- 1 向山洋一全集全一〇〇巻刊行へのまえがき
- /向山 洋一
- 2 防災教育の学校計画づくりのポイント
- /水野 正司
- T ピンチをのりこえる技量を身につける
- 1 「教育技術の法則化」で学力低下&学級崩壊は必ず防げる
- 2 教師が、どうしても身につけておかなければならない専門知識
- 3 新任教師の方々へ―すばらしい教師人生を送るためのたった一つの条件
- 4 誰でも何度かピンチに出会う 必ず、のりこえられる方法はある TOSSは、すべての問題に対応できる知識と知恵と経験の蓄積がある
- 5 TOSSで学んだ教師はピンチを上手に切りぬける
- 6 すばらしい教師人生を送るために
- 7 新卒九割学級崩壊を克服するために
- U 女教師への辛口応援歌
- 1 担任が変われば、子どもは変わる
- 2 学年主任クラスのヴェテラン女教師が次々と退職している
- 3 新学習指導要領―大きく入る伝統文化の授業への準備
- 4 良いと思ってやったことが我流だった
- 5 観光立国教育テキスト全都道府県全市町村完成
- 6 いいとこ取りだけでは実力はつかない
- 7 トラブルを解決するには基本から考える
- 8 奇跡の学年集団
- 9 千百数十名の参加者の長く長く長く続く嵐のような拍手
- 10 機械に子どもの手がはさまれた
- 11 私が出会った管理職
- 12 教師―別れと出会いが宿命の仕事
- 13 アニャンゴライブ
- 14 TOSS学生家庭教師研修を若きTOSS女子学生、TOSS女教師が前進させている
- 15 夏の女教師の群像
- 16 時間を守れない教師が、すぐれた実践をできるわけがない
- 17 教育困難校の高校生も熱中した百玉そろばん
- 18 メタモルフォーゼしつつある女教師の群像
- V 技量アップのための教師修業日記
- 1 夏休みこそ、教師の技量をアップするチャンスだ いっぱい本を読み、セミナー、研究会に出かけ、人と会い、知恵と勇気と情熱をもらってくるのだ
- 2 二一世紀、日本の教師の志は千年紀を駆けぬけ、三〇世紀へ願いを馳せる
- 3 向山が見た最高レベルの模擬授業―会場の空気の色まで変わった―と参観者は言う
- 4 我流を捨てよ すぐれた授業システムは、ライブでないと伝わらない部分があるのだ
- 5 TOSS島根、若武者のライブ体験
- 6 TOSSは、教師の技量を向上させる革命的な方法を創り出した
- 7 TOSS向山・小森型理科は、「ソニー賞」など三つの理科教育コンクールで日本一になった 全国四六〇会場のTOSSデーでは「日本一」の教育方法、技術、内容が紹介される
- 8 文科省稲葉大和副大臣五色百人一首新潟大会名誉会長に! 文科省原田義昭副大臣五色百人一首福岡大会名誉会長に!
- あとがき
- /松崎 力・兼田 麻子
1 向山洋一全集全一〇〇巻刊行へのまえがき
/向山 洋一
向山洋一全集全一〇〇巻が刊行されることになった。
これは、日本の教育界で初めてのことであり、他の分野でもほとんど耳にしない出来事である。
私が、小学校で三十二年間実践したことのすべて、千葉大学、玉川大学で十年余にわたって教えたこと、NHKクイズ面白ゼミナール、進研ゼミ、セシールゼミ、光村、旺文社、正進社、PHP、サンマーク出版、主婦の友社などで発刊した教材群(その多くは、日本一のシェアをとった)などが入っている。
すべての子どもの学力を保障するために、とりわけ発達障がいの子の学力、境界知能の子の学力を保障するために、慶応大学など多くの専門医と協同研究をしてきた成果でもある。
教育技術の法則化運動は、結成して一年で日本一の大きな研究団体となり、二十一世紀にそれをひきついだTOSSは、アクセス一億、一ケ月で七十七ヶ国からのアクセスがあるなど、ギネスものの無料のポータルサイトとなって、多くの教師、父母の方々に情報を提供するようになった。
TOSS学生サークルも全国六十大学に広がり、TOSS保護者の支援サークルも生まれている。
総務省、観光庁、郵便事業会社と全面的に協力した社会貢献活動もすすめてきた。例えば、「調べ学習」として、全国一八一〇自治体すべての「観光読本」(カラー版)を自費で作り、八〇〇余の知事、市、町村長からのメッセージをいただいている。
