- まえがき
- T “グローバル化”をめぐる論点・争点と社会科授業
- [1] 身近な世界にも“グローバル化”の波が押しよせている /木村 博一
- [2] “グローバル化”をめぐる論点・争点を探る教材研究のポイント /木村 博一
- (1) 狭くなった地球と私たち
- (2) グローバルに考えてローカルに行動する
- [3] “グローバル化”をめぐる論点・争点を踏まえた授業づくりのポイント /木村 博一
- (1) まずは論点・争点の存在を認識できる授業づくりを
- (2) “グローバル化”をめぐる価値判断と意思決定のポイント
- (3) グローバルな視野に立脚して自己の見方や立場を意識化する
- [4] 本書の基本的コンセプトと章節構成 /木村 博一
- U “グローバル化”をめぐる論点・争点
- [1] 国家の退場と新しいグローバル政治の可能性 /魚住 忠久
- (1) 現象としての国家の退場
- (2) 誕生期「グローバル社会」の危機と課題
- (3) 新しいグローバル政治の可能性
- [2] グローバル経済の光と影
- ―グローバル自由主義市場経済は幻想か― /宮原 悟
- (1) グローバル経済の実態
- (2) 経済の本質とグローバル自由主義市場経済
- (3) グローバル経済の光と影―グローバル自由主義市場経済の行方
- [3] 地球市民と民族・文化の相剋
- ―文化の固有性・特殊性と地球文化の可能性― /深草 正博
- (1) 方法論としての「地球学」
- (2) 「地球学」から見た人類の方向
- (3) グローバリズムは本当に地球上の文化の一元化をもたらすか
- (4) 地球市民は固有の民族・文化と抵触するか
- (5) 地球文化の可能性はあるか
- [4] 地球環境の維持・保全と国益の壁 /佐藤 健
- (1) 国境を越える地球環境問題
- (2) 中国における「空中鬼」問題
- V “グローバル化”をめぐる論点・争点を扱った小学校社会科の授業づくり
- [1] 公害のグローバル化をどう考えるか
- ―中国から越境する酸性雨を事例として― /山下 将人
- (1) 国境を越える公害
- (2) 学習指導計画(全10時間)
- (3) 子どもが考えた解決策
- [2] 日本は食料自給率を高めるべきか
- ―世界から集まる日本の食料― /杉田 吉男
- (1) 食料自給率40%をどう考えるか
- (2) 食料問題が子どもにとって身近な問題になっているか
- (3) 小学校と中学校での「食料自給率」についての学習の違い
- (4) 小学校における「日本の食料問題」の授業
- (5) 中学校における「日本の食料問題」の授業
- (6) 「食料自給率を高めるべきか」という問題の終着点
- [3] スポーツのグローバル化をどう考えるか
- ―イチローの大リーグ移籍を事例として― /城戸 康宏
- (1) 学習指導計画
- (2) 授業過程
- [4] グローバル市民としての生き方とは何か
- ―グローバル社会と私― /西川 京子
- (1) イギリスのグローバル学習を例に
- (2) グローバル市民として自分の居場所を見つける・分かる・生きる
- (3) 学びの姿と各学年の重点
- (4) 授業例「端で暮らす」
- W “グローバル化”をめぐる論点・争点を扱った中学校社会科の授業づくり
- [1] 政治のグローバル化をどう考えるか
- ―「グローバル・ガバナンス」による政治の構築― /久野 弘幸
- (1) 「政治のグローバル化」という課題
- (2) 教材としての「グローバル・ガバナンス」論
- (3) 「グローバル・ガバナンス」をとらえる単元展開
- (4) 「政治のグローバル化」から得られる新たな視点
- [2] 経済のグローバル化をどう考えるか
- ―多国籍企業が支配する世界経済― /宮原 悟
- (1) 多国籍企業の展開とその背景
- (2) 多国籍企業の教材化における問題点
- (3) 経済のグローバル化を考える教材としての多国籍企業
- [3] 「豊かさ」とは何かを問い直す
- ―グローバルな視野の中で― /木村 一子
- (1) 「豊かさ」とは? 140
- (2) 食卓の「豊かさ」を問い直そう
- (3) 開発教育教材『マジカル・バナナ』
- (4) 私たちの「豊かな」食卓への振り返り
- [4] “グローバリズム”は世界を救えるか /鴛原 進
- (1) “グローバリズム”とは
- (2) 「“グローバリズム”は世界を救えるか」の授業づくりの視点と学習材開発
- (3) 「“グローバリズム”は世界を救えるか」の授業展開(授業モデル)
- 参考文献目録
- 執筆者一覧
まえがき
社会科の授業において,“グローバル化”をどのように取り扱っていけばよいのでしょうか。
