- 改訂高等学校学習指導要領の展開 地理歴史科編
- まえがき
- T 地理歴史科改訂の基本方針と要点
- §1 地理歴史科改訂の基本方針
- §2 地理歴史科の改訂の趣旨と要点
- 1 地理歴史科の目標の改訂の趣旨と要点
- 2 世界史の改訂の趣旨と要点
- 3 日本史の改訂の趣旨と要点
- 4 地理の改訂の趣旨と要点
- U 世界史改訂の解説
- §1 世界史A改訂の解説
- 1 世界史A改訂の趣旨と要点
- (1) 改訂の方向と要点
- (2) 目 標
- 2 世界史Aの内容と内容の取扱い
- 1 諸地域世界と交流圏
- 2 一体化する世界
- 3 現代の世界と日本
- §2 世界史B改訂の解説
- 1 世界史B改訂の趣旨と要点
- (1) 改訂の方向と要点
- (2) 目 標
- 2 世界史Bの内容と内容の取扱い
- 1 世界史への扉
- 2 諸地域世界の形成
- 3 諸地域世界の交流と再編
- 4 諸地域世界の結合と変容
- 5 地球世界の形成
- V 日本史改訂の解説
- §1 日本史A改訂の解説
- 1 日本史A改訂の趣旨と要点
- (1) 改訂の方向と要点
- (2) 目 標
- 2 日本史Aの内容と内容の取扱い
- 1 歴史と生活
- 2 近代日本の形成と19世紀の世界
- 3 近代日本の歩みと国際関係
- 4 第二次世界大戦後の日本と世界
- §2 日本史B改訂の解説
- 1 日本史B改訂の趣旨と要点
- (1) 改訂の方向と要点
- (2) 目 標
- 2 日本史Bの内容と内容の取扱い
- 1 歴史の考察
- 2 原始・古代の社会・文化と東アジア
- 3 中世の社会・文化と東アジア
- 4 近世の社会・文化と国際関係
- 5 近代日本の形成とアジア
- 6 両世界大戦期の日本と世界
- 7 第二次世界大戦後の日本と世界
- W 地理改訂の解説
- §1 地理A改訂の解説
- 1 地理A改訂の趣旨と要点
- (1) 改訂の方向と要点
- (2) 目 標
- 2 地理Aの内容と内容の取扱い
- 1 現代世界の特色と地理的技能
- 2 地域性を踏まえてとらえる現代世界の課題
- 3 地理的な見方や考え方,地理的技能の指導の工夫
- §2 地理B改訂の解説
- 1 地理B改訂の趣旨と要点
- (1) 改訂の方向と要点
- (2) 目 標
- 2 地理Bの内容と内容の取扱い
- 1 現代世界の系統地理的考察
- 2 現代世界の地誌的考察
- 3 現代世界の諸課題の地理的考察
- 4 地理的な学び方の工夫
- X 指導計画作成上の配慮事項
- 1 調和のとれた履修と他教科・科目との相互関連
- 2 学習の過程を大切にした指導の工夫
- 付録
- 学校教育法施行規則(抄)
- 高等学校学習指導要領「総則」
- 高等学校学習指導要領「地理歴史」
まえがき
高等学校の社会科が地理歴史科と公民科に再編成されたのは,昭和から平成へと元号が変わるときであった。したがって,早12年が経過したことになる。そして,今,21世紀を迎える。
ところで,今日,携帯電話が若者やビジネスマンにすっかり定着しているが,この状況を平成元年の頃に予測できただろうか。今日ではEメールやインターネットによる情報交換が職場だけでなく,家庭にも普及しているが,このような状況を21世紀の入り口で迎えるなんて予測できただろうか。現実の社会は十年一昔以上のスピードで変化しているといえよう。
それに対して,高等学校の地理歴史科教育はどうだろうか。十年一日のごとく,ほとんど変化していないのではないだろうか。相変わらず説明し理解する講義式の授業,知識詰め込みに奔走する授業が席巻している状況にあるのではないだろうか。それは,定期テストの問題をみただけでもよくわかる。
社会認識を深めるために歴史や地理に関する事実的知識をたくさん身に付けるという学び方は,社会の変化が遅ければ遅いほど有効である。生まれたときと死ぬときで,社会の様子がほとんど同じならば,ある時点で身に付けた知識が生涯にわたって通用するからである。しかし,変化の激しい時代になるとそうはいかない。時々刻々と変化する中で,社会認識を深めるために事実的知識を身に付けるということになると,身に付けるべき事実的知識が膨大に膨れ上がり,パンクしてしまうからである。また,それぞれの時点での事実的知識を詰め込んでも,事実そのものが変化してしまうので,すぐに役に立たなくなってしまうからである。もちろん,事実的知識も使いようで,上手に使えば変化の軌跡がみえてきて,未来予測をすることも可能であろう。ただし,それには比較し関連付けるなどの営みが必要であり,単なる丸暗記では通用しないし,別の学び方を身に付ける必要がある。
変化の時代では,変化に関心を持ち続け,変化する社会を的確に読み取ったり,変化する社会から課題をみいだし,解決に努めるなどの対応を適切に行っていく必要がある。そのためには,事実認識の結果を厳選して座標軸になる知識を身に付けたり,学習の過程を重視して事実認識の方法を身に付けたりすることが大切である。また,主体的な学習を促し,達成感や自己効力感を味わわせて自ら学ぶ意欲を育成するとともに,問題解決能力や自己評価力を育成することが大切である。ただし,それらの能力は一過性の学習では育たない。習熟の程度を高めるように,系統的,継続的な学習を積み重ねていく必要がある。それは,学習内容の厳選が課題になってくることを意味している。
前回はハード面の改訂が注目されたが,今回はソフト面の改訂が中心である。それだけに派手さはないが,しかし地理歴史科を担当する先生方の意識改革を迫るような改訂になっている。変化の時代は生涯学習の時代である。本書を手掛かりに,そうした時代に対応した歴史教育,地理教育の創造に工夫,努力していただけたら幸いである。
平成12年7月 編著者
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- 明治図書