このような大きな教育運動の中で、多くの方々と出会い仕事を共にしてきた。波多野里望先生、椎川忍総務省局長はじめ、幾多の方々の応援に支えられてきた。
また、こうした活動を普及していく多くの編集者とも出会ってきた。
とりわけ、お世話になったのが、向山洋一全集全一〇〇巻のほぼ全部を創ってくれた江部・樋口編集長である。多くの方々に心から御礼の意を表したい。
この一〇〇巻が完成する時、二〇一一年三月一一日、一〇〇〇年に一度といわれる巨大地震が日本をおそった。
東北地方太平洋岸が壊滅的な被害をうけた。
向山洋一全集全一〇〇巻と共に、この東日本大震災のことも、この全集に含めておきたい。
どこよりもはやく、東日本復興の企画会議を招集し、今回百数十人から寄せられた「復興企画」の中から寄稿をお願いしたものである。
「TOSSの活動、願い、実行力」を具体的に示すものとして、後世に長く伝えられていくことと思う。
2 防災教育の学校計画づくりのポイント
/水野 正司
平成二三年三月一一日に発生した東日本大震災。
全校児童の約七割が死亡、行方不明となった宮城県石巻市立大川小学校。
欠席していた一名を除く全員が無事だった岩手県釜石市立釜石東中学校(生徒数二二二名)。
どちらも河口からは数十メートルしか離れていない。地理的条件はほぼ同じだった。
明暗を分けたのは一体何だったのか。
行動に移せるシンプルな教訓
様々な要因がある中で、右の有無が防災教育の在り方を根本から問い質している。
岩手県釜石市ではこの震災で市内の三〇〇〇人近い小中学生がほとんど無事に避難できた。
その背景には古くからの言い伝えである「津波てんでんこ」(自分の責任で早く高台に逃げろの意)に基づいた防災教育があるという。釜石市の学校関係者は言う。
「指示されなくても、とにかく早く、自分の判断でできるだけ高いところに逃げるよう指導してきた」
かつて向山洋一氏は次のエピソードを語っている。
「実は、四〇年も昔の話ですけども私が子どもの頃、相模湖というところで修学旅行で遠足に行った子どもたちが、ボートっていうか船が転覆してたくさん死んだ事件がありました」
この事故で四、五〇名の子どもたちが命を落としたという。
助かった子どもたちの中に大田区出身の子がいた。
その助かった子が、生きるか死ぬかの瀬戸際の状況で何を思い、どう行動したのか。
ある先生の教えを思い出した。
「水でおぼれそうになったら何かつかめ」
何でもいいから浮いているものをつかめということである。
この子の命を救ったのは「教師の教え」だったわけである。(向山洋一著・法則化アンバランス編『学級づくり・集団への対応QA事典』明治図書)
釜石市の事例と向山氏が語るエピソードには共通点がある。
局面で役に立つのかという視点で受け継がれている
多くの学校で行われている防災教育は「とりあえず実施型」だと言えよう。
それに対し、向山氏が追究してきた防災教育は「局面追究型」である。
そのことが最もよく表れているのが調布大塚小学校で実施された「児童引き渡し」の避難訓練である。
児童数は六九六名である。保護者への引き渡しを実施するためには様々な事態を想定しなければならない。保護者が迎えに来ない家庭だってあるわけだ。近所の人が迎えに来た時は渡していいのか? そういったひとつひとつの局面を追究していくことで本当に役立つ防災教育が実践できる。
想定した局面に対し、愚直なまでに具体的に追究し続ける。
防災の神もまた、底部に宿り給へるのだ。
向山氏は書いている。
「心がどれだけ豊かであっても、医療技術がなければ医者は病人を救えない」(『教育トークライン』九七年七月号)
子どもたちが遭遇するであろう局面に対し、愚直なまでに具体的に追究し続ける行為は、教師にしかできない作業である。「ここまで考えるのか」と思うくらいの小さな場面にこそ、子どもの事実が隠れているものだ。
局面追究型の防災教育を全国に向けてここに提起する。
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- 明治図書