- 序 話す力・聞く力の基礎・基本を育てる―話すこと・聞くことの言語表現様式と表現のプロセス―
- T 声を豊かにするために
- 1 身体を生かして声を出そう―バーバルとノンバーバルを合わせて活用する―
- 2 相手に声を届けよう―音量と速さを意識して声を出す―
- 3 声の響きを楽しもう―場面に応じて声質を変える―
- U 声を生かすために
- 1 場面に応じてナレーションをしよう―間や転調を生かす―
- 2 要領よく暗唱しよう―暗唱のプロセスを自覚する―
- 3 効果音を生かして声を出そう―効果音を楽しむ―
- 4 登場人物になりきって声を出そう―アフレコに挑戦する―
- V 取材したことを生かすために
- 1 メモの種類を覚えよう―メモを活用する―
- 2 情報を要約しよう―目的に応じた要約の仕方を学ぶ―
- 3 テープ資料を基に話そう―話し言葉の特徴をつかむ―
- 4 他の人の考えを引用しよう―直接的及び間接的に引用する―
- W 目的に応じて書き,分かりやすく話すために
- 1 スピーチ原稿の書き方を学ぼう―目的に応じてスピーチ原稿を書く―
- 2 聞き手を注目させよう―人格文・人格語を生かす―
- 3 話合いを計画的に進めよう―効果的な進行表を作る―
序話す力・聞く力の基礎・基本を育てる
―話すこと・聞くことの言語表現様式と表現のプロセス―
文部科学省教科調査官 /井上 一郎
1 話す力・聞く力の基礎・基本
本書は,『話す力・聞く力の基礎・基本』(明治図書,2008)で述べた理論に基づいて実践した授業を,2巻に編集したものの上巻である。
話す力・聞く力の基礎・基本となる能力の育成は,話すこと・聞くことの各種の言語表現様式を取り上げて話したり,聞いたり,話し合ったりする「話すこと・聞くことの言語表現様式に対応する能力」と,それらの言語表現様式に応じて実際の表現行為を行うことができる「話すこと・聞くことの言語行為のプロセスに対応する能力」とを統合的に指導することによって具現する。
(1) 本書の内容と育成すべき能力
そのような考え方に立って,上・下2巻の実践編は,次のように構成した。内容とそれぞれの授業でのねらいとしている主な能力は,次のようである。
[上巻]
T 声を豊かにするために 【音声の基礎に関する能力】
1 身体を生かして声を出そう―バーバルとノンバーバルを合わせて活用する―
2 相手に声を届けよう―音量と速さを意識して声を出す―
3 声の響きを楽しもう―場面に応じて声質を変える―
U 声を生かすために 【音読・朗読に関する能力】
1 場面に応じてナレーションをしよう―間や転調を生かす―
2 要領よく暗唱しよう―暗唱のプロセスを自覚する―
3 効果音を生かして声を出そう―効果音を楽しむ―
4 登場人物になりきって声を出そう―アフレコに挑戦する―
V 取材したことを生かすために 【取材及び活用に関する能力】
1 メモの種類を覚えよう―メモを活用する―
2 情報を要約しよう―目的に応じた要約の仕方を学ぶ―
3 テ―プ資料を基に話そう―話し言葉の特徴をつかむ―
4 他の人の考えを引用しよう―直接的及び間接的に引用する―
W 目的に応じて書き,分かりやすく話すために 【スピ―チ原稿に関する能力】
1 スピ―チ原稿の書き方を学ぼう―目的に応じてスピ―チ原稿を書く―
2 聞き手を注目させよう―人格文・人格語を生かす―
3 話合いを計画的に進めよう―効果的な進行表を作る―
[下巻]
X 効果的な説明をするために 【説明力に関する能力】
1 例を示して分かりやすく紹介しよう―絵や写真を活用する―
2 図や表を使って分かりやすく説明しよう―図解力や図読力を付ける―
Y 的確な報告をするために 【発表力に関する能力】
1 自分の思い出を伝えよう―思いをこめて体験報告をする―
2 相手に応じて調べたことを伝えよう―相手の立場や状況に応じた調査報告をする―
3 伝えたいことをはっきりさせてスピ―チしよう―主張を明確にする―
4 状況を判断しながら伝えよう―的確に伝える実況中継をする―
Z 相手の考えを聞き出すために 【質問力に関する能力】
1 一つのことについてたくさん質問しよう―多面的に考える―
2 より詳しくインタビュ―しよう―より深く相手の知識を引き出す―
3 計画を立てて質疑応答をしよう―想定問答集を作る―
[ 相手に合わせて対話するために 【話合いに関する能力】
