- はじめに
- T 言葉と経験が結びつくような授業の構成、発問、視聴覚教材を工夫する
- ――五年自動車をつくる工業―― /西尾 文昭
- 一 言葉が経験と離れてしまう高学年の社会科
- 二 言葉と経験が結びつくような授業の構成、発問、視聴覚教材を工夫する(全一三時間)
- (1) 第一時 自動車の内部の観察 実物を観察して経験(情報)を蓄積する/ (2) 第二・三時 自動車組み立て工場 言葉と経験(身近な物)を対応させる/ (3) 第五時 小さな部品をつくる工場 写真資料等で視覚化して予想を立てていく/ (4) 第六時 ジャストインタイム 写真をもとに考えさせ、教科書から探させる/ (5) 第八時これからの自動車づくり 教科書の情報を整理し、自分の経験をもとに考える
- 三 子どもたちにどんな力が育ったか
- U 一斉指導の流れの中で、到達できない子への指導をさりげなく組み入れる
- ――五年「工業地域と工業生産」―― /上木 信弘
- 一 到達目標に達しない二つのタイプの子どもたちに行った指導
- (1) 子ども全体に大きな課題を与えた後、A君に短く指導する/ (2) 向山型一字読解を応用した反復学習、発表する場をつくる列指名・指名なし発表
- 二 子ども全体に大きな課題を出した後、個別に短く指導することでA君が活躍できた
- (1) 写真の読み取りをさせる〜鉛筆が動いていないA君〜/ (2) 挙手発表をさせる〜間違えた場合、どう対応したか〜/ (3) 思考を要する問題を出す〜活躍したA君〜
- 三 向山型一字読解を応用して、重要語句を定着させる
- (1) Bさんの感想「工業地帯の名前はぜんぜん覚えられません」
- 四 発表に消極的であったBさんが授業中に四回も発表した
- (1) グラフの読み取り指導のステップ/ (2) グラフから読み取ったことを発表させる〜Bさんが二回も発表した〜/ (3) 思考を要する問題を出す〜その後も発表をしたBさん〜
- 五 モノを準備した授業
- 六 二人をどう評価したか
- V 言葉の理解に先立つ体験による理解をしくむ
- 探す、塗る、例を考えるなどの具体的なイメージづくりが子どもの理解を助ける――五年「貿易と運輸」―― /辻岡 義介
- 一 言葉の理解と体験
- 二 貿易の理解を助ける具体的なイメージづくり (全七時間)
- (1) 第一時 身の回りにある外国のもの探し 言葉と体験活動を結びつける/ (2) 第二時 中国との貿易 作業から考えを導き出させる/ (3) 第三時 日本のおもな貿易相手国@ 向山型一字読解指導を取り入れる/ (4) 第三時 日本のおもな貿易相手国A 複雑な資料は整理して教える/ (5) 第四時 日本の輸入と輸出@ 例をあげさせる/ (6) 第四時 日本の輸入と輸出A ひな型を提示する/ (7) 第六時 日本の貿易の問題点 情報を蓄積させる/ (8) 第七時 輸入が少なく、輸出が多いことはよいことかよくないことか 討論をさせる
- 三 子どもたちにどんな力が育ち、どんな指導が有効だったか
- W フォーマットに沿って書かせることで全員の子どもたちがレポートを完成した
- ――五年世界一の工作機械を生産する工場を見学して―― /吉田 高志
- 一 世界一の技術を持つ日本の中小工場
- 二 見学を通して実感させる
- 三 しっかり学習しているが、目標に到達するのが難しいA君とB君
- (1) 内部情報を蓄積させ、仮説を立てさせる/ (2) 差を生じさせないようなステップを踏む
- 四 世界一の工作機械をつくる(全八時間)
- (1) 第一時 工作機械とは何か 絵に描かせて予想させる/ (2) 第二時 見学準備@ 工作機械の作業をイメージさせる/ (3) 第二時 見学準備A 仮説を立てさせる/ (4) 第三、四時 松浦機械製作所の見学 見たこと聞いたことをメモさせる/ (5) 第五時 レポートを作る 写真を活用してメモを整理させる/ (6) 第六、七、八時レポートを作る フォーマットに沿って書かせる
