- 解 説
- まえがき
- T 地域の人々の生産や販売から【社会経済システムの理解】
- 一 店屋のマークに社会経済システム理解の一歩
- 1 学校内のマーク探りから三年社会はスタートする
- 2 見れど見えずのマークに驚きの声
- 3 自分でマーク決めをする
- 4 店屋のマーク調査隊
- 5 花王のマークに社会経済背景を感じる
- 6 店屋のマークの持つ意味
- 7 校区絵地図に自作マーク貼りで店が集まっているわけが分かる
- 二 コンビニで体感! 社会経済システムの一端
- 1 お客さんの流れ
- 2 右回り・左回りの法則を発見!
- 3 レジ周りの商品に【ついで発想】
- 4 教え子が語った【品出し・前出し】の工夫
- 5 特別サービスと新鮮さ・季節感
- 6 清潔さと飾りつけの工夫
- 三 スーパーマーケット調査で社会経済システムの理解を深める
- 1 四七都道府県とのつながりを意識する
- 2 四七都道府県名をわずか一〇秒で言う子どもたち
- 3 四七都道府県を知り【名産地】を意識する
- 4 ダンボールに興味を示す
- 5 経済ニュースに耳を傾ける三年生
- 6 袋のウラの都道府県・原材料にも目が行き始める
- 7 世界とのつながりも意識する
- 8 バーコードにも社会経済システムのヒミツあり
- 9 昔のレジシステムに興味津々
- 四 キーワード【宣伝】と社会経済システムの理解
- 1 工夫あり! レシートの宣伝
- 2 新聞折り込み広告に宣伝の面白さを見る
- 3 店の外にも【宣伝】グッズ発見!
- 4 おまけ発想がついで購買
- U 我が国の産業と【社会経済システムの理解】
- 一 水産業は盛んといえるか
- 1 魚を食べない日本人
- 2 日本は世界一の魚輸入国という事実に衝撃
- 3 肉の輸入どころではないスーパーの外国ラベル
- 二 農業は盛んといえるか
- 1 サンデーファーマーという言葉
- 2 お金のかかる農業「衝撃の言葉」
- 3 自給自足型農業が増える?
- 三 社会経済システムを支える運輸
- 1 全国各地のナンバープレート
- 2 道路の舗装率が高い!
- 3 きめ細かな輸送
- 四 私たちの生活と情報
- 1 情報を買う時代ではない
- 2 捨てる情報
- 3 インターネットを自由に使う子どもたち
- 4 つぶれない店の持つ情報
- 五 デポジット制度を見直す
- V 我が国の歴史と【社会経済システムの理解】
- 一 歴史に見る衝撃の社会経済システム
- 1 奈良時代に税? 子どもたちの驚き
- 2 初めての通貨【和同開珎】が、わが町下関に!
- 3 物々交換模擬体験で経済システム体感
- 4 奈良の大仏と通貨の関係に衝撃
- 二 一枚の絵に隠された社会経済システム
- 1 ノルマントン号事件を考える
- 2 関税自主権って何?
- 三 地元の歴史で【社会経済システム】を学ぶ
- 1 土井ケ浜遺跡で大陸とのつながり
- 2 朝鮮通信使って何?
