- はじめに
- Chapter01 「主体的・対話的で深い学び」をすべての生徒に
- 〜「落ちこぼし」をつくらない歴史ネタ〜
- 1 歴史事項の暗記を超えた深い学びのあるネタ
- 〜「活版印刷」の意義〜
- 2 はやくわかりたい!解決したいと思うネタ
- 〜「一休さん」から「武家政権の確立」まで〜
- 3 日常生活から世界にせまるネタ
- @「ハンバーガー」から見える社会と歴史
- A「Kazuyuki Kawahara」と書いていたワケ
- 4 ワクワク感をもち,事実や背景,そして本質につながるネタ
- @ゴッホはどうして浮世絵を知ったのか
- A特別教室がつくられた時期
- 5 矛盾や対立のあるネタ
- 〜江戸時代初期の財政〜
- 6 「常識」が揺れるネタ
- @開会式と閉会式で国名が変わった国って?
- Aなぜ,乾燥地帯の近くに文明が発生したのか?
- 7 思考や判断が揺れるネタ
- 〜源頼朝と義経の対立〜
- 8 “素朴理論”から深めるネタ
- 〜鎌倉幕府の滅亡〜
- 9 世界の歴史を背景に,原因,結果,影響など事象相互のつながりを考えるネタ
- @傭兵と鉄との交易
- A南北戦争と倒幕
- Chapter02 歴史授業のつくり方
- 1 自粛警察とファシズム
- 〜巻き込まれる私たち〜
- 2 発車メロディーから考える大正文化とアメリカの国家統合
- Chapter03 ワークの使い方の事例
- 〈近世〉醤油から見える交易
- Chapter04 原始・古代ワークシート
- 歴史との対話
- 人が犬をかむ事件があれば 〜歴史を知る〜
- 発車メロディーから考える歴史 〜地域と歴史〜
- 原始
- 狩猟か農耕か? 〜縄文と弥生〜
- 古代
- 大きい古墳をつくったワケ 〜古墳〜
- 謎解き4,5世紀 〜ヤマト王権〜
- ヤマト王権の外交 〜古代外交史〜
- 大仏さんがつくられたワケ 〜律令国家〜
- 泣くよ坊さん!平安京 〜平安遷都〜
- 源氏物語は誰に向けて書かれたのか? 〜摂関政治〜
- なぜ平将門は関東にいたのか? 〜武士の成長〜
- Chapter05 中世ワークシート
- 中世
- キーワードは貿易 〜平清盛〜
- 長〜い名前のあった時代 〜御恩と奉公〜
- 北条政子の決意 〜承久の乱〜
- 元祖ハンバーグとユッケ 〜モンゴル帝国〜
- なぜ金閣寺は三層構造なのか? 〜足利義満〜
- ペストがもたらしたルネサンス 〜感染症の歴史〜
- 大航海時代
- なぜオランダは繁栄したのか? 〜ヘゲモニーの変遷〜
- 中世
- したたか外交で生き残りを 〜琉球王国〜
- 川が3つに分かれているワケ 〜戦国大名〜
- 秀吉は農民の味方か? 〜検地と刀狩〜
- なぜ高野山には歴史上有名人の墓が多いのか? 〜戦国時代〜
- Chapter06 近世ワークシート
- 近世
- 山田長政はなぜタイにいたのか? 〜日本人町〜
- 松尾芭蕉は忍者だったのか? 〜元禄文化〜
- 大和川の付け替え 〜新田開発〜
- すごい!海上交通 〜天下の台所と交通〜
- 富山の薬の秘密 〜西廻り航路〜
- 発明したのに貧乏に 〜イギリス産業革命〜
- 横浜はダメだよ 〜日米和親条約〜
- Chapter07 近現代ワークシート
- 近代
- 慶喜への処分が甘かったワケ 〜戊辰戦争〜
- ドイツを選択した航海 〜岩倉使節団〜
- なぜ寺を焼くのか? 〜廃仏毀釈〜
- 身分差別はなくなったのか? 〜「解放令」〜
- 明治維新の奇策 〜太陽暦〜
- 明治維新の諸政策をランキング 〜明治維新〜
- かかあ天下って? 〜日本の産業革命〜
- 自衛のための戦争なのか? 〜日露戦争〜
- 植民地支配って? 〜韓国併合〜
- ユーハイムって? 〜第一次世界大戦〜
- レーニンを漢字で書くと? 〜ロシア革命〜
- 投票率90%の選挙 〜普通選挙法〜
- 〇×クイズで吉野作造 〜民本主義〜
- ヒトラーに投票しますか? 〜ドイツのファシズム〜
- なぜ日本は無謀な戦争を? 〜太平洋戦争〜
- えっ!あれが消えたの? 〜戦争中の国民生活〜
- 多くの人を救ったのか? 〜原爆投下〜
- 戦争は回避できたのか? 〜戦争を大観〜
- 現代
- なぜ賠償金がなかったのか? 〜サンフランシスコ平和条約〜
- オリンピックと聖火 〜1960年代の世界と日本〜
- アパルトヘイト撤廃と冷戦終結 〜深読み冷戦終結〜
- 24時間戦えますか? 〜プラザ合意とバブル〜
- おわりに
はじめに
長崎原爆資料館の入り口に「長崎からのメッセージ」が掲げられている。核兵器,環境問題,新型コロナウイルスという3つを挙げ,それらに「立ち向かう」根っこは同じだと語りかける。「自分が当事者だと自覚すること」「人を思いやること」「結末を想像すること」そして「行動に移すこと」である。このメッセージにこれからの社会科教育のあるべき姿が示されているのではないだろうか?
