- 解説
- はじめに
- T 世界の国を学ぶ意味
- 一 世界の国を学ぶ意義
- 1 他国と共生していくことの大切さを理解させるために
- 2 地球規模の課題を理解させるために
- 3 国際社会を生きる資質を育てるために(違いを認め受容する力を育てる)
- 二 小学校と中学校との関連(中学校で役立つ知識とは)
- U 世界の国の学び方
- 一 世界地図の見方(教材と授業例)
- 1 世界地図に記されている内容
- 2 国名・州
- 3 世界なんでもベストテン
- 二 世界の国とその位置のとらえさせ方
- 三 「日本と関係の深い国々」の導入
- 1 世界の六つの州を知る
- 2 世界の六つの州の名称を知る
- 3 それぞれの州で日本と関係の深い国を二つ探す
- 4 それぞれの州でどの国が日本と最も関係が深いかを検証する
- 四 教科書に出てくる国
- 1 国際理解教育を推進する教科(社会科・国語科)
- 2 小学校社会科の教科書に出てくる国
- V どんな国や事象を取り上げるか
- 一 世界地図はおもしろい
- 1 日本が中心でない世界地図
- 2 世界地図から世界情勢を読み解く
- 3 おもしろ世界地図サイト
- 4 昔の地図と現在の地図を比べる
- 二 特に日本と関係の深い国々の取り上げ方とその切り口
- 1 どのような学習が必要か?(授業構想)
- 2 「アメリカ合衆国」について学ぶ
- 3 「中華人民共和国(中国)」について学ぶ
- 4 「大韓民国(韓国)」について学ぶ
- 5 「オーストラリア」について学ぶ
- 6 「サウジアラビア」について学ぶ
- 7 「EU(ヨーロッパ連合)」について学ぶ
- W 発展的内容─新しい見方・考え方
- 一 世界六大陸 海洋、自然(教材と授業例)
- 1 世界六大陸
- 2 海洋
- 3 自然
- 二 世界の言葉(教材と授業例)
- 三 世界のマナー(教材と授業例)
- 四 世界の宗教(教材と授業例)
- 1 世界の宗教を学ぶ意味
- 2 世界の三大宗教の特色
- 3 発展学習の展開例
- X 世界に対する見方を広め、深める授業(教材と授業例)
- 一 人口と食糧問題について学ぶ
- 1 食糧問題に関する基礎知識
- 2 ハンガーマップについて
- 3 飢餓の激しい地域
- 4 給食の食べ残しから飢餓の問題を授業する
- 二 エネルギー資源について学ぶ
- 1 第一時 私たちの生活と「環境・エネルギー」
- エネルギーの基礎知識
- 2 第二時 私たちの生活と「環境・エネルギー」
- 電気を大切に使う方法を調べよう
- 三 核と平和の問題
- 1 核兵器の問題ぬきで平和は語れない
- 日本を取り巻く国々の現状を考える
- 2 授業を組み立てるポイント
- 3 実際の授業案
- おわりに
解説
本書は、全六巻の六巻目にあたり、『世界に関する学習の取り扱い』という、これから特に大切になる内容を述べた重要なものだといえよう。文部科学省も、「世界の国々の学習」とか、「国際理解」が大切とかいいながら、今の学習指導要領は、「世界の国の学習をしているとはいえない」ということを認めているようだ。今、改定作業が行われている学習指導要領では、今のような簡単な扱い方から、本書が授業しているような方向へ転換するようである。当然のことである。今の学習指導要領の内容では、「世界の国々の学習」といえたものではないからである。
今述べたように、本書は意欲的に新しい国々の学習例を取り上げ、それをどのような角度から学ばせるとよいかについて、五章に分けて述べている。
第T章は「世界の国を学ぶ意味」について、@他国と共生していくことの大切さを理解させるために、A地球規模の課題を理解させるために、B国際社会に生きる資質を育てるために(違いを受容する力を育てる)、の三つの角度から述べている。二章以降は、この三つの角度を具体化した内容を提示し、こんな取り扱いをしたらどうかと述べている。
それにしても、今の小学校と中学校の内容には大きなギャップがあり、中学の社会でつまずく子どもが多いという。わたしも学習の具体的な姿を見て、がく然とすることが多い。このギャップの大きさを、「掛け算を教えずにいきなり割り算を教えるようなものだ」と述べている。その通りである。
T章の終わりに、「小学校で教えたい『世界の学習』」という項をもうけて、学ばせたい内容を四つに分けて提案している。ここには新しい内容が盛り込まれている。
第U章は「世界の国の学び方」で、「世界地図の見方(教材と授業例)」「世界の国とその位置のとらえさせ方」「『日本と関係の深い国々』の導入」「教科書に出てくる国」という四つの内容を示している。
「世界地図には何が記されていますか」という問いかけは、大きすぎて答えようがないのではないかと思われる。補助発問しながら、取り上げたい内容を引き出していくのであろう。そうでなければ、とても記されているような内容を引き出すことは困難である。「こんなことを教えたい」と書いた方がすっきりする。
後半の「世界なんでもベストテン」は面白い。面積の大きい国ベストテン、小さい国ベストテン、人口の多い国ベストテン、少ない国ベストテンなどは、資料活用しながら調べていく面白さがある。グループ学習として行ってもよい。今学習されていない内容に「世界の国とその位置のとらえさせ方」がある。これを積極的に取り上げ、学習させることを提案している。
章の最後に「小学校社会科の教科書に出てくる国」を一覧表にして時代順に出しており、とても参考になる。歴史以外のことで出ている国もあげている。これで、日本と関係の深い国などが浮きぼりになってくる。
第V章は「どんな国や事象を取り上げるか」ということで、詳しく述べている。この章が中心といってよい。
