- はじめに
- T 手本を示し、観察の範囲を段階的に広げていく
- ――三年「学校のまわり」―― / 西尾 文昭
- 一 三年最初の子どもたちは地図が読めない、書けないのがあたりまえ
- 二 教師が手本を示す
- 三 観察の範囲を段階的に広げる
- 四 手本を示し、観察の範囲を段階的に広げていく (全十三時間)
- (1) 第一時 学校のまわりにあるもの よく知っている経験を引き出して全員を参加させる/ (2) 第二時 学校のすぐ西側の観察 狭い範囲に限定し、お手本を示す/ (3) 第三・四時 学校の西側の観察 教師の引率のもとに少し広い範囲に挑戦させる/ (4) 第五時 学校の西側のまとめ、次のコースの決定 地図の中の言葉を使って、穴埋めでまとめる/ (5) 第六〜八時 学校の東、北、南側の観察 少しずつ限定して描かせ、一部分だけ自力で挑戦させる/ (6) 第九〜十一時 各方位の大きな絵地図づくり 手順を簡潔明確にして作業させる/ (7) 第十二・十三時 地図記号を使った地図づくり お手本を見ながら作業し、できばえを実物とくらべる
- 五 子どもたちにどんな力が育ち、どんな指導が有効だったか
- (1) 三人の到達度/ (2) 手本を示し、観察の範囲を段階的に広げていく指導は有効だった
- U スモールステップで授業を組み立て、目からの情報を増やすことが子どもたちの理解を深める
- ――三年「スーパーマーケットではたらく人」―― / 松村 聡
- 一 目標に到達しない子の共通点とその指導方針
- 二 スモールステップで授業を組み立て、目からの情報を増やして理解を深める実践
- (1) 第一時 写真を使い「売るための工夫」の情報を集める/ (2) 第二時 生活経験から「売るための工夫」の情報を集める/ (3) 第三・四時 スーパーマーケットの見学を行い、「売るための工夫」の情報を集める/ (4) 第五時 見学してきた情報をスモールステップで整理する/ (5) 第六時 整理した情報を写真を使って検討する/ (6) 第七時 「先生問題」を考えさせて「売るための工夫」の理解を深める パート1/ (7) 第八時 「先生問題」を考えさせて「売るための工夫」の理解を深める パート2/ (8) 第九時 どのような品物をそろえているか―アンケートの集計―/ (9) 第十時 二回目の見学の準備―スーパーマーケットは消費者のほしいものを知っているか―/ (10) 第十一時 見学を行い、「売るための工夫」の写真をとる/ (11) 第十二、十三、十四、十五時 「売るための工夫」のレポートをパソコンでつくる
- 三 A男・B男と二つの指導方針の有効性
- (1) どのように評価したか
- V 視覚情報を増やすことで、子どもは安心して授業に取り組むことができる
- ――三年「スーパーマーケットではたらく人」―― / 刀祢 敬則
- 一 A君の様子
- 二 視覚情報を増やしていく
- 三 視覚情報を増やした「スーパーマーケットではたらく人」(全十四時間)
- (1) 導入への工夫 イラストを使う/ (2) 第一時 売るための工夫をイラストから見つける イラストを写させる/ (3) 第二時 スーパーマーケットの情報を画用紙にまとめる ノートを見させる/ (4) 第三・四時 一回目の見学に出かける ノートをときどきチェックする/ (5) 第五・六時 売るための工夫について話し合う/ (6) 第七時 教師が見つけた工夫について考える 黒板を写させる/ (7) 第八時 見学のための準備をする/ (8) 第九時 デジタルカメラの使い方を知り、質問を作る 書き方のフォーマットを与える/ (9) 第十・十一時 二回目の見学に出かける/ (10) 第十二〜十四時 レポートを作る
- 四 A君の変化 自分からノートを書くようになる
- W 写真やイラストの読み取り、調査活動を通じて、内部情報の蓄積を確保する
- ――三年「火事が起きたら」―― / 川上 勇人
- 一 TOSSとの出会い
- 二 写真読み取りの授業
- 三 社会科到達目標に達しない子の理解
- 四 「火事が起きたら」の授業(全十時間)
- (1) 第一時 火事の現場の写真・イラスト資料の読み取り どのような気付きでも、とにかく書かせる/ (2) 第二時 学校内の消火器探し ペアで調査活動をさせ、楽しい社会科を実感させる@/ (3) 第三時 学校内の消火栓探し ペアで調査活動をさせ、楽しい社会科を実感させるA/ (4) 第四時 消防署見学の準備 少し情報を提示し、調べたいという気持ちを高める/ (5) 第五・六時 消防署の見学 見学メモの競争をこまめに働きかける/ (6) 第七時 見学のまとめ/ (7) 第八時 校区内の消火栓探し 調査活動をさせ、楽しい社会科を実感させるB/ (8) 第九時 関係機関との連携を知る ロールプレイを取り入れ、楽しく活動させる/ (9) 第十時 まとめ 写させ、相談させ、最後は自力で書かせる
- 五 「火事が起きたら」の実践を終えて
- X 「体験」の層を拡大し目標に到達させる
- ――四年「昔のくらし」―― / 竹内 正宏
- 一 「体験」の層を拡大する、という原則に立ち指導する
- 二 A男・B男を中心とした授業記録(全八時間)
- (1) 第一時 昔のくらしへの興味・関心を高める/ (2) 第二・三時 昔のくらしへの興味・関心をさらに高める/ (3) 第四・五時 ふるさと資料館の見学/ (4) 第六時 昔のくらしを再現する/ (5) 第七時 道具の変化に合わせて人々の生活も変化した/ (6) 第八時 おじいさん・おばあさんの時代は不幸だったか
- 三 A男・B男は目標に到達したか
- Y 明確な発問・指示を出し、活動させた後ほめ言葉をかける