1 意見を整理して話合いをしよう―司会力を育てる―
2 役割をよく考えて三人で話し合おう―鼎談(ていだん)で対話する力を付ける―
3 その場に合った最もよい意見を述べよう―コメント力を付ける―
4 立場を明確にして主張しよう―説得力を高める―
取り上げた授業では,「話すこと・聞くことの言語表現様式に対応する能力」と,「話すこと・聞くことの言語行為のプロセスに対応する能力」とを統合して構成しているが,このような重点化した能力を中心に話す,聞く,話し合う多様な様式の言語活動を行っている。
(2) 話すこと・聞くことの言語表現様式
話し言葉の言語表現様式としては,次のようなものが考えられる。
(1) 【音読・朗読の様式】
@ 音読・朗読
A 読み聞かせ
B ストーリーテリング
C ナレーション,アフレコ(声優),ボイスオーバー,など
D 劇(人形劇,ぺープサート,紙芝居,朗読劇,群読,影絵劇,総合劇,など)
(2) 【独話の様式】
@ 説明,解説,ポスターセッション,など
A 紹介,案内,推薦,など
B 連絡,伝言,アナウンス,通知,広報,など
C 感想,意見,主張,演説,弁論,助言,説教,忠告,提案,評論,論説,コメント,批評,など
D 報告・報道・ルポルタージュ(体験報告,観察報告,調査報告,研究報告,実況中継,など)
E 説得,依頼,命令,など
F 宣伝,プレゼンテーション,デモンストレーション,など
G 放送,ラジオ,テレビ,など
H 講義,講話,講演,など
I 文句,苦情,言い訳,弁明,など
(3) 【対話の言語活動】
@ 挨拶,対談,鼎談,座談,など
A 相談,協議,会議,審議,ブレーンストーミング,バズセッション,など
B 討論・討議,フリートーキング,ディベート,パネルディスカッション,フォーラム,など
C 交渉,など
D 進行,司会,キャスター,など
(4) 【聞く活動】
@ 質問,質疑応答,など
A インタビュー,聞き書き,など
B 面接,など
(3) 話すこと・聞くことの言語行為のプロセス
また,「話すこと・聞くことの言語行為のプロセスに対応する能力」として基本となる話すこと・聞くことの学習活動のプロセスは,次のように展開することに対応する能力である。
【第一段階 スピーチ原稿の作成】
1 導入(準備) ⇒ 2 課題設定 ⇒ 3 学習計画 ⇒ 4 取材(1) ⇒ 5 主張決定 ⇒ 6 構成 ⇒ 7 取材(2) ⇒ 8 叙述 ⇒ 9 音声化(通し読み) ⇒ 10 推敲(1)
【第二段階 音声化】
11 シミュレーション ⇒ 12 推敲(2) ⇒ 13 音声化のための記号付け ⇒ 14 リハーサル ⇒ 15 推敲(3) ⇒ 16 発表会 ⇒ 17 モニターリング ⇒ 18 相互評価・自己評価
「話すこと・聞くことの学習活動のプロセス」は,スピーチ原稿を作成する段階と,実際に音声化し発表する段階の二つに分かれる。聞くことについても,聞くべき準備と,音声化して聞くことは,これらに準ずる。話し合うことは,課題設定や学習計画などは同様だが,具体化に当たっては,役割担当や時間配分などを記した進行表の準備や,実際の運営の司会,発表者・討論者,参会者などの協力,計画に沿った話し合う能力が求められる。
2 学習指導要領で求めた基礎・基本
2008(平成20)年3月28日,新しい学習指導要領が告示された。学習指導要領において示した基礎・基本は,各学校における教育課程の中核として多くの示唆を与えるものと考えられる。そこで,この学習指導要領の作成に携わった立場から,どのような体系と系統を構築したのか,話す力・聞く力の基礎・基本をどのように具体化したのかについて,概要を述べておきたい。
(1) 国語科の目標
国語科の教科目標は,現行の目標を継承しながら,今回の改訂で強調するのは,感想や意見,説明や報告,討論などの基礎的・基本的な知識・技能を活用して課題を探究すること,それは実生活に生きて働き,各教科等の学習の基本ともなる国語の能力の育成である。
(2) 内容の構成
内容は,以下のような三領域と一つの事項で構成している。
A 話すこと・聞くこと―「内容」 (1)(指導事項) (2)(言語活動例)
B 書くこと―「内容」 (1)(指導事項) (2)(言語活動例)
C 読むこと―「内容」 (1)(指導事項) (2)(言語活動例)
〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕
(1) ア 伝統的な言語文化に関する事項 イ 言葉の特徴やきまりに関する事項 ウ 文字に関する事項
(2) 書写に関する事項
特に,三領域の内容が(1)の指導事項だけであったものを,(1)の指導事項と(2)の言語活動例によって再構成した。これは,(1)に示す指導事項を(2)に示した言語活動例を通して指導するようにすることと,その際,(2)に示した言語活動を行う能力を身に付けることができるよう継続的に指導することを重視したからである。
(3) 学年の目標
「話すこと・聞くこと」に関する指導目標は,話すこと,聞くこと,話し合うことの能力を明確にし,それらとともに態度の内容を改善した。例えば,低学年では次のようである。
―話すこと・聞くこと(低学年)―
(1) 相手に応じ,身近なことなどについて,事柄の順序を考えながら話す能力,大事なことを落とさないように聞く能力,話題に沿って話し合う能力を身に付けさせるとともに,進んで話したり聞いたりしようとする態度を育てる。
(4) 話すこと・聞くことの内容の構成と特徴
各学年の「A 話すこと・聞くこと」の内容は,以下のように改善を図っている。
―話すこと・聞くことの内容―
「内容」の(1)
〇話題設定や取材に関する指導事項
〇話すことに関する指導事項
〇聞くことに関する指導事項
〇話し合うことに関する指導事項
「内容」の(2)
〇言語活動例
▽ 全学年を通して,話題設定した上で学習計画を見通し,取材を進める「話題設定や取材に関する指導事項」を新たに位置付けている。これは,話すこと・聞くことの指導のプロセスを明確にし,児童が自覚的に学習を行うことができるように位置付けたものである。
▽ 「話すことに関する指導事項」は,構成や内容及び言葉遣いに関する指導事項と話すことの音声に関する指導事項で構成している。
▽ 「聞くことに関する指導事項」では,聞いたことに対して質問や感想を述べたりすること,自分の意見と比べることなど主体的に聞くことを重視している。
▽ 「話し合うことに関する指導事項」は,司会や提案などの役割を果たしながら,進行に沿って話し合うことなど,司会や提案者の役割を明確に位置付けている。
▽ 言語活動例では,「話すこと」と「聞くこと」とが一体化して考えられるように,説明や報告などを聞いて感想や意見を述べることを関連付けた言語活動例を示した。例えば,次のようである。
・説明や報告と,それらを聞いての感想や意見を述べること
・話合いや意見を述べる,討論をすること
・紹介や推薦をしたり,それらを聞いたりすること
(5) 指導計画の作成に当たっての留意点
▽ 国語科の指導計画は,総則に示したことと,国語科の指導計画の作成と内容の取扱いにおいて示したこととを常に関連付けることが重要である。
▽ 内容構成において配慮したように,主体的に話したり聞いたりするようにしたことや,系統性を重視して育成することが重要である。系統性については,下巻に掲げた系統表を参考に具体的に考えるようにしてもらいたい。
▽ 2学年まとめて示しているので,系統的,発展的,段階的な指導ができるよう学年に応じて具体化する。
▽ 児童が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりすることができるよう,学習課題の設定や学習計画を立てて進めていく。
▽ 個別指導やグループ別指導などの充実を図る。小学校中学年の「互いの考えの共通点や相違点を考え,司会や提案などの役割を果たしながら,進行に沿って話し合うこと。」を基にグループにおける話合いや学級全体での話合いができるようにする。
なお,このような考え方に立って,実際に年間指導計画を構想した場合にはどのようになるのかを,研究会員による試案を作成し,本稿に続けて掲載している。上巻に第1学年,下巻に第3学年及び第6学年の例を掲載した。表形式は,学校によって工夫することや,新学習指導要領に基づく評価規準などが確定すればそれらに準ずることなどが求められる。
本書は,佐賀,熊本,福岡・北九州,鹿児島,兵庫などの国語教育カンファランスの研究会員によって行った実践集である。研究会員は,毎月の例会において長きにわたって真摯に研究を重ねた。研究会員には,創立当初からの者,最近になって参加した者がいる。また,研究会に朝早く出発し,2時間もかけてやってくる人もいる。様々な厳しい事情を抱える教師生活の中で,協力し合いながら,議論し原稿を執筆した。研究会で学び,研究することが子どもたちの喜びや発見につながることだけを支えに頑張ってくれた。編者として,研究会員にお礼を申し上げたい。