一は「世界地図は面白い」ということを取り上げている。実際、取り上げ方によっては、世界地図は実に面白い。具体例をいくつかあげて、面白さを強調している。「特に日本との関係の深い国々の取り上げ方とその切り口」は、とても詳しく具体的に提案しているので、非常に参考になる。その基本コンセプトは、「一 『外国の人々と共に生きていく』という思想、二 そのためには、次のことが不可欠であること─1関係の深い国々とのつながり・結びつきを知ること 2その国のことを知ること 3その国の異なる文化・生活習慣等を理解し、尊重すること、三一、二の延長線上に『世界平和』があること」である。この内容を具体的な国名をあげて、展開のしかたを述べている。例えば、アメリカ合衆国についても、今の教科書に出ていることの何倍も詳しく、深く述べている。例えば、アメリカの宗教、民族、歴史、気候なども取り上げるべきだという。子どもの好きなスポーツも取り上げている。
授業化の「切り口」となる発問群も提案しており、そのまま授業ができる。これを参考に他の国も扱うとよい。
アメリカに続いて、中国、韓国、オーストラリア、サウジアラビア、EUの例をあげている。
面白いと思ったのは「世界六大陸、海洋、自然」「世界の言葉」「世界のマナー」「世界の宗教」などを、発展的内容としてあげていることである。わたしが若い頃は、世界の自然、世界の主な国の位置、海洋などを教えたことを思い出す。結構面白がっていた。国を取り上げるとき、核になるものが必要だ。わたしは、中国を「南船北馬」、朝鮮を「おんどる」で切り込んだことを今だに覚えている。このことは、子どもたちも同じで、大人になった今も覚えているのに驚く。面白いことは残るものだ。
わたしの授業は、今述べたように、国を取り上げるとき、「切り口」と同時に「核」になるものをとらえておくことである。広く浅くより、狭くてもよいから深い学習ができるものをとらえておくことである。
第W章は「発展的内容─新しい見方・考え方」で、今、学習されていないことで、これからどうしても必要になる内容を取り上げている。これが子どもたちの「新しい見方・考え方」になるようにしたいのである。
今は、「世界六大陸」さえ取り上げられていない。学習指導要領にないから、教科書にも出ていない。これで国際理解なんていえたものではない。スポーツは、地図帳を見ないとわからないような国で、世界大会が行われている。テレビの前には、常に地図帳を置いていないと、どの大陸にある国かさえわからないことがある。スポーツ界は、グローバル化しており、一番国際化が進んでいるといってもよい。でも「地図帳」には、ちゃんと出ている国ばかりである。結局、自ら地図帳を使って調べる子どもを育てるしかない。暇があったら地図帳を見て楽しむ子どもを育てたいものである。
それには、どの教科の学習時間でも、常に机の上に「地図帳」と「国語辞典」がのっているようにしたいものだ。国語辞典など、一年生から使っている学校が増えているのはたのもしい。使い方の本も出ている。地図帳の使い方も何冊もの本になるほど内容がある。
本書では、まず「世界六大陸」の位置、名称、面積などを調べさせ、地球儀での確認もさせるべきだと述べている。
次は、「海洋」である。太平洋 大西洋 インド洋 南氷洋の四大洋を取り上げ、その位置や面積を調べさせるようにしている。更に「自然」を取り上げ、各大陸の高い山、大きな湖、長い川など、子どもが調べることを楽しめるものを取り上げている。
全く新しい内容として、「世界の言葉」を取り上げている。「世界の言葉を概観する」「世界の言葉と日本語」を二本柱として、その授業の進め方を具体的に述べているところは圧巻である。世界のあいさつ言葉だけでも十一紹介している。更に、「世界のマナー」「世界の宗教」と、六年生の子どもが楽しめそうな例をあげている。このW章は新しい学習指導要領に入れてほしい内容ばかりである。入らなくても、「発展教材」として学習させれば、必ず子どもの目を開くものとなるし、面白くてのめり込むものとなるはずである。
第X章は「世界に対する見方を広め、深める授業(教材と授業例)」で、「一 人口と食料問題について学ぶ」「二 エネルギー資源について学ぶ」「三 核と平和の問題」の三つの内容が取り上げられている。いずれも、今、世界の問題になっているものばかりである。いいものを取り上げたと感心している。
一では、「飢餓」の問題と「給食の残飯の多さ」を対比して、子どもたちに、自分たちの問題として考えるように迫っている。具体的な数字も示しているので、迫力がある。食料自給率は四〇%を切ったという日本、それなのに給食の残飯の多さなども、反省の材料となるはずである。
二のエネルギー資源では、バイオエタノールなど、新しい燃料も登場してきたが、石油の値段は高くなるばかり。石油資源にも限りがあることなど、幅広く考えさせた後、「省エネ」について考えさせるようにしている。
最後は「核と平和の問題」である。日本は世界唯一の被爆国として、「非核三原則」を基本政策としている。
「核」を兵器として使えばこんな恐ろしい兵器はない。しかし、平和利用すれば役に立つ燃料ともなる。国連も、核の問題では困っているようだ。核兵器を開発しようとする国があとを絶たないからである。平和利用を考えさせたい。
「社会科で育てる新しい学力」として全六巻、一度に出版するようにとりはからって下さった明治図書の江部満編集長に、厚くお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
二〇〇八年四月 /有田 和正
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- 明治図書