- 3 金本位制の復活/下関条約
- 4 関門の地は交通の拠点
- あとがき
解説
まず、本書を見たとき、「福山憲市著」になっているのに驚いた。福山氏のグループで書くものと思っていたからである。何らかの事情で、責任感旺盛な福山氏が一人で書かなければならなくなったのであろう。そのことは、「まえがき」を見れば予想がつく。「社会経済システム」なんてむずかしいことばを提示したため、「これは無理だ」と思ったのであろう。
しかし、これからが福山氏らしい追究が続く。「社会経済システム」といってもむずかしいことではなく、自分たちの毎日の生活そのものであることに気づき、しかも、これまでも無意識のうちに指導していたことに気づき、一人で書く気になったのであろう。福山氏の三年から六年生までの実践が、うまく取り入れられている。
とても読みやすく、わかりやすい本になっている。一般書にしてもよいくらい多様な内容が盛られている。よい読み物でもあるし、実践の指針にもなる好著である。
「社会経済システム」というむずかしいことばを、三年生に理解させることを試みている。
まず学校内の「マーク探り」から始めるなんて、ユニークな目のつけ方ではないか。子どもたちは、校内のマークなんて意識して見ていないから、「見れども見えず」の状態である。わかれば驚く。つまり、いきなり「経済」へいくのではなく、学校内のマークさがしから「店屋のマークのひみつ」調べへゆっくりせめているところがいい。
校内のマークさがしだけでなく「自分でマークを決める」という、主体的な活動を組んでいる。さすがといいたい。
経済の入口で、しかも「目に見える」ものは、「店」である。この店のマークに迫っていく。看板が一番目につく。
それから「花王石鹸のマーク」に目をつけさせ、大正元年から昭和二十八年まで変化していることに気づかせている。マークだって、店の名前だって、経済のシステムだって、時代と共に変化する。それを何で気づかせるかである。店屋のような客商売をするところは、マークのもつ意味は大きい。店の「顔」であるし、「広告塔」でもあるからだ。店が集まっているところに、自作マークを貼りつけさせ、なぜ、そこに店が集まっているのか考えるように導いている。指導が自然である。店がどんなところに集まっているか─ということは、経済学習の重要なポイントである。つまり「店の立地条件」を、子どもが自然に追究するようにしているのである。
子どもたちがよく利用するコンビニに目をつけさせ、何と「お客さんの流れ」に注目させている。ローソンが牛乳屋からスタートしたことを、ロゴマークでつかませる。店は、右回りか左回りか、なんて面白い。スーパーでは、わたしは「右回り」するくせがある。子どもたちの調べでは、右回りと左回りの人がそれぞれあり、目的が違うのではないかと考えている。
コンビニの店長によると、「コンビニ経営の一つの仕掛けに『左回りの法則』というのがある」という。こういう回りになるよう「ものを売る工夫」をしているのである。もう一つ、「レジの周り」に仕掛けがあるという。これは、金を支払うとき、つい目に入り、思わず買ってしまうような物を置いているという。「ついでに買う物を置いている」のである。
コンビニでアルバイトをしている教え子まで活用している。「品出し・前出し」ということばがあることを、教え子から教わっている。これは、品物の並べ方の問題である。これで売れたり、売れなかったりする。
「コンビニにも特売品がある」と子どもがいう。「売れなくなったものを、安くして売っている」ことを母親と一緒に行って見つけている。そして、コンビニのポイントは、「@常に、新しいものを置く A常に、季節にあったものを置く B常に、売れるものを置く」ということである。こんなことを見つける目ができているのだ。
スーパーマーケットでは「○○県産」という、地名・産地が、品物につけられている。生産者の氏名・写真まで入れているものがある。安心・安全なものを売っているという証拠である。責任をもつということでもある。
三年生の子どもが、県名を知りたがる。そのチャンスをとらえて、わずか一〇秒で四七都道府県をいえるようにしたというのだ。まるでスポンジが水を吸うようなもので、時と場をわきまえると、すぐに覚えさせることができる。タレントの中には、県名もわからない人がかなりいる。それで、新しい学習指導要領では、四年生で、四七都道府県名と位置を覚えるようにさせるという。当然のことで遅すぎるくらいである。