「当事者性」とは,子どもたちにとっても「切実性」「有事性」のある題材から,社会と対峙する学びを創造することであろう。「地球温暖化」については,魚種の変化,果物栽培の不適地化など食生活の変化も予想されるが“いのち”そのものが問われている。現在,「熱中症」で亡くなる人は年間約1000人であるが,今後,発生率は,埼玉県では2.5倍,福岡県では3〜4倍,大阪府では連日危険レベルになると言われている。また,「台風」は,列島近海の海水温27度以上の海域で勢力をあげ,日本列島に近づくほど勢力を強め上陸し,「豪雨」「土砂くずれ」など大規模な災害が増えている。そして,陸地にある氷河が解けはじめると,東京都江戸川区の海抜ゼロメートル地帯では,巨大台風が都心に上陸し荒川と江戸川が決壊した場合には約250万人が浸水被害を受ける。ヒマラヤ山脈の雪が解け,雪崩がおこり多くの人に被害がでたことは周知の事実だ。子どもたちにとって「身近」で「当事者性」のある題材から社会の課題を追究し解決する方法について学ぶことが大切である。
「人を思いやる」ためには,社会的事実や課題を“知る”ことが不可欠である。先日,「国境なき医師団」が,カリブ海にあるハイチでの医療活動への支援を呼びかけていた。ハイチは,アフリカから奴隷として連行された黒人による国で,フランスによって支配されていた。1804年,十数年間におよぶ血なまぐさい奴隷蜂起を通して独立を勝ち取った唯一の国である。だが,2004年には森林伐採の影響もあり,ハリケーンで約2000人の死者を出し,2010年の大地震では,救助に来た外国人からもたらされたコレラにより82万人以上が苦しんだ。「医師団」は,入院したコレラ患者の治療をしている。直接下痢の便を出してもらうため,ベッドのお尻が当たるところに穴をあけ,いくつかのベッドの穴の下にはバケツが設置された写真が目に留まる。筆者が募金をしたのは,ハイチの歴史や災害そして「医師団」の活動もあるが,活動資金の96%は民間からの寄付で成り立っている事実を知ったからである。「医師団」は,これらの治療を“傷に絆創膏”と揶揄する。なぜなら,ハイチの構造的な問題があるからだ。スタッフは昼夜を問わず救護をおこなうが,施設の外の街にゴミが浮き,汚水が流れている現実に肩を落とす。事実や背景を“知る”ことで“人を思いやる”気持ちが動く。そして次の課題も見えてくる。
「結末を想像すること」については,少子高齢社会の進行から考えてみよう。2021年には「介護」による離職が大量発生,22年「ひとり暮らし社会」が本格化,24年全国民の6人に1人が「75歳以上」,25年「認知症患者」が700万人規模に,そして,私がもっとも危機感をもつのは,2030年には地方からデパート,銀行,老人ホームが消え,その3年後の33年には全国の住宅の3戸に1戸が空き家になる「結末」である。しかし,これは,何ら対策がなく放置した場合である。「対策」の必要性を“痛感”すれば「未来」は見えてくる。展望ある「未来の世界のかたち」は,2015年に“危機の時代の羅針盤”として提起された,SDGsの169のターゲットに示されている。2030年までに「誰一人取り残さない」社会の実現を目指すSDGsのターゲットは,社会科教育の目標と合致する。SDGsは,「答えのある問題集」であり,その「実現過程」を考えることで「思考力・判断力」が育つ。「ポジティブ」「ネガティブ」のどちらであろうが,「未来の世界のかたち」を「想像」する力は「変化を生む羅針盤」である。
そして,「行動に移すこと」である。学習指導要領では「学びに向かう力,人間性等」で,「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るかを目標にしなければならない」と「参加・参画」の視点が示されている。例えば,マクドナルドが,水産資源と環境に配慮したアラスカのMSC認証漁業からスケトウダラを輸入していることから,MSCアンバサダーのココリコ田中直樹さんは以下のように語っている。「僕はマクドナルドでエッグマックマフィンを注文していました。マクドナルドがMSC認証の魚を使ったフィレオフィッシュ(R)を提供するようになり,注文が変わりました。でも毎回注文するわけではありません。……続かない気がするからです。フィレオフィッシュを注文することが増えた。それくらいでいいと思っています」(要旨)。自分の「興味」あることを切り口に“ちょっとした行動”が地球や地域,未来を変え,地球市民としての社会正義を考える授業が問われている。
最後に,「社会的な見方・考え方」である。学習指導要領の中では「社会的事象等を見たり考えたりする際の視点や方法」とされているが,平たく言えば「知識を忘れても残る思考力・判断力」とも言える。これからの授業は「見方・考え方」を培い,急速に変化する「予測困難な時代」に向けて持続可能な社会の担い手を育てようとするものである。しかし,何度も何度も……「暗記社会科」からの脱却が問われてきたが,いまだに克服ができない現状がある。生徒の知的好奇心に火をつける「わかる楽しい授業」も大切だが,「先生! 世の中って複雑ですね」「立場やいろんな見方・考え方があるんですね」「家に帰って勉強します」という,「もやもやするけど楽しい」“深い学び”から,社会に対峙しつつ「思考力・判断力」を育てる授業実践が問われている。
本書は,“誰一人取り残さない”すべての生徒がわかる授業を目指してきた筆者が,すべての生徒に「社会的見方・考え方」をつける授業に挑戦した試みである。それも従来の「授業記録」「授業プラン」ではなく「ワーク」形式で紹介させていただいた。多くの先生に本書を手にとっていただき,「社会科=考える教科」となることを願うばかりである。
2021年7月 /河原 和之
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- 明治図書
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