今日の国際社会の現実に目を向ければ,“グローバリゼーション(globalization)”と呼ばれる動きが着実に進行しています。そのメリットに目を向ければ,世界がグローバルなネットワークで結ばれ,私たちは世界各地の産品を容易に入手できるようになったばかりか,世界中の人々と交流できるようになりました。“グローバリゼーション”の進行は,必然的に人々の文化や価値観にも大きな影響を及ぼしています。私たち日本人がファストフードのハンバーガーやエスニック料理を日常的に口にするようになったことは,その好例でしょう。他方で,グローバリゼーションの進行が,富める人々と貧しい人々の階層分化を助長していることは否定できないデメリットです。
このような“グローバリゼーション”の動きの中で,国境を越えたグローバルな文化よりも,それぞれの地域の生活や価値観に根ざした独自の文化にこそ,普遍的で力強い価値を見出すことができるという考え方も登場してきています。ベルリン映画祭で金熊賞を受賞し,アカデミー賞も受賞した宮崎駿の「千と千尋の神隠し」は,その典型例と言えるでしょう。巨大な多国籍企業による世界経済支配が強まる一方で,自分たちの生活や暮らしを自分たちの力で守ろうとする人々の動きも芽生えてきています。
私たちの住む社会は,どのような方向に進んでいくのでしょうか。
昨今の論調に耳を傾けてみると,近未来社会の処方箋として,“グローバリズム(globalism)”を唱える主張がなされたかと思えば,それに対する反論が出されています。“グローバリゼーション”が進行している国際社会の現実に関しても,その功罪が議論されています。
ここで一つだけ言えることは,私たち一人ひとりは地球の片隅で生きている小さな存在に過ぎませんが,それでも,グローバルな視野で物事を考え,行動していく必要に迫られてきているということです。そこで,本書は,“グローバリゼーション”と“グローバリズム”の論点・争点をともに扱うという意味を込めて,タイトルを『“グローバル化”をめぐる論点・争点と授業づくり』としました。
さて,“グローバル化”をめぐる論点・争点を扱おうとすると,その教材として,2001年9月11日の同時多発テロ事件が真っ先に脳裏に浮かぶという人は多いのではないでしょうか。あの事件の衝撃は,今も多くの人の脳裏に焼き付いていると思うからです。当時,同時多発テロ事件に関しては,冷戦後の唯一の超大国として世界を支配してきたアメリカ合衆国への反発が火を噴いたと見なす論調が有力でした。そして,あの事件をきっかけとして,アメリカだけでなく国際社会全体がすっかり変わってしまったような報道や論調が盛んに展開されていました。民族主義が台頭し,サミュエル・ハンチントンの言う「文明の衝突」が現実化したように思われたからです。同時多発テロ後のアフガンやイラクの情勢,さらにはパレスチナ情勢のニュースを見るたびに,“暴力の連鎖”をくい止めて,世界の人々が仲良く手をつないで生きることはできないものかという思いにかられたものでした。
今もなお,世界各地でテロが続発していることは悲しい現実です。けれども,テロばかりに関心を奪われていた時期が一段落したように思われる現時点から見れば,同時多発テロ後の論調は多分に誇張されたものであったことがわかります。そのことを最も強く実感させてくれたのが,2004年末のスマトラ沖大地震・津波の被災地と被害者に対する世界規模での救援活動でした。被災地に滞在していた人々や被災地で生活していた一般市民の目を通して,被災地の現状に関する情報が世界に流されるとともに,現地で活動するNGO等によって必要な支援の内容が示されたことにより,一般市民を中心とする救援活動が展開されていったことは,記憶に新しいところです。これは,グローバルな人と情報のネットワークが有効に展開された典型事例と言えるでしょう。国際社会が一つにつながっていることを私たちに強く再認識させてくれた象徴的事例でした。
以上のような世界情勢のめまぐるしい動きの中で,本書は,「社会科教材の論点・争点と授業づくり」シリーズの第2巻として企画されました。このような時期に本書を出版することは,ある意味で無謀な試みと言えなくはないのかも知れません。原稿を執筆した時点と本書が出版された時点とでは,世界情勢が根本的に変化しているかも知れないからです。それでも,いや,このような時代だからこそ,“グローバル化”をめぐる論点・争点を整理し,その論点・争点を取り上げた社会科授業づくりのヒントを特集することは意義があると判断しました。
本書が対象としたのは,小学校高学年と中学校における社会科授業です。21世紀の世界に旅立っていく子どもたちのために,自分の力で世界を見つめる確かな目を磨いていきたいと願う社会科教師の友として,本書が役立つことを願っています。
本書の編集に際しては,日本におけるグローバル教育研究の第一人者である魚住忠久(愛知教育大学名誉教授)先生に貴重なアドバイスをいただくとともに,玉稿を賜りました。また,明治図書出版株式会社樋口雅子編集長には,企画,編集,出版に並々ならぬご助力を頂戴しました。編集部の原田俊明さんには,編集・校正の細々としたところまで配慮をいただきました。ここに記して,心より感謝申し上げます。
2005年9月10日 /木村 博一
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- 明治図書