- 序
- I 社会科授業理論の性格と方法
- 一 社会科授業理論の現状と課題
- 1 授業実践と授業理論
- a 経験が頼りの社会科授業
- b 伝統的授業「理論」
- c 授業実践の問題伏況
- d 授業理論の問題性
- 2 社会科授業理論の現状と問題点
- a 方法主義授業理論
- b 規範的超越的授業理論
- c 実践追随授業理論
- d 経験主義授業理論
- 3 授業理論の課題
- 二 社会科授業理論化の方法
- 1 社会認識形成過程としての授業
- 2 認識過程の間主観的把握
- a 三つの世界
- b 理解過程・主観的知識成長過程
- c 理解過程・主観的知識成長過程の間主観的把握
- 3 社会認識形成過程の間主観的把握
- a 授業の間主観的過程と主観的過程
- b 科学的社会認識形成過程
- c 社会科授業理論化の課題
- U 社会科授業の目標
- 一 客観的知識と社会認識体制
- 1 客観的知識の構造
- a 事実的知識
- b 常識と科学
- c 客観的知識の体系――思想・イデオロギー
- 2 社会認識体制
- a 主観的知識の構造
- b 思考の構造
- 二 社会認識体制と社会科教育
- 1 学力と授業構成
- 2 授業構成の類型化
- a 類型化の指標(一)
- b 類型化の指標(二)
- c 社会科授業構成の類型
- 3 授業構成の類型と学力
- a 事実詰め込み型
- b 理論注入型
- c 理論探求型
- d 価値注入型
- e 価値理解型
- f 理論・価値注入型
- g 理論・価値追究型
- 4 事実認識の指導と社会認識体制の発展
- V 社会科授業の構成原理と分析視点
- 一 知識成長過程としての授業
- 1 科学的知識の体系
- a 歴史的事象・地理的事象に関する科学的知識の構造
- b 社会的事象に関する科学的知識の構造
- c 社会科学的知識の成長
- 2 科学的知識の成長
- a 変革的成長
- b 累積的成長
- c 付加的成長
- 3 主観的知識の成長
- a 概念的・「事実」的知識の構造
- b バケツ理論とサーチライト理論
- c 主観的知識の成長
- d 科学的知識の理解・習得
- 4 社会科授業の構成原理と分析視点(一)
- a 知識成長過程としての授業の構成原理
- b 社会科授業分析の視点(一)
- 二 説明・理解過程としての授業
- 1 社会的事象の科学的説明
- a 推論による説明
- b 規定による説明・記述による説明
- c 科学的説明と知識の成長
- 2 社会的事象のまちがいのない理解
- a 社会的事象の理解と主観的知識の成長
- b 理解の方法―活動と媒体
- c 事象理解の三つのベクトル
- 3 社会科授業の構成原理と分析視点(二)
- a 説明・理解過程としての授業の構成原理
- b 社会科授業分析の視点(二)
- W 社会科授業実践の分析
- 一 授業の記録と分析
- 二 「いかに」説明、付加的成長型の授業
- 1 授業計画・小学校第六学年「幕末と明治維新」(佐藤正雄作成)
- a 「指導計画」の分析
- b 「指導の展開」の分析
- c 授業計画の問題点
- 2 授業記録・小学校第五学年「くつ下工場」(長岡文雄指導)
- a 授業の展開
- b 授業の分析
- c 授業の評価
- 三 「何」説明、変革的・累積的成長型の授業
- 1 授業記録・西ドイツ基礎学校第四学年「過密地域」
- a 授業の展開
- b 授業の分析
- c 授業の評価
- 2 授業記録・中学校歴史的分野「フランス革命と明治維新」(深谷孟延指導)
- a 授業の展開
- b 授業の間主観的過程
- c 授業の主観的過程
- d 授業の評価
- 四 「なぜ」説明、変革的・累積的成長型の授業
- 1 授業計画・授業記録・小学校第二学年「大きなパン工場と小さなパン工場」(仙台市小社研作成・指導)
- a 計画にみられる授業構成の論理
- b 記録の分析
- c 授業の普遍化
- 2 授業記録・小学校第六学年「開国」(林竹二指導)
- a 「開国」の授業展開
- b 教材構成の論理
- c 教材づくりの論理
- あとがき
序
本書は、質の高い社会認識の形成という観点から、社会科の授業をつくり、授業について語るための一つの理論を提供しようとするものである。
われわれは社会科の授業をつくり、授業について語る。子どもの実態をふまえ、目標を設定し、この内容をこういう方法で教授すれば目標が達成されるのではないかと考えて授業を構成している。観察した、あるいは、記録された授業を分析し、その良さや改善すべき点を指摘する。社会科授業とはどのようなものであり、どうあるべきかについての自分なりの考え方の枠組み=「理論」をもっているわけであるが、この「理論」は教育学的根拠をもっているであろうか。主観的で恣意的なものではないか。