- 五 どのような力がついたか
- X まずは向山実践を忠実に追試する
- その中でノートに書かせ、チェックし、褒めることが、子どもたちを伸ばしていく――六年歴史―― /川原 雅樹
- 一 到達目標に達しない三つのタイプの子どもたちと、その変化
- 二 向山実践を追試することが出発点
- 三 ノートに書かせ、チェックし、褒めること 三タイプの子どもへ対応する向山実践 私の追試
- 四 向山実践「戦国時代」を忠実に追試し、書くことに慣れさせる (全一二時間)
- (1) 第一時 前の時代の特徴を一言で言う 「褒めて写させる」/ (2) 第二時 戦国時代の 特徴と代表する人物「再現する学習は、書かせる際にも有効である」/ (3) 第三〜第七時 人物調べ 「調べ学習は、アウトラインと褒めること」/ (4) 第八時 その人がどのように 生きようとしたか 「書かせる際のタイプ別三人への私の対応」/ (5) 第九・一〇時 五つの エピソード/ (6) 第一一時 代表的なエピソードはどれか討論する
- 五 アウトラインを示し、評価することで変化した江戸時代の実践での子どもの作文
- (1) 第一時 徳川家がやったこと 「ありったけ出させ、一つに絞る」/ (2) 第二・三時 重要な策を調べてノートにまとめる 「仮説を立て調べる」/ (3) 第四時 討論の作文を書く 「アウトラインを示す」
- 六 この後の三人 学級憲法と一年間の社会の思い出
- (1) 六年A組 川原学級 学級憲法/ (2) 一年間の社会の感想
- Y 子どもの事実が教えてくれた、向山型指導法の力
- ダイナミックな向山型「物語性のある授業」が、社会科好きを育てる。好きだから伸びる!――六年歴史―― /廣野 毅
- 一 子どもの事実が教えてくれる
- 二 「物語性のある授業」が「社会科好きになっちゃった」と子どもに言わせる
- 三 出来ない子を、できるようにするためには、じっくり構えよ
- 四 歴史をダイナミックに理解させる力 「物語性」
- (1) スマートボードで「物語性のある」授業を作る/ (2)「絵」になる「人物」を選ぶ/ (3) わくわくする、夢中になる「物語性のある授業」を作る/ (4) 物語性のある授業「平安時代と菅原道真」/ (5) 「説明」しなければならないのなら「削れ」
- 五 向山型「物語性のある授業」に挑戦する
- 六 単元の中に、向山型「物語性のある授業」を組み入れる
- 物語性のある授業「世界一周をした日本人」 /松藤 司氏
- 追試
- 七 地図を使った物語性のある授業「明治維新から世界のなかの日本へ」
- 八 二学期の終わりに
- ――子どもの事実がすべてを語る――
- Z 解説
- /吉田 高志
- 一 ほめることができる事実を作り出す
- 二 体験をどう組み込むか
- 三 情報の処理
- 四 すぐれた方法に学び使いこなす
- 五 インターネットランドとTOSS技量検定
はじめに
内部情報の蓄積の差。
これが高学年の社会科授業を難しくしている。
例えば、戦国時代の学習をするとする。織田信長を知っているかどうか。この差は、かなり大きい。
信長の名を知っている子の多くは、学習に対して積極的である。長篠の戦いも、安土城も本能寺の変も、すいすいと頭の中に入っていく。
では、教科書ではじめて知ったという子はどうか。「戦国時代」「天下布武」「織田信長」といった知らない単語が授業中に飛び交うさまを見ているだけである。イメージが伴わない。したがって授業が理解できない。かくして子どもたちは、社会科が大好きな子と、社会科が大嫌いな子に分かれていく。
社会科の目標に到達できない子の多くは後者に属する。では、こうした子たちへの指導はどうするか。
「新聞を読みなさい」「ニュースを見なさい」「社会科に関する本を読みなさい」と指導するのが従来の指導だった。私も、このように話したことがある。
しかし、効果は全くない。当たり前だ。社会科が嫌いで、社会科に興味を持てない子が、新聞を読んだり、テレビのニュースを見たりはしない。