- ――四年「福井県のすがた」―― / 上木 信弘
- 一 「いかに、授業へのプラスイメージをもたせるか」、「いかに誉めるか」が課題である
- 二 A君が活躍した写真を使った授業
- (1) 写真を使った授業の組み立て方/ (2) 写真から読み取ったことを書かせる〜得意な直感力で、読み取ったことをどんどん書いていくA君〜/ (3) 指名なし発表をさせる〜何度も発表するA君〜/ (4) 発問を出し、本時のねらいに迫る〜理由を五つも書くA君〜/ (5) 写真読み取りで活躍し続けるA君/ (6) 作文にまとめさせる
- 三 A君をどう評価したか
- Z 解説
- / 吉田 高志
- 一 プロの教師とは
- 二 活動を通して学ばせる
- 三 体験活動はなぜ重要か
- 四 TOSS授業技量検定
はじめに
社会科の授業で目標に達しない子をどうするか。難しい課題である。
しかし、指導の原則はある。
ステップを踏んで指導することである。
中学年の社会科では、身の回りにある事例を取り上げて授業を行うことが多い。観察や見学などの活動が最も多いのがこの学年の特徴である。例えば、学校の周囲の絵地図づくり、消防署の見学、工場の見学。子どもたちはこうした活動が大好きである。社会科が大好きになって当然なのである。
ところが、残念なことに、そうなってはいない。中学年の時点で、社会科嫌いの子が数多く存在するのである。
これは、指導があらいからである。見学のさせっぱなし、見学のまとめの書かせっぱなしが多いのである。
例えば、見学の「まとめ」は、どう書かせているか。新聞の枠のようなものだけを印刷して、あとは子どもたちまかせである。力のある子は、これでもなんとかするが、目標に達しない子は全く手がでない。
グループで作業させる場合も多い。これはもっとひどい。大きな模造紙に、見てきたことを絵や文にして、それをぱっぱっと貼っておしまいである。これでは、社会科の力がついたとはとても言えない。
見学のまとめは、見てきたことや聞いてきたことを羅列するだけではだめである。課題に沿って、必要な情報を選ぶ作業がどうしても必要である。残りの情報はばさりと切り捨てるのである。こうした作業を通していない「まとめ」は、社会科のまとめとしてはお粗末である。
では、どうすればいいのか。
課題に沿って情報を選択する場面をつくってやればいいのである。例えば、次のような指示を出せばよい。
「見学の時のメモの中から、おいしいかまぼこをつくるための工夫を三つ選んで○をつけなさい」
このようにして一斉に指導する場面をいくつかつくればよいのである。その上で、絵を描かせたり、写真を貼らせたりしていけば立派なレポートが完成する。どの子も大喜びするはずである。
見学のさせ方にも当然だがステップがある。例えば、三年生の一番最初の単元は、「学校のまわり」である。この単元で、子どもたちははじめて地図の基礎を学習する。学校の周囲の様子を絵地図にするという学習である。
ところが、地図を作成するための見学計画を、いきなり立てさせるという指導をよく目にする。校区内の白地図を配布して、そこに見学ルートを書き込ませるのである。私に言わせれば、信じられないぐらいあらい指導である。
はじめて地図の学習に取り組ませる子どもたちに、いきなり地図の読み取りからはじめるというのである。ついてこれない子が続出するはずである。私なら、学校のまわりを東西南北の四つのコースにわける。その上で、絵地図を最も簡単につくれそうなコースを選んで、その方角だけの絵地図をまずつくらせる。メモを取りながら見学してきたことを絵地図にするという体験を積ませるのである。
「見てきたことを絵地図にしましょう」
と教師がいくら丁寧に言葉で説明しても、目標に達しない子はなかなか理解できない。まずは、体験させるのである。その後、他のコースの絵地図づくりへと進めていく。もちろん、この活動も少しずつ変化を付けていく。はじめは、直線道路を行って帰ってくるだけ、次はぐるっと回り込んでというようにである。計画を立てて、見学をして絵地図をつくるのは、その後でよい。
こうした指導を行っていけば、目標に到達できない子はかなり減ってくるはずである。工場の見学も消防署の見学もみな同じである。計画を立て指導を段階的に積み重ねていきながら見学へと進めていくことが大切である。
もちろんステップを踏んで指導するだけでは、対応できない子もいる。
目標に到達できない理由は様々である。能力があるにもかかわらず、やろうとしない子もいれば、軽度の発達障害を持つ子もいる。当然のことだが、一人一人の子どもに合わせて到達点を変更する必要も出てくる。授業に参加できただけで合格という子もいれば、他の子と同じレベルまで引き上げるところまでできて合格という子もいる。このあたりは、個別に対応するしかない。
本書は、社会科で目標に到達できない子と正面から向き合い格闘した記録である。なぜ、目標に到達できないかを分析し、手だてを考え、子どもたちがどのように変化していったかを記録した。もちろんなかには、未熟な指導もある。厳しい目で、実践をご批正願えればと思う。
本書は、TOSSに学ぶ多くの先生方の協力によってできました。貴重な実践をお寄せ下さった先生方に感謝いたします。また、TOSS代表である向山洋一先生には、日頃から暖かいご指導をいただいています。本書も、向山先生のご指導があってできたものです。
最後に、明治図書の江部編集長には、本書の企画から執筆まで大変お世話になりました。本書の執筆を通して数多くのことを学ばせていただきました。ありがとうございました。
二〇〇五年一月末日 TOSS福井代表 /吉田 高志
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- 明治図書