県名がわかれば、県の名産も意識する。スーパーに行くのがたのしくなる。一人の子どもが、スーパーからダンボールをもらってきた。それには「北海道産 玉葱」と書いてある。これをきっかけに、ダンボール集めをし、それを日本地図に位置づけていく。どんな物が、どこからきているか、三年生ながらにいつの間にかつかむ。
わたしは、子ども一人ひとりを四七都道府県知事にして、ダンボールの交換をしたりして、一つの県の専門家になるよう一年間続けた。時々、「県知事新聞」を出させ、県の特色をつかませるようにしたことがある。「大人になっても、なぜかその県のことが気になる」といっている。
こういう学習をすれば、三年生でも経済ニュースなどに興味をもつ。これを新聞などにする。
県知事をきめると、お菓子の袋などにもどこでできたものか気をつけるようになり、「レッテル集め」をして、交換するようになる。とんでもないところから、とんでもない物がきていることがわかったり、自分の県のものがよそにいってることがわかり、「経済のシステム」が少しずつわかってくる。
このことは、日本だけでなく外国からきたものにも関心をもつようになり、外国との経済関係に目を開くことになる。五年生になれば、「貿易」として内容を把握することになる。
品物の動きは、必然的に「バーコード」にも及んでいることに気づき、このひみつを調べることになる。外国のものはバーコードの一部が違う。つまり、国名を表わしているところが違うことに気づく。品物によってバーコードが違うことに興味をもつ。
今の経済システムの中では、「宣伝」が大きなポイントになっている。宣伝によって、売れたり売れなかったりする。テレビでは、毎日のように新しい品物の宣伝があるし、同じ品物を何度も宣伝しているものもある。
子どもたちは、レシートにも興味をもったという。なかなか鍛えられた子どもたちだ。
更に、新聞広告・宣伝にも目をつけている。子どもの考えが面白い。「@新鮮さ A値段 B産地 C見た目 D珍しさ」の順で買い物をするというのである。これが三年生なのだから驚く。
魚を食べない日本人─骨があって食べにくい、生くさいなどといっている。ところが、「日本は世界一の魚輸入国」ということがわかり、子どもたちはびっくりぎょうてん。一体、どんな魚を輸入しているのかという「はてな?」が当然出てくる。マグロ、カニ、サケ、エビ……を子どもたちは輸入の多いものとしてあげる。
二〇〇海里の問題や海の汚れなど、多くの問題が水産業にも出てきていることがわかってくる。
水産業も輸入が多いことに驚いた。では、農業はさかんといえるか。ここにも大きな問題があることに気づく。
三チャン農業どころではない。サンデーファーマーの増加である。このままでは、日本の農業はどうなるかわからないような危機感をもつ。食料自給率も四〇%を切った。にもかかわらず、休耕田は一〇〇万ヘクタールもある。農民の心はあれはてている。そうしたのは農林水産省といってもよいくらいである。農民たちは農林水産省を信用していない。
社会経済システムを支える運輸も、燃料の値上がりなど、いろいろな問題をもっている。
どこから切り込むか。福山氏は、ナンバープレートから切り込んでいる。山口県下関市の国道には、多種多様なナンバープレートをつけたトラックが、いろんな品物をつんで走っている。関門峡は、交通の要衝であるから、この学習はやりやすい。生活と結びつけた学習ができる。戸にまで品物が届くシステムを学ぶことになる。
面白いと思ったのは、客がいるように思えない店が、つぶれない秘密である。
V章は、歴史的な社会経済システムである。大化の改新によって、租庸調などの税をとられるようなシステムになった。そして、「和同開珎」などのお金がつくられた。富本銭も下関でつくられた。このことに子どもは驚き、わが郷土を見直す。そして、不平等条約の改正にまで取り組んでいる。「関税自主権」というのは、経済の大切な問題であるからだ。下関は、交通だけでなく、歴史的にも重要な場所である。
すばらしい経済システムの内容が盛り込まれていて、感動したことを付け加えておきたい。
「社会科で育てる新しい学力」として全六巻、一度に出版するようにとりはからって下さった明治図書の江部満編集長に厚くお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
二〇〇八年四月 /有田 和正
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- 明治図書
- 社会経済システムという視点が面白かった。2023/7/1540代・小学校教員
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