- はじめに
- T 授業の最高峰を目指す TOSS授業技量検定A表から学ぶ
- 一 本を読み、人に会い、足で教材を発掘する。しかし、すべては普段の授業の延長線上にある
- 1 「染谷だからできる授業でなければA表ではない」
- 2 すべては普段の授業の延長線上にある
- 3 真夏に雪を手に入れる
- 4 モノは足で稼ぐ
- 5 「炭鉱都市の街づくり」を追究する過程で生まれた授業
- 6 TOSS授業技量検定の最高峰・七段の授業づくり
- 7 人と出逢うことで一級の情報を手に入れる
- 8 日本人の宗教観と環境対策をリンクさせて、授業に厚みを与える
- 9 すべては日々の授業の質を高めるためにある
- 二 有段者の授業から学ぶ授業のリズムとテンポ 谷七段の授業
- 《拡散的発問→集中的発問》で組織されているから、流れるような授業になる
- 1 「できない生徒」を授業から落ちこぼさない配慮
- 2 『拡散的発問』から『集中的発問』という授業構成
- 三 有段者の授業から学ぶ授業のリズムとテンポ 伴七段の授業
- 四 有段者の授業から学ぶ授業のリズムとテンポ 河田六段の授業
- 生徒の発言によけいな言葉を挟まない。それでも認める「技」を見た
- 五 有段者の授業から学ぶ授業のリズムとテンポ 井上五段の授業
- 細分化の原則を使いこなすことでリズムとテンポが生まれる
- 六 有段者の授業から学ぶ授業のリズムとテンポ 小森四段の授業
- いつも笑顔だから授業にリズムとテンポが生まれる
- U 三年生は一筋縄ではいかない! スピード感ある授業を成立させるためのQ&A
- 一 授業開始になっても、教室に入らない生徒がいます
- 二 教科書を持ってこない生徒がいます
- 三 指名しても返事をしない生徒がいます
- 四 私語を止めない生徒がいます
- 五 「社会は暗記教科だから嫌い」という生徒がいます
- 六 宿題をやってこない生徒がいます
- 七 進学先が決まり、まったく授業に参加しない生徒がいます
- 八 「どうして、社会を勉強しないといけないの?」という生徒がいます
- 九 プール学習後で、授業に集中しない生徒がいます
- V 特別支援教育の視点を意識した授業づくり 授業の基礎基本を見直す
- 一 集団を意識して授業を行う
- 1 巻き込む
- 2 ルールを作る
- 3 授業パターンを作る
- 二 個別指導をしない 浮き上がった個別指導は逆効果である
- 1 浮き上がった個別指導をしない
- 2 目線で全体と個とを掌握する
- 3 目立たない「できない子」への対策
- 三 生徒が安心して授業を受けられる「授業開始一〇分間のシステム」
- 1 授業開始のあいさつをやめる
- 2 長々とした説明から授業を始めない
- 3 授業の始まり一〇分間のシステムを固定化する
- 四 変化のある繰り返しで、成功体験を積み重ねる
- 1 過去の失敗から学ぶ
- 2 TOSS教材で成功体験を重ねる
- W 授業のリズムとテンポはシンプルな構成から生まれる 「公民」難教材
- 一 三権分立=基本的なしくみ・語句はまず暗記させる
- 1 説明しない
- 2 音読の授業
- 3 説明しない授業とは
- 4 視写
- 5 次の時間では
- 6 入試で感謝される
- 二 直接請求権は自分の地域と関連ある内容を取り上げる!
