- まえがき
- 1章 中学校新地理学習の理念と方向
- §1 今,なぜ,地理教育改革か
- 1 新地理学習への批判,疑問
- (1) 学び方重視,知識軽視ではないか
- (2) 内容構成が大きく変わったが,地理学習の基礎・基本は何か
- (3) 都道府県,国をどう選べばよいか
- (4) 国際化時代に逆行しているのではないか
- (5) 日本は鎖国をする気か
- (6) なぜ覚える学習を義務づけるのか
- (7) 人間の営みが見えないのではないか
- (8) 今,なぜ,都道府県や国なのか
- (9) 事例学習は細かな知識詰め込みを助長するのではないか
- (10) 地理が専門でない教師には指導困難なのではないか
- (11) 学び方を学ぶ学習は高度なのではないか
- 2 地理学習の現状の課題
- (1) 最初に答えを提示する地理学習
- (2) 変化しないことを前提にした地理学習
- (3) 学び方軽視(無視)の地理学習
- (4) 受験対策に席巻された地理学習
- §2 中学校新地理学習の理念と構成
- 1 再構成の背景と新地理学習の方向
- (1) これまでの地理学習の問題点
- (2) 時代的要請,近未来への配慮
- (3) 変化の時代と進行形の学力
- (4) 主体的な学習を促す地理学習の実現
- (5) 新地理学習の方向性
- 2 新地理学習の理念と枠組み
- (1) 新しい地理的分野の構成
- (2) 延長の限界と再構成の必要性
- 3 新地理学習の基礎・基本
- (1) 基礎・基本を考える前提条件
- (2) 古い学力観と新しい学力観の基礎・基本
- (3) F基礎・基本の宝庫G教科書の運命
- (4) 社会生活で使われない教科書の知識
- (5) 受験の基礎・基本から社会生活の基礎・基本へ
- (6) 生涯学習における地理学習の基礎・基本
- (7) 新地理学習の基礎・基本と個人差
- 2章 地理的な学び方指導の教材研究
- §1 二つの地誌と事例地域の取扱い方
- 1 事例学習が不成立の問題の所在
- (1) 地理的知識に固執した教科書記述
- (2) 講義式の授業を助長する構成
- (3) 隙間が気になるのは網羅的学習の宿命
- 2 静態的地誌と動態的地誌
- 3 二つの地誌から見たこれまでの諸地域学習
- 4 二つの問いと二つの地誌
- (1) 「どのような地域的特色をもっている地域か」の問い
- (2) 「そうした地域的特色がみられるのはなぜか」の問い
- (3) 二つの地誌と事例
- (4) 答えの出ている資料,出ていない資料
- 5 全域と基域
- 6 組み合わせの工夫
- 7 テスト問題の工夫の方向
- §2 地理的な見方や考え方の教材研究
- 1 地理的な見方や考え方の性格
- (1) 地理,歴史は事実,公民は概念
- (2) 一次的,二次的な事実認識
- 2 地理的な見方とそのトレーニング法
- (1) 「地理的事象」化するのが地理的な見方
- (2) 「地理的事象」化の具体例
- (3) 多様な分布図を作って楽しもう
- 3 地理的な考え方とそのトレーニング法
- (1) スタートは地域の設定
- (2) 分布図の読図のポイント
- (3) 二つの地域的特色
- (4) 平凡な地理的事象と地域的特色
- (5) 地域の範囲,事象の分布と地域的特色
- (6) 全域,基域からとらえた地域的特色
- (7) 変化を踏まえてとらえる地域的特色
- (8) 学習の目的と地理的事象の軽重,選択
- (9) 地理的事象と地域的特色
- 3章 新地理教育の具体化への工夫とアイデア
- §1 「(1) 世界と日本の地域構成」の工夫とアイデア
- 1 具体化への工夫のポイント
- 2 工夫改善の具体例
- (1) 大陸と海洋の位置関係,大きさ
- (2) 地球上の方位に関する指導
- (3) 時差の意味と計算
- (4) 略地図のトレーニング
- (5) 国名知識の調査
- (6) 日本より大きな国,小さな国の集計作業
- (7) 既得知識を揺さぶる日本の位置と領域の学習
- (8) 都道府県名知識の調査を活用した指導
- §2 「(2) 地域の規模に応じた調査」の工夫とアイデア
- 1 具体化への工夫のポイント
- (1) 脇役を主役に
- (2) 学び方を主役にするとは
- (3) 学び方を主役にするポイント
- (4) 事例地域の選択のポイント
- (5) 事例としての国の選択のポイント
- (6) 三つの地域を生徒,学校にたとえると
- 2 身近な地域の工夫と具体例
- (1) 身近な地域の取扱いのポイント
- (2) 身近な地域の取扱い例
- ◆事例1 分布図を作って地理的な見方に慣れよう
- ◆事例2 昔と今の町を比べてみよう
- 3 都道府県の工夫と具体例
- (1) 学校所在地の都道府県の取扱いのポイント
- (2) 都道府県の取扱いのポイント
- (3) 組み合わせや国との調整のポイント