では、どうするか。
授業時間内に内部情報を蓄積させる。
解決の方法はこれしかない。
例えば、戦国時代の学習の時に、教科書を読ませるだけでもよい。もちろん社会科の教科書は難しい。読めない子も出てくる。そこで、教師が読み、子どもたちがそれに続けて読む。「社会科の時間に教科書を読むなんて」と思われるかもしれない。しかし、これだけで戦国時代についての情報がかなり蓄積されてくる。
さらに、次のような作業もさせる。
教科書の戦国時代のところに登場してきた人物の名前をノートに書き出しなさい。その人は、どんなことをしたのか。一行程度でまとめなさい。
織田信長の名前は当然出てくる。長篠の戦いや鉄砲といったキーワードも出てくる。秀吉や家康の名も出てくる。
ノートに作業させることで、信長のイメージや時代背景も少しずつできあがってくる。
他のアプローチもある。
例えば、長篠合戦の図。教科書にも資料集にも出てくるとびっきりの資料である。この絵図を見せて、「分かったこと、気がついたこと、思ったこと」を発表させる。これは、教科書を音読させる方法より、かなり知的だ。絵図という視覚情報から授業にはいるため、軽度の発達障害を持つ子どもたちにとっても取り組みやすい。
合戦の図を丹念に読み取る。読み取ったことをノートに書く。他の子どもたちの読み取りを聞く。こうした作業を通して、戦国時代のイメージが少しずつ蓄積されていく。
火縄銃のレプリカを持ち込むというのは、もっといい方法だ。
玉はどこから入れるのか。命中率はどうか。誰が使ったのか。こうした疑問を出させ、調べさせていく。織田信長の名前も、長篠合戦の図も、調べる過程で出てくる。何より、モノを持ち込んだ授業は楽しい。子どもたちの目が輝く。歴史が大好きになる。
内部情報を蓄積させる方法は、このようにいくらでもある。向山型社会に学べば、一〇や二〇の方法をすぐにマスターできる。大切なのは、これらの方法を意識して使うことである。
向山実践に戦国時代の授業がある。この授業では、子どもたち一人一人が「戦国時代は○○な時代」というようなかたちで、時代をおおまかにつかむことができることをめざしている。そのために、次のような活動をさせている。
@ 戦国時代とはどのような時代か、時代の特徴を簡単に言う。
A 戦国時代を代表する人物を一人選ぶ。
B 選んだ人物について調べ、グループで冊子を作る。
C 発表して、他の班との違いを討論する。
選ぶ人物は、信長でも秀吉でも家康でもよい。調べて冊子をつくり、発表する。こうした活動を通して戦国時代についての情報を蓄積していく。こうした活動があって戦国時代は、どのような時代かというイメージが出来てくるのである。
社会科到達目標に達しない子への指導の基本は、一斉指導の中にある。一斉指導の中で、すべての子どもたちが目標に到達できるようにしていく。これが基本だ。
方法は、すでに述べた。
授業の最初の段階で、内部情報を蓄積させる。
原理はこれである。この原理をどう応用していくかが実践のポイントである。
社会科到達目標に達しない理由はさまざまある。軽度の発達障害を持っている。理解に時間がかかる。反社会的な行動をとる。こうした子たちに対しては、個別な対応が必要である。こうした子どもたちにどう向き合い、どう授業をしていったかについては、実践の部分をご覧いただきたい。
本書は、TOSSに学ぶ先生方の協力によってできました。貴重な実践をお寄せ下さった先生方に感謝いたします。また、TOSS代表である向山洋一先生には、日頃から温かいご指導をいただいています。本書も、向山先生のご指導があってできたものです。
最後に、明治図書の江部編集長には、本書の企画から執筆まで大変お世話になりました。本書の執筆を通して数多くのことを学ばせていただきました。ありがとうございました。
二〇〇五年一月末日 TOSS福井代表 /吉田 高志
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