- 三 株式会社 生徒とのやりとりを通して基本原理を押さえる
- 四 累進課税制度=教科書を使ってテンポよくすすめる
- 1 社会資本と公共サービス
- 2 税金の種類と分け方
- 3 累進課税
- X リズムある授業が確かな学力を育てるオススメ授業実践
- 一 国会の二院制を授業する
- 1 授業のための事前準備
- 2 授業の流れ
- 二 トマトは野菜か果物か? 民事裁判の授業
- 三 法治国家 祝日法で授業開き
- 四 消費者問題 本文と資料を対応させる発問・指示で作業化を図る
- 1 資料の読み取りから消費者問題の実態をつかむ
- 2 相談内容について円グラフと教科書本文を対応させて調べる
- 3 消費者保護の動きを調べる
- 五 教科書を一〇〇%使って自由権を授業する
- 1 自由権とはなにか
- 2 「あなたを逮捕します」と言われたら
- 3 精神の自由・身体の自由・経済活動の自由を教科書で確認する
- 六 憲法制定の過程を学習した後に、日本国憲法の内容に入る
- 1 憲法制定から学習を始める
- 2 資料から日本国憲法の特徴をつかむ
- 3 重要語句は関連づけて覚える
- 七 グラフとキーワードでバブル経済を授業する
- 1 バブル経済と不良債権
- 2 バブルの崩壊と不良債権
- 八 貨幣制度 和同開珎から諭吉まで 貨幣の歴史をたどって生徒の興味を引き出す
- 九 この条約は国際法の一部と言えるか否か?
- 十 国際連合 〜アルファベットの略名に親しむ〜
- 1 アルファベットの略名をおぼえる
- 2 国際連合のお勧め教材
- あとがき
はじめに
「だらり」とした授業を見た。教員三年目。生徒にも人気があるのであろう、授業開始前、多くの生徒がその教師を囲んでいた。しかし、私はその光景に違和感を抱いた。教師と生徒の目線が合っていなかった。生徒は教師を見て発言していたが、教師の目は下を向いていた。「生徒に押し切られる授業になる」と思った。
授業開始。生徒数一〇人にもかかわらず、教師の目線は最前列の生徒に届いていなかった。これでは生徒の行動を確認できない。
「教科書を開きなさい」という第一指示から、半数以上の生徒が落ちこぼれた。中学生は「できない」と思った瞬間、思考をストップさせる。生徒を《お客さん》にしないためには、教師は生徒を見なくてはならない。そして、生徒が「できている」「できていない」を峻別しなければならない。できていれば褒め、できていなければやらせる。こうした当たり前のことが徹底できない限り、授業にリズムとテンポは生まれない。
目線は、どのように鍛えるのか。サークルの若い教師には、次のように指導している。
まずは、N字を描くように目を動かしなさい。
教室の左側最前列から目線を後方に送る。最後尾の生徒と目を合わせる。その時、笑顔で合図を送る。次に、右側最前列まで目線を動かす。一番前に座っている生徒にも笑顔で合図を送る。最後に、目線を後ろにずらして最後尾の生徒に合図を送る。目線のポイントは《一瞬止める》ことにある。止めるから、生徒は「見られている」と思う。自然と、授業に緊張感が生まれる。
その後、Z型・M型・W型とパターンを増やしていく。これが基本形である。
次は応用形である。授業成立のキーを握っている生徒の目を見て、目線を《一瞬止める》のである。
まずは、学級で最もうるさい生徒に目を止める。この場合、《目線の力》が必要となる。目線で「静かにしなさい」と訴える。重要なことは、目線を動かす流れの中で《一瞬止める》ことである。特定の生徒を見ていることを悟られてはならない。同様に、真面目な生徒にも目を止める。この場合、《優しさ》が必要となる。目線で「立派です」「その意欲を称えます」という合図を送る。
サークルの若い教師は「目線を意識して授業が変わりました」「やんちゃな生徒と目が合ったとき、初めて笑ってくれました」と証言している。
目線を鍛えるだけで授業が劇的に変化する。授業にリズムとテンポが生まれるからだ。中学生はテレビゲーム世代。我々の中学時代に比べ、スピード感ある生活をしている。授業も、それに合わせて構成しなければならない。
中学向山型社会研究会は、生徒にとって価値ある授業を目指している。「私の得意教科は社会科です」と笑顔で答えられる生徒を育てたいと願う中学教師に読んでいただけると幸いである。
/染谷 幸二
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- 明治図書