企画開発室代表 江部満様には、価値ある研究課題と研究の機会を頂戴し、企画から発刊まで心温まるご指導・ご支援をいただいた。厚くお礼を申し上げる次第である。
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- 明治図書