本書を手に取られた方が,自分の心を閉ざしいつも黙るしかない苦しい日々を過ごしている子どもたちの心を拓き,想像して考えたことを語ったり,記録したことを誇らしげに発表,報告したりすることのできる子どもたち,学校に来てお互いがわだかまりなく挨拶し助け合えるような子どもたちでいっぱいの教室を展開する指導者となって下さること,そのような教室作りに本書が役に立つことを願ってやまない。
最後になったが,本書刊行に当たっては,明治図書の石塚嘉典氏,松本幸子氏にお世話になった。表現は簡潔だが,深い謝意とともにここに記しておきたい。
2008年6月
第1学年「話すこと・聞くこと」を中心とした国語科年間指導計画の作成例
1 入門期の話すこと・聞くことの指導
小学校に入学したばかりの児童は,学校生活で新しい経験や発見をするたびに,それを話したり聞いたりしたいという意欲をもっている。このような時期をとらえて,計画的に言語活動を行い,「話すこと・聞くこと」の基礎的・基本的な力を育てていきたい。
新学習指導要領において,伝え合う力を育成するために,話題設定や取材に関する能力,話す能力,聞く能力,話し合う能力が明示された。また,言語活動例が,指導内容に位置付けられた。これらを受けて,指導事項と言語活動例を関連付けて年間指導計画を作成したい。特に,入門期には,児童が日常生活の中で体験したことを報告する体験報告や自分のことや見付けたものの紹介活動,尋ねたり,応答したりするなどの表現様式を意識した言語活動を位置付ける。特に,第1学年では,あいさつや連絡,紹介などに重点を置く。
話すということは,具体的な相手が必要である。話す相手や学習形態をどのようにするのかということも意識して計画することが望まれる。入門期においては,話し手と聞き手が一対一となる対話を中心として考え,それから一対複数への活動へと広げるように年間指導計画を構想する。また,学習したことを生活の中で生きた言葉の力として働くように,話合いの活動も徐々に組み込んでいくようにしたい。
第1学年の児童にとって,「読むこと」は初めて行う学習である。そこで,「読むこと」の領域との関連を図ることも求められる。特に,「語や文としてのまとまりや内容,響きなどについて考えながら声に出して読むこと」つまり,音読と関連付けていくようにする。
2 第1学年「話すこと・聞くこと」を中心とした国語科年間指導計画の作成例
この年間指導計画は,国語科の「話すこと・聞くこと」や「読むこと」の単元で,話す力や聞く力の指導目標を明確にして作成した。また,主な学習活動や評価規準や言語活動を入れ,指導に生かすことができるようにしている。さらに,日常活動の中に音声化の基礎トレーニングや音読を位置付け,話すことの基礎的な力が育つように具体化している。
3 「話すこと・聞くこと」の単元例
この表の第5単元「みつけたものをしらせよう」を例に解説する。この単元は,生活科の学習と関連した話すこと・聞くことの単元である。話すことの指導目標として「学校を探検して,そこにいる人にあいさつをし,知りたいことを丁寧な言葉遣いで尋ねることができる」を挙げた。学校探検の活動で学校の先生,第2学年の児童など相手を決め,知りたいことを尋ねるなどの対話の活動を取り入れた。また,見付けたものの中から紹介する話題を設定する力である「学校を探検して知らせたいことを選ぶ」や音声の能力である「姿勢や声の大きさに注意してはっきりとした発音で話すことができる」という指導目標も掲げた。その際に「友達の話の大事なことを落とさないようにしながら,興味をもって聞くことができる」という聞くことの目標も明確にしておかなければならない。
/常田 望美
第1学年「話すこと・聞くこと」を中心とした国語科年間指導計画例
(表省略)
また,「メモの種類を覚えよう」「情報を要約しよう」「他の人の考えを要約しよう」など,どのように授業を組み立てていいのかわからなかったのですが,イメージがわきました。すぐ実践しようと思います。
ワークシートには,どのような知識をまとめて子どもに与えたらよいのか明解に記載されており大変参考になりました。
話すこと・聞くことで迷っている先生方には,必見です。
是非,ご一読を!!!