- はじめに
- T 地理学習の新しいアイデア
- ―系統化に向けて―
- 1 世界との対話
- 2 子どもの「内にある地図」
- 3 スキルの育成
- 4 地理教育と人間形成
- 5 新しい系統化とは
- U 地理学習を面白くする授業アイデア8
- 1 地図指導とフィールドワークで歴史学習に広がりを ―タイムマシンで江戸時代の大町村へ―
- フィールドワークの技能 /床地図の読み取り
- 2 地図を利用した調査からポスターセッションへ ―野川を探検しよう―
- 地図の読み取りと課題づくり /ポスターセッション
- 3 むかしの風景を描いて地図の学力をつける
- カードに記録(情報処理の初歩) /ゲストティーチャーの話を聞く
- 4 地図に親しませるアイデアあれこれ ―日本の国土再発見!―
- 日本地図を読む /日本地図を描く
- 5 地名と位置が分かる!都道府県学習 ―都道府県は国土を捉える座標軸―
- 日本地図の上で位置が分かる /分布図をつくる
- 6 地名と位置が分かる!世界地理学習 ―ヒマラヤ山脈のくらし―
- 世界地図上で位置が分かる /異文化理解を進める
- 7 地球儀の活用技能をつける ―地球儀で世界へ―
- 地球儀の活用 /地球儀と世界地図
- 8 インターネット活用アイデア ―インターネットは世界の窓―
- 地図帳の活用 /インターネットの活用
- V 学力をつける新しい系統化へ
- 1 系統化への視点
- 2 知識の獲得
- 3 技能の育成
- 4 認識の形成
- 5 スパイラルカリキュラムの視点
- 6 地理学習の系統化案
- 7 系統化案の構成と実践例
- おわりに
はじめに
小学校2年生を担任したときに,ある男の子が父親の転勤に伴ってオーストラリアに転校することになった。クラスの子どもたちはその子が行くオーストラリアがどのようなところか大変興味をもった。また,転校した後,男のが在留先のオーストラリアから手紙を送ってくれたときは,外国切手のめずらしさもあって,オーストラリアがどこにある国で,どのようなくらしをしているのか,思いをめぐらせていた。このようにまだ見たことのない世界に対する興味や異文化との新鮮な出会いが,意欲的な地理学習の出発点であるように思う。
世界の国々の形から,どこの国か想像して国名を当てるという地名クイズをいくつかの学年でしばしば取り上げたことがある。ゲームをしたあとで学習を振り返り,感想を聞いてみると,「面白かった」という感想と並んで必ず「もっと,世界の地名を知りたい」という感想が出される。これは,とてっも素直で子どもらしい感想だと思う。健康な子どもは,誰でも知的好奇心に満ちていて,もっと知りたいという意欲をもっているものである。その証拠に,子どもは自分たちが気に入っているアニメやゲームのキャラクターの名前は,いとも簡単にかなりの量を記憶している。もちろん人気のあるキャラクターは,ハローキティとその仲間たちであったり,テレビ番組の英雄ウルトラマンや戦う怪獣であったり,男女によっても違い,時代によっても異なる。要するに,小学生がある程度の知識を記憶することは十分できるし,やり方によっては覚えることが楽しみにさえなる。このような楽しさを,地理学習の中に位置づけることはできないであろうか。
5・6年になると,自分たちのすぐ近くを流れる川にもかかわらず,川でよく遊ぶという子どもはほとんどいない。もちろん安全上の注意があるので,全く自由に遊んでよいというわけではない。しかし,子どもの身近な世界の中に,川は位置づけられていないのが実態である。そこに川はあるのだけれども,自分の生活とは無関係に存在するだけである。子どもたちが身近な川と親しくなり,友だちと誘い合わせてジャブジャブと川に遊びに行くようになるためには,どうしたらよいのだろうか。また,身近な川を客観的に捉えなおすことはできないであろうか。
そして,授業実践を一つ一つ積み重ねることを通して,帰納的に地理学習の全体的な枠組みを捉えなおすことはできないかと考えた。しかし,授業を積み重ねているうちに,いつのまにか時間が過ぎてしまい,実際の中にはいささか古いものも含まれる。そこで,実践記録のはじめに,実践のポイントを示し,授業の現代的な位置づけを明らかにした。
どうにかして楽しくそして満足できる授業をしたいということが,子どもと接する先生方の切なる願いだと思う。ささやかながら本書が,先生方が楽しい授業をつくり,教育の枠組みを考えなおすときのヒントとなれば幸いである。
この本を出版する機会を与えてくださった愛知県教育大学の寺本潔先生,ならびに明治図書出版株式会社の樋口雅子氏,企画段階からお世話になった阿波理恵子氏に記して感謝の意を表します。
/吉田 和義
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