授業については、教授学や教育心理学の分野から研究が進められ、かなりの数の書物が出版されてきている。それらを社会科授業理論としてみるとき不満に思うことは、提示されている理論が社会認識の内容に、社会科の教材にかかわるものでなく、客観的ではあるけれど基礎的にすぎたり、あるいは、末梢的にみえることである。
また、社会科授業に限定したいくつかの研究も発表されてきている。それらは一つの立場からの授業づくりの理論であったり、特定の授業の解釈に留まっている。社会科授業の核心にふれたものになっているけれども、主観性が強く、授業をつくり、授業について語るのに役立つほど、理論が一般化され明示されていない。
いずれも、われわれが身につけてきている「理論」をゆさぶり、発展させるものになっていないのではなかろうか。
本書がねらいとするのは、社会科における認識内容にかかわる客観的一般的な授業理論を確立することである。質の高い社会認識の形成という観点から、授業で何がなされているか、なされるべきであるか、そう構成するにはどうすればよいかを、授業の事実にもとづいてとらえていくための理論を探求することである。社会科の授業について考えるための最も基本的な枠組みを提示することによって、「理論」に形を与え、それに修正・発展を迫ろうとするものである。
本書は、この課題に次のような順序で取り組んでいる。
まず、Tでは、社会科授業構成と授業理論の現状を分析し、授業の事実をとらえ説明し変革していくための理論の必要性を明らかにする。そして、認識の内容にかかわる授業の事実を、複数の人々の間で確認できるような仕方で、すなわち、間主観的な仕方で確認する方法を考察する。ここで、本書の論述の鍵となる考え方を示す。すなわち、授業を、@個々の子どもの頭の中の知識=主観的知識を成長させるための、教室という場における知識=間主観的知識・客観的知識の成長過程として、A個々の子どもの理解を深めるための、教師と子ども等による正しい説明過程としてとらえる、というのがそれである。
Uは、さまざまな立場から多様に構成されている授業を統一的に説明できる立場の探求を課題としている。社会科授業がかかわる子どもの内面の体制=社会認識体制を授業組織可能なレベルで確定し、社会認識体制にかかわっていく程度とかかわり方から授業を類型化する。そして、各類型の授業の論理的実際的吟味から課題に迫っていく。社会科教師の守備範囲を事実認識の指導に限定し、科学的知識を科学的探求の論理にもとづいて習得させる理論探求型、これが最もよく弁護できる授業類型であり、かつ、さまざまな授業を統一的に説明できる立場であることを明らかにする。
次に、Vでは、社会科のねらいを事実認識の形成に限定した場合の授業の構成原理と分析視点を導出する努力をする。質の高い認識を形成する授業は、Tで示したとらえ方にしたがうと、@主観的知識をより大きく成長させるための、科学的知識の成長過程、Aまちがいのない理解を得させるための、科学的説明の過程ととらえられる。こうした過程の考察から、授業構成の原理と授業分析の視点を明らかにしようとする。
Wでは、公表されているいくつかの授業計画、授業記録を取りあげ、Vで明らかにした分析視点にもとづいて分析し評価することを通して、授業分析の方法を示すことをねらいとしている。授業における説明と知識成長の類型から授業の型を大きく三つに分け、各々について二事例を取りあげ、授業計画の書き方、授業記録の仕方に応じた分析・評価の方法を具体的に示すように努めた。なお、授業構成の方法については、かつてそれ自体として発表している(『社会科授業構成の理論と方法』明治図書 一九七八)ので、本書では、本章の項建て、および各授業の分析・評価に織りまぜて叙述するかたちをとった。章の項建てについていえば、意義ある社会科授業は、「いかに」説明、付加的成長型ではなく、「何」説明、累積的・変革的成長型と「なぜ」説明、累積的・変革的成長型であることを示している。そして、取りあげている授業はいずれも各類型できわめて優れたものであるので、それらにみられる授業構成は各類型におけるあるべき方法を示していよう。
もとより、授業は多くの要因が複雑にからみ合ってダイナミックに展開していく過程であり、本書の理論でとらえられるのはそのいくつかの側面でしかない。しかし、社会科授業ということからは核心的部分に切り込んでいるつもりである。
本書が、多くの授業者の「理論」を深め発展させ、どの子にとっても意義のある、知的に面白い授業が構成されるようになることに役立てば幸いである。
是非とも復刊してほしいです。
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