- (4) 都道府県の取扱い例
- ◆事例1 都道府県の調査の視点と方法
- ◆事例2 都道府県の調査例―東京都―
- 4 世界の国々の工夫と具体例
- (1) 世界の国々の取扱いのポイント
- (2) 世界の国々の取扱い例
- ◆事例1 世界の国々の調査の視点
- ◆事例2 国が成り立つ三つの条件から迫るアメリカ合衆国
- §3 「(3)世界と比べて見た日本」の工夫とアイデア
- 1 具体化への工夫のポイント
- (1) 項目構成の特色の把握
- (2) 大観化の工夫
- 2 「世界と比べて見た日本」の工夫の具体化
- (1) 「様々な面からとらえた日本」の具体化のポイント
- (2) 「様々な特色を関連付けて見た日本」の具体化のポイント
- §4 新地理学習を促す授業改善のポイント
- 1 教科書の工夫改善とノート
- 2 生きる力をはぐくむ授業改善
- 3 学習内容と学習方法を関連付けた授業改善
- 4 継続的,系統的な学習
- 5 大観化,学び方,増補版の教材開発
まえがき
最近になって,新しい地理的分野の授業づくりについての問い合わせがたくさん寄せられるようになっています。それも,いわゆる地理が専門ではないという先生方から,戸惑いや批判ではなく,新しい地理的分野の学習指導に興味・関心が喚起されたからだということです。本書は,そうした先生方と共に歩みたいと願い,書き下ろしたものです。
テストにしか役に立たない知識詰め込みに奔走する社会学習に業を煮やし,何とか生徒にとって学びがいがあり,教師にとって教えがいのある社会科を創造したいという願いは,プロの社会科教師の共通の願いだと思います。中学校社会科の見直し,改革の手掛かりを新しい地理的分野に求め,前向き,建設的に取り組もうとする姿勢は,教育改革の時代にふさわしいものです。
政治の世界でも改革に抵抗する勢力がみられますが,学校教育の世界にも,社会科教育,地理教育の世界にもそうした勢力がみられます。これまでは,そうした勢力に押し切られてきました。その結果,今はどうでしょう。知識量で優劣をつけ,そのため詳細な知識まで身に付けざるを得ない,テストのための社会科学習,地理学習に陥っています。必要性を強調し,仕方なく学ぶ社会科は,卒業すれば社会科離れを促します。また,せっかく身に付けた知識もまたたくまに剥落し,基礎・基本の宝庫のはずの教科書は廃棄され,開かれることはありません。今は,そうした方向でエスカレートする歪んだ社会科に見切りをつける時です。そして,変化の時代,生涯学習の時代にふさわしい社会科を開拓していく時です。
地理的分野を手掛かりに,新時代の社会科を拓いていきましょう。新しいものに戸惑いはつきものです。しかし,そこには創造の喜び,楽しみがあります。子どもの成長を扶けるという,本来の教育活動の営みがあります。
変化の時代は,ある時点までの様子を知識化し,それで学習は終了というものではありません。生涯学習の時代であり,いわば磨き,増やし,伸ばすといった営みを生涯にわたって続けていく時代です。完了形ではなく,進行形のかたちで継続的に学んでいくのです。だからこそ,子どもの時代に学ぶ豊かさや楽しさを味わわせる必要があるし,世界や日本を地理的に認識するための座標軸になる知識や学び方を身に付けさせることが大切なのです。
新しい地理学習は,地理的な学び方だけを大切にしているのではありません。地理的な知識と地理的な学び方の両立をめざしています。これまでの地理学習は,知識重視,学び方軽視(無視)でした。それを限られた時間内で両立させようというのが新しい地理的分野がめざす方向です。進行形のかたちで基礎・基本を身に付けていくためには,それが必要だからです。
本書は,1章で,地理教育改革の背景と今後の方向について検討しています。新しい地理的分野に対する疑問にも答え,また,構成の枠組みや位置付けなどについても明らかになるよう努めました。
2章は,今,現職の中学校社会科の先生方が最も戸惑い,そのため最も研修を必要とする部分にメスを入れました。地理的な学び方の指導の基礎・基本ともいえる地誌的な取扱いと地理的な見方や考え方に関して,正面から取り上げ,検討しました。
3章は,新しい地理的分野の具体化の方向を例示することに努めました。楽しく,学びがいがあり,知識と共に学び方や技能が身に付く地理学習とは,いったいどんなイメージになるのか。それを,特に「(1) 世界と日本の地域構成」「(2) 地域の規模に応じた調査」に重点を置いて検討しました。
本書は,明治図書の安藤征宏氏の粘り強い励ましによって刊行の運びとなりました。原稿を渡しての解放感,爽快感の余韻が今も残っています。本は執筆者だけで誕生するものではありません。深甚の謝意を申し上げます。
平成13年6月 /澁澤 文隆